作品タイトル不明
第223話 六本目の楔1
「ゲブシュ・ヘラグっていうのは、あの骸骨の名前か」
「そのもととなった巨人の名です。神話の御代、善き神々のしもべとして、世界を襲う幾多の災厄を刈り取ったという伝説の有翼巨人族……」
なるほど、ゲブシュ・ヘラグ・スケルトンか。
ルシアの話を聞く限り、もととなった身体は間違いなく神兵級以上だろう。
骨だけになったことで弱体化するのか、それとも強化されるのかはわからないけど……。
神兵級が三体。
いつものこととはいえ、インフレしているなあ。
骨の巨人たちが、地面に着地する。
おおきな地震がきたかのように、大地が縦揺れを起こす。
骸骨たちの頭は、一斉にぼくたちの方を向いた。
眼窩の奥で輝く赤い光が、透明なはずのぼくたちをはっきりと見ている。
遮蔽となっていた木々はすべて刈り取られてしまって、いまは首くらいの高さの切り株があるだけだ。
やつらにとっては、なんの障害物にもならないだろう。
「カズさん。やるしかないね!」
なぜかたまきは、とても嬉しそうに笑っておおきな剣を構える。
この戦闘民族め……。
「カズさん。ここはわたしたちが。先に校舎へ行ってください」
アリスまでもが、ちょっと嬉しそうにしている。
あー、きみさっき聖槍術をとって強くなったから、試してみたいんですね……。
「わかった、とりあえず時間を稼いでくれればいい。ルシア、ふたりの援護を。ナハン、いこう」
『承りましたぞ、主よ』
ぼくのディフレクション・スペルからナハンが全員にウィンド・ウォークをかける。
ついでに、同士撃ちしかねないのでアリスとたまきのインヴィジを解除した。
「アリス、頼むわ!」
「はい、掴まって! いきます、ライトニング・ムーヴ」
ふたりは稲妻となって、有翼巨人の骸骨たちとの距離を詰める。
一瞬で巨人の背後にまわりこみ、宙を蹴って攻撃を加える。
「プロミネンス・スネーク」
ルシアは炎の蛇を生み出し、アリスたちが戦っていないゲブシュ・ヘラグ・スケルトンに向かって飛ばす。
それらの光景をちらりと確認したあと、ぼくは小型化したナハンを脇に抱え、校舎めがけて駆けだした。
いまはこの方が速いし、目立たない。
ぼくたちのすぐ横に、クァールが並ぶ。
おまえは戦わないのか、と思ったけど……こいつの役目は案内だし、仕方ないか。
そもそも神兵級と戦えるようなモンスターとは思えないし。
※
ぼくたちは、一階の割れた窓から中等部本校舎の教室に突入する。
教室内部は陽の光が差し込み、そこそこ明るかった。
机や椅子が散乱している。
前回、侵入したときは、この教室には誰もいなかったんだっけな……。
よく覚えていないや。
少なくとも、いまここに死体は転がっていない。
外ではアリス、たまき、ルシアとゲブシュ・ヘラグ・スケルトン三体との激しい戦いが始まっていた。
轟音が鳴り響き、地面がぐらぐら揺れる。
いまぼくのそばにいるのは、黒豹型のモンスター、クァールだけだ。
ぼく自身が左腕で小型化した天亀ナハンを抱えているけども。
クァールが裏切ってぼくを攻撃してきたら、頼もしきナハンがなんとかしてくれるだろう。
そのクァールが、鼻をひくひくさせた。
え、まさか。
『アンデッドがいるな』
「もう侵入していたか。数はわかるか」
『臭いでは数までわからん』
仕方がないな、念のために前衛を呼び出すか。
ぼくは新たに専従契約した使い魔を召喚する。
「サモン・ファミリア:断罪の剣シュトラス」
呼びかけに応じ目の前に現れたのは、身長百八十センチくらいの、全身を銀の鎧に身を包んだ人型のモンスターだ。
フルフェイスのヘルメットのおかげで中身は見えないが、目のところが赤く輝いている。
長さ百五十センチほどの大剣を手にしていた。
ちなみにこの鎧の内部は空洞だ。
いわゆる動く鎧、リビング・アーマーであった。
いや、本体は剣の方らしいのだけれど。
いい伝えによれば、神々の理不尽によって家族を失った男が、ただ世界の理不尽を滅するためだけに己の剣を鍛え、ついには剣そのものとなってしまった存在であるらしい。
また別のいい伝えによれば、妄執にとりつかれた男を不憫に思った神々の一柱が、死したのち彼の身を剣に封じたとも。
それ、むしろバツゲームなんじゃないですかね。
今回は、そのシュトラスをナハンと同じ使い魔強化5で召喚してある。
その実質の強さはランク9.5。
たいていの敵が相手なら、ひとりで殲滅できるはずだ。
「シュトラス、周囲を警戒だ」
銀鎧のモンスターは、こくんとうなずく。
無言である。
こいつ、さっきぼくと契約したときも、一度もしゃべらなかったんだよな……。
会話ができないモンスターなのかもしれないけど。
狼や竜とは会話できたのに、なんとも、うーん。
よくわからないけど、まあいいか。
「ナハン、ここで地下を探知できるか」
『これより開始いたします』
亀の使い魔は、ぼくの腕のなかからぴょんと飛び降り、空中で全長二メートルくらいまで巨大化して着地する。
魔法を使ってるのかもしれないけど、思ったより身が軽い。
ナハンは、教室の中央で呪文の詠唱を始めた。
シュトラスは無言のまま、開け放たれたドアから廊下を覗く。
ひとつ、ちいさくうなずき……剣を構える。
あ、敵が来るのね。
かちゃかちゃと硬いものが廊下を駆ける音が響いてくる。
これは……スケルトンの足音、なのかな。
骨を鳴らすから、こんな感じの音になる。
シュトラスが廊下に出て、大剣を振るった。
彼の剣はかなりおおきいから、満足に振るえないかと思ったのだけれど……。
突き抜けた剣士にとって、そんなことは問題にならなかったようだ。
衝撃波のようなものが廊下の奥に飛んでいく。
剣圧で、まだ残っていたガラスがビリビリと震える。
がしゃん、と派手な音が響く。
スケルトンを倒したのだろう。
シュトラスは、連続して剣を振るう。
そのたびに衝撃波が発生し、廊下の奥でなにかが倒れる音が続けざまに響いて……。
ぼくは白い部屋に。
レベルアップしたのは、たまきだった。
※
アリスに続き、これでたまきも派生スキルを手に入れることができる。
剣術スキルと肉体スキルから得られる派生スキルは、重剣術だ。
主に力任せでぶった斬る系のアビリティが揃えられている。
「まずは、純粋に剣術スキルが強化される強化剣技が必須として……もうひとつは、どうする」
「この破竜斬ってのがいいわ!」
たまきは即断した。
たぶんかっこよさそうだから、とかそういう理由で選んだんだろうけど、充分ありだろう。
破竜斬はランク3まであるアビリティで、MPを消費して剣の破壊力を上げるというものだ。
ランク1ではMPを10消費し、ぼくの召喚魔法でつくった城壁くらいなら一撃で破壊できるようになる。
ランク2ではMPを30消費するモードが、ランク3ではMPを70消費するモードが出現する。
ただこのアビリティ、わずかだけどタメが必要らしい。
近接戦闘を行いながら、そんな隙を見せるわけにはいかないだろう。
基本的には、建物とか巨大すぎるなにかを壊すためのアビリティだ。
ちなみにほかの候補としては、自分の身体よりずっとおおきな剣を振りまわせるようになる大剣術や、斬った相手にかかった付与系の魔法をランダムで打ち消す破魔剣あたりが便利どころか。
特に破魔剣は、かなり便利な気がする。
ちなみに破魔剣はアクティブ・アビリティなので、オン・オフは任意だ。
どういうことかというと、リフレクションなどのシールド系魔法を破魔剣で打ち消す場合、リフレクションに反応してタイミングよく破魔剣を発動させなければいけないということで……これは反射神経と読みがモノをいいそうである。
現在のリフレクション無双に対するいいカウンターなんだけど、たまきは読みあいとか苦手そうだなあ。
「たまきがそう決めたなら、いいと思うよ」
「うん! わたしこれで、もっと役に立ってみせるわ!」
じゃあ、こっちはいいとして……。
いちおう、ぼくの方はいま、雑魚スケルトンを掃討しているっぽいことを伝える。
助けは必要ないとも。
「外の戦いは、どうなってる?」
「さすがに三体が相手なので、ちょっとたいへんです。でも、戦えないほどじゃありません」
アリスがいった。
あの巨体にもかかわらず、パワー比べではたまきの方が優勢とのことである。
そりゃあ、肉体スキルが9だからなあ。
「倒せそうかな」
「魔力解放を十倍で撃っていいのでしたら」
ルシアさん、前のめりっすねえ。
でもここは……アリ、じゃないかなあ。
「一発はOKだ。それで二対二になれば、アリスもたまきも前衛スキルが上がったし、なんとかならないかな」
「はい、なんとかしてみせます!」
「がんばるよっ!」
勢い込むアリスとたまきが、ぐっと胸もとで握りこぶしをふたつずつつくる。
うーむ、尻尾をぱたぱた振りそうなわんこがふたりいる……。
かわいい、かわいい。
「まあ、無理はしないで。危なくなったら教えてくれ。さくっと逃げるから」
最後にそういって、白い部屋を出る。
たまき:レベル48 剣術9/肉体9 スキルポイント1
重剣術(強化剣技1、破竜斬1)