軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第218話 新しいちから

ぼくたちは、これまでかき集めたトークンを白い部屋の床に置き、きちんと数え直した。

ぼくが持っていた分と昨日の夜、アリスたちが手に入れた分を合わせて、トークン7891個分。

結城先輩と啓子さんが持ってきた分が、3117個分。

あわせて11098個分である。

これを使ってミアベンダーでなにを手に入れるか。

あるいは白い部屋の主に、ミアベンダーになにか追加できないか、訊ねてみるべきか。

「ひとまず、要求するだけ要求してみるでござるよ」

結城先輩の言葉に異論はない。

手分けしてPCに向かい、あれこれと質問を重ねた。

ぼくは、いまのぼくに足りないMP増幅系、使い魔の消費MP減少系、あるいは他者のMPを融通してもらう系のアイテムを設置できないか訊ねる。

答えは、すべて「否」であった。

どうやらMPを管理するアイテムの類は無理らしい。

まー仕方ないところではある。

このシステムのゲームバランス的に、絶対、崩壊を招く部分だろうから。

世界樹周辺でのみ効果があったアレとか昨日のミアのソレとかは、本当に例外なのだろう。

いやこれガチの現実だから、ゲームバランスとかヌルくていいんだけどね。

ヌルゲーばんざい! イージーモードばんざい!

現状、マジでベリーハードなんだからさ……。

なんて愚痴ってても始まらない。

正攻法がダメなら、抜け道を探すまでだ。

あ、でも、その前に……。

ぼくはふと思いついたことを、Q&Aする。

返信はすぐに来た。

Q:MP管理系に厳しいのは、それがシステム的に不可能だからか

A:YES

この情報を全員で共有した。

結城先輩がしばし首をひねり、「ならば、こういうのはどうでござろう」とキーをタイプする。

Q:ミアベンダーに「発動直前の魔法を込め、キーワードなどで発動させるアイテム」を追加することは可能か

A:使い捨てアイテムならば可能

「ぼくが使えるチャージ・スペルみたいなものかな」

付与魔法ランク6のチャージ・スペルは、宝石に魔法を込める魔法だ。

合わせて三つまで、簡易な使い捨てアイテムをつくることができる。

込められる魔法は多々あるが、基本的にはフレイム・ソードなどの自分自身に使えない魔法を込め、他者に使わせることになる。

けっこう便利な魔法なのだが、込められる魔法のランク上限が2であるという欠点がキツい。

せめてランク3の魔法が込められれば、リフレクションやシー・インヴィジビリティをほかのひとに渡せるんだけど……。

Q:そのアイテムは、魔法を込めた人物以外も使用できるようにすることが可能か

A:可能

Q:本来術者自身にしか使用できない魔法をそのアイテムに込め、他者が使用することは可能か

A:可能。

Q:チャージ・スペルにあるようなランク制限を撤廃することは可能か

A:可能。陳列する

ぼくたちはすぐ、ミアベンダーに向かった。

アイテム一覧のおしまいに、ひとつアイテムが増えていた。

「蓄魔石、か……」

それはキーワードで砕け発動する、完全に使い捨てのアイテムだった。

攻撃魔法などの投射型魔法は込められない。

完全にバフ用のアイテムであるらしい。

しかも、お値段がたいへんに厳しい。

なんと一個につきトークン1000個分だ。

もちろんほかのミアベンダーの製品と同様、これをアイテム複製セットで複製することは不可能である。

ぼくたちは、顔を見合わせた。

ぼくと結城先輩がうなずきあう。

「これ、すごく使えますね」

「うむ。マストバイでござろう」

「え、え、こんな高いの買っちゃうの? カズさん、ちょっともったいなくない?」

たまきが慌てる。

うん、たしかにお高いしもったいないけど、でもこれは切り札になりうるアイテムだ。

でもね……このアイテムがわざわざ自己バフに絞って用意されているのには、おおきな意味がある。

「たとえば、たまき。一度限りとはいえ、きみがいつでもアクセルを使えるようになれば、どうだ」

「あ……かなり有利かも。ひょっとしたら、四天王とも渡り合えるかも?」

「いや、アクセルがあっても攻撃をしのぐのがせいぜいだとは思うけどね」

実際、ぼくがシャ・ラウと同調してザガーラズィナーと戦ったときは、シャ・ラウがおおきくブーストされていたにもかかわらず、一対一ではアクセルを使用してなお厳しい戦いを強いられた。

あいつらは、それほど隔絶した強さを持っている。

小細工ひとつでちからを上回れるなど、これっぽっちも思えない。

「これに込める魔法は、主にチャージ・スペルが使えないランク3以上の付与魔法だろう。特に切り札になりそうなのは、さっきもいったアクセルと、あともちろんリフレクションだ。あとはシェイプ・チェンジとトゥルー・サイトもあるけど……」

「武器を持つ拙者らが変身して充分に実力を発揮できるかというと微妙でござるな。幻を使う相手などであれば、トゥルー・サイトは有用でござろうが」

「そうですね。とりあえず候補からは外していいと思います」

リフレクションは自分対象の魔法ではないが、乱戦で使う場合、どうしても自分かすぐ近くの仲間が対象になる。

これまでの運用でも、前衛が使えるようになってこそ、価値が出てくるものだ。

啓子さんとか、これをフル活用することで格上の敵と渡り合ってるしなあ。

「わたくしのファイア・シールドなども」

ルシアが持つランク4のファイア・シールドとコールド・バリアは、それぞれ熱気と冷気の薄幕を自分の周囲に展開させる魔法だ。

自分自身はこれらによってなんら被害を受けないが、自分に対して攻撃してくる者には、この薄幕が牙を剥く。

手ひどい反撃を浴びせ、場合によっては自分が負った傷以上のダメージを相手に与える。

ルシア自身が前衛に出たとき、少し使用していたはずだ。

でもなあ、いまの状況でルシアが前衛って、さすがにもうないよなあ。

いくらなんでも、敵がインフレしすぎだ。

それなら、これらの魔法をアリスやたまきが活用すれば、というのはアリだと思う。

とはいえ、このアイテムの単価を考えると……。

あれもこれも、というのは厳しいだろう。

「でもやっぱり、まずはアクセル用かなあ。いざというときのリフレクションも、保険って感じで」

「で、ござるな」

さて、使い捨てアイテムだけでは足りない気がする。

できればほかにも、底上げグッズが欲しいところだ。

ぼくたちはまた全員でPCに向かい、Q&Aを繰り返し……。

「やはり、魔法でござろうな」

そういう結論になった。

リード・ランゲージやメニー・タンズのような魔法をミアベンダーに追加してもらうのである。

現在のところ、ミアベンダーの一覧にある魔法はどれもランク3以下だが、これのランク8とかランク9なら、もっと戦闘に有益な魔法を得られるのはでないか。

その方向性でいろいろ質問してみた。

こんな魔法はどうか、あんな魔法はどうか。

やはり、既存のスキルにある魔法やそれの類似品は不可であるらしいが……ならば。

「シャ・ラウが使う、ものすごいスピードで移動する魔法はどうだろう」

ぼくの提案は、白い部屋の主に承認された。

この効果だけだと風魔法な気がするけど、幸いにして汎用魔法である。

名前はライトニング・ムーヴ、ランク9の汎用魔法としてミアベンダーに登録された。

シャ・ラウは低い能力に抑えられていたころからこの魔法を使えていたはずなので、汎用魔法化したことで厳しいランク制限が課されたということだろう。

しかも、やはりお高い。

なんとトークン2000個分である。

いや、その価値は間違いなくあると思うけれど。

というかこれこそマストマストマストバイだと思う。

「これを覚えるなら、アリスだろうな」

「ええと……そうですね、前衛で魔法を使えて、魔法系スキルがランク9まで育っているのは、わたしだけですから」

アリスの治療魔法ランク9には、有用な魔法が揃っている。

そのなかでひとつ、切り捨てるとなると、これがなかなか難しいのだけれど……。

「普通でござれば、対アンデッド系を切り捨てるべきでござろうが……」

「これからアンデッドと戦うことになる可能性が高いものね」

そうなのだ、ランク9の魔法4つのうち、対アンデッド魔法がじつにふたつ。

現在の状況を考えると、これらは温存したい。

回復系最上位魔法であるリザレクションは、四肢欠損や状態異常といったものも含めてすべて一発で治療する超強力治療魔法だから、これも必須。

となると……残りひとつを切るしかないのだ、が。

その魔法の名は、エヴォリューション。

Q&Aによると、生命に一時的な進化を促すのだという。

おい、なんだよそれいい加減にしろ、といいたくなるような魔法だ。

つーか進化ってなんだよ進化って、ゲッター線でも浴びせるのか。

昨日の夜、結城先輩と啓子さんに被験者となってもらったところ、一時間ほど腕が四本になったり、背中から翼が生まれて空を飛べるようになったりしたとのこと。

効果は一時間で切れるし、どうやらランダムのようだ。

面白い、すごく面白い魔法で、結城先輩がまたかけてもらいたそうにしているのだけれど……。

「遊びで魔法を残す余裕はないでござるな……。もっといろいろ楽しみたかったでござるよ……。無念、無念でござる」

「あー、せめてこの白い部屋でかけてもらって、隣で遊んでください」

「そうするでござる」

数分後、草原に切り替えた隣の空間で、妖精のように華麗に宙を舞う翼の生えた結城先輩の姿があった。

ものすごく楽しそうに空を飛ぶ、翼の生えた忍者。

ある意味でものすごく冒涜的な光景である。

「ねえ、ねえ、アリス。わたしにもそれかけて」

「いいですけど……どんな風になっても、知りませんよ」

たまきにエヴォリューションがかかる。

その身がぴかっと輝き……。

金髪碧眼の少女の全身から、銀の毛がもわさもわさとものすごい勢いで生えた。

体毛は顔まで覆った。

爪が鋭く尖り、牙も生える。

これって……ワーウルフみたいな感じか?

「わっ、わあっ、なにこれーっ」

「あらまあ、動物に退化しているのかしらね。かわいいわよ、たまきちゃん」

「え、えーっ、なんでーっ。やだっ、カズさん見ないでーっ」

狼女になったたまきは、わおーんと吠えて草原のかなたに駆けていった。

さらばたまき。

一時間したら帰ってこいよ……。

「アタリとハズレがあるのかしら。思ったのだけれど、この魔法、ディスペル系で解除できるのかしら」

「試してみようか。アリス、志木さんにかけてみてくれ」

「わたしを実験台にするの? ……まあ、いいけど」

志木さんの腕が四本になった。

服が破れそうになって、結構やばかった……主に胸もとが。

で、アリスがディスペルをかけると、志木さんの腕はもとの二本に戻った。

「何度もこれをかけて、有用な効果を得てから戦いに臨むのがよかったのかしらね」

「一時間……エクステンド・スペルをかけて二時間あれば、ひとつの作戦には充分かな」

「カズくんとしても、わたしたちに猫耳が生えたりするのを見るのは眼福かしら」

「あいにくと、ぼく、そういう属性ないんで……」

そういうのはミアの範疇なので。

……そのミアも、いまはもう、いない。