軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第242話 真の敵

もとの場所に戻って、ワンさんの話の続きを聞く……。

前に、ワンさんは話を止めて「ほう」と声を漏らした。

「どなたかレベルアップしましたね」

「わかりますか、白い部屋にいったの」

「一瞬で意識が切り替わりましたよ」

やはり、わかるものか。

さすがは啓子さんのお師匠様だ。

と、このタイミングでワンさんのスマートフォンに連絡が入った。

ワン老人は、ふたこと、みこと会話して通話を切る。

「特殊なちからの流れを探知したそうです。どうやら、敵の使い魔がそこら中に潜んでいたようですね」

「使い魔……」

「小型の使い魔です。骨のネズミ、といっていましたが」

なるほど、ぼくが使うカラスよりも小型の使い魔が存在するということか。

それらが広域に展開し、ワンさんたちの行動を監視していた。

だからこそ、ディアスネグスは魔王を巡るワンさんたちの陰謀を探知できたということだ。

白い部屋で予想したことが、こうも早く判明するとはね。

それにしても、骨のネズミとは……たしかに暗がりに隠れるには好都合だろうけど、見つけたら一発だよなあ。

存在さえ把握してしまえば、殲滅はそう難しく……ああでも敵の数が問題か。

「そちらに人手をまわす必要がありそうですね。作戦の開始時間は少々遅らせる必要があるでしょう」

「それだけでも、あいつにとっては有利な結果ってことですね」

「悔しいですが、そういうことになります」

多数の部下を使役する召喚士を敵にまわした場合の厄介なところだ。

だいたいこれまで、ぼくがやりまくった戦術なんですけどね。

ぼくたちは、これまで手段を選んでなんていられなかった。

単騎でこちらの世界に乗り込んできた亡霊王が同じ手を使うのも、まあ理屈としては理解できる。

できるんだけど……。

ぼくたちとしては、勘弁してくれと悲鳴をあげるしかない。

「まるで、カズが敵にまわっているかのようですね。これまででいちばん厄介な敵かもしれません」

「わかっていても、少し傷つくぞ」

ルシアは口の端をわずかに釣りあげ、悪戯っぽく笑った。

あまり表情が変わらないけれど、これはぼくをからかっているんだな。

「カズはそれだけおそろしいちからを持っている、ということです」

「うん、自覚はあるよ。問題は、同じことを四天王がやったらもっとずっとおそろしかったってことだよね」

「はい。本来の四天王のちからは、わたしたちを合わせたよりも強大なのですから」

ワンさんによれば、いちおう結界魔法で使い魔を防ぐことは可能であるらしい。

ただ、すべての場所で結界魔法を張っていてはキリがないため、どうしても盗み聞き対策などには限界があったとのこと。

今後は気をつける、という話だが……。

「人員配置を大幅に変更し、結界の起点となるポイントも移動させます。これで、ある程度は対応できるはずです」

「そのためにかかる時間は」

「夕刻には、なんとか」

ぼくは胸もとに仕舞っていた腕時計に視線を落とした。

ミアのくれたごつい腕時計は、あれだけの戦いのあとにも関わらず正常に機能している。

いやー、これ左手につけてたら壊れてたよな……。

いまの時間は、午後三時くらい。

日没は午後五時半くらいだったと思うから、二時間半後ってところか。

まあ、いまの騒動を収拾したあと移動を開始したら、それくらいになるだろう。

と、そんなことを話しているうちに二度ほど白い部屋にいった。

アリスとカヤが志木さんに追いついて、シャドウを狩る数が大幅に増えたみたいだ。

別の場所にいたたまきを含め、合計で二十五体から三十体くらい倒したといっていた。

まず志木さんがレベルアップし、次にぼく、それからルシアとカヤだ。

志木さんは投擲を5に上昇させた。

和久:レベル62 付与魔法9/召喚魔法9 スキルポイント4

強化召喚6(使い魔強化6、使い魔同調3、使い魔維持魔力減少3)

ルシア:レベル52 火魔法9/水魔法9 スキルポイント4

火水合成魔法(コールド・インフェルノ2、ウォーター・フレア・シール2)

志木:レベル22 偵察7/投擲4→5 スキルポイント6→1

カヤ:レベル54 風魔法9/射撃9 スキルポイント3

風射術3(強化射技3、自在弾3)

ある程度、シャドウの掃除が終わったところで全員が合流した。

ワンさんの手配した十人乗りのワゴン車にクァールともども乗り込み、湾岸部に向けて移動を開始する。

飛行しないのは、おそらく透明になっても見破ってくるだろうディアスネグス対策である。

車全体に隠密の結界が張られているため、探知の類はできないだろうとのことだ。

ぼくたちを乗せたワゴン車は、とあるトンネル内部の封鎖された脇道へ入り、そこで車を乗り換えた。

もし追跡があっても、これで完全に撒けるだろう。

「秘密の地下道って、本当にあるんだなあ」

「そう長い道でもありませんがね」

ワンさんは笑う。

政府の許可でもないと入れないだろう道をさくっと使っているわけだから、きっとこのひと自体、かなり偉い立場なんだろう。

いっけん、ただの好々爺だけども。

「ところで、亡霊王が魔王と直接合流しないのは、なぜなのでしょうね」

「あれは……魔王って存在は、たぶん四天王にとっても会話とか交渉とかができる相手じゃないんじゃないかな。違うか、クァール」

『さよう。ゆえにわが主は、離反を決意した』

クァールのテレパシーに運転手が驚いたようで、ちょっと車が揺れた。

もともと落ち着かない様子だったクァールが、その全身をびくっと震えさせる。

運転手が謝るものの、少し不機嫌になってしまった。

「車は好かないか。ごめんな」

『これを用いての移動が必要なことは認識している。問題ない。あと、怯えてはいないぞ』

「そ、そうか。わかった、じゃあそういうことで」

『本当に怯えてないぞ』

あ、みんな懸命に笑いを堪えている。

カヤだけは、シートから身を乗り出して窓の外を興味しんしんで眺めているけども。

まあなあ、彼女にとってはなにもかもが物珍しいだろうからなあ。

いちおうは親として、少しは観光させてやりたい。

エロゲはともかく、秋葉原とかを見せてやったりしたい気持ちもある。

でも、そんなことをしている時間は……。

もう、ないだろう。

ディアスネグスがなにを狙っているにしろ、時間をかければかけるほど、この世界の被害は増す。

ひょっとしたら致命的な事態に陥るかもしれない。

いまここでケリをつけて、魔王を倒して。

そして、向こう側に戻らないといけない。

「だいじょうぶだよ、パパ」

はたしてぼくは、カヤの隣に座り、カヤの顔を見ながら、どんな顔をしていたのだろう。

わが賢明なる娘は、ぼくを見上げてにっこりする。

「カヤはね、パパといられるいまが、とっても嬉しいんだから」

ぼくは思わずカヤを抱きしめて、「ぼくもだ」といった。

「おまわりさん、こっちです」

「だからもうそれいいから志木さん」

ワゴン車は首都高にあがった。

車に取りつけられたテレビの画面に、渋谷の惨状が映し出されている。

いまの時間、どこも緊急ニュースをやっているらしい。

倒壊したビル群。

市民に襲いかかるスケルトンやシャドウ。

あまりにも刺激的な光景を、上空のヘリから撮影している。

幸いにして、ぼくたちの姿はなかった。

検閲されたのかもしれない。

だとしたら、こうしておおさわぎしていること自体もカモフラージュなのかも……うん、ワンさんの組織なら、それくらいやりそうだ。

魔王の出現により、羽田空港は現在封鎖されている。

魔王自身は浦安の南の海に浮かんでいるから、羽田から飛べばすぐ、とのことだ。

で、さっきからカヤがクァールを構っている。

どうやら肌ざわりが気に入ったようで、「わんちゃん、わんちゃん」と首に抱きつき、頬ずりしていた。

黒豹の魔物だから猫科なんじゃないかな……。

クァールは最初こそ嫌そうにしていたが、途中であきらめたのか、「鬚にだけは、触るな」といったきり椅子の上でじっとしていた。

カヤの手が喉の下を撫でると、気持ちよさそうにごろごろと鳴いたあと、はっと正気に返って首を振る。

『なんでも、ないぞ』

「そうね、なんでもないわね……」

笑いをこらえる皆のなかで、志木さんがかろうじてそう答えた。

クァールはぶぜんとするも、カヤを強引に引きはがそうとはしない。

『おまえたちのボスの娘を無碍にできないというだけだ』

「そいつは、すまないな。悪いけど、もうしばらく子守りを頼む」

睨んでくるクァールをスルーして、ぼくたちは打ち合わせを続けた。

実際のところ、話すべきことは山ほどあるのだ。

で。

いま車は羽田空港に向かっていたのだが……。

ワンさんは、打ち合わせに混ざりながらスマートフォンの画面をちらり、ちらりと見ている。

アプリで彼の組織の仲間がどう動いているか、その情報を確認しているとのこと。

退魔的な組織なのにえらいハイテクですね。

いまさら驚かないけど。

「LINEとかツイッター、使わないんですか」

「ああいったものは、運営側にデータを抜かれていますからね。検討はいたしましたが」

検討したんだ。

と、そんな彼の顔色が変わった。

「仲間の部隊に対して、動く骸骨の襲撃があったようです。非常に強力な個体が混ざっていたとのこと。一班が現在、逃走中。お手伝いいただけますか」

「どこですか」

「梅屋敷のあたりです」

ぼくたちは顔を見合わせた。

地理がわからないぞ……。

と、ワンさんが慣れた手つきでスマートフォンを操作し、グーグルマップを表示してくれた。

いまいる場所から、けっこう近い。

しかもこれ、住宅地なんじゃ……。

東京なんだから、そりゃどこも住宅地ではあると思うけど、それでもこのあたりってひとが多いよなあ。

「行きましょう」

志木さんがいった。

「相手の意図がなんであるにせよ、結界を守っていれば自然、ディアスネグスと対決することになるわ。いまのわたしたちにとって最悪なのは、魔王と亡霊王を同時に相手にすることよ」

「その通りだね。これが誘いの可能性はあるけど」

「なら誘い出されてあげましょう。カズくん、MPはなんとかなりそう?」

ちらりとミアの腕時計を見た。

あれから一時間近くが経過している。

「ディポテーションでひととおり送還してるからね。なんとかなると思うよ」

「それじゃ、行きましょうか」

「行くって……まあ、そうか。飛んで行った方がいいか」

車が路肩に停止する。

ぼくたちとワンさんは車を降りる。

ワンさんは運転手に「あとは彼らと行動します。あなたは戻ってください」と告げた。

「いっしょに来るんですか。危ないですよ」

「あなたがたが迷子になってはいけませんからね」

「啓子さんじゃないんですから」

ワンさんは、「まったくですな」と呑気に笑う。

いや……来てくれれば彼の組織のひととの交渉とか心強いから、助かるけどね。

「それじゃ、お願いします」

ぼくたち六人とクァール、それからワンさんの七人と一匹が空に舞い上がる。

西の方で爆発が起きていた。

あれ、なのかなあ。

「方角は合っていますね」

ワンさんが断言する。

よし、それじゃ。

今度こそ、亡霊王退治といきますか。