軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第67話 北の森を攻略せよ3

ぼくたちは、最初の戦闘を無難に切り抜けた。

志木さんがすぐさま姿を消し、北東部の偵察に移る。

ぼくは試しに、とカラスを東側に放った。

だがカラスとの繋がりは、数分で途絶える。

ジャイアント・ワスプに殺されたのだろう。

やはり東側にも、蜂がいるか……。

最初の偵察のとき、ジャイアント・ワスプに殺されなかったのは幸運だったにすぎないのだろう。

いや、今回は低空を飛ばしていたから、というのもあるかな。

「高等部が心配だな」

「ん。兄は、たぶん、適当になんとかする」

ミアは平然としている。

たしかにあのひとなら、なんとかしそうではあるけどさ……。

「兄について心配だったのは、最初のレベルアップができるかどうか、だけ。その壁さえ越えられたなら、あとは自力でイケる」

「そうね、忍者はすごいわ!」

たまきが呑気に笑う。

いや忍者って時点でおかしいんだけど。

ミアは「むー」と眉間に皺を寄せている。

十分ほど待ったあと。

志木さんが戻ってきた。

北東の方にいったのに、戻ってきたのは西からだった。

「奥にいくほど、警戒が厳重になっていくわね。なるべく敵が孤立している部分を狙っていきましょう。案内するわ」

頼もしい彼女の案内で、ぼくたちは少し西側からまわりこむようにして、オークたちの拠点に向かう。

アーチャー三体だけの見張り部隊がいた。

蜂がいないなら、楽勝だ。

奇襲で迅速に全滅させる。

ぼくたちのパーティが二体、志木さんたちのパーティが一体、倒した。

「これくらいの数なら、いけるわね。問題は、ここから先、こんなに楽な部隊はいないだろうってことだけど」

「全体的に数が多いのか」

「というより、絶妙な配置なのよ。隣の部隊と連携を取れる、ギリギリのところに広がってる」

知恵を使っているなあ。

いや、違うのか?

単純に敵の中心部に近づいているから、網の目が細かくなっているだけかもしれない。

「本当に本拠地に近づいているかは、わからないわ。あまり奥までいくと、見つかったとき逃げ帰れないから、深入りしてないの」

「それで正解だ」

ここで志木さんに無理をさせても、意味はない。

いざとなれば、一度、撤退すればいいだけのことだ。

次の戦闘では、ジャイアント・ワスプ二体、アーチャー三体のグループを強襲した。

ただし、このグループAのすぐ近くに別のグループがいる。

こっちのグループBは、ジャイアント・ワスプ二体、アーチャー二体だ。

気づかれずに戦うのは不可能な位置だった。

しかもグループBの近くには、別のグループがいる。

こちらはグループCとしよう。

幸いなのは、この三グループだけが固まっているため、これ以上の連鎖がないことくらいか。

「考え方を変えましょう。戦力の逐次投入が行われると思いましょう」

もちろんこれは、敵が撤退を始めた場合、ばらばらに逃げてしまうことを意味する。

志木さんひとりでは、逃げる敵を仕留められないかもしれない。

そのあたりを懸念し、今回はミアが志木さんと共に動くことになった。

彼女たちの役目は、逃げる敵を確実に潰すこと。

彼女の持つ地と風の各種拘束系魔法は、足止めに最適だった。

ミアが抜けたため、正面の部隊は強襲以外の選択ができなくなる。

仕方がないので、たまきの大盾に隠れてその陰から火魔法使いのふたりがフレイム・アローで攻撃したり、ぼくの使い魔を前面に押し立てて仲間に被害が及ばないようにしたりと工夫することになった。

ぼくはウィンド・エレメンタルを追加で二体、召喚する。

合計で三体だ。

ミアが欠けた分の手数は、使い魔で補おう。

戦闘が始まる。

ぼくたちは、たまきの大盾を遮蔽としてゆっくりと前進する。

アーチャーたちが接近するぼくたちに気づき、矢を放ってくる。

大盾の陰に隠れる作戦は、火魔法の使い手である女子生徒ふたりが、降り注ぐ矢に怯えてしまったことで、いまひとつ効果的に機能しなかった。

ぼくの召喚したウィンド・エレメンタル三体が、空を飛んでアーチャーを強襲する。

これにより、ようやく矢の雨を妨害することに成功する。

矢が飛んでこなくなったことで、火魔法の使い手たちがようやく顔を上げ、アリスが苦戦をしていたジャイアント・ワスプにフレイム・アローを連射する。

ジャイアント・ワスプの羽根が焼け焦げ、地面に墜落していく。

「グループB、来ます!」

アリスが叫ぶ。

見上げれば、まず飛来したのは、新手のジャイアント・ワスプ二体だ。

その後ろから、木々を身軽に飛び移って、アーチャー二体が迫ってくる。

そのさらに後方には、グループCの姿も見える。

アーチャーの弓の射程に入る前に、ほかをなんとかしたいところだけど……。

「わたしが、囮になります」

そういって、ジャベリンを手に、長月桜が前進する。

ああ、もうっ、またか!

桜はスルスルと太い樹によじ登り、ジャベリンをジャイアント・ワスプに投擲する。

ジャベリンは外れた。

ジャイアント・ワスプの動きが速すぎて、不慣れな投擲では厳しい。

だがそれでも……充分だ。

二体のジャイアント・ワスプが桜の方に向きを変える。

尻の針を、彼女に突きだし、射撃体勢に入る。

一瞬、モンスターの動きが止まり、無防備になる。

「アリス、いまだ!」

「は、はいっ」

桜の行動は無謀だが、しかしチャンスはチャンスだ。

アリスの投擲したジャベリンが、ジャイアント・ワスプ一体の胴を貫き、これを地面に叩き落とす。

もう一体は、火魔法使いのふたりが丸焼きにする。

少し離れたところから、グループBのアーチャー二体が射撃を開始してくる。

このときようやく、グループAのアーチャー三体を、ほぼ同時にぼくの使い魔たちが仕留め……。

ミアがレベルアップする。

白い部屋にて。

ぼくたちは改めて、ずっと隠れっぱなしだったミアに状況を報告する。

「ん。なにもしないのにレベルアップして、お得な気分」

「気にするな。ぼくなんていつもそんな気分だ」

実際のところ、ぼくのかけた援護魔法や、ぼくの召喚した使い魔が活躍してはいるのだけれど。

ぼくは基本的に見てるだけだからなあ。

「で、ミア。地魔法を上げるってことでいいのか」

いまミアのスキルポイントは6。

地魔法はランク4で風魔法はランク3だから、どちらでも上昇させることもできる。

「ん。カズっちたちとレベルが離されちゃったから、一本伸ばしで追いつきたいところ……だけど」

ミアは腕組みして、ぐむー、と唸る。

あれ、いまさら悩むのか?

「今日の状況的に、風魔法の方がいい気がしてきた」

「あー、やっぱ、フライか」

風魔法のランク4には、待望の飛行魔法、フライがある。

持続時間はランクにつき二分から三分。

ランク4になった時点で考えるなら、八分から十二分だ。

ほかの飛行魔法としては、付与魔法ランク6のウィングがある。

背中に飛行用の翼を生やす魔法だ。

こちらはランクにつき二十分から三十分だが、手足のように背中の翼を動かす必要があるため、いろいろクセが強い。

対してフライは、念じるだけで浮き上がり、上下左右自在に移動できるというから、戦闘だけならこちらの方が有利だろう。

たしかに森のなかでのアーチャー戦や、飛行してくるジャイアント・ワスプ戦を考えると、フライの方がいい、か。

とはいえ、ここはあえて対案を出そう。

「地魔法だと、敵の血液を沸騰させるブラッド・ボイルドや、大岩を落とすロック・フォールで先に殺すって手段も取れるぞ」

「ブラッド・ボイルドは雑魚なら大丈夫そうだけど、どうせ格上にはレジストされる。それならスリーピング・ソングあたりで樹の上から落としても同じ。攻撃魔法は確かに有用だけど、アリスちんやたまきちんが空を飛んで突っ込んだ方が、総合的に有利っぽい?」

見事な反論だと感心するがなにもおかしくないな。

っていうか、あのさあ、ミア。

きみ、本当に中一だよね?

半年前まで小学生だったんだよね?

年齢を考えると、お兄さんと比べても遜色がない気がするんだけど……。

いやまあ、このへんについて考えていくとへこむから、考えないようにしよう。

いま重要なことは、ミアの判断がそうとうに信頼できるということだ。

「昨日の夜時点での最適解が、今日も最適解とは限らない。それだけのこと」

平然としているミアだけど、アリスやたまきも、そんな彼女に呆れていた。

うん、まあ、頼もしいからいいんだけどね……。

そういうわけで、ミアには風魔法を上げてもらうことにする。

ミア:レベル11 地魔法4/風魔法3→4 スキルポイント2

ミアの風魔法のランクを上げ、もとの場所に戻ってすぐ。

グループAを殲滅したぼくの使い魔たちが、グループBのアーチャーから雨のように矢を浴びる。

特に一体が、集中攻撃を受け、そうとうな深手を負う。

ぼくはいったん、全部の使い魔を下がらせる。

「アリス、桜、たまきの盾の陰に! 戦線を下げるんだ!」

ここで相手に釣られて前進すると、ひどい目に遭うだろう。

ぼくたちは、じりじりと後退する。

その間に、グループBの生き残りであるアーチャー・オーク二体が、グループCと合流してしまった。

グループCは、ジャイアント・ワスプ四体、アーチャー・オーク三体だ。

合計で蜂が四、アーチャーが五。

これまでで最大の数である。

この群れに突っ込んだら、ただではすまなかっただろう。

だがいまは、幸い、こちらが迎え討つ番だ。

三体のアーチャーがたまきの大盾に対してひたすら矢を射かけ、盾の正面をハリネズミのようにする。

残る二体が、盾の陰に隠れていないぼくの使い魔を攻撃してくる。

すでに傷ついていた方のウィンド・エレメンタルが、ついに耐えきれなくなって消滅した。

絹を裂くような女性の悲鳴をあげ、四散するエレメンタル。

くそっ、後味が悪いな!

とはいえ……生身の人間が死ぬよりはマシだ。

ぼくらがアーチャーの矢で釘づけにされている間に、ジャイアント・ワスプがぼくたちめがけて突っ込んでくる。

上空でホバリングして、お尻の針を下方にいるぼくたちに向ける。

「攻撃!」

「はいっ」

ぼくの合図で、アリスがジャベリンを投擲する。

同時に火魔法の女の子たちがフレイム・アローを発射。

だがぼくたちめがけて落ちてくる、四本の巨大な針は……。

ぼくの指示で、残る二体の使い魔が上空に割って入る。

ウィンド・エレメンタルの一体が、針を胴体に受け、よろめく。

もう一体は頭部と肩に針を受け、存在を消滅させる。

よくやった。

ぼくは心のなかで、身を呈して守ってくれたウィンド・エレメンタルに感謝する。

残る一本の針が、ぼくたちの頭上に落下してくる。

だが、針が一本しかないなら、たまきがいる。

裂帛の気合のもと、たまきが頭上に振るった銀の剣が、針を真っ二つに絶ち切ってみせる。

さすがランク7、モノが違う。

こうして必殺の攻撃をしのがれた四体のジャイアント・ワスプは、ぼくたちの集中砲火を浴びて、ことごとく倒される。

よし、これで残りは、五体のアーチャーだけだ……が。

その五体のアーチャーが、背を向けて逃げ始める。

「あ、こら、逃げるなーっ」

たまきが叫ぶ。

いや、そりゃ逃げるだろー。

逃走する五体のうち、一体だけは火魔法による集中砲火で倒せた。

だが残り四体は、ぼくたちの射程の外に出てしまう。

いまこそ伏兵が生きるとき。

物陰から志木さんがダガーを投擲する。

ミアが新たに覚えた風魔法ランク4、ワールウィンドで竜巻をつくり、三体のアーチャーの行く手に竜巻をつくる。

立ち往生したところに、スリーピング・ソングを入れて、適宜眠らせていく。

眠ったアーチャー・オークは地面に落下する。

なにかが潰れるような、嫌な音が響く。

生き残った一体が、竜巻をおおまわりして逃げようとする。

そこに、ぼくの使い魔、ウィンド・エレメンタルが追いつく。

紫電をまとった拳で殴りかかる。

アーチャー・オークの背中に拳が命中し、アーチャーは跳躍の直前、身をけいれんさせる。

バランスを崩し、頭から地面に墜落していく。

「なんとか、全滅させることができたわね」

志木さんが、ほっとした声でいう。

みんな、同じ気持ちだった。