作品タイトル不明
第224話 六本目の楔2
荒れ果てた教室に戻る。
天亀ナハンはまだ長い呪文の詠唱中だった。
断罪の剣シュトラスは、敵を倒したあとも廊下にいる。
「あ、ひょっとして後続があるのか」
シュトラスの兜がこちらを向き、こくんとうなずく。
相変わらず、しゃべる気はないんだな……。
いいけど。
廊下を覗くと、ナイト・スケルトンが四体も床に転がっていた。
それぞれが消えて、宝石に変わっていく。
青い宝石がそれぞれ二個ずつ、合計で八個だ。
剣を振るって遠距離からあれだけの数を始末したのか……。
と、廊下を曲がってまたスケルトンが四体、現れる。
こちらを見て走ってくる。
シュトラスが剣を振るって衝撃波を飛ばし、またたく間にこれを殲滅する。
これ永久ループ入ってませんかね。
経験値的にはおいしいけど……。
って次のスケルトンたちは曲がり角の手前で止まった。
なんか、スケルトン軍団の後ろから声が聞こえてくる。
タンズのおかげで意味はわかっても、ちょっとくぐもっているからよく聞き取れないなあ。
「なんていっているか、わかるかな」
クァールに聞いてみた。
彼なら、同じモンスターだし、わからないかな。
『アンデッド同士の会話は、わからぬのだ』
クァールは申し訳なさそうに、耳をぺたんとしてうなだれた。
やばい、かわいいぞこの生き物。
※
天亀ナハンは般若心経みたいに長い詠唱を続けている。
こっちの勝利条件としては、ひとまず持久戦でいいんだけれど……。
敵はさらなる増援が望める環境にあるわけだから、削れるときに戦力を削っておくのは重要なことだ。
楔を確保したあとどうするか、という問題もある。
ロウンの地底樹のときのようにルシアがリンクできるとは思うけれど、それで地上の敵を一掃できるのか。
できたとして、ザガーラズィナーには地底樹のちからが効かなかったとのことだから……ディアスネグスをどうするのか。
アルガーラフだって、いつまで味方でいるかわからない。
やつは楔が破壊されてしまっては困るわけで、ディアスネグスがこの場所の楔を諦めれば撤退するのかもしれないけど……。
それとて、確証があるわけではない。
となると、もう一体、使い魔を召喚してラッシュをかけるべきなのだが……。
シャ・ラウはこの建物のなかだと狭くて戦いにくいだろう。
さて、ならば。
「サモン・ファミリア:神翼使徒ペヌーザ」
教室に現れたのは、背中に白い翼の生えた半裸の美しい女性だった。
天使、という言葉がぴったりだろうか。
白い髪がきらきらと輝き、背後に淡いハロウのようなものが出ている。
天女の羽衣を思わせる布をたすきがけのように着こなしている。
この布は銀色に輝き、なんかこう無駄に神々しい。
ちょっと覗きこめば胸もとの豊満なふくらみが見える気がするけど、そんな気にならないほど神々しい。
うん、神々しいから仕方ないね。
ちなみにペヌーザは、伝説によると神々のしもべとして現れ世界各地を救った存在なのだという。
ただし、さっき彼女にそのへんを聞いてみたところ、曖昧な笑みを浮かべて答えてくれなかったのだけれど。
『参上いたしましたわ、主さま。どうぞ、ご命令を』
「きみはここで、ぼくたちを守ってくれ。シュトラス、命令変更だ。廊下の角にいる敵を殲滅してこい!」
動く鎧であるシュトラスは、がしゃんと兜を上下させて走りだす。
一瞬で、その姿がかき消えた。
めちゃくちゃ素早くて、とても重い鎧を着ているとは思えないほどである。
で、まあ。
すぐにぼくは、白い部屋に。
※
どうやらシュトラスがスケルトンたちを倒す前に、ルシアがゲブシュ・ヘラグ・スケルトンを倒したようだ。
そこでレベルアップしたのは、アリスと、それからルシア自身である。
これでルシアも、派生スキルを得ることができる。
「わたくしの派生スキルは、火水合成魔法ですね」
ふたつの属性魔法をランク9まで上げた場合に出てくる派生スキルは、それぞれの合成魔法だ。
合成魔法といいつつ、純粋強化みたいなものもあるんだけど。
「取得するアビリティは、やはりコールド・インフェルノとウォーター・フレア・シールドでしょうか」
合成魔法系は、アビリティといいつつ新しい魔法を習得する。
これらの魔法には、個々に前衛系アビリティと同様にランクが存在した。
たとえば氷と炎のマナを合成して放つというどっかのメドローアのような魔法、コールド・インフェルノ。
これをランク3まで取得した場合、ランク1のものよりはるかに強力な攻撃を放つことが可能となる。
ただし相応にMPも消費する。
コールド・インフェルノをランク1で放つ場合、MP消費は10である。
ランク2だと15、最大のランク3ではじつに20ものMPを消費してしまう。
これに魔力解放をあわせると、すごい消費になるだろう。
相応に身体への負担もかかってくるに違いない。
うまく運用する必要がある。
なんか魔法に関してはえらく制限がキツい気がするけど……魔力解放が存在する分、攻撃魔法の一撃の威力が強大だからなあ。
そのへんのバランスとりなんだろうか。
いや本音でいうと、バランスなんてとらなくていいし楽勝でお願いしますなんだけど……。
ウォーター・フレア・シールドは、リフレクションのようにバリアを張る魔法だ。
このバリアは火と水の属性を持ち、極めて強靭であるらしい。
これから先、敵の攻撃をまともに食らうとヤバい戦いが続くだろうし、バリア魔法は必要だろうとルシアとは以前から話し合っていた。
ちなみにこちらもランク3まであり、MP消費の増加も同じ。
ほかの候補としては、火と氷の二属性を持つ剣とか、火と水のバインドとかがある。
強力なバインド系はちょっと欲しいかもしれないけど……優先順位としては純粋火力と純粋防御かなあ。
さすがにルシア、取捨選択の基準がはっきりしているし、的確だ。
彼女の意思に任せた方がいいだろう。
「アリス、たまき。そっちはなんとかなりそうかな」
「はい、だいじょうぶです! わたしとたまきちゃんだけで押し切れると思います!」
「じゃあ、ルシア。こっちに来て欲しい。楔を発見したら、きみにその制御を任せることになるから」
「計画通りに、ですね」
このあたりの打ち合わせは、出発前に終わっていた。
楔を制御できたとしても、この学校の山においてはそれでなにができるのかわからないけれど。
でも、敵に先んじて手に入れることこそが肝要、というのは間違いのないところだ。
アリスはスキルポイントを溜めるだけである。
ぼくたちは軽く打ち合わせて、もとの場所に戻った。
アリス:レベル49 槍術9/治療魔法9 スキルポイント3
聖槍術1(強化槍技1、槍楯技1)
ルシア:レベル48 火魔法9/水魔法9 スキルポイント1
火水合成魔法1(コールド・インフェルノ1、ウォーター・フレア・シールド1)
※
教室に戻ってすぐ。
廊下の奥から剣戟の音が聞こえてくる。
おー、やってるやってる……と思ったら、ぼくの頭のなかにレベルアップの音が鳴り響いた。
※
「また会ったね、カズさん!」
「いつものことだけど、あまりにもすぐ白い部屋に来ると、気まずいというかやることがなくて勿体ないな……」
「貧乏性ですね」
ほっといてください、アリスさん。
すぐに部屋を出る。
和久:レベル59 付与魔法9/召喚魔法9 スキルポイント3
強化召喚5(使い魔強化5、使い魔同調3、使い魔維持魔力減少2)
※
窓からひょいと廊下を覗く。
断罪の剣シュトラスは、曲がり角のすぐそばにいたスケルトンを倒し、その奥に斬り込んでいった。
剣戟の音が響く。
それに交じって呪文の詠唱音。
予想通りではあるけど、敵のメイジ系が混ざっていたのか……。
と、斬撃の音と共に詠唱音が途絶えた。
呪文の詠唱中にメイジ系のスケルトンを倒したのだろう。
またまた白い部屋へ。
※
レベルアップしたのは、たまきとルシアだった。
アリスとたまきは経験値が近いけど、ルシアも同時ということは、一度にそうとうな経験値が入ったのかな。
「カズさん! わたしたち、でかい骨を倒したわ!」
「はい、わたしとたまきちゃん、ほぼ同時でした」
あ、向こう側でもゲブシュ・ヘラグ・スケルトンを討伐していたか。
ほぼ同時に複数のモンスターを倒した場合、まとめて経験値が入って白い部屋に来るみたいだからなあ。
このへんのシステムの曖昧さは、未だによくわからない。
「じゃあまあ、宝石を拾ってからこっちに来てくれ。ほかのモンスターとは、無理に戦わなくていい」
スケルトン空挺部隊がまだまだ校舎に侵入してくるはずだ、ぐずぐずしている暇はない。
派生スキルを上昇させるスキルポイントはないから、確認事項だけ点検してもとの場所へ戻る。
たまき:レベル49 剣術9/肉体9 スキルポイント3
重剣術(強化剣技1、破竜斬1)
ルシア:レベル49 火魔法9/水魔法9 スキルポイント3
火水合成魔法1(コールド・インフェルノ1、ウォーター・フレア・シールド1)
※
シュトラスが鎧をがちゃがちゃ鳴らしながら宝石を片手に戻ってきたところで、ようやく天亀ナハンの詠唱が終わった。
「どうだ」
『この建物の下に広大な空間がございます。迷宮のように複雑な空間です』
なんじゃそりゃ……。
まあ、どんな迷宮があろうと、関係ないんだけど。
「穴を掘れるか」
『無論です』
「じゃあ、始めてくれ。……最適の場所はここでいいのか」
『いいえ。もうしばらく奥となります』
いまのところ廊下の安全は確保されている。
ナハンの導きに従い、ぼくたちは移動を開始……しようとしたところで、ルシアが窓から顔を出した。
「ちょうどいい。行こう」
「間もなくふたりも来ると思いますが……」
「時間との競争だ、急いだ方がいい」
早足で移動する。
ナハンは廊下の真ん中で立ち止まり、穴を掘る魔法を詠唱した。
さきほどと違い詠唱はすぐに完了し、目の前の床が溶けるように消えていく。
「カズさん!」
「ここにいたのね!」
「ちょうどよかった、アリス、たまき。これから地下に潜るところだ」
アリスとたまきもやってきて、皆で穴のなかを覗いた。
真っ暗なので、ディフレクション・スペルからのナイトサイトで全員に暗視をつけてやる。
二十メートルほど下に、石造りの空間があるようだった。
「わたしが行ってみるわ!」
さっきウィンド・ウォークをもらっていたたまきが、すかさず飛び降りる……というか穴を垂直に駆け下りていく。
あ、こら、ちょっと!
あーもー、先走るなって白い部屋で何度も念を押したのに!
「あとに続こう。ナハン、シュトラスにもウィンド・ウォークを」
『承りました』
神翼使徒ペヌーザは自力で飛行可能だ。
ぼくたちは、次々と穴のなかへ降りていく。