作品タイトル不明
第213話 決戦、ザガーラズィナー
たったひとりの白い部屋で、ぼくは淡々とPCの前に赴く。
いくつかQ&Aしたあと、レベルアップ作業を終える。
スキルポイントが5になったので強化召喚を4にし、使い魔強化を4に。
残りひとつは少し迷ったすえ、使い魔維持魔力減少を1に。
もとの場所に戻る。
和久:レベル55 付与魔法9/召喚魔法9 スキルポイント5→0
強化召喚3→4(使い魔強化4、使い魔同調3、使い魔維持魔力減少1)
※
木々が派手になぎ倒された森のなか。
ぼくは三体すべてにディポテーションをかけ、送還する。
そして再召喚。
使い魔強化4を使用するのでMPは4割増しだが、いまはそんなデメリットが問題にならないほどMPが多い。
急がなくてはいけない。
ドワグ・アグナムとの戦いで派手に音を立てた。
おそらくあいつは、すでにこちらの存在に気づいている。
ここのボスである四天王の一角、ザガーラズィナー。
かつてぼくたちのパーティが総がかりでも、手も足も出なかったとびきりの怪物。
ランク9のたまきですら時間稼ぎが精いっぱいだった、あいつを……。
ぼくはこれから、ぼく自身と使い魔のちからだけで倒す。
ミアと、そう誓った。
そのために、ここに来た。
相手が向こうから来てくれるなら好都合だった。
ちらりと腕時計を見る。
ワープしてから、すでに三十分近くが過ぎていた。
あと三十分ほどで、ミアがくれたこのブーストは切れてしまう。
とびきりに強化されたいまを逃せば、もうぼくひとりで勝つチャンスはない。
いや、アリスやたまきやルシアの助力があっても、たぶん無理だろう。
手早く、使い魔たちに付与魔法をかける。
キーン・ウェポン、フィジカル・アップ、マイティ・アーム、クリア・マインド、スマート・オペレイション、そしてヘイスト。
アイソレーションは使用しない。
これは賭けだ。
ザガーラズィナーは脳筋、魔法攻撃や精神攻撃などしてこないと割り切って、戦術を定める。
一度の交戦で、やつの性格はだいたい把握している。
戦闘狂だ。
ひょっとしたら、部下も連れずやってくるかもしれない。
いや、間違いなく部下とか置いて走って来るよな……。
そもそもやつの部下でこの戦いについてこられるのは、ドワグ・アグナム程度だろうし。
あの戦闘バカは、そのドワグ・アグナムと一緒に戦えるような感じでもない。
と、思ったら。
『主よ、高速で接近してくる者が』
天亀ナハンが告げる。
来たな。
ぼくは前回の戦いを経験したシャ・ラウとうなずきあう。
「随伴は」
『単独の模様』
「予想通り、か。戦闘準備!」
ぼくと天亀ナハンは少し下がり、征龍王カナーグと幻狼王シャ・ラウが前に出る。
先にヘイストをかけておいたのは正解だった。
どのみち、この戦闘は短時間で終わるのだから。
ゆえに、これもいま行使する。
「ナハン、カナーグ、シャ・ラウ」
三体の名前を呼び、心のなかでそのスキルを使用する。
使い魔覚醒。
三体の使い魔は、全身から赤黒い輝きを放ち、おのおの咆哮をあげる。
沸き立つちからを押さえきれないのだろう。
当然だ、今回彼らに与えたのは、ぼくのこの有り余るMPのほぼすべてなのだから。
ランク9の使い魔を召喚、維持する費用が81。
これに使い魔強化4と使い魔維持魔力減少1を乗せて102。
これが基礎倍率となるのだが……。
さきほどQ&Aで、使い魔覚醒の最大倍率を訊ねてみた。
使い魔覚醒はMPを余分に使って使い魔の本来のちからを引き出すスキルにすぎない。
ゆえに初期状態が限界のパラディンなどに使ってもなんの意味もないわけで……。
天亀ナハン、征龍王カナーグ、幻狼王シャ・ラウ。
この三体の限界はどれほどなのか。
その答えは、「使い魔強化4を付与した時点で使い魔覚醒を使用する場合、三倍まで」であった。
ただし、これはほぼ限界に近いため、使用するMPほどの効果は得られないとのこと。
いろいろ聞きかたを変えてみた結果、「使い魔強化5を付与した時点で使い魔覚醒を使用する場合、二倍まで」という言葉を引き出せた。
使い魔強化では、おおよそランク0.5分ずつ能力が上昇する。
つまり、この三体の限界は、アリスやたまきのランクに換算すると11.5なのだろう。
いやそれ……なんかめちゃくちゃ強い気がする。
強いんだけど、でも、きっと彼ら単体ではザガーラズィナーに敵わないだろう、というのもまたわかっている。
あれの戦闘力は、本当に規格外だった。
そして、あれに対抗するためなら……ぼくはためらいなく、彼らに注げるだけのMPを行使する。
つまり、102の三倍、306を三体それぞれに注ぎ込む。
もともとの維持費もあるから、使い魔に消費しているMPは1224。
最初は1800と膨大だったぼくのMPも、残り500を切るほどの数字だ。
いまの使い魔たちは一騎当千。
一体でアリスやたまきたちをも瞬殺できるに違いない戦闘力のはずだ。
これで、あいつに届くだろうか。
いや、届くと信じるしかない。
首を振って、後ろ向きな考えを頭から追い出す。
そして、やつは来た。
茂みを割り、黒い巨大ななにかが飛びだしてくる。
それはまるで弾丸のように、ぼくめがけて飛んできて……。
『させぬわ』
その進路に、カナーグが割り込む。
黒い影と衝突する。
細長い龍が、吹き飛ばされてくるくる宙を舞った。
征龍王ですら、やつは止められないのか!
でも……まだだ。
『次はわれだ!』
黒い影に、カナーグの背後からシャ・ラウが飛びかかる。
シャ・ラウはその肩に噛みついた。
その牙が深く肉に食い込む。
「ぐ……おっ」
突進してきた影が、呻き声をあげる。
おそらくは、カナーグが勢いをおおきく削いだからこそだろう。
黒い巨人は立ち止まる。
それは見間違えようもなく、あの漆黒のオーガであった。
ザガーラズィナー。
相変わらず素手の鬼王が、ぼくを見据えてにやりとする。
「小僧か。昨日の朝から、よくもまあ成長したものだ」
「ご託はいい。逃げるなよ、四天王。お前の首を狩りにきた」
「面白い、やってみろ!」
ザガーラズィナーは、呵々と笑ってシャ・ラウの頭部をわし掴みにする。
肩から引きはがして、投げ捨てた。
牙が巨人の肉を引きちぎり、青い血が噴き出る。
それをものともせず、漆黒のオーガは一歩、前進し……。
そこに、天亀ナハンの放った炎の蛇が直撃する。
巨人は火達磨となる。
『やったか!』
カナーグが叫ぶ。
あ、それフラグ……。
ザガーラズィナーが咆哮する。
ぼくは思わず、立ちすくんでしまった。
衝撃波によって、飛びかかろうとしていた征龍王カナーグ、幻狼王シャ・ラウが吹き飛ばされる。
そして、ザガーラズィナーが地面を蹴る。
燃える身体をそのままに、ぼくめがけて一直線だ。
そうくると……思っていた。
「トランスポジション」
ぼくは征龍王カナーグと身体の位置を入れ替える。
吹き飛ばされていたカナーグは蛇状の全身をくねらせてうまく体勢を整え、ザガーラズィナーの突撃を迎え討つ。
ふたたび、両者が激突する。
すさまじい衝撃で、周囲の木々が破砕され、地面が抉れる。
土砂が舞った。
十メートル以上に渡り、赤土の露出する荒れ地が出現する。
「シャ・ラウ!」
『主よ!』
ぼくとシャ・ラウは、阿吽の呼吸で動く。
大狼は空中のぼくを口にくわえると、天亀カナンの方に放り投げた。
そのあとUターンして、ザガーラズィナーのもと駆けていく。
そしてシャ・ラウに飛ばされたぼくは……。
そのときすでに、身体から意識を手放していた。
そう、ぼくの意識は、シャ・ラウとシンクロする。
幻狼王と触れ合ったその一瞬で、使い魔同調を発動させたのだ。
いま、ぼくと幻狼王シャ・ラウはひとつになっている。
ぼくの肉体は、天亀ナハンが捕まえてくれるだろう。
安心してシャ・ラウと共に戦うことに専念できるのだ。
いまぼくの使い魔同調は3になっている。
これを発動すると使い魔のもともとの維持MPが倍になるから、三倍の使い魔覚醒を使用した状態では追加で408のMPを消費する。
残ったMPのほぼすべてだが……。
ぼくはここに賭ける。
ぼくとシャ・ラウ、ひとりと一体のちからを合わせることにすべてを賭ける。
チップはぼくたちの命と、そしてこの世界ひとつ。
ザガーラズィナーの姿が目前まで迫った。
使い魔同調が3まで上昇すると、一体化するだけでなく、この使い魔の身体を通じてぼくの魔法を発動することまでできるようになる。
そしてもちろん、ぼくの魔法で接近戦において強力なものといえば……。
「アクセル」
ぼくとシャ・ラウの意識が加速した。
こちらをちらりと見たザガーラズィナーが、左手を伸ばしてくる。
だがシャ・ラウは素早く身をひねり、その手をかわして懐に飛び込んだ。
鋭い爪が、鬼王の左目を抉る。
シャ・ラウはそのまま駆け抜けた。
感覚がもとに戻り……。
耳を弄する絶叫があがる。
振り向けば、青い鮮血がザガーラズィナーの顔を濡らしていた。
巨人は狂ったように暴れ、征龍王カナーグが吹き飛ばされて近くの大木に叩きつけられている。
「やってくれたな、人間!」
左手で潰れた目を押さえ、鬼王はこちらを振り返る。
右手を軽く振る。
すると、そこに……巨大な、ザガーラズィナーの身の丈よりおおきい斧が出現する。
「おれに武器を抜かせるとは」
さて、ようやく本気になってくれたか……。
これからが、本番だ。