軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第246話 魔王討伐2

ついさっき、カヤはミアと連絡をとりあったと白状した。

すごく気になるけど、カヤへの追及はあとだ。

いまは魔王を倒すことだけに専念しよう。

「ディメンジョン・ステップでいけるというのが確定情報として、とにかく一キロ以内まで近づかないといけないわけだけど……。アリス、さっきのライトニング・ムーヴでどれくらいまで近づけた」

「あ、はい。たぶん、魔王から二十キロ圏内だと思います」

となると、あと十九キロか。

フライング・ジェリーフィッシュに取り囲まれての十九キロの飛行だ。

まともにいっては、あまりにも遠い。

ぼくたちは簡単に作戦会議をして……。

日没まで、あと十分ほど。

ぐずぐずしている時間はなかった。

「やっつけだけど、これでいこう」

ぼくは宣言する。

クァールはここで待機することになった。

完全に信用できるというわけでもないし、戦力的にも不安があるからだ。

「わんちゃん、ばいばーい」

カヤがぶんぶんと全力で手を振っている。

クァールは少し迷惑そうにこちらを睨んでいるが……。

その尻尾が、耳が、ぺたんと元気なく、寂しそうに下を向いていた。

さて、クァール以外の全員でアリスに掴まる。

両足にたまきとルシア、背中から首に手をまわしてぼく、そしてカヤは前から抱きついている。

たいへんに間抜けな恰好だけど、高速移動中に振り落とされるよりはいいだろう。

「それじゃ、いきます。ライトニング・ムーヴ」

ぼくたち四人と共に、アリスは雷となって飛びだす。

相変わらず、目も開けていられないような急加速だ。

それも、ほんの少しの間。

急停止する。

見れば正面には、視界を覆い尽くすほど巨大な黒い壁。

いや、球体なのに近すぎて壁にしか見えない、魔王の姿だ。

周囲三百六十度、いや上下も含めた全角度にフライング・ジェリーフィッシュの姿が見える。

視界内の巨大クラゲたちのうち、ぼくたちの姿を発見した数百から数千の個体がいっせいに触手をこちらに向け、ミサイルを放つ。

ミサイルによる飽和攻撃に対し……。

「アリスママ! ひだりうえ! あっち!」

カヤが指差す一角だけは、ミサイルの密度が薄い。

「ライトニング・ムーヴ」

アリスはためらわず、カヤの指示に従う。

つかの間、雷となり、そして急停止。

目をひらけば、さきほどまでぼくたちがいた右手下で大爆発が起きるところだった。

ふう、ひとまず第一波は避けられたか。

とはいえ、何度もこの幸運が続くとは思えない。

爆風が襲いかかってくるが、アリスは槍楯技でバリアを展開してこれを防ぎきる。

「カヤ」

「うん、パパ!」

ぼくとカヤはアリスから離れ、互いの手をとる。

直後、ちょうど爆発の煙がぼくたちの身体を覆い隠してくれた。

「それじゃ、カズさん」

「ああ。気をつけて」

「はい。ライトニング・ムーヴ」

アリスは、たまきとルシアを連れて離脱する。

囮となってくれたのだ。

「カヤ」

「はい、パパ。グレーター・インヴィジビリティ」

煙のなか、カヤが自分自身とぼくに姿隠しの魔法を使う。

こんなものにどこまでの効果があるか、怪しいものだった。

これまでの神兵級には意味がなかったのだから。

でもそれは、シャ・ラウによれば彼らには視覚以外の探知方法があったからというだけのことで……。

探知方法は熱探知だったり、ソナーのような音波探知だったりする。

この広い空間でソナー型の探知はないだろう。

となれば、あとは……。

「コールド・インフェルノ」

遠くでルシアの声が響く。

あたりいちめん、それもぼくとカヤの進行方向にまき散らされた氷と炎の暴風が、周囲の空気をめちゃくちゃにかき乱した。

十倍消費の火水合成魔法、その威力は圧倒的で、近くにいたクラゲたちはひどくバランスを崩して、なかには落下していく個体まである。

敵陣は、一時的に大混乱に陥った。

あとは、博打だ。

「いくぞ」

「うん、パパ!」

ぼくとカヤは爆風にまぎれて飛びだす。

カヤはぼくの手をとり、細かいディメンジョン・ステップを刻んで魔王との距離を詰めていく。

周囲のフライング・ジェリーフィッシュは、ぼくたちの存在に気づいていない様子で、位置を変えながら大魔法を放ち続けるルシアたちを攻撃するのに忙しい。

よし、これならいけるか。

ぼくとカヤは顔を見合せてうなずきあうも……。

「あっ」

カヤの声。

ぼくは反射的に魔法を使う。

「アクセル」

意識を加速させて周囲を観察すれば、いままさに下方のフライング・ジェリーフィッシュがこちらめがけてミサイルを放ったところだった。

カヤはちょうどディメンジョン・ステップを使ったばかりで、吹き上がる煙のなか、まだ次の座標をしっかり認識できていない。

ミサイル着弾までの猶予はない、となれば……。

「リフレクション」

ギリギリまで引きつけて、虹色の薄幕を展開する。

ミサイルを弾く。

幸いにして位置指定型ではなく衝撃型だったようで、ミサイルは百八十度跳ね返ってフライング・ジェリーフィッシュめがけ落下していく。

「カヤ」

「んっ。ディメンジョン・ステップ」

衝突の結果を見ることなく、ジャンプ。

次の座標へ。

何度めかのジャンプを重ねたところで、フライング・ジェリーフィッシュの数体に捕捉された。

複数のミサイルがこちらを狙いだしたことにより、残りにもぼくとカヤの存在がバレてしまう。

集中攻撃が来るなか、カヤは的確に攻撃の薄いポイントを割り出し、ディメンジョン・ステップを使っていく。

もう、魔王はすぐ目の前にあるように思える。

ショートジャンプも、残り二回くらいだろうか。

そんなところで……。

ジャンプアウトと同時に激しい衝撃が走る。

ぼくは悲鳴をあげるカヤを抱き抱え、空中をくるくる回転した。

熱風が押し寄せるなか周囲を見れば、どうやら敵の「置きミサイル」がすぐ近くで爆発したようである。

シューティング・ゲームでいう偶数弾というやつだ。

ああもう、くそっ! 頭がいいじゃないか!

「カヤ、どこでもいい、飛べっ!」

「うん、パパ! ディメンジョン・ステップ」

ワープする直前、こちらに向かってくるミサイルの群れが見えた。

今度は奇数弾だ。

少しでも判断が遅れていたら、あれの爆発に巻き込まれていただろう。

ジャンプした先では、すぐ目の前にフライング・ジェリーフィッシュの姿があった。

触手の群れが襲ってくる。

「フォース・フィールド」

透明な力場の盾を展開し、触手群をブロック。

相手がわずかにまごついている間に、カヤが次のワープポイントを見定めている。

そうこうするうちにまた四方からミサイルの群れが飛来するも……。

「ディメンジョン・ステップ」

間一髪、脱出。

辿り着いたのは、黒い球体のすぐ目の前だった。

目の前といってもまだ数百メートルはあると思うのだが……。

「パパ、うしろっ」

カヤの声で振り返れば、すぐそばにいたフライング・ジェリーフィッシュが触手を伸ばすところだった。

しまった、あと少しというところで……。

「邪魔、させないっ」

そのとき、遠くからたまきのばかでかい声が聞こえてきた。

フライング・ジェリーフィッシュは反対側からの一撃を受け、その身をよろめかせる。

物理攻撃無効のはずなのに、それでもなおこのモンスターをふらつかせたこの一撃は……そうか、破竜斬を乗せた、あの黒い剣のビームか。

そんなことができたなんて、知らなかった。

いや、たまきのことだ、やってみたらできたとかかもしれない。

ともあれ、おかげでぼくたちは貴重な数秒を稼ぐことができた。

ぼくは、爆煙にまかれて姿の見えないたまきたちに心のなかで感謝して……カヤを見る。

「いこう、カヤ」

「ん。ディメンジョン・ステップ」

最後の跳躍。

辿り着いた先は、真っ黒い床の上だった。

いや、この足もとこそが魔王の本体だ。

頭上を見れば、全周囲を取り囲む無数のフライング・ジェリーフィッシュがこちらに触手を向けている。

「カヤ、なかに入れるか!」

「んっ」

カヤは素早くかがみ、床に手を当てる。

すっと床に切れ込みが走り……。

それはあっという間に、円形の穴となる。

普通なら落下するだろうけれど、いまのぼくとカヤにはウィンド・ウォークがかかって……。

と思ったら、身体ががくんと落下する。

げっ、吸い込まれるっ!

「カヤっ」

ぼくは慌ててカヤの手を握り……。

ふたりで、落下する。

ミサイルが頭上に降り注ぐも、それらが魔王の本体に到達する前に、開いた穴がぴたりと閉じた。