軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第234話 住宅地の戦い2

ほどなくして、志木さんが戻ってきた。

胸もとで腕組みして、胸をそらし、でも少し恥ずかしそうな笑みを浮かべて。

「ごめんなさいね。もうだいじょうぶだから」

本当にだいじょうぶなのかどうかは、彼女にしかわからないだろう。

志木縁子という人物は、感情を隠すのが上手いのだから。

困ったことに、ぼくたちの誰よりも。

さっきみたいにとことんまで追いつめられない限り、ぼくたちでは判別不能だ。

つまり、まあ。

さっきはそんな彼女ですら感情が表に出てしまったほどヤバかったってことで……。

ちょっとやそっとのことで立ち直れるのだろうか?

いや……たとえ立ち直っていなくとも、その感情を押し隠すことができるようになっていたなら上々か。

やっぱり、彼女は置いてくるべきだったのかもしれない……。

とか、いまさらそんなことを考えても仕方がない、か。

彼女の原動力は、「友を見捨ててしまった」という後悔だ。

これから先の長い人生を、また同じ後悔を抱えて生きることが、彼女にとって幸せとは限らないのだから。

ぼくたちはいつものように、車座になって座る。

カヤはぼくの膝の上だ。

「それじゃ、話し合いを始めましょう。まずは情報整理ね。ワン老人がいっていたことだけれど……」

表向きは完全にいつも通りになって、志木さんは会議の音頭をとる。

ワンさんの話には、いろいろ考えるべきところがあった。

なんというか、この世界の裏側で暗躍する対異世界漂流生命対策組織みたいなものがあるというだけでもびっくりである。

「とはいえ、彼らをあてにすることはできないわ。結局のところ、あの魔王とかいうふざけた黒い球体を倒すことができるのは、わたしたちだけ。いいえ、正確には……カヤちゃん、あなただけなのね」

「まかせろーっ」

カヤはおおきく腕を振り上げた。

元気でよろしいけど、背伸びした拍子に後頭部がぼくの顎を直撃して痛いです……。

悶絶するぼくを見て、志木さんがけらけら笑う。

アリスが治療魔法をかけようとしてくれたので、手で制する。

いやだいじょうぶ……。

ほんとに痛かったけど。

「あのね、カヤちゃん、よく聞いて。わたしたちは、なんとしてでもあの魔王を討伐しなきゃいけないわ。たとえそのために、あなたの身に危険が迫ろうとも。優先順位としては、あなた自身の安全より目的の達成の方が優先。それでいいわね」

「ちょっ、志木さんっ」

「おう、よろしい!」

顎を押さえて起きあがったぼくの抗議の声を遮り、カヤはえへんと胸を張る。

「パパは、しんぱいしょう、です!」

「そりゃまあ、なあ。愛する娘の安全だぞ」

「むすめは、いつか、よめにいくよ?」

「そんな未来の話はやめてくれ!」

あと余所の男とくっつくとかお父さんは絶対に許しませんよ。

ああ、絶対にだ。

「話を戻しましょう。そのうえで、結局のところあの魔王を倒すためにはカヤちゃんが絶対に必要。だからカズくんたちは、必ずあなたを守り抜く」

「だいじにされて、うれしいです!」

「そうですね。基本的にはシキのいう通り、カヤを守って魔王のもとに送り届けるための戦いになるでしょう」

ルシアがまとめる。

うん、それならそうと、ぼくを不安にさせるようなことはいわなきゃいいんだ……。

「問題は、まず魔王のもとに辿りつけるかどうかね。偵察機もリモコンヘリもドローンも、魔王のもとに辿りつけなかったのでしょう。空間が歪んでいるのか、なんらかのフィールドが張られているのか、それとも認識を混乱させる魔法なのか……そこまではわからないけれど」

「そのへんは、ディメンジョン・ステップとかで乗り越えるしかないかなあ」

「もうひとつ、敵の戦力ね。魔王がフライング・ジェリーフィッシュを複数体投入してきた場合、厄介なことになるわ」

あ、そうか、フライング・ジェリーフィッシュは物理無効っていう御無体な存在だからか。

アリスとたまきは苦しい。

いちおうオプション的な攻撃手段で、多少は対応可能であるけど……。

実質的な火力はルシアとカヤの魔法、それからぼくの使い魔だけ、かなあ。

敵が数を頼みにしてきた場合、いささか厳しいことになるだろう。

「加えて、この地にアンデッドが溢れているということは、亡霊王ディアスネグスもこの世界に来ている可能性が高いです」

「ねえねえ、アルガーラフはどうなのかな。あの黒いやつが亡霊さんをやっつけれくれるんじゃ?」

たまきがいう。

うーん、アルガーラフが手を貸してくれるなら、それがいちばんなんだけど……。

「難しいと思うわ。クァールがアルガーラフと連絡をとれないって白状したってことは、こっちの世界に来られなかったんじゃないかしら」

「つまり、ぼくたちは魔王と同時に四天王も相手にしなきゃいけないってことだね」

わかってはいたことだけど、なんともはやだ。

魔王と四天王、加えてフライング・ジェリーフィッシュ。

これらをまとめて相手にするのは……厳しいどころの話じゃない。

「できれば、ディアスネグスだけでも各個撃破したいよな」

「したいわね。カズくん、なにか案があるの」

「ひたすらに雑魚の骨を潰していけば、怒って出てきてくれないかな」

いちおう、いってみた。

志木さんは鼻で笑った。

こんちくしょう。

「なら志木さんに策はあるわけ」

「ないこともない、ってところかしらね。といっても、単純なことよ。ワンさんたちに頼ればいいと思うの」

「ワンさんの組織に亡霊王を捜索してもらうってこと? それで発見できるかな」

亡霊王は確実に高位の魔術師だ。

インヴィジくらいはしてくるだろうし、そうなると目視で捜索するのは不可能だろう。

「だいいち、時間も少ないよ。組織的に網を張るとか、難しいんじゃない」

「人員を展開してもらうんじゃなくて、あのひとたちの持つ別の能力を使ってもらえばいいんじゃないかって」

別の能力?

なんだそれ、もったいぶって、また……。

「ああ、そういえば彼らは、ぼくたちが志木さんの家に来ることを知っていたんだっけか」

「ええ。だからさっき、公園でちょっと聞いてみたの。亡霊王ディアスネグスってアンデッドたちの首魁をあなたがたの魔法で探し出せないかって」

いつの間に、そんなことを。

そういえばさっき、ふたりだけで立ち話をしていたなあ。

なんて油断も隙もないひとなんだ。

「触媒があれば可能かもしれない、っていっていたわ」

「触媒……それを使って儀式かなにかするわけか」

「みたいね。ディアスネグスに関わりのあるものであればあるほどいい、って話だけど……カズくん、なにか心当たりはないかしら」

うーん、ディアスネグスに関するもの、ねえ。

なかなか厳しい条件な気がする。

いや、待てよ。

「あ、そうか」

ぼくは、ぽんと手を叩く。

「ちょっと聞きたいんだけど、その儀式ってワンさんがやるのかな。ラボとかに持っていくとかだと、いろいろ面倒そうだけど」

「ワンさんのお仲間さんがすぐ近くで待機しているそうよ。そのひとが探索魔法みたいなものを使えるみたい」

「じゃあ、好都合だ。そのひとに頼んでみよう」

ぼくは思いついた案を皆に話した。

「それで……だいじょうぶなんでしょうか」

「ダメならダメで、次の手を考えよう。そもそもうまく儀式まで持っていけるかもわからないし」

珍しくぼくの意見に疑問を持っているアリス。

いやまあ、わからないでもない。

なにせ、触媒っていわれて思いつくものとはちょっと違う気がするから……。

「でも、カズくんの作戦、やってみる価値はあると思うわ」

「はい、わたくしもやってみるべきだと判断します」

「そうだねー、うまくいけば儲けものってカンジで!」

「パパならできる! がんばれ!」

いや違うんだ、カヤ。

がんばるのはぼく以外のみんなであって、ぼくはただ後ろから偉そうに指示を出すだけなんだ。

ひととおり相談が終わったあと。

志木さんが「ところで」とぼくたちを見まわす。

「いちおう聞きたいのだけれど。カズくん、アリス、たまきちゃん。あなたたちは実家に顔を出さなくていいのかしら。この世界を捨てるという覚悟はわかっているつもりだけど、でも最後に家族の顔を見るくらいは……」

ぼくたちは顔を見合せた。

志木さんに呼ばれた三人で、互いの表情を窺い……。

三人とも、苦笑いしてしまう。

「わたしとたまきちゃんは、もともと、その。義理の家族ですし、家族との仲があまりいいとは……」

「そーそー。いまさらなのよ」

「で、でも。カズさんは……そういえば、カズさんのご家族との仲ってどうだったんですか」

うーん、ぼくの家族か……。

たしかに、ぜんぜん話してなかったなあ。

「仲が悪かった、とはいえないけど、でも、うん、どうでもいいかな」

「あの……それってわたしたちに気兼ねしているんだったら」

「そういうわけじゃないんだ。本当に、ただどうでもよくって。寮のある私立に入ったのも、親がぼくを家から出したかったからって理由がおおきいかな」

向こうにとって、ぼくの扶養は義務であるからこなす程度のものだった。

ぼくはあのひとたちの気持ちを理解していたし、だからといって反発するほどのこともないと思っていた。

あのひとたちに対して憎むとか怒るとか、そんな価値すらないと思っていた。

「あえていうなら、無関心……なのかな。まあ、そんなわけで、本当にどうでもいいんだ」

「でも渋谷の塾に通っていたということは、ここからそこそこ近いところに家があるのよね」

「まあね。なのにそんな気分にまったくならない、ってあたりで察して欲しい」

ぼくの顔からどんな気持ちを読み取ったのか、志木さんはゆっくりと首を振った。

「わかったわ。もういわない。魔王を倒したあとは、わたしたちみんなで向こう側に戻る。少なくともその方法を見つけて、発見し次第すぐ向こう側に行く。それでいいわけね」

「うん、それで。この地球は、もうぼくたちの故郷じゃない。たった数日だけど、向こう側の世界こそがぼくたちの新しい故郷なんだ」

ぼくはルシアを見る。

エルフの少女はちいさくうなずいてみせた。

「あちら側の世界の代表として。歓迎します、マレビトたちよ」

ルシアは優雅な所作でぼくたちに頭を下げた。

皆で笑う。

志木さんは、これでスキルポイントが7になった。

偵察スキルを7にできるため、さっそくそうしてもらう。

彼女の安全性が向上することは、ぼくたち全員のためにも有効だ。

志木:レベル17 偵察6→7/投擲3 スキルポイント7→0

白い部屋を出る。

路地裏にて、戦いは続く。

残るスケルトンは五体。

白い部屋の打ち合わせにより、とりあえず敵の数を減らすということで……。

「残り一体までは、さっさとやってしまっていい」

「はいっ、いきます!」

「任せてーっ」

アリスとたまきが、獅子奮迅の働きでスケルトンたちを破壊していく。

ワンさんが目をおおきく見開いていた。

「これはまた……すごいですね」

「ぜんぶスキルのおかげなんですけどね」

「こうして目の当たりにすると、本当にすさまじいシステムですよ」

まったくだ。

ぼくたちはスキルのおかげで戦うことができる。

スキルのおかげで際限なく強くなっていく。

そして、この先……。

「あっ」

たまきが間の抜けた声をあげる。

見れば、調子に乗った彼女のなぎ払いによって、残り二体のスケルトンがまとめて消滅するところだった。

「ごめん、カズさん。最後の一体も倒しちゃった」

「あのなあ、そいつは無力化するって話だっただろう。そいつを触媒にして亡霊王の位置を探るはずだったのに……」

そう、それこそがぼくの考えた作戦だった。

亡霊王が逃げまわるなら、探知魔法を使えばいい。

ワンさんたちはぼくたちの出現を予知していたようだし、それなら探知くらいできるんじゃないかと……。

彼に聞いてみたところ、快諾されたのである。

ただし、やはり探知魔法の触媒としてディアスネグスとなんらかの繋がりのある物質が必要だった。

つまり、それこそが彼の召喚したスケルトンなのである。

の、だけれど……。

ぼくたちはがっくりと肩を落とす。

やれやれ、スキルのちからで強くなっても、うっかりだけは治らないようだ。