軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第221話 四人だけの白い部屋

数分後。

ぼくたちは、かつて育芸館があった瓦礫の近くに着地していた。

もっと本校舎に近づこうと思ったのだが、下から魔法で迎撃されてしまったのである。

虹色のビームの魔法だった。

それが放たれている前に啓子さんが警告してくれなければ、誰かがその一撃を浴びていただろう。

っていうかなんで気づいたんだ……わかっていたけどグレーター・ニンジャすげえ……。

虹色のビームは、ナハンのシールドによって完全に防ぎきった。

だが、こちらを発見している敵がいる以上、そのすぐ近くに降りるのは危険だ。

ゆえに勝手知ったる育芸館の跡地に降りたのである。

「すぐに敵が押し寄せてくるでござるな。拙者たちの班が敵を引きつけるゆえ、カズ殿の班は先行して欲しいでござるよ」

「結城先輩……」

「なに、すぐに追いつくでござる」

それ死亡フラグだろ!

いや、ある意味で生存フラグなんだっけ……?

いけない、森が騒がしくなってきた。

『時間がない。ディアスネグスの軍勢が楔を確保することだけは防がなければならない』

クァールが首を持ち上げ、そういった。

ここは戦力分散もやむを得ないか。

「ナハン、ぼくたちだけに姿隠しの魔法を。あと、きみは小型化してくれ」

『承知』

ナハンはその身をおおきくしたりちいさくしたりできる。

魔法使いとしての能力は、たぶんぼくたちがスキルを9にしたときよりずっと上だ。

というか、いろいろな魔法を使えるから戦術の幅がすごく広がっている。

ザガーラズィナー戦は小細工なしのガチンコバトルだったうえ、あの野郎がピンポイントでリフレクションしてきたせいでぼくの身体を守る程度のことしかできなかった。

でも本来のナハンは、もっとずっと強力で、そして万能の凄腕魔術師なのである。

亀の身体は、ぼくが片手で抱えられる程度になった。

持ち上げると、思った以上に軽い。

「それじゃ、いこう。みんな、手をつないで」

シー・インヴィジヴィリティを使えるのはぼくとナハンだけだ。

左手でナハンを抱えたぼくを先頭に、手を繋ぎ一列に並んで小走りに走り出す。

ちなみにぼくの次がたまきで、その次がルシア、最後尾がアリスである。

たまきは背中のリュックサックに剣をくくりつけられるけれど、アリスの槍は手で保持する必要があるため、どうしても片手をあける必要があるためだ。

で、クァールはぼくに並走している。

時折、ぼくの方に視線をやってくるから、ナハンの強力なインヴィジをもってしてもこいつを欺くことはできないということだ。

背後でたて続けに爆発音が響く。

ちらりと振り返れば、派手な火柱があがっていた。

火魔法コンビがさっそく暴れているのだろう。

これだけやると、まわりの敵も全部、あっちに集まるんじゃなかろうか。

いまのうちにさっさと中等部本校舎に辿りつきたい。

「そういえば、本校舎のどこに入口があるんだ」

『知らぬ』

「おいおい……じゃあなんで、楔があるってわかるんだよ」

クァールはふん、と鼻を鳴らす。

『マナの流れを探査したのだ』

「あ、そういうこと……。入口がわからないのは問題だなあ」

いや、いくつか方法はあるか。

ナハンと相談して、彼から承諾を得る。

いやー、ほんとこの使い魔、戦闘以外でぴかぴか光るかたですわー。

ちなみにナハンの、甲羅に乗っている腰から上が人型の身体は、つるっぱげでぴかぴかである。

ぜんぜん関係ないけれど。

と、クァールが足を止める。

『察知されたな。右手だ』

「ナハン!」

ぼくは天亀を放り出す。

ナハンは空中で巨大化し、シールドを張って右側から放たれた虹色のビームを防ぎきった。

拡散されたビームが周囲の木々をなぎ倒す。

「余波だけでこれか……。ナハン、透明化を解除。ここで迎撃するぞ」

「任せて! アリス、いくわよ!」

「はい、たまきちゃん! わたしに掴まってください!」

同士撃ちを避けるためインヴィジが解除される。

たまきとアリスは、ライトニング・ムーヴですぐに飛びだそうとした。

ぼくは、ふたりのジャージの襟をつかんでそれを止める。

「待て、まだだ」

「え、なんで……」

「相手がわからない。念のため、ルシアが先だ」

ぼくはルシアに目で合図する。

ルシアは求めに応じ、プロミネンス・スネークをつくり出して、それを放つ。

虹色のビームが射線上の枝葉を払ってくれたおかげで見通しがいい。

直線上に見えるローブをまとった人型のモンスターが次の呪文を詠唱し……。

二発目の虹色のビームと炎の蛇が衝突する。

巨大な爆発が起こった。

敵の放った虹色のビームとルシアのプロミネンス・スネークが衝突し、巻き起こった爆風がぼくたちに届く。

熱波に顔をしかめつつ、ぼくは命令を下す。

「いけ、たまき、アリスっ」

「わんっ」

「はいっ。ライトニング・ムーヴ」

爆発の衝撃で土砂が巻き上がり、視界がとれない。

アンデッドは特別な知覚で対象を探知しているというが、それでも土砂は充分な目くらましになると、ナハンが太鼓判を押してくれていた。

ゆえに……土煙を隠れ蓑として、ふたりの少女が稲妻となってかき消える。

シャ・ラウが頻繁に活用している魔法、ライトニング・ムーヴ。

さきほど白い部屋のミアベンダーで手に入れた魔法によって、アリスとその手を掴んでいたたまきは高速移動し……。

剣戟の音が聞こえてくる。

どうやらうまく接近できたようだ。

彼女たちの腕なら、いちど距離を詰めてしまえば……。

予想通り、ほどなく白い部屋へ赴くことになった。

レベルアップしたのは、たまきだ。

アリスと同じレベル46に追いついた。

いま白い部屋にいるのは、ぼく、アリス、たまき、そしてルシアの四人。

たまきが、ぐるりと周囲を見渡す。

なにかを探している。

いるはずのない誰かの姿を追い求めている。

「やっぱり、ちょっとさびしいね」

ぽつりと呟いた。

アリスが苦笑いしている。

ルシアはなにもいわず、立ち尽くすぼくの手をそっと握ってくれた。

しばし、沈黙が立ち込める。

ああ……そうか。

こういう気まずい雰囲気になったとき、決まってあいつが声をあげてたなあ。

ちゃかして、おちゃらけて、騒ぎまくって。

ぼくたちのテンションを維持することに懸命だったように思う。

あいつひとりいなくなっただけで、ずいぶんと静かになってしまった。

「カズ」

やがて、ルシアが口をひらく。

ぼくをじっと見つめてくる。

彼女はなにかいいかけて口ごもり、それからまた口をひらきかけて……。

ルシアのおなかが、おおきく鳴った。

「ルシア姫はお菓子が欲しい、と」

「……はい」

顔を真っ赤にして、うなずく。

ルシアだけでなく、アリスとたまきもお菓子をがっつり食べた。

特にクリームをたっぷり塗ったケーキを山ほど食べた。

ここにいないあいつの分まで食べたんじゃないかと思う。

「はー、おなかいっぱい、いっぱいー」

口もとにクリームをつけて、床に転がるたまき。

いまさらお行儀が悪い、とかいわないけどね。

ぼくの前でくつろいでくれるなら、嬉しいことだ。

「もう、たまきちゃん。だらしないよ。カズさんが呆れてるよ」

「安心しろ。たまきはいまさらだ」

「そうそう、もっとぐでーっとしよう、ぐでーっと」

さて、くつろいでばかりもいられない。

情報交換は重要だ。

ぼくは、みんなのジャージの裏に縫いつけた布の説明をした。

ルシアはいまさらのように、自分の着ているジャージの胸もとを引っ張る。

素材について興味しんしんのようだ。

「思ったよりずっと着心地がいいものですね」

「でしょー! ジャージはラクだし、動きやすいんだよ!」

「ですが、身体のラインがはっきり見えるのですね。少し恥ずかしいです」

ちらりとこちらを見るルシア。

誘ってるのですかねえ?

いや、別に誘ってくれてもいいんですけど、全然。

「あの……話をもとに戻しませんか」

「あ、はい、アリスさん」

たまきとルシアは、結城先輩からほかのメンバーの動向を聞いていたのだという。

高等部と中等部はいくつかの班にわかれて、世界樹近傍のモンスターたちを掃討しているようだ。

もちろん、両者をあわせたチームの場合、相性には充分、注意しているとのこと。

昨日の時点でもいろいろ問題が出たからなあ。

かといって、お互いにずっと別々にやっていく、というわけにはいかない。

少しずつ融和していく必要があるだろう。

「ま、そのへんはこの戦いが終わってからの話だ。さっきのモンスターだけど、魔法を使ってきたやつは倒したの?」

「はい、いちばん最初に。フードの奥の顔は、骸骨でした」

「そいつを倒したら、レベルアップしたのよ!」

なるほど、そこそこ経験値の高い敵だったということか。

あの魔法使いもまた、スケルトンだった。

かなり高位の魔法を使っていたなあ。

なにせ、ルシアのプロミネンス・スネークとほぼ互角のビームを放ってきていた。

あんな魔法、ぼくたちは知らないけれど……モンスター独自の魔法なのかな。

あれがランク9の魔法だとしたら……。

「魔法使いのスケルトン、神兵級っぽいかな」

「準神話級、といったところでしょうか。あれはおそらく、ハイウィザードと呼ばれるスケルトン種でしょう。昔語りで謳われる存在です。魔法を極めた魔術師が、不老不死の身体を求めて己の身をつくり変えたという伝説が、各地に残されています」

「うわあ。それって、ヴォルダ・アライよりは弱いんだよね」

「それは、もちろん。ヴォルダ・アライは神話に出てくるほどの存在ですので」

よかった、あれよりは弱いなら、まだなんとか。

それでも厄介なことこのうえないけど。

しかも、あれが複数とか出てきたら……厄介なことである。

「よく考えたら、いま戦っているのは亡霊王ディアスネグスの配下なわけだから、ヴォルダ・アライがいてもおかしくないんだよな……」

「いたとしても、みなさんがガル・ヤースの嵐の神殿で遭遇したときのようなことにはならないでしょう。ここには掌握状態の楔があるわけでもありませんので」

「稼働状態の可能性はあるんだよね、ここにあるっていう楔が」

先に敵が楔を掌握した場合、またあのヴォルダ・アライによる骨の無限湧きが来る恐れあり、か。

前回は向こうも慌てていたような感じだったから、数で押し切ることができたけど……。

今回は、どうなのかな……厄介なことにならないといいな……。

「先に楔を手に入れればいいんでしょう。そのためにわたしたち、ここに来たわけだし」

「たまきは賢いな」

「えへへ、もっと褒めて、褒めて」

たまきの頭を撫でてやる。

ああもう、本当に愛いやつめ。