軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第217話 学校の山の謎

朝食のあとは、ぼくたちはふたたび車座となって会議だ。

最初の議題は、やはり最後にミアが話した内容である。

「魔王は、学校の山のあった場所からほかの世界に飛んだ。それは地球である可能性が高い、というのね」

志木さんが話をまとめた。

一同の大半は、その情報に半信半疑というか……アリスとたまきに至っては、その情報がどういう意味を持つかわからない様子だ。

「魔王はいま、地球にいるという可能性が高いわけでござるな」

「ええ、そういうことですね。この世界の人々にとっては幸いなことでしょう。残ったモンスターの脅威こそあれ、魔王に怯える必要はなくなったわけですから。おそらく、魔王はもう二度とこの世界に戻って来ないでしょう」

リーンさんとルシアがうなずく。

ようやくその言葉の意味を理解したアリスが「それって!」と叫んだ。

「地球が、魔王に襲われているってことですか!」

「その可能性が高い、ってミアはいっていた」

「はーい。でもカズさん、きっと自衛隊とかがなんとかするんじゃ?」

たまきが律儀に挙手し、意見を告げる。

アリスは「そ、そうですね」と胸をなでおろすが……。

「テパトの寺院で出会った巨大クラゲを思い出してくれ。あれは魔王の眷族ともいうべき存在らしい。魔王は眷族と同じ特性を保有している、とミアはいっていた」

「え、そ、それって……剣や槍で攻撃しても効果がないってこと?」

「おそらくは銃や砲弾も無効だろう、と。原爆でも落とせばまた違うのかもしれないけど……あまり期待はできない、らしい」

そこまではミアもいっていなかった。

けどなー、この世界のモンスターの法則的に、そういう特性があると、とことんなんだよな。

すごくゲーム的というか……そもそもあのクラゲ、物理無効というより、そもそも魔法しか効かないって感じの存在っぽい。

「もちろん、地球にも実は魔法が存在して、それはぼくたちの目から隠されていただけ、という可能性については昨日も話したよね。だから魔王が侵攻しても、なんとか撃退できるかもしれない」

「ええと……啓子さんのお師匠様とかだっけ」

「啓子さんも、本当のところはよくわからないっていってたけど」

ちらりと結城先輩を見れば、ややためらいがちにうなずいていた。

彼としても、そのあたりは判断がつかないのだろう。

「あなたがたの学校の山がわたくしたちの世界に転移してきた理由がようやく明らかになった、という点がまず重要ですね」

リーンさんがいった。

「魔王の転移と入れ替わりに、あなたがたがやってきた。それはあなたがたが選ばれたわけではなく、ただ巻き込まれただけであったということです」

「それにしては、白い部屋とか、謎が多いですけどね」

「神託が降りた理由も、未だ不明です」

そうだった、ぼくたちがこの世界に降り立つことは、この世界の神さまが予見していたようなのだ。

いや、神さまだから、それくらいできてもおかしくはないのかもしれないけど。

「とはいえ、おおきく前進したのはたしかでしょう。なにより……いま、学校の山で起きている事象についておおきな手がかりを得られたのですから」

「ちょっと待ってください。いま学校の山で? どういうことです」

「そのお話をするべきでしょうね」

リーンさんは微笑み、ぼくたちの中央に置かれた例の水鏡に触れた。

水面がゆらぎ、映像が浮かび上がる。

学校の山とおぼしき場所が映って……。

その頭上で、激しくぶつかりあう存在があった。

黒いなにかが、灰色のなにかとくんずほぐれつしている。

輪郭すら目で追い切れないほどの高速移動をしながら、火花を散らしている。

学校の山の周囲にもまた、数多くのモンスターがいた。

いや、モンスター同士が激しくぶつかりあっていた。

これは……同志討ち、なのか。

片方は、動物型のモンスターを中心とした軍団に見えた。

もう片方は、スケルトンなどのアンデッドが中心だ。

巨大な熊を、スケルトンの剣士が両断する。

そこに多くの狼型モンスターが群がり、骨をばらばらにしてしまった。

あちこちでそんな激しい戦いが演じられている。

「昨夜、あなたがたマレビトの部隊がオーガやオークの掃討をしていたときのことです。突如として、モンスターたちの集団が現れました。わたくしは、慌ててマレビトのかたがたを撤退させたのですが……それから、モンスターはふたつに分かれて戦い始めたのです」

それが、これか。

というか昨日の夜からずっと戦い続けているのか。

なにより、これ、上空でぶつかっているのって……。

「片方って、あいつ、ですよね」

「はい。黒翼の狂狼アルガーラフです。となると、それと互角に戦える存在は……」

「最後に残った四天王、ですか。爆発に巻き込まれて倒されたはずの」

消去法から、そうなるだろう。

信じられないことだけど、そもそもアルガーラフが生きていたんだから、もう一体だって生きていておかしくない。

そもそも、四天王ってのはそれくらい規格外な存在で……ザガーラズィナーとサシで殺し合ったぼくは、そのことをよく理解しているつもりなのだ。

「亡霊王ディアスネグス。アンデッドを支配する、死の化身です」

リーンさんが、その名を告げる。

四体目の、そして最後の四天王。

災厄ともいうべき存在、ディアスネグスの名を。

亡霊王ディアスネグスは、その名の通りアンデッドの頂点に立つ存在であるらしい。

なにより厄介なのは、その実体が霧のようなものであるということ。

クラゲ以上に物理攻撃無効さんである。

じゃあ魔法はきくかというと、ディアスネグスじたいがかなり高位の魔法使いらしく、きっちりとレジストしてくるとのこと。

つまり物理無効かつ魔法耐性高。

「あのー、ちょっとチートすぎませんかね、こいつ」

「あのアルガーラフとひと晩戦い続けるだけはある、ということね」

志木さんがため息をつく。

アルガーラフの戦闘力の高さについては、ぼくたちも身にしみて知っている。

ザガーラズィナーがパワータイプならアルガーラフはスピードタイプという違いこそあるものの、たぶん、対単体戦闘力はどっこいだろう。

対多数で強みを発揮する植物の王アガ・スーは、少数相手ではこの二体に一段劣る。

それでもおそろしい相手だったけど……でもまあ、四天王だからそんなものだ、といわれればそうかもしれない。

いまアルガーラフと戦っているディアスネグスは、それらとはまた少し違うタイプの耐久性特化な化け物ということか。

「厄介度ではザガーラズィナー、アルガーラフ以上、と考えた方がいいのでござろうな」

結城先輩が腕組みして唸る。

うう、あいつらより厄介な相手か。

でもそのディアスネグスが、アルガーラフと戦っている。

「あの……なんでこのひとたち、モンスター同士で仲間割れをしているんでしょう」

アリスが素直な疑問を口にした。

思わず頭をなでまわしたくなるほど素直ないい子である。

こんなところではスキンシップできないのが残念だ。

「一昨日、アルガーラフが口にした言葉から考えて、あやつは魔王の支配下から離脱しているのでござろう。そのうえで、己の軍を率いて反乱を起こした。であれば、ディアスネグスは未だ魔王軍に所属していると考えるのが妥当でござろうな」

「アルガーラフは、この大陸が沈んでは困る、って口ぶりだったわ。だからってわたしたちの味方ではないのだろうけど……ディアスネグスはそれに対して、この大陸が沈んでも構わない派なんでしょう」

大陸沈んででも魔王様に絶対忠誠のディアスネグスと、大陸沈んだら困るから魔王さまとかもう知ったことじゃないアルガーラフ。

それぞれが軍勢を率いて潰し合っている、というのが現状なのだろう。

「大陸が沈んでも構わないって! そんなことになったら、えっと……困るよ!」

たまきが、とても素直な感想を口にする。

うん、思わず頭をなでまわしたくなるような発言である。

なんとかな子ほどかわいい。

「ディアスネグスにとっては、困らないってことだろうね」

「え、カズさん、それってどういうこと」

「彼がこの世界から去るつもりなら、そのあとこの世界がどうなろうと知ったことじゃない」

アリスとたまきは、あっ、と驚きの声をあげる。

そーかー、アリスも気づいてなかったかー。

リーンさんやルシア、志木さんと結城先輩も当然のように気づいてたっぽいけど……まあこのひとたちは常日頃から腹黒いし、お腹が真っ白なふたりは仕方ないね。

「つ、つまり、ディアなんとかの目的って、魔王を追ってこの世界を出ていくってこと?」

「ディアスネグスな。……まあ、推論にすぎないけど。たぶん、ザガーラズィナーも同じ目的で動いていたんだろう。だから学校の山に襲撃してきた」

「対して、アルガーラフはそれを阻止したかった、というわけね。だから一昨日も、わたしたちに、ザガーラズィナーを阻止しろといってきた」

すべて憶測で、いろいろな発言と状況証拠の繋ぎ合わせにすぎない。

でも……たぶん、コレだろう、という予感があった。

ぼくたちは、互いにうなずきあう。

「これが正しければ、アルガーラフは、いまのところ『敵の敵は味方』という程度の意味で味方といえることになる」

「カズくん、甘く考えないで。一昨日の様子を見ると、近寄ったら普通に攻撃される気がするわ」

「うーん、たしかに。あの戦いに介入するのはやめた方がいいだろうなあ」

むしろ、ここは漁夫の利を狙いたいところだ。

どちらかが倒れたところで、残り一方を倒しにいく。

……いや、それでも倒すのは難しいかも。

いまのぼくでは、せいぜい使い魔一体程度しか使い魔覚醒で限界解放できない。

幻狼王シャ・ラウを使い魔強化4で呼びだして最大まで使い魔覚醒すると、それだけでMPを400以上使ってしまう。

使い魔同調と組み合わせることは不可能だ。

使い魔覚醒したシャ・ラウも、彼一体だけでは四天王を相手に勝ち目がない。

ほかと連係して、ようやく勝負になるというところだ。

しかしいまのアリスやたまきでも、当然使い魔覚醒を使用しない天亀ナハンでも、四天王とのガチの殴り合いでは能力不足である。

相性のいい植物の王アガ・スー程度なら、まだなんとかなった。

でも、ザガーラズィナーとの戦いを経たいま、ぼくにはわかってしまう。

アルガーラフ、それにディアスネグス、あの二体のどちらか一方であっても、アリスやたまき程度ではお話にならないほど戦力が隔絶している。

「どこかからMPを調達できれば、まだなんとかなる可能性もあるけど」

「カズくんはMPがあればあるほど瞬間戦力が強化されるビルドだものねえ。……白い部屋でお願いしてみてはどうかしら」

「それもアリかもしれないけど、どのみちレベルアップしないと意味が……」

と、そのときだった。

ルシアがさっと手をあげる。

いつものようにあまり表情が変わっていないのだが……なんだか、少し得意げだった。

「レベルアップを抑制してあります」

「でかした!」

うわマジえらい。

ルシアさんちょうえらい。

あとでめちゃくちゃ褒めてあげたい。

「いまここにいるメンバーで、リーンさんを抜かしてちょうど六人ですか。会議にリーンさんが参加できなくなりますけど、この続きを白い部屋でやれば……」

「では、わたくしの全権はルシアに委任いたしましょう。ルシアの言葉をわたくしの言葉だと思ってくださって結構です」

いいのかよ、おい。

それだけルシアを信用しているのか……ってのはいまさらか。

ふたりがうなずきあうのを見ながら、まあ彼女たちがそういうのなら、と思うことにする。

「それじゃ、白い部屋にいきましょうか」

ぼく、アリス、たまき、ルシア、志木さん、結城先輩。

手早く六人でパーティを組む。

「ふむ、しかしあれでござるな。カズどののハーレムに拙者がお邪魔するのはいささか無粋……」

「志木さんは違うから」

殴りたい、面頬の向こう側でもわかるこの笑顔。

……まあ、この手のことでからかわれても、いまさらなんだけどさ。

「では、参ります」

ルシアの言葉で、彼女がレベルアップ処理を解放し……。

ぼくたちは、白い部屋へ。