作品タイトル不明
第239話 亡霊王との戦い3
今回、レベルアップしたのは一気に三人。
ルシアとカヤ、それに志木さんである。
レベル53になったカヤは風射術を3に上げた。
ルシア:レベル51 火魔法9/水魔法9 スキルポイント2
火水合成魔法(コールド・インフェルノ2、ウォーター・フレア・シール2)
志木:レベル20 偵察7/投擲3 スキルポイント6
カヤ:レベル53 風魔法9/射撃9 スキルポイント6→1
風射術2→3(強化射技2→3、自在弾2→3)
ぼくたちは打ち合わせを終え、もとの場所に戻る。
※
戦闘再開。
ぼくはふたたび襲ってきた肩の激痛に呻き、片膝をつく。
痛い、痛い、めちゃくちゃ痛い。
アリスの救援を頼んでおいて、ほんとよかった……。
そのアリスは、一条の雷となってぼくのもとへ飛んでくる。
大慌てでライトニング・ムーヴを使ったのだろう、息が切れていた。
「カズさん! いま、いま治療しますから!」
「そんな慌てなくても……あいたっ」
ダメだ、ぜんぜん虚勢を張れない。
やー、さすがにここまでの怪我は初めてだからなあ。
アリスやたまきは、わりと何度もこのクラスの傷を受けているけど。
彼女たちがいかにがんばっているか、改めて理解した。
あとで、もっと優しくしてあげたいところである。
そんなことを考えている間にも、ぼくの傷口から新しい腕が生えてきた。
「アリス、もういい。戦いに戻ってくれ」
「で、でも」
「ディアスネグスは、きみ抜きで勝てるような相手じゃない」
見れば、亡霊王のもとにアリスと戦っていたスケルトンの残りが馳せ参じていた。
前衛の数が足りないこともあって、ルシアたちは防戦一方だ。
ことにペヌーザが片足をやられているのが痛い。
「いってくれ」
「は、はいっ!」
アリスはまだ名残惜しそうにぼくを見上げたあと、ひとつうなずいて……。
「ライトニング・ムーヴ」
雷となって、かき消える。
次の瞬間には、シャ・ラウを襲う亡霊王のすぐ脇に現れていた。
ディアスネグスは少し慌てたように顔を動かし、ちらりとアリスを見たあと、この新手の方が厄介だと判断したのかアリスに向かって手を伸ばす。
「ホーリー・ウェイブ」
アリスの身体が輝き、光の波が周囲に広がる。
治療魔法ランク9、対アンデッドの波を放つ魔法だ。
亡霊王は呻き声をあげ、それでもアリスに迫るが……。
「させませんっ」
アリスは槍の穂先から青白い半透明の盾を生み出し、その一撃を弾く。
槍楯技だ。
そうして展開された楯はリフレクションのように一瞬だが、さらに……。
「ホーリー・ウェポン」
彼女の握る槍が白い輝きを放つ。
これも治療魔法のランク9で、その一撃は普通のアンデッドならかすっただけで消滅してしまうほどであるらしい。
そのまま流れるように放たれるアリスの刺突を、ディアスネグスは左手でむんずと押さえる。
光輝く槍の先端を握った骨の左手が溶け落ちていく。
だが亡霊王は、にやりとしたあと右手をアリスに突きだした。
こいつ、肉を切らせて骨を断つつもりか!
「アリスママ、いじめちゃ、めーっ!」
そこにカヤが攻撃を仕掛ける。
亡霊王の右手を狙ってパチンコ玉を放ち、これの軌道をわずかに変える。
おかげでアリスは、紙一重でぼくも大ダメージを喰らった右手から逃れた。
アリスと亡霊王は、互いに距離をとる。
お互い、睨みあって様子を窺う。
さて、この戦場に乱入してきたスケルトン・ゴッドブレイカー二体は、天亀ナハンが相手にしていた。
ナハンは後衛ながら、使い魔強化6によってスキル10に均しい戦闘力を持っている。
前衛スキル9相当と思われるゴッドブレイカーたちを相手としても、巧妙に距離をとってつけいる隙を与えていない。
アリスと選手交代した幻狼王シャ・ラウはと戦場を見渡せば、瀕死の状態で倒れている神翼使徒ペヌーザのもとへ辿り着き、彼女に治療魔法をかけていた。
シャ・ラウの治療魔法はリジェネレート系だけであるが、これでペヌーザが死ぬことはないだろう。
この戦いではもう、戦力外となってしまうけど……彼女はすでに、最低限の仕事を終えている。
さて、ここからぼくは、どう動くべきか。
ペヌーザの治療を終えたシャ・ラウが、指示を仰ぐように遠くのぼくを振り仰ぐ。
ぼくは彼に手を振り、招き寄せた。
次の瞬間。
シャ・ラウの身体が光ったかと思うと、雷となって……。
ぼくのそばに、彼の巨体がある。
『参上したぞ、主。傷は』
「アリスに治してもらった。一気に勝負をつけたい」
『承知した』
切り札を切ろう。
ぼくは使い魔覚醒を使用する。
シャ・ラウの身体が赤黒く輝き出す。
『ほぼ全盛期に近いちからだ!』
賢狼は、ひとつおおきく吠えた。
ぼくはさらにMPのほとんどを注ぎ込んで、使い魔同調を使う。
ぼくの意識が、シャ・ラウと同調する。
「行こう」
『うむっ』
シャ・ラウは赤い家の屋根を蹴る。
意識のないぼくの身体を残して、雷となって加速、戦場に突進していく。
まず目指すは、天亀ナハンと戦う二体のゴッドブレイカーだ。
「一瞬で決めるぞ」
『応』
雷のまま、空中からの体当たりでゴッドブレイカーの一体を吹き飛ばす。
残る一体がこちらに反応して剣を向けようとするも……。
「アクセル」
シャ・ラウがグラウンドに着地した瞬間、ぼくの魔法で意識を加速させる。
ゴッドブレイカーが振り下ろしてくる剣にタイミングを合わせて……。
「リフレクション」
ゴッドブレイカーの刃を薄幕で弾く。
体勢を崩したスケルトンに突っ込み、鋭い牙でもってその首をもぎ取ると、頭蓋骨を破壊する。
振り向けば、吹き飛ばしたスケルトンをナハンが炎の魔法で焼き尽くすところだった。
一瞬で、二体とも撃破。
あとはディアスネグスだけだ。
アリスとカヤがアイコンタクトを送ってきた。
「うなずいてくれ」
『承知』
幻狼王が頭をわずかに上下させるとともに、ぼくたちは一斉に動き出す。
まずはぼくがシャ・ラウに命じ、彼が持つなかで最強の攻撃魔法を使わせる。
普段は銀色の幻狼王の毛が金色に輝き、無数の雷撃が放たれた。
ディアスネグスは側面から襲ってくる攻撃魔法を迎撃するため、左手を向けるが……。
「やーっ」
カヤの微妙にタイミングをずらして放ったパチンコ球が、ホーミングしてその左手に命中する。
普通の状態ならディアスネグスの身体を透過してしまう物理攻撃だが、カヤの持つ武器が特殊なせいか、パチンコ球は亡霊王と衝突した衝撃で爆発を起こした。
半透明の幽霊じみたモンスターは、わずかに体勢を崩す。
そこにシャ・ラウの雷が直撃する。
亡霊王が、くぐもったうめき声をあげた。
追撃とばかりに、アリスがホーリー・ウェポンのかかった槍で切り込む。
亡霊王はたまらず、アリスから距離をとった。
だがアリスから放たれ続けているホーリー・ウェイブのせいで、その動きは先刻までより少しだけ鈍い。
アリスの刺突が、避け切れない。
穂先が肩口を抉る。
ディアスネグスは低く呻いた。
「いまだ、一気に……」
「舐める……なっ」
亡霊王は怒りの声とともに右手を振るう。
同時に宙に浮き上がり……。
それはたしかに待ちに待ったチャンスであった。
アリスが「いまです!」と身を乗り出すのだが……。
「待て、アリス! 離れろ!」
ぼくは叫ぶ。
なにか背筋がぞわりとする感覚を覚えたのだ。
しかし、シャ・ラウと一体化しているいまのぼくの声は、この幻狼王にしか届かない。
「くそっ、とにかく飛びあがれ!」
『了解した、主よ』
仕方なく、とっさにシャ・ラウだけでも宙に逃がす。
カヤがそれを見てなにか感じたのか、自分も飛びあがろうとするが……。
遅かった。
地面から無数の黒い腕が出現し、カヤとアリス、天亀ナハンの足をからめとる。
少し離れていた神翼使徒ペヌーザも、グラウンドの広い範囲に出現したこの腕に掴まれる。
「な……っ、これは! あいつの魔法か」
「だ、ダメです、足が……っ!」
アリスはとっさに、己の身も顧みず亡霊王に手を伸ばす。
「でも、せめてっ! セレニティ」
ディアスネグスのまわりに結界を張る。
虹色に輝く、半透明の結界。
そのなかに包まれたのは、二体。
ディアスネグスと、そして。
ぼくの意識を宿したシャ・ラウのみ。
完全に一騎討ちとなってしまった。
「これで、われを閉じ込めたつもりか。きさまは仲間と分断されたのだぞ」
ディアスネグスは、こちらを向いてそう宣言する。
髑髏のなかで赤く輝く眼窩が、まるで笑うようにチカチカと明滅した。
「構うな。一気に攻めろ」
『無論』
幻狼王は、宙を蹴って亡霊王に突進した。
亡霊王が右手を前に突きだしてくる。
あれに触れれば、いまのシャ・ラウでも危ないだろうが……。
「アクセル」
ふたたびぼくは、意識を加速させる。
それを見た亡霊王の骸骨の口が、ゆっくりと上下した。
本能的な違和感を覚える。
「雷だ」
反射的に、そう告げた。
シャ・ラウはぼくの不可解な指示を問い返すことなく、無言で従ってみせる。
至近距離からライトニング・ムーヴを発動させ、一気に亡霊王の背後にまわりこんだ。
直後、亡霊王の前方に広く真っ暗な空間が発生する。
漆黒の空間は周囲の空気を吸い込み、扇型に膨張した。
セレニティの結界全体がおおきく揺れる。
漆黒の空間が破裂し、すさまじい衝撃波となって結界の外に発射される。
家々が、ビルが扇状になぎ倒されていく。
って、まずい、あの先には避難民が……っ。
「なんだよ、なんだよあれっ」
『無を発生させたのだろう』
「ふざけんな、セレニティの結界を破って、あんな……無関係なやつを」
『われらの先刻の戦い、見られていたのだ。ゆえに前方広範囲に広がる攻撃を放った』
「ぼくのせいだっていいたいのか」
『冷静になるのだ。主の指示がなければ、いまごろ……』
死んでいた、ってことか。
粉々に粉砕された街を呆然と見ながら、ぼくは言葉もない。
口のなかがカラカラに乾く。