軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第65話 北の森を攻略せよ1

時刻は午前十時ごろ。

育芸館から北東に十分ほど。

ぼくたちは北の森の入り口に立っていた。

ぼく、アリス、たまき、ミアの精鋭パーティに、志木さん、長月桜、それと火魔法を使える子がふたり。

飛行ユニットであるジャイアント・ワスプと、弓を使うオークが待ち構えるという北の森を攻略するのは、以上八名のメンバーだった。

防具も一新した。

アリスとたまきは、サモン・アーマーで召喚した金属鎧のうち、ジャージの上から兜と胸甲、肩当て、脚当てを装備している。

腰まわりについては、重くかさばり、動きが鈍るということで外してしまった。

ジャージの上に防具を重ね着してもハード・アーマーの効果は重複しないらしい。

ハード・アーマーの防御力アップ効果は、一番上に重なった装甲だけに発揮されるという。

それでも、急所である胸部を守り、ミアが腕をちぎられたときのような攻撃を防げるなら、といったところだ。

長月桜が着用したのは、皮鎧の胸当てだけだ。

彼女はひたすら機動力で勝負するという。

ほかの者は、ジャージのままである。

志木さんなどは、隠密行動するからジャージが一番いい、っていってる。

身軽に逃げまわれる方が、結果的に生き残る近道ということもあるだろう。

さらに全員、昨日の本校舎攻略時のようにリュックサックを背負っている。

なかには、カロリーメイトや水筒、方位磁針、ライター、ロープ、懐中電灯などが詰まっている。

山道に面した森の縁は、一見、以前となんの変わりもないように思える。

ただ、よく観察すれば、おおきな違いに気づく。

「鳥の声や虫の音が聞こえないわ」

志木さんがいう。

その通りだ。

森がやけに静かだった。

聞こえるのは、風で葉が揺れる音くらい。

不気味なほどの静謐さである。

打ち合わせ通り、志木さんがひとり、森のなかに入っていく。

少し暗がりに入ったな、と思った次の瞬間には、その姿が消えていた。

偵察スキルによる隠密の効果だ。

「志木さん、だいじょうぶかなあ」

たまきが、ぽつりと呟いた。

いやまあ、皆がそう思っている。

とはいえ……。

「新規メンバー以外で偵察スキルを持っているのは、志木っちだけ。攻撃系でもないスキルのランクを2まで上げるのは、なかなか厳しい」

ミアの言葉が全てであった。

組織がせいぜい十人と少し程度であったこれまでは、全体を俯瞰する立場の者が偵察を行なうことで、作戦立案から実行までの効率化に成功していた。

しかし今日からは、どうだろう。

新たに十二人のレベル1が出て、いまレベル1以上となっているのは合計で26人。

これだけの人数がいるなら、志木さんはそろそろ後ろにひっこみ、安全地帯で指揮を執るべきではないか。

この作戦が終わったら、そのことを提案したいと思う。

もっとも、昨日は「自分は戦いたくない」といっていた彼女のことだ。

当然のように、これくらいのことは考えているかもしれない。

ぼくたちの組織は、昨日から今日にかけて、ゆっくりと変化していくはずだった。

となると、単純に敵の攻撃がこちらの想定を上回るスピードであったというだけのことか。

そのぶんぼくたちは、リスクを負う必要がある……。

まあそれらも、すべて今後の話だ。

いまは目の前の作戦に集中するべきだろう。

ほどなくして志木さんが戻ってくる。

「少し先に弓持ちのオークが四体。樹上に展開しているわ。周囲を二体のジャイアント・ワスプが飛びまわっている」

緊張した声でそういった。

「弓持ちのオークは、肌の色が緑色で、まるで森に溶け込んでいるようだったわ」

と志木さんがいう。

なるほど、ただ雑魚オークが弓を持っているってだけじゃないのか。

それに特化した、別のタイプのオークだと思った方がよさそうだ。

「月並みだけど、弓持ちのオークは以後、オーク・アーチャーと呼称。いいわね、カズくん」

「命名法則的には、アーチャー・オークじゃないの?」

「そう……なんだけど。英語的なおかしさが我慢ならないの」

そういうことは、ジェネラルの段階でいって欲しいと思う。

仕方ないじゃないか、最初にエリート・オークって名づけちゃったんだから。

そんなぼくの不満そうな雰囲気を見て取ったか、志木さんは苦笑いする。

「仕方がないわね。アーチャー・オークでいいわよ」

「すまないねえ、ばあさんや」

「それはいいっこなしでしょう、おじいさん」

冗談めかして笑いあい、リーダーであるぼくたちの間にわだかまりはないことをアピールする。

ミアをちらりと見ると、仕方ないなあといいたげに目で笑っていた。

まあ、こいつは気づくか……。

昨日は、なんてませた中一だと思ったけど。

ミアの兄の超越っぷりを見ていると、なるほどと思えてくる。

あの兄にしてこの妹あり、ということがよくわかる。

「問題はこのアーチャーと蜂の布陣にどう対処するか、なんだけど」

「ジャイアント・ワスプは囮」

ミアが素早く、そう告げる。

さすが、タクティクスに関しては鋭い。

「え、囮って、どういうこと」

大きな盾を持ったたまきが、小首をかしげた。

「森の侵入者がジャイアント・ワスプに気を取られているところを、アーチャーが狙撃。相手は死ぬ」

エターナルなんとかかよ。

いやまあ、狙撃ってのはそれくらい危険ではあるんだけど。

「うげぇ、それは厄介だわ」

「でもわたしたちは、もうからくりを知っている。警戒していける。むしろ先手を打てる」

その通りだ。

ではどうやってこの布陣を切り崩すか。

「ミア、きみならどうやる」

「ゲームなら、アーチャーの横か後ろにまわりこんで逆に狙撃。マップの端を移動しつつ順次、排除」

打てば響くように答えが返ってくる。

さすがミア先生だ。

「でも、今回、それは諦めた方がいい」

「どうしてだ」

「まわりこめるほど部隊の統率が取れないし、まだ伏兵がいる可能性もある。ゲームと違って、ユニットの総数がわからない。ましてや戦場の端なんてない」

もっともな話だった。

ゲームと現実の区別がきっちりついている。

と、なると必然的に正面突破ということになるが……。

「こちらも囮を出して、敵の位置を明らかにしたあと、遠距離から仕留めるのが普通の作戦、かな」

ミアはそういって、ぼくを見る。

ああ、なるほど、囮ってつまり、ぼくの召喚魔法ですね。

「普通の作戦、ってことは、普通じゃない作戦もあるのか」

ミアはにやりとする。

「インサイでわたしが近づいて、パス・ウォールでアーチャーの乗っている樹に穴をあけて倒壊させる。アーチャーが落ちてきたところを、ふるぼっこ」

予想以上にえげつない作戦が返ってきた。

なおインサイとは、インヴィジビリティとサイレント・フィールドのことである。

中等部本校舎でやった奇襲作戦の変形だ。

「でも、そういうことなら、ランペイジ・プラントは使えませんか」

アリスが口をはさんだ。

ランペイジ・プラントは、二日目の昼、育芸館前の攻防戦で使ったランク3の地魔法だ。

樹を凶暴な生き物のように操り、周囲の生き物をすべて攻撃する。

「ランペイジ・プラントは、始動が遅い。樹が動き始めた時点でバレるから、奇襲の利点が薄れる」

ミアのいう通り、ランペイジ・プラントは、こちらが罠にかける時に最大の効果を発揮させられる魔法だ。

最初はそよ風に揺られたように木々が揺れ出し、少しずつ木々が凶暴化していく。

どうやら樹齢の高い樹ほど、操るのに時間がかかるらしい。

「いちおういっておくけど、アーチャーが乗っている樹って、かなり太いわよ。あの体格だから当然だけど」

志木さんが補足した。

なるほど、そういうことなら、いっそうランペイジ・プラントはきついか。

アーチャーを樹上の隠れ家から追い出す効果は期待できるが……。

ぼくは判断を求めて志木さんを見る。

志木さんは少し考えたあと、「ミアちゃんの作戦でいきましょう。ミアちゃんをガードするひとが必要ね」といった。

「たまきちゃん、あなたがミアちゃんの横について、盾で彼女を守ってくれないかしら」

「おっけー、任せて!」

なるほど、たまきの大盾で魔法使いをガードするって作戦か。

シミュレーションRPGっぽい戦術だなあ。

「じゃあ、カズくん。バフをお願い」

今回、ぼくは召喚魔法を最小限に抑える。

戦闘員の数は充分に足りているからだ。

そのぶん、付与魔法で働かなきゃいけない。

まず、全員にフィジカル・アップ、クリア・マインドをかける。

ミアと火魔法を使う子ふたりには、スマート・オペレイションで魔法の火力をアップさせる。

前衛にはマイティ・アームをかける。

ここまでで、使用したMPは22点。

18レベルのぼくなら、十分と少しで回復してしまう数字だ。

次にウィンド・エレメンタルを召喚する。

この使い魔は、ぼくの護衛だ。

さきほど使用したカラスとこの風の精霊だけが、いまのところぼくが召喚した使い魔となる。

じつのところ、ぼくのMPを多用するのはここからだ。

ある程度、森のなかに足を踏み入れたところで、ミアが自分とたまきにサイレント・フィールドとインヴィジビリティをかける。

サイレント・フィールドとインヴィジビリティは、効果時間が三分から四分と極めて短い。

そこで、この四発すべてに、ぼくの付与魔法ランク5、エクステンド・スペルを乗せる。

これで効果時間は六分から八分。

作戦行動時間が、かなり延びる。

また、いちおう自分にシー・インヴィジビリティもかけておく。

「作戦開始! ふたりとも、慌てるなよ!」

透明になっているはずのたまきとミアが、手を繋いで移動を始める。

今回、たまきは武器である銀の剣を鞘に収めたまま、左手で大盾だけを持って、右手でミアと手を繋いでいる。

志木さんの姿も消えていた。

作戦通りなら、隠密してふたりの後ろについていっているはずだ。

じりじりと時間が過ぎていく。

五分くらい経過しただろうか。

前方で、戦闘の音が聞こえはじめた。

「いきますっ」

アリスが駆け出す。

ぼくたちは、彼女を追いかける。