軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第21話 中等部女子寮攻略戦

ひととおり作戦会議が終わったあと。

「ちょっと、たまきちゃんとお話ししていいですか」

白い部屋から出る前に、アリスはたまきを連れて部屋の隅に行き、ふたりでぼそぼそ話し始めた。

なにを話しているか、聞きたい。

すごく気になる。

けど、盗み聞きするわけにはいかないよなあ。

そんな迷いを見透かしたように、ミアがぼくのジャージの裾を引っ張った。

「女の子には、女の子の秘密がある」

なんだか、アリスもたまきも真剣な顔をしていた。

なのに時折、ぼくの方をちらちら見るものだから、余計に気になる。

「こっちはこっちで、内緒のお話、する」

「たとえば?」

「アリスは耳の後ろが弱い……」

なぜそれを知っている。

「お風呂で、スキンシップ」

「興味深い話だな」

それで? とミアの顔に耳を近づける。

だが、ちょっと声が大きすぎたか、アリスが顔を真っ赤にしながら駆け寄ってきて、ぼくを憤然と見上げる。

アリスは無言で手を伸ばし、ぼくの両頬を抓った。

痛い。

でも、むくれているアリスがかわいい。

思わずにやけてしまった。

アリスはますます眉間に皺を寄せる。

ぼくは無言で、両手を上げて降参のポーズを取る。

「自重いたします」

なんか納得いかないが、謝っておく。

さて、たまきは剣術スキルを、ミアは地魔法スキルをランク2に上昇させた。

白い部屋から出て、ぼくたちはすぐ行動を開始する。

さきほどの偵察時と違い、中等部女子寮の入り口の近くで三体のオークがうろちょろしていた。

見張り、というわけだろうか。

本来は夜こそ見張りをするべきだと思うのだが、どうやらそういった常識はいっさいないようだ。

いや、この世界での常識とか知らないけど。

ぼくが本で読んだ軍隊の話とかだと、そうなんだけど……。

実際、彼らはただ立っているだけで、ろくに周囲の警戒すらしていない。

時折、あくびをしている。

エリート・オークに命令されたから外に突っ立っている、とかなのかなあ。

どっちにしろ、朝方と違ってオークの動きが活動的になっていることはたしかなようである。

「外を歩くオークが増えてくるってことか……」

時刻はすでに午前九時半をまわっている。

育芸館が生き残りの人間たちの拠点となっていることがバレるのも、時間の問題かもしれないな、と思う。

ならばこそ、いまのうちに一体でも多くのエリート・オークを潰しておきたい。

幸いというかなんというか、この学校、各建物の間に深い林がある。

音の拡散を著しく妨げるのだ。

特に女子寮は、防犯対策のためか、他より多少、奥まった場所にある。

少々騒いでも、ほかの建物にいるオークには気づかれないだろう。

だからこそ、いまのうちにここのオークを殲滅しておきたい。

敵の数を、減らせるうちに減らしておきたい。

いまぼくは、カラス一体とパペット・ゴーレム二体を召喚している。

よって最大MPは9点削られ、41だ。

パーティは四人になっている。

ここまで人数が増えると、全員にすべての付与魔法をかけるのはキツい。

厳選しよう。

まず前線に出ないぼくは、逃げ足を速くするフィジカル・アップだけでいい。

ミアはフィジカル・アップと、魔法攻撃の威力が上昇するという付与魔法ランク2のスマート・オペレイション。

アリス、たまき、パペット・ゴーレム二体には、いつもの三点セットたるキーン・ウェポン、フィジカル・アップ、マイティ・アームだ。

ヘイストは効果時間が短く、付与魔法ランク3の時点で一分から一分三十秒で解けてしまうため、いまは温存する。

エリート・オークが出てきてから、改めてかけよう。

ということで、付与魔法をかけ終わったあとのぼくのMPは……。

MP:25/41

一見、まだ余裕があるように思えなくもない。

だが虎の子たるヘイストとリフレクションは、一回でMPを3も消費する。

連発すれば、あっという間にガス欠になってしまうだろう。

一方、アリスには、治療魔法ランク2のフラワー・コートを使い魔以外の四人にかけてもらった。

あくまでも保険だ。

だが気休めでも、ないよりはあった方がいい。

「作戦を一部、変更しよう。先にあのオーク三体を倒す。玄関前の二体は、アリスとパペット・ゴーレムが相手をする」

「はい」

「離れている一体は、たまき、頼む」

「う、うん、わかったわ」

たまきは身の丈よりおおきな斧を両手で持ち上げ、こわばった表情でうなずいた。

生唾を飲み込む音がする。

白い部屋での陽気な態度とまるで違った。

たまきの歯が、かちかち鳴っていた。

実質的な初陣に、緊張しているのだろうか。

……だいじょうぶかな。

いや、頑張ってもらうしかない。

「ミアは、逃げるオークがいたら、足止めを頼む」

「がってん承知」

「アリス、いけ!」

「はい」

女子寮玄関付近のオーク二体がなるべく近づいた瞬間を見計らい、ぼくは声をかける。

アリスが茂みから飛び出した。

パペット・ゴーレムに、彼女の後を追わせる。

たまきも、少し臆したあと、己を鼓舞するように叫び声をあげつつ、少し離れたところにいるオークへと突撃。

って、叫ぶのかよ。

いやまあ、どうせ戦闘音で女子寮のなかのオークに外敵の存在が露呈するのは時間の問題だけど。

叫ばないではいられなかったのか。

無理もない。

でくのぼう状態じゃないオークを相手にするのは、初だもんな。

ぼくだって、アリスを助けるためにはじめて接近戦を挑んだときは、無我夢中だった。

雄たけびくらいあげていたような気がする。

仕方のないことだろう。

アリスはどうだっただろうか。

思いだそうとする。

彼女は、なんていうかこう、妙に静かというか、冷静だったように思う。

でもあれは、アリスが特別なんだろうなあ。

うん。いまにして思えば、彼女は最初から、すごかったんだ。

特別に心が強かった。そう考えよう。

ほかの子をアリスと同じだとは考えないようにした方がよさそうだ、とぼくはいまにして気づく。

さて、そのたまきは、大斧を振りかぶってオークに向かっていく。

アリスの初陣と違い、いまの彼女は剣術ランク2だ。

普通に戦うだけで楽勝なはずだが……。

たまきの振りおろした斧は、わずかにオークの中心線を逸れ、その肩に衝突した。

オークの剣を握る右腕が、付け根から両断される。

青い鮮血がほとばしり、たまきの顔を濡らす。

「ひ……いっ」

たまきの動きが、硬直する。

その表情まではわからないが、これは……。

まずい気がする。

ぼくは腰を浮かせた。

右腕を切断されたオークが、半狂乱になって、たまきに身体ごとぶつかっていく。

動けないたまきは、なすすべもなく地面に転がり……。

「ミア、あのオークに攻撃魔法!」

「了解」

乱戦にあって誤射も怖かったが、それよりこのまま、いまのたまきがオークにのしかかられた場合、援護が難しくなることを懸念した。

あのオークは、いまのうちに殺すしかない。

「ストーン・バレット」

はたしてミアの放った石つぶての弾丸は、見事、オークの眉間に突き刺さった。

それでもオークは、死なない。

前のめりに、たまきに折り重なって倒れる。

たまきの悲鳴があがる。

一方、もう片方の戦場は……。

アリスが、またたく間に二体のオークを突き殺していた。

パペット・ゴーレムの援護すら必要なかった。

うん、アリスはいつも通りだ。

問題は、これからだった。

騒ぎを聞いて、女子寮がにわかに騒がしくなる。

まずいな。

たまきは、このままだと戦力外、それどころか足手まといになる。

雑魚オークの相手は、たまきがする予定だったのだが……。

「ミア、作戦変更だ。裏口は捨てる。ここで待機して、援護に徹してくれ。ぼくはたまきのところへ行く」

「がってん了解」

たまきは実質的な初陣のプレッシャーに負けてしまった。

同様、ほぼ初陣にもかかわらず戦闘が始まっても冷静なミアが、いまはとても頼もしい。

「カズさん、中からオーク、出てきます! あ、あの、たまきちゃんは……」

「アリス、パペット・ゴーレムと横一列、雑魚を通すな!」

「は、はい」

一体のオークが、凶暴に猛り狂いつつ女子寮から飛び出してきた。

それをアリスが迎撃する。

ぼくはその光景を横目で見ながら、たまきのもとへ駆け寄った。

たまきは倒れたオークにのしかかられ、パニックを起こしている。

斧から手を離し、悲鳴を上げてばたばた暴れていた。

オークはまだ消えていないが、意識を失い、ぐったりしている。

一番面倒なパターンだ。

ぼくはナイフを取り出した。

ただのサバイバル・ナイフだ。

それをオークの後ろ首に突き刺す。

オークは一度、けいれんを起こして……。

ようやくにしてこときれた。

その姿が、すーっと薄くなっていく。

こうなると、後に残るのは宝石だけだ。

「たまき。立てるか、おい」

ぼくはたまきの手を取って、抱き起こした。

たまきは顔をあげ、ぼくを見上げる。

大粒の涙がこぼれ落ちた。

ついでに鼻水も垂らしていた。

あともうひとついっておくと、ジャージの股の部分が濡れていた。

うん、まあ、怖かったんだもんな。

仕方ないね。

たまきが抱きついてくる。

ぼくの胸に飛び込んで、大声で泣く。

ぼくは、彼女のブロンドの髪を撫でて、途方に暮れた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

何度も、何度も。たまきはぼくに謝罪する。

「捨てないで。お願い、わたしのこと捨てないで」

「ちょっ、きみは、なにをいって……」

そのとき、ぼくの耳にファンファーレが響き渡る。

え、あれ?

顔をあげると、ちょうど玄関から飛び出てきたオークを始末したアリスの姿が目に入った。

そうか、ここでぼくがレベルアップか。

正直、助かったかもしれない……。