作品タイトル不明
第212話 浮遊要塞の孤軍奮闘
夕方、暮れなずむ森のなかに、ぼくは出現した。
学校の山の森ではない。
その広葉樹林は、どいつもこいつもバカでかくて、樹齢千年クラスのものがたくさんある。
おそらくここは、浮遊要塞の森だ。
どうやら、ミアは気を利かせてくれたらしい。
いまのぼくのMPは、おおよそ1800といったところだろう。
普段の三倍以上で、ちょっと尋常じゃない量だ。
ちょっと酔っ払ったように、頭がぼうっとする。
これを維持できるのはあと一時間程度にすぎない。
ぐずぐずしてはいられなかった。
まだ敵に見つかっていない、いまのうちに準備だ。
ミアから貰った時計のタイマーを一時間にセットする。
タイマー、開始。
さて次は……。
「サモン・ファミリア:天亀ナハン」
ぼくの前に、全長五メートルくらいはあるだろう巨大な亀が出現する。
甲羅の上に、ひとの上半身が乗っていた。
亀の顔とは別に、人間に似た顔があるということだ。
人間の上半身は、浅黒い肌で白髪の老人だった。
なぜか仙人のような中華風の服を着ている。
いまは腕組みして瞑目していた。
甲羅から突き出た下の顔が、こちらを向く。
ぎょろりとした黒い双眸がぼくを見て、お辞儀するように上下する。
ぼくの頭のなかに、しわがれた声が響いた。
『主よ。求めに応じ、参上いたしましたぞ』
彼こそが、 天亀(てんき) ナハン。
新たに専従契約を結んだ二体のうち、特に魔法を得意とする一体である。
ぼくは彼に付与魔法をかけつつ、ここが敵地で、主要な敵がオーガであることを説明する。
『ならば、わたくしの得意分野でありましょう』
よし、じゃあ始めようか。
ナハンが自分にフライをかけ、舞い上がる。
ぼくはそれに続いて飛翔する。
といっても、樹上には出ない。
せっかく大木の遮蔽があるのだから、それはしっかり利用して索敵にひっかからないようにする。
こちら側の索敵については……。
『こちらに』
天亀ナハンが少し左手に方向転換する。
そう、彼は魔法で周囲の生物を探知することができるのだ。
この索敵魔法、ミアが使っていた風魔法のウィンド・サーチよりも優秀で、自然のなかじゃなくても使用可能であるとのこと。
「敵の数は」
『十六。いずれもオーガと思われます。先制攻撃をかけてよろしいでしょうか』
「やってくれ」
天亀ナハンは高度五メートルほどで静止した。
人間の方の口が動き、老人の声で呪文の詠唱が始まる。
人間の身体の前方に、直径一メートルほどはあるだろう火球が、同時に八個も出現した。
「はっ」
かけ声と共に、八個の火の玉が発射される。
敵がいるという方向に、木々を避けて飛んでいき……。
彼方で爆発が起こる。
『撃破八でございます』
ぼくの頭のなかに天亀の声が響く。
そして、ぼくは白い部屋に。
レベルアップだ。
※
たったひとりきりの、白い部屋。
ぼくは周囲を見渡し、ため息をつく。
そのあと、首を振る。
「考えていても仕方がないか」
パソコンの前に座り、確認。
レベルは1上昇し、50になっていた。
よし、これで強化召喚を2にできる。
和久:レベル50 付与魔法9/召喚魔法9 スキルポイント5→0
強化召喚1→2(使い魔強化2、使い魔同調2)
処理を終え、もとの場所に戻る。
※
白い部屋から帰還したぼくは、次の呪文の詠唱を始めるよう、天亀ナハンに指示を出す。
残りのオーガはこちらに向かって走ってきているとのことだった。
半数以上を倒されたのに、勇敢なことである。
たしか、前に戦ったとき、メイジは逃げだすこともあったなあ。
でも下級のオーガは、わりと最後まで踏ん張っていた。
雑魚オーガは勇敢なのか、あるいは状況判断もできない馬鹿ばかりなのか。
どっちにせよ、こっちに来てくれるなら好都合だ。
オーガたちが姿を見せる。
うん、残った八体のなかにメイジはいないみたいだ。
彼らが走り寄る前に、天亀ナハンの魔法が完成する。
八個の火球が、残る八体のオーガを焼き殺した。
ぼくはふたたびレベルアップする。
※
和久:レベル51 付与魔法9/召喚魔法9 スキルポイント2
強化召喚2(使い魔強化2、使い魔同調2)
すぐ白い部屋を出た。
※
いちどナハンを送還し、またすぐ強化召喚2で召喚した。
これで、この使い魔は実質ランク8相当の戦力となった。
使える魔法も増えたことだろう。
ついでに残る二体の使い魔も召喚する。
おなじみの幻狼王シャ・ラウ。
そして専従契約した最後の一体、征龍王カナーグだ。
カナーグはとぐろを巻いた巨大な蛇で、東洋の竜を思わせる外見をしていた。
胴体部分の太さはぼくをやすやすと丸呑みできそうなほどで、身体をまっすぐに伸ばせば全長十メートルをゆうに超えるだろう。
前脚は腕のようにひょろりと伸び、鋭い鉤爪が見える。
口には鋭い牙を生やし、鋭い眼光でぼくを見下ろす。
カナーグが使える魔法は、たったのふたつ。
自分専用の飛行魔法と自分専用のデバフ解除魔法である。
そのかわり、直接的な戦闘力は随一であるという。
口から酸のブレスを吐くこともできる。
こと前線に立ち暴れることにかけては、シャ・ラウよりも優秀なのだ。
実際、専従契約のあとに三体で何度か模擬戦をしてもらったところ、接近戦ではカナーグの圧勝であった。
ただし、シャ・ラウには電撃的な移動魔法がある。
これと攻撃魔法を用いてのヒット・アンド・アウェイ戦法を繰り返せばほぼ互角か。
完全にシャ・ラウが逃げながらの魔法戦を始めると、スピードで負けるカナーグに勝ち目はない。
ナハンは完全に魔法特化で、前衛がいなければすぐ接近され、カナーグやシャ・ラウに手も足もでない。
ただしパラディンなどの壁役をつけてあげれば、この二体を相手になかなかの戦いをすることができる。
ぼくが専従契約した三体は、それぞれ特徴的で、うまく使いこなす必要があるようだった。
さて。
オーガは十から二十のグループをつくり、森のあちこちを徘徊している。
これをなるべく刈り取りつつ、ナハンの索敵魔法でザガーラズィナーを探さねばならない。
付与魔法を手早くかけ、移動を開始する。
ぼくが膨大なMPを使える時間は、そう長くない。
敵はぼくたちの存在に気づかず、いいように狩られていった。
ナハンの魔法で爆撃し、カナーグとシャ・ラウが突撃するだけで、メイジまでなら楽勝である。
キャプテンも、カナーグの前には三撃と耐えることができない。
カナーグが青い肌のオーガ、キャプテン・オーガを見つけて飛びかかる。
前脚がゴムのように伸長し、その鋭い鉤爪がオーガの肌を切り裂く。
さらに太い牙が首筋にかみつき、肉をえぐり取る。
断末魔の悲鳴をあげて、キャプテン・オーガが倒れ伏す。
うわー、付与魔法がかかったいまのカナーグ、実力だけならランク9に迫るものがあるんじゃないだろうか。
これは……実に頼もしい。
またたく間にふたつの集団を撃破し、オーガ二十一体、メイジ・オーガ三体、キャプテン一体を屠った。
ぼくのレベルは三つ上昇し、54となる。
和久:レベル54 付与魔法9/召喚魔法9 スキルポイント8→3
強化召喚2→3(使い魔強化3、使い魔同調3)
※
そして、やがてそれが来る。
これまでの雑魚ではなく、予期されていた刺客の登場だ。
『主よ、巨大なものが近づいてくる』
「ドワグ・アグナムか」
ぼくがそういった次の瞬間、近くの木々を破砕して、四足歩行の恐竜型のモンスターが姿を現す。
全長十メートルを超える、爬虫類のような鱗を持った生物だ。
キリンのように長い首を振りみだし、ぼくたちに突進してくる。
『われが相手となろう』
征龍王カナーグが正面から立ちはだかる。
無数の触手がドワグ・アグナムの全身から伸びてくるも……。
『目ざわりである』
征龍王カナーグが口をおおきく開き、酸のブレスを放つ。
触手群は強酸の濁流に突っ込むかたちとなり、ジュッと燃え上がる。
ドワグ・アグナムは騒々しく悲鳴をあげる。
『ナハンよ』
『承知いたしました』
抜群のコンビネーションで、天亀ナハンの呪文の詠唱が完了する。
炎の槍がドワグ・アグナムの分厚い鱗を貫き、青い血がほとばしる。
『参るぞ、主よ』
すかさず、幻狼王シャ・ラウが吶喊する。
電光のごとき速度で体当たりし、その巨体をゆるがせ……。
『あとは任せるがよい』
カナーグが、その身をバネにして、弾け飛ぶように突進した。
鋭い牙で、ドワグ・アグナムの長い首にかじりつく。
さらにその前脚が急所であろう両目を抉る。
かつてはあれほどしぶとかった爬虫類型モンスターが、絶叫をあげ、あっさりと地面に倒れ伏す。
神兵級を相手に、使い魔だけでここまでボコボコにできるものか。
三体それぞれが、とても頼もしい。
ドワグ・アグナムの身体が空気に溶けるように消えていき、かわりに黄色い宝石が残る。
レベルアップした。