作品タイトル不明
第235話 住宅地の戦い3
スキルが上がって強くなっても、本人が実戦経験を積んだわけではない。
たしかにたまきもこの五日間、ひたすらに戦い続けてはいるものの……。
地道に何十年と経験を積んできた者と比べれば、判断力で劣ることは否めないだろう。
だから、まあ、うっかりで敵を倒してしまったたまきは悪くない。
消えていくスケルトンを見ながら、ぼくはそんなことを考えていた。
こちらを振り返ったたまきが泣きそうな顔をしていたけれど、ひろい心で笑顔を見せてやる。
「どんまい、だ。まだ敵のグループはいるみたいだし、次でうまくやればいい」
「う、うん、がんばるわっ」
拳をぐっと握るたまき。
よし、きみは本当にぽんこつかわいいぞ。
「ぽんこつママ……」
「待て、カヤ。そういうことは思うだけでいい。口に出してはいけない」
「え、なになに、どうしたの?」
よかった、聞こえてなかった。
セーフ、セーフ、セーフ。
「仲がいいですね」
ワン老人が目を細めて笑っていた。
その横で、志木さんが腰に手を当てため息をついている。
「緊張感がなくてごめんなさい。この子たち、いつもこんな感じなんです」
「戦いに際して気を抜いているわけではないということは、見ればわかりますよ。むしろ、研ぎ澄まされている。いささか身体が動き過ぎてしまうようですがね」
なるほど、身体が動き過ぎる、か。
スキルの弊害……なのかなあ。
そのへんのこと、よくわからないや。
「焦らずとも、すぐに手加減を覚えることでしょう。彼女たちはスジがいい」
「あの、ええと……ありがとうございます」
アリスはともかく、たまきも?
と思ったけど、たまきだってとっさの反応速度はなかなかのものだ。
ちょっと猪突猛進すぎるだけで。
戦いとか殺し合いに対して水準以上の適性がなければ、これまで生きてくることは難しかっただろう。
なにより彼女には、負けてもへこたれないたくましさがある。
ぼくたちは皆、そのことをよく知っている。
「どのみち、敵は全部始末しなきゃいけないし……ワンさん、次はどこへ行けばいいですか」
スケルトン一体あたり、青い宝石を二個、落としていた。
レベル10くらいの相手だったのだろう。
トークンを回収したあと、ぼくたちはワンさんの指示で移動する。
ちなみにワンさんは、スマートフォンの画面を睨みながらあっちこっちを指差していて……あ、液晶画面にグーグルマップが映し出されてる。
そうだよね、法術とか呪術とかそういう神秘的なもので方位とかいろいろ調べるより、グーグルさんの方が強いよね。
別に幻滅する必要はない……するべきじゃないんだ……。
※
次の集団は、スケルトンが六体だった。
ローブのスケルトンは一体もいない。
これなら楽勝か、と思われたものの。
「いくわっ」
「あ、たまきちゃん、待ってっ」
さっきのことをすっかり忘れて、十メートル先のスケルトン部隊に突撃するたまき。
慌てて追いかけるアリス。
カヤが曲がり角から顔を出し、パチンコで援護、スケルトン一体の頭部を微塵に破砕するも……。
奇襲に気づいた敵の剣持ちスケルトンが呪文の詠唱を始める。
あ、しまった、いまぼくは幻を見抜けるような魔法をかけていない。
「あいつから倒せ! たぶんメイジが化けてる!」
「そうねっ! ゴールデン・カイザー・ウルトラファイアー!」
「え、いや、待てそれは……っ」
たまきが黒い剣を振るうと、黄金のビームが放たれた。
たしかにウルトラなゴールデンだけどカイザーとファイアーはどこからきたのか。
で、気合を入れすぎたのか、やけに極太の光線は狭い路地を埋め尽くした。
スケルトンたちを一網打尽にするついでに電信柱を半分くらいえぐって、正面のビルに直撃する。
土煙があがり……それが収まったあと。
ビルにおおきな穴が開いていた。
ワンさんが、あんぐりと口をあけている。
と……ぼくたちは白い部屋へ。
※
白い部屋のなか。
皆が無言で、背中を向けたまま立ち尽くすたまきを見つめる。
たまきが、錆びたドアノブのようにギギギと震えながらこちらを振り返った。
「たまきママ、うっかりさん!」
「ねえたまきちゃん、働いて身体で返す?」
「わたし、いまのはフォローできないです……」
カヤ、志木さん、アリスは三者三様に首を振った。
「ご、ごめんなさーいっ」
「残念ね、たまきちゃん。謝って済むなら警察はいらないのよ……」
たまきの肩に、志木さんがぽいんと手を置く。
やれやれと首を振って、青ざめるたまきに笑顔を見せる。
「あのビル、いくらかしらね。一億や二億じゃきかないと思うけど」
「ひ、ひええっ」
「というのは冗談。だいじょうぶよ、そのへんも全部、ワンさんがなんとかしてくれると思うわ。必要だったと思うことにしましょう」
「シキのいう通りです。少々過剰火力だったかもしれませんが、あのメイジがどんな魔法を使うかわからなかった以上、早急に対処したのは褒められてしかるべき行いですよ」
あ、ルシアがフォローしてくれた。
そうだな、ぼくたちは地球に戻ってきて、ちょっと平和ボケしていたかもしれない。
あれが向こう側の世界であったなら、町中でもためらうことなく当然のように全力ファイアーだっただろう。
「まあ、そうだな。メイジが高火力の魔法を使ったら、あのあたり一帯が火の海になっていたかもしれないし」
「そ、そうよね、カズさん!」
「でも次からは、もうちょっとまわりを見て戦おう」
「うっ、はい……」
落ち込むたまきの頭を撫でてあげる。
お調子者の少女は、気持ちよさそうに鼻を鳴らした。
わんこかわいい。
「いま発見しているスケルトンは、あと二グループだっけか」
「そうね。たまきちゃん、次はくれぐれも……」
「任せて! 今度こそ、ちゃんとやってみせるわ!」
なでなでが効いたのか、たまきは元気よく拳を握った。
ふ、不安だ……。
隣で苦笑いしているアリスを見ると、口ぱくで「フォローします」といってきた。
献身的にドジな夫を支える妻のようだ……。
次こそ失敗するわけにはいかない。
この夫婦には頑張って欲しい。
あれ、誰と誰が夫婦なんだっけ……。
彼女たちには異性の恋人がいたような……。
※
今回、レベルが上がったのはルシアとカヤである。
スキルポイントが5点溜まったルシアは、火水合成魔法をランク2に上昇させた。
アビリティ、というか魔法はコールド・インフェルノとウォーター・フレア・シールドのランクを順当に向上させている。
ルシア:レベル50 火魔法9/水魔法9 スキルポイント5→0
火水合成魔法1→2(コールド・インフェルノ1→2、ウォーター・フレア・シール1→2)
カヤ:レベル52 風魔法9/射撃9 スキルポイント4
風射術2(強化射技2、自在弾2)
※
もとの場所に戻って。
ビルの壁に穴を開けてしまったことについて、ワンさんに相談する。
「なあに、この程度のトラブルはよくあることです。あまり気にせず、敵を倒すことを優先してください。必要以上にやりすぎるのは問題ですがね」
「助かります」
「よかったあ、わたし売り飛ばされちゃうのかと……っ」
たまきは、安堵して胸をなでおろす。
いやあれはさすがに冗談だからね、といいかけて黙ることにする。
とにかく、次だ、次。
幸いにしてスケルトンたちの戦力はさして高くないようだから、慎重のうえにも慎重にいってもらわねば。
「こちらの路地に入りましょう」
「それもグーグル・マップで?」
「いいえ、仲間の誘導です」
ワンさんと会話しながら、小走りに町中を駆ける。
スーツ姿で老体にもかかわらず、彼の動きは機敏であった。
さすがは啓子さんの師匠、といったところか。
「今度の集団は十体もいるようですが、問題ありませんか」
「あの程度の戦力でしたら、何十体でもいけます」
いざとなれば、ぼくが使い魔を召喚しよう。
いま召喚してないのは、その必要がないこととMP温存、それから……。
あまりに化け物を呼び出してしまうと、きっとどこかで見張っているのだろうワンさんのお仲間がどう思うかとか。
そんなことも、ちらっと考えてはいた。
余計な心配かもしれないけどね。
だいたい、いまアリスとたまきは明らかにぶっそうな槍と剣を手にしている。
おまわりさんに見つかったらいいわけができない。
ワンさんの政治力に全力で期待するしかない。
で、今度のスケルトンたちは、ひと払いされた大通りを堂々と行軍していた。
周囲を警戒している様子ではあるが……。
ぼくたちは少し離れたビルの屋上から、剣と楯を構えたいかにも場違いなモンスターたちを観察する。
ぼくは念のためトゥルー・サイトを使って、スケルトンのなかに変身している個体がいないかどうか調べた。
うん、全部ただのスケルトンっぽい。
「カヤ、手頃な一体の腰を狙撃、立ち上がれなくさせること、できるか」
「まかせろーっ」
「よし。たまき、フライで突撃して、カヤが狙撃したやつの両肩を破壊、そのまま持ち上げて適当な屋根の上にでも隔離だ。アリスはその間に残りを殲滅。ルシアは適宜、小規模な魔法で援護してくれ」
各人で役割を分担し、行動開始。
カヤのパチンコによる長距離狙撃によって、スケルトンの一体がばたりと倒れる。
すかさず、アリスとたまきが上空から突撃する。
「今度こそ、失敗しないんだからっ」
たまきの渾身の斬撃が、倒れたスケルトンの右肩に叩きつけられる。
スケルトンは衝撃で吹き飛び、ばらばらになって崩れ落ちた。
……おい。
「あ、あ、ああああっ」
「だいじょうぶですっ、たまきちゃん、こっちを!」
アリスの刺突によって、スケルトンの一体が臀部を破壊される。
よし、ナイスアシストだ。
今度こそ、たまき、きみが……。
「わあっ、もうこうなればっ」
たまきは剣を捨てて、倒れたスケルトンに掴みかかった。
お、おいおいおいっ。
慌てるぼくたちを無視して、たまきはぐわしとスケルトンの剣を持つ手を握り……。。
「これでええええっ」
その骨の手を握り潰す。
めしり、と鈍い音が響いた。
剣がアスファルトに落ちる。
「ぬおおおおおりゃああああっ」
たまきはそのまま、スケルトンの肩の骨を砕いてしまった。
完全にちから任せの蛮行だ。
腰から下と両腕をやられたスケルトンは、なおも噛みつこうとするものの……。
「させないんだからあっ」
たまきは、骨の首をがっしりと掴んで、これを阻止。
そのまま頭と胴体だけになったスケルトンをぐいっと持ちあげて、宙に舞い上がる。
「みて、みて、カズさん! わたし、やったわ!」
「お、おう、そうだな……。たしかにきみ、スキルのおかげで腕力でも超人級だったな……」
なにこの蛮族。