軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第23話 アリスの想い、たまきの心

いや、アリスが思い立ったら一途な子なのは知ってたけど。

つーか昨日からほんと何度もその一途さを見せつけられていたけど。

ぼくはアリスをジト目で見る。

「あの……わたしたち、面倒くさい、ですか」

「そんな顔してたか、ぼく」

「いえ、ええと……そう思ってしまったなら、ごめんなさいしないと、って。わたしのせいで、たまきちゃんが悪く思われたらって思ったら……」

落ち込むアリス。

いや、そこは自分が嫌われる可能性を先に考えるのが普通なんじゃ。

嫌ったりしないけど。

アリスは天使だけど。

ぼくは、なんていっていいかわからなくて、困惑しつつ、沈黙したままのミアに視線を移す。

ミアはきょとんとして小首をかしげてみせた。

「ハーレムは男の子のロマンだよ?」

「きみがいう言葉じゃないだろ、それ!」

「あ、もしヤるなら隅っこで後ろ向いているので、お構いなく」

「……あのなあ」

「実際問題」

とミアは人差し指を立てる。

「わたしたち、いつ死ぬかわからないよ? ひとつ失敗しただけで、オークにレイプされて殺されるんだよ? はじめてくらい、少し興味があるカッコイイお兄さんとしたい、って気持ち、わかるよ?」

誰がカッコイイお兄さんなんだろう。

いや、ぼくしかいないんだろうけど。

……この子、真面目な顔してナニいってるんだろうねえ。

「ぼくたちは、そうならないために、戦うんだろう」

「そうだね。そうならないために、たまき先輩を説得する」

ぼくは唸って、ミアを睨んだ。

ミアはドヤ顔で薄い胸を張った。

あ、こいついま、いいこといったって思ってやがる。

こんちくしょう。

「だいたい、アリス。きみはいいのか。彼氏がほかの女の子と……」

「あの、わたしがお願いしているんですけど……」

ですよねー。

ぼくは頭を抱えた。

ああもう、どうしてこんなことになっている。

おかしい。いろいろおかしい。

「とりあえず、たまきが起きたら全力で説得してみる、ってことでどうか。手伝ってくれるよな」

「……ええと、はい、もちろんです」

なんで気のりしない様子なんだ。

「まさかアリス、寝取られ好きとか……」

「え、ネト、なんです?」

あ、これオタク用語か。

いやまあ、いい。ぼくは適当にごまかす。

ミアがにやにや笑っていた。

こんちくしょうめ。

マジ犯すぞ。

あ、嘘です、はい。

アリスの前でンなこといえるほど肝っ玉太くないです。

「えーと、あ、はい。わたしだって、できれば、その」

はたしてアリスは、言葉を切ってうつむく。

なんだろう。

なにかぼく、間違えたことをいっているだろうか。

というか今日のアリスは、おかしい気がする。

いやそもそもぼくとアリスが出会ったのは、昨日なわけだけど。

彼女の思考が、どこか昨日と違う気がする。

それがどこが、とは上手くいえない。

でも、ぼくに対してなにかたくらんでいるというか、妙な誘導を試みている気がするというか……。

もっともそれは、ぼくに対して危害を加える類いのことではない気がする。

悪意ではない、とほぼ断言していいように思う。

その程度には、ぼくはアリスを信頼していた。

ぶっちゃけ、彼女が未だぼくにべた惚れであると、そううぬぼれている。

「アリス、ぼくの目を見て欲しい」

「は、はいっ」

「きみは、ぼくのためを想って、いってくれてるんだよね」

「もちろんですっ」

アリスは拳をぎゅっと握って、まっすぐにぼくを見て、強くうなずいた。

あ、すごく嬉しい。

でも、じゃあ、なおさらなんで?

ぼくはしばし瞑目した。

彼女がそういうのなら、本当に、これはぼくのためにいってくれているんだろう。

それが合っているか、間違っているかはともかく。

激しく間違っている気がする。

アリスは素直でいい子だけれど、同時に結構、アホの子でもある。

問題は、彼女が、どうしてそういう思考に至ったのか教えてくれなさそうなことで……。

いや、まあ、いいだろう。

幸いにして、ひとつ、説得できそうな案はあったりする。

これでダメなら、そのときはまた考えるとして……。

まずはたまきが起きるのを待とう。

ぼくたちは雑談しながら、しばしの時を過ごした。

やがて。

たまきは、寝ぼけ眼で身を起こす。

「ふあ?」

と上目遣いに見つめてきた。

「おはよう、たまき」

「あー、おはよー、カズさん……」

とそこで我に返ったようで、頬を朱に染めて、パッと身を放す。

両手をわたわた振りまわし、言葉にならないなにごとかを口走りつつ、必死で首を振る。

アリスが慌てて駆け寄り、宥めすかそうとした。

「あ、あの、違くて、わたし、わっ、わあっ」

しまいには、頭を抱えてその場にうずくまってしまう。

ぼくはため息をついて、そんな彼女のそばに寄り、しゃがみこんで……。

ブロンドのさらさらの髪を、やさしく撫でた。

「たまきの髪は、アリスより気持ちいいな」

「むう」

自分でけしかけたくせに、アリスはプンとむくれた。

そんな彼女の嫉妬心を見て、ぼくはむしろ、ほっとしてしまう。

アリスがぼくのことをまだ好きでいてくれると確認できて、それがいちいち、とても嬉しい。

まあ、アリスの思惑は、いまはいい。

目の前のたまきをなんとかしないと。

「わたし……役に立たない子で、ごめんなさい。カズさん、あの、わたし……」

「たまき、いいか、よく聞け。まずぼくは、アリスが大好きだ」

「へ? ……えと、うん」

たまきは虚を突かれ、顔をあげる。

ぼくが真面目なのを知って、コクコクうなずく。

「ぼくはアリスの嫌がることをしたくない。いや、しない。いいね」

「う、うん、そうだね。カズさんがそういうひとだって、わたし、信じてるわ」

「じゃあ話は簡単だ。きみはアリスのことを信じている。だろう? アリスが望む限り、ぼくはけして、きみを捨てたりしない。簡単な論理だ。わかるか」

たまきは驚いてぼくを見つめた。

じっとじっと、穴があくほど見つめてきた。

「えーと、難しいか?」

「わかる、けど。でも」

「なんだ」

「わたし、カズさんの期待に応えられなかった、から。わたし、みっともなくおしっこ漏らして、ビビってなにもできなくて」

たまきが目をそらそうとした。

ぼくはなるべく優しい声になるよう意識して、「こっちを向いて」といった。

「それは違うんだ、たまき」

海の底の色をした少女の瞳を覗きこみ、ぼくはいう。

「いいか、よく聞け。誰だって最初はうまくいかない。アリスもね、初陣で漏らしていたんだ」

「へ?」

「え!? ちょっ、ちょっと、カズさん!」

アリスが、ちょっと待てとばかりに、ぼくに手を伸ばす。

耳の先まで真っ赤になっていた。

ミアが、先に動いた。

さりげなくアリスの後ろにまわり、彼女を羽交い締めにする。

ナイスアシスト。

いや、本当にちびったかどうかなんて知らないけど。

でも、あれ? この反応……。

アリスのやつ、自爆してないか?

「なんかの本で読んだことがあるけど、ニューヨークの9.11のとき、出動した消防士は全員、ウンコを漏らしたそうだ」

「へ?」

たまきは顔をあげ、きょとんとした顔になる。

ずずっ、と鼻をすすりあげる。

「火事場の馬鹿力、ってあるよな。非常事態になると、普段できないようなことができるって話」

「う、うん。そういう迷信は……聞いたこと、ある」

「迷信じゃないんだ。ぼくも聞きかじりの知識しかないけど、極度の緊張状態を強いられた肉体が火事場の馬鹿力モードになるというのは、心理学の世界では常識らしい」

たまきは戸惑って、ぼくを窺う。

それがどうしたのだろう、という表情をしていた。

「ただね、この火事場の馬鹿力モードっていうのは、当座の生命維持に必要ない機能がカットされてしまう。いま絶対に必要って部分に、すべてのちからをまわしてしまうんだ。ウンコを漏らすっていうのは、お尻の筋肉にまわすエネルギーを全部カットして、その分、いま生きるために必要なところに全力を注いだ結果ってことだ」

「……えっと、それって」

たまきは、自分のジャージの股間を手で触れる。

湿ったその感触に顔をしかめる。

ぼくは真面目な顔で「だから」と話を続ける。

「きみの身体の反応は、極めて正常だ。気にすることはない。……先にいえばよかったな。いきなりウンコ漏らしたら辛いよな」

「そこまでは漏らしてないわよっ」

「恥ずかしがらなくていいぞー」

「だから漏らしてなーいっ」

「ま、どっちにしても、ぼくは気にしてないし、一度や二度の失敗はあって当たり前だと思っているからな」

「……へ?」

たまきは小首をかしげる。

とぼけた顔になったり、怒ったり、泣いたり、まったく忙しいやつだな。

いやまあ、だいたいぜんぶ、ぼくのせいなんだけど。

あいつに復讐するために、片っ端から軍事関係とか身体機能に関する本を読み漁った甲斐があった。

本来の復讐の方にはまったく役に立たなかったけど、たまきの虚を突き、混乱していた彼女をわれに返らせる程度の役には立ってくれた。

「悪いけど、きみの過去のことはアリスから聞いた。その上でいうけど、ぼくはきみが欲しい」

「わっ、わあっ、なっ、ななっ、にゃあっ」

なぜ猫の鳴き真似なんだろう。別にいいけど。

あと、いい間違えた。

「きみの心が欲しい」

あ、なんかこれも違う気がする。

ぼくは額に指を当て、うーんと唸った。

「えーと、いいなおす。ぼくは、裏切らない仲間が欲しい。きみとアリスが信頼し合っているように、きみがぼくを信じてくれるなら、ぼくはそれだけできみを信じよう」

「え、えーと、あの」

たまきは両手を頬に当て、ぽーっ、とぼくを見上げていた。

あ、だから勘違いだって。

さっきのはミス、ミスなんだってば。深く追求するな。

「あ、いい間違えたのは、わかるの。でも、うん、嬉しかったわ」

「お、おう」

「こんなおしっこ臭い女の子でよければ、ええと……ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

「やっぱ勘違いしてるだろ」

たまきはぺこんと頭を下げたあと、ぼくの差し出した手を取り、立ち上がった。

同じ目線に立ち、ニッと笑う。

「勘違いしたままじゃ、ダメかなー?」

「……いい性格してやがるなあ」

たまきはえへらと笑い、アリスの方を向いた。

アリスは、自分でもっと先までオーケーしたくせに、いまやなぜだかむーっ、とぼくを睨んでいる。

「へいへーい、アリス、なんだい、まるで彼氏寝取られたような顔してさーっ」

たまきが調子に乗って、アリスの肩をぽんぽん叩いた。

「しっ、知りませんっ」

アリスは、ぷんとそっぽを向いた。

ぼくはため息をついて、肩をすくめ……。

油断、していた。

すっとぼくに一歩詰め寄ったたまきが、ぼくの頬に唇を押しつける。

やわらかい唇の感触は、一瞬だけだった。

たまきはすぐに身を離す。

顔を真っ赤にして、でも悪戯っぽく笑ってた。

「へっへー、いまはこれだけねっ」

ぼくは頬に手を当て、たまきを見る。

アリスの方は見ない。怖いから。

なんか横から刺すような視線が送られてきている気がするけど、そちらは見ない。

断固として見ないんだからな!

つーか、けしかけたきみがむくれてるんじゃない!

さて、それにしても。

ぼくはPCの前の椅子に座って、ため息をつく。

どうするかな。

もう一度、冷静に考える。

たまきはけして、特別な子じゃない。

むしろアリスが特別すぎた。

つくづく、そのことを理解させられてしまった。

いやまあ、普通に考えて。

オークと正面きって戦って、エリート・オークにも臆さず挑めるような少女が、そうそういるだろうか。

厳しいよな。

いきなりは、難しいだろう。

でも少しずつ慣れていってもらわないと、困る。

今後を考えたとき、エリート・オークに立ち向かえる前衛がアリスだけ、ではダメだ。

たまきにも成長してもらわなければならない。

ぼくが、あくまでもたまきにこだわるのは、彼女がアリスを守りたいという強い気持ちを持っているからだ。

誰かのために自分を犠牲にできるというなら、それはエリート・オークという恐怖の権化に立ち向かう上で、おおきな勇気となるだろう。

いまはただ、そのための準備期間だと思いたい。

とはいえ、では現状をどう打開するかといわれれば……。

「やっぱり、使い魔での捨て駒作戦かなあ」

どう思う、と振り向いたところ、アリスと視線が交わった。

アリスは両手を胸の前で結び、思い詰めたような表情でぼくを見つめていた。

「あー、どうした?」

「その……カズさん、わたしたちだけじゃ、ダメですか」

「ダメじゃないけど、きみたちを使い捨ての盾にはできないだろ。戦術オプションを増やさないといけないな、って思った。もっといえば、このすぐ後に戦うことになるエリート・オークを、どう相手にするかなと」

すでにある程度の答えは出ている。

エリート・オーク戦ではアリスが正面に立ち、ミアの魔法で援護する。

これが基本パターンである。

さきほどの打ち合わせでは、その際、たまきがほかのオークを抑えることになっていた。

問題はこの部分だ。

いまは立ち直ったように見えるけれど、これもたぶん、から元気だろう。

たまきにはもう少し時間が必要だろう。

となると。

パペット・ゴーレムより上級の使い魔を呼びたい。

ぼくの自由に損耗させていいちからが欲しい。

たまきには、ああいったけれど。

正直いって、やっぱり人間より使い魔で戦った方が気がラクだなあと思った。

つくづく、思った。

和久:レベル6 付与魔法3/召喚魔法2→3 スキルポイント3→0

エンターキーを押しこみ、ぼくたちはもとの場所へ帰還する。

さあ、決戦だ。