軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第66話 北の森を攻略せよ2

ぼくたちが追いついたとき、たまきとミアはすでに戦闘を始めていた。

ミアのそばの樹が、真っ二つにへし折れている。

そばに落ちた緑色の肌のオークが、たまきの銀の剣に切り裂かれ、いましも消えようとしていた。

ここでぼくがレベルアップする。

白い部屋へ。

白い部屋に来たといっても、まだ戦闘は始まったばかりだ。

特にやることもない。

はずだったのだが……。

ミアが不気味に笑い、背負っていたリュックサックを下ろす。

なかから、手錠と縄とローソクを取り出す。

縄は、志木さんが用意した丈夫なものではなく、もっと細長いものだった。

おい、おまえ……。

「これから、アリスちんにお仕置きをしよう」

「おれは、そんなものを持ってきたきみにお仕置きをしたい。志木さんが用意したロープとかはどうした」

「全員がロープ持つ必要、ないよ? せっかくの白い部屋、有意義に過ごそう」

有意義とはいったい。

「鞭もあるよ?」

「用意周到だな」

「がんばって用意した」

ミアは胸を張る。

その無駄な努力にかける姿勢は、まさしく結城先輩と同じだと思う。

口にしたら地雷を踏みぬくようなものだから、いわないけど。

「すごいわ、ミアちゃん。忍者先輩みたい」

全力で地雷を踏みに行ったひとがいた。

ミアはくるりとたまきに振り返ると、彼女に向かって縄を投げた。

「コントロール・ウィンド」

風魔法ランク3、空気の流れを操る魔法によって、縄はたまきの周囲をぐるぐる回転する。

「わっ、わあっ、待ってミアちゃん、待ってーっ」

「むう、この魔法で縛り上げるの、難しい……。練習しないと」

「わたしで練習しちゃダメーっ」

結局、縄は中途半端にたまきの周囲を数回転したところでちからつき、ぺたりと床に落ちた。

うーん、アイデアはいいと思うんだけどな……。

「気がすんだか、ミア」

「ん。ちょっとだけ」

ミアは眠そうな目でぼくを見上げる。

でも、まる一日もつきあっていれば、いい加減、気づく。

彼女はどうやら、寂しがっているようだ。

そういえば、昨日の夜の戦い、結果的にミアは除け者のようなかたちになってしまった。

ぼくもたまきもアリスも必死だったのだけれど、ミアにしてみれば、兄にも会えず、ぼくたちは消えてしまい、かといって捜しにいくこともできず……悶々としたことだろう。

そして帰ってきたぼくたち三人は、とても深い絆で結ばれていた。

「ミア、こっちに来い」

「ん」

駆け寄ってきたミアの頭を撫でる。

ミアは気持ちよさそうに目を細めた。

「きみが大切な仲間だということは変わらない。これからもずっとだ」

「じゃあ、抱いてくれる?」

ぼくは、ミアの額に軽くデコピンする。

「カズっち、意地悪……」

「あまり、ぼくを追い詰めないでくれよ。ただでさえぼくは、弱い人間なんだ」

「ん。知ってる。でも、わたしだって、そんなに強くないよ?」

「押しつぶされそうか? きみが辛いなら、ぼくはいくらだって、ちからになってやる。でもできれば、それは、本当にどうしようもなくなったときにとっておいて欲しい」

ミアは口もとを歪めて「んー」と少し考えたあと……。

「まだ、もう少し、平気」

正直に、そう答えてくれた。

ほっとする。

彼女が冷静に自分のことを判断できているから。

たぶん、ぼくもアリスもたまきも、もう正気じゃない。

正気ではいられなかった。

それほど過酷な戦いを強いられてきた。

だけどミアは、このちょっと変わった少女だけは、徹頭徹尾、マトモだ。

いってることは割とふざけていて、しかも常時とぼけているけれど、それはむしろ余裕の現れといっていい。

いやはやまったく、兄妹そろって大したタマである。

そんな彼女だからこそ、少し離れたところで、ぼくたちを冷静に観察していて欲しかった。

全員が入れ込んでいては、どこかで落とし穴にはまってしまうように思うのだ。

ミアならば、そんな落とし穴を発見し、事前に「そこ、危ない」と注意してくれるような気がするのである。

だから、ちょっと申し訳ないけれど、ぼくは彼女にこう頼む。

「ぼくたちのストッパーになってくれ。ミア、冷静なきみならできると思う」

「ん。カズっちはわりとサドっけ強い。じらしプレイが、たまらない」

「きみの方がよほどサドっぽいけどな……」

ミアは「そっかな」と可愛らしく小首をかしげてみせる。

縄と手錠をホイと差し出してくる。

「わたし、Mでもイケるよ? 縛って叩いてみる?」

「そういうのは、いいから」

ぼくはミアの額にもう一度、デコピンする。

それからぼくたちは、四人で車座に座って、話をした。

たわいもない会話だ。

でも、互いの絆を深め、溝を埋める作業だ。

昨日の夜の話もした。

ミアの兄のことも詳しく話した。

彼がなにをやっていて、どれほど凄かったかも、話した。

そのついでに、ぼくが高等部でいじめられていたことも打ち明けたけれど……。

「知ってたよ?」

ミアは平然と、そういった。

これには、ぼくを含めた全員が驚いた。

「わたし、兄を殴るために、よく高等部にいってたから。カズっちがいじめられているところ、時々、見たよ」

「そんなこと、昨日はひとことも……」

「昨日のカズっちなら、わたしが高等部でのこと見てたって知ったら、わたしに心を許さなかった」

ああ、まあ、その通りだけどさ……。

昨日の夜の出来事を乗り越えたいまだから、こうして平然と話をしていられる、というのはあるんだけどさ。

「きみはその割には、最初からずいぶんと……」

ミアは、平然と首を振る。

それから、じっとぼくを見上げてくる。

「先入観抜きで冷静に判断して、カズっちは昨日の時点でいいリーダーだった。なら、過去なんて関係ない」

そりゃまあ、そうかもしれないけど。

そこまで知っていてなお、率先して手を挙げて、率先して自分の命をぼくに預けたってのか。

クソ度胸というか、なんというか……。

「それと。兄が、カズっちのことを話してた」

「あのひと……結城先輩が……なんて?」

「狼の目をしている、って。あれは、いつか絶対、あのシバっていじめっ子を殺す目だって」

すげぇな、そこまでわかるか。

あのひとって、ほんとなにものなんだ。

いや、忍者なんだけどさ……。

和久:レベル19 付与魔法5/召喚魔法6 スキルポイント2

白い部屋からもとの場所に戻った直後。

二匹のジャイアント・ワスプが、ミアとたまきに針を飛ばす。

たまきがミアをかばうように大盾をかざし、頭上から飛んできた針を弾く。

シールドのスキルがなくても、肉体1を持つたまきにとって、この程度は余裕でこなせるようだ。

周囲の樹上から姿を現した緑の肌を持つオークたちが、三体、弓を構える。

たまきめがけて、一斉に射撃。

盾がいかにおおきかろうと、構えられる方向はひとつだけだ。

対してアーチャー・オークは三方からたまきたちを取り囲んでいる。

どこか手薄な面ができてしまう。

ただし、それはミアがなにもしない場合であって……。

「エア・ブラスト」

ミアは風魔法ランク1のエア・ブラストを、一方のオークに向かって放つ。

周囲の空気がかき乱され、矢の方向が変わる。

一本の矢が、わずかにふたりのもとを逸れ、地面に突き刺さる。

別の一本には、たまきが対処する。

左手の大盾でミアをかばい、矢を弾く。

そして残る最後の一本は……。

たまきは飛来するその一本の正面に立ち、剣を振るう。

銀の閃光が走り、矢が真っ二つに絶ち切られる。

わー、すげぇ。

飛んでくる矢を斬るとか、どんな剣豪漫画だよ。

これがランク7のちからか……。

人間をやめてる感じだな。

いやまあ、わかっていたことではあるけど。

ぼくたちは、昨日一日で、とてつもなく強くなった。

相手がジェネラルとかだからいまひとつ実感が湧かなかったけれど、夕方には大苦戦したそのジェネラルを、深夜にはさしたる恐れもなく倒せるようになっていた。

ドラゴンボールもダイ大もびっくりのインフレっぷりである。

ぼくたちには、どうしてこれほどまでに急成長するちからが与えられているのだろう。

この世界で過ごす一日ごとに、ぼくたちの身体は異次元の領域へと造り替えられていく。

この先で、ぼくたちにはなにが待っているというのだろう。

いや、そんなもの思いに浸っている場合ではなかった。

いまは戦闘中だ。

志木さんは相変わらず隠密しているから、ぼくが指示を出さなきゃいけない。

「高橋さんと最上さんは、火魔法で蜂を! アリスはジャベリンで樹上のアーチャーを!」

「はい!」

火魔法を持つふたりが、火魔法ランク2のフレイム・アローを放った。

この魔法は、ランク1につき一本の矢を放つ。

火魔法ランク3の彼女たちは、一度に三本の炎の矢を放ってジャイアント・ワスプを火だるまにする。

アリスはジャベリンを投げようとするが、その前にアーチャーが樹の陰に隠れてしまう。

アリスは悔しそうに手を止める。

いたしかたなし、といったところだ。

Q&Aによると、槍を投擲する場合、同じスキルレベルなら、槍スキルの所持者より投擲スキルの所持者の方が有利であるらしい。

槍スキルによる投擲は、あくまで補助ということである。

本職に比べてどれくらい劣るのかは、答えてくれなかった。

アリスやたまきの様子から察するに、使い魔と同じようにランクマイナス2といったところではないだろうかと推測している。

純然たる事実として、アリスのジャベリンによる投擲は、接近戦での刺突ほどのちからを持たない。

遮蔽をとった賢い敵を相手に遠距離戦をするのは荷が重い。

つーか、アーチャーめ、賢いな……。

レイプに夢中になって無防備な尻を晒していたやつらと同じ種族とは思えない。

いやまあ、肌の色も違うし、そもそも別種族なのかもしれないけど……。

反対に、大活躍しているのはミアだった。

遮蔽を取ったアーチャーのいる樹の根もとまで走り寄り、無慈悲なストーン・シェイプで樹に大穴をあけて真っ二つにへし折る。

落下してきたアーチャーを、たまきが手際よく倒す。

これはゲームじゃない。

遮蔽を取る敵がいたなら、遮蔽をなくしてしまえばいい。

ミアの戦い方は理にかなっている。

二体目のアーチャーが倒されたところで、残る二体が逃走を始めた。

樹から樹へと飛び移り、森の奥へ消えようとする。

そのうちの一体は、待ちかねていたアリスがジャベリンを投げて仕留めた。

だが残る一体は、投擲しても届かないほど遠くへいってしまい……。

その背中にナイフが突き刺さる。

アーチャーが、地面に落下する。

志木さんだった。

どうやら逃走を懸念して、はじめから森の奥の方に陣取っていたようだ。

完璧な位置取りである。

落下したアーチャーに長月桜が駆け寄り、鉄槍を突きだしてトドメを刺す。

オークを殺すとき、桜は狂気じみた笑顔をしていた。

ちょっと怖い。

そうこうするうち、ジャイアント・ワスプ組の方もケリがついている。

一体の蜂につき、フレイム・アロー三発ほどで終わったようだ。

飛びまわるでせいでうまく狙いがつけられなかったから、仕方がないところだろう。

たぶん、火魔法ランク3のファイア・ボムの使用を許可すれば、もっとはやくケリがついたと思う。

だが炎の爆発は、森のなかで放つにはちと怖い。

火の粉が枯れ草に飛んで山火事など起きたら、目も当てられない。

宝石の回収をする。

ジャイアント・ワスプは以前と同じく赤い宝石が三個。

アーチャー・オークもやはり赤い宝石が三個だった。