軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第199話 異界化した世界

ぼくたちは光の民の住居ではなく、その木々の下で思い思いに身体を休めることにした。

サモン・フィーストで召喚したお菓子をむさぼる女子たち。

結城先輩が、もくもくと武器の手入れをしていた。

結城先輩はいま、啓子さんと同じ銀の剣のほか、こちらもこの世界のものとおぼしき小剣、投げナイフなどを使っているようだ。

スキル的には全部、剣術だから問題ない。

利便性としては銀の剣が圧倒的だと思うんだけど、武器を使い分けるのはなにか意味があるのだろうか、ただニンジャ的なこだわりなのか。

聞いてみてもいいけど……無駄にオタク知識を披露されそうだなあ。

ぼくは征龍王カナーグと天亀ナハン、二体との契約の書をぱらぱらとめくる。

基本的には、幻狼王シャ・ラウのときと同じような儀式をすればいいみたいだ。

いくつか異なる部分はあるので、しっかり読み込まないとミスりそうだけど……そのあたりは白い部屋でじっくり確認、だな。

「カズ殿、たしかアジャストメントは効果時間が二十四時間でござったな。MPが全回復しそうなら、いまのうちにかけておいて欲しいでござる」

結城先輩が、ふとそんなことをいってきた。

アジャストメントは、付与魔法のランク8、あらゆる環境に適応する魔法だ。

水中でも呼吸ができるようになるけれど、それだけじゃない。

Q&Aによると、宇宙空間でも活動できるようになるとのこと。

ただ、毒の霧のなかとかは普通にダメ。

そのへんの差異って、じつのところよくわからないんだけど……。

「これから拙者たちが赴くことになる幽雷湿地は、異界化しているとのことでござるよ」

「異界化……ですか」

そういえば昨日、リーンさんがいってたな。

モンスターたちが長年支配することになった土地は、異形のかたちに変化するって。

それを差して、異界化か……。

「具体的にどうなっているんですかね」

指示通り、パーティを組みかえながら、出陣する予定の全員にアジャストメントをかけてまわる。

ぼくのパーティの五人と、結城先輩、啓子さん、長月桜、それに百合子&潮音の火属性コンビ、そして志木さん。

さきほど神兵級を相手にした二パーティ十人プラス志木さんということである。

育芸館組と高等部組のトップが両方とも出陣する。

多少の無理をしてでもそうする理由は、幽雷湿地の奥に存在するというテパトの寺院が魔王に関わりのあるものだという情報の真偽を確かめるためだ。

そう、魔王がぼくたちと同じマレビトであるという、聖女ポクル・ハララの言葉の意味を確認するのだ。

それに加え、リーンさんも使い魔の鷹を経由して情報面で援護してくれることになっている。

今回は、各地の賢者もリーンさんのもとへ集め、ぼくたちの見る光景を実況、適宜コメントするとのこと。

っていうと、なんだかニコニコ動画のイベントみたいだな。

この世界の賢者たちが「なにやってんのwwwww」とか「ちょっ、マジかwwww」とかコメントで草を生やす光景を一瞬、想像した。

ちょっと笑えるかもしれない。

いや、なにを考えているんだぼくは。

「カズさん、なにニヤニヤしてるの? ちょっと不気味だよ?」

ケーキを口のなかいっぱいに詰め込んだたまきが、きょとんとしていた。

うわー、見ないでーっ。

そんなこんなで、小一時間後。

リーンさんから声がかかり、ぼくたちは慌ただしく準備を整える。

飛行魔法で樹上の町に戻ると、リーンさんと志木さんが待っていた。

「それじゃ、出発しましょうか。わたしは……カズくんのパーティにお邪魔していいかしら」

「ほほう、ぼくのハーレムの邪魔をすると」

「気兼ねなくいちゃいちゃしてくれていいわよ。……ちょっと話し合っておきたいことがあるの」

なるほど、たしかにそろそろ、話し合うべきことも溜まってそうだ。

それだけじゃなくて、誰にも邪魔されずに伝えたいこととかもあるのかなー。

加えて、彼女がレベルアップしてくれることはぼくたちにとっても望ましい。

パーティに入れたあと、志木さんにもアジャストメント他、定番の付与魔法をかける。

ルシアと潮音の頭に鷹が止まった。

いざというときは、この鷹を通したリーンさんの転移魔法で逃げ帰る。

「それでは、出発してください」

ぼくたちはリーンさんの指示で、世界樹の転移門を通り……。

いつもの、くらりとくる転移の感覚。

気づくと、視界が変化している。

一瞬、地獄にでも来たのかと思った。

空が赤黒い雲に覆われている。

周囲は泥湿地だった。

ぼくたち十一人の立つ十二畳ほどの地面だけは、硬い岩盤に覆われている。

でもその周囲の泥水は、まるでコールタールのようにどす黒くて、しかもぶくぶくと泡立っていた。

灰色の霧のようなものが周囲に立ちこめている。

水没樹の姿が、ちらほらと見えた。

いずれも醜くねじ曲がり、まばらな葉は奇妙な虹色に輝いている。

見渡す限り、生き物の姿はない。

悪夢から湧き出したかのような光景だった。

背筋に震えが走る。

「これが……異界化した世界?」

思わず、ぼくは呟く。

皆も、茫然として周囲を見渡すばかりだった。

最初に立ち直ったのは、予想通りというかなんというか、田上宮兄妹だった。

「ん。まるでデモンズ……」

「やめろ妹よ。兄はむしろ、デイドラたちのオブリ……」

「本当、あなたたちのそういうところには心から感心するわ」

志木さんが呆れ顔になる。

腕組みして胸をそらし、「ま、頼もしいということね」と薄笑いを浮かべる。

いやー、ぼくからするとあなたもそうとう、頼もしいっすけどね。

「うう、気味が悪いねー」

「本当に、お化けとか出てきそうです」

たまきとアリスは、順当に気味悪がっていた。

こちらの反応は、たいへんに心がなごむ。

百合子&潮音コンビも、やっぱりビビっているっぽい感じだ。

桜は、相変わらずの無表情、無反応だった。

ルシアと啓子さんは、興味深げに周囲を見渡している。

十人が十人、ある意味でいつも通りの様子に、なんだか安心してくる。

「磁石が機能しないわね」

志木さんがいつの間にか方位磁石を取り出していた。

たしかに、磁石の針がくるくるまわっている。

噂に聞く富士の樹海……は実はそんなにたいしたことがないんだっけか。

ふと足もとを見れば、三羽目の鷹がいた。

ぼくたちの受け入れ先転移門を用意した個体だ。

その鷹は、翼をひろげて舞い上がり、啓子さんの頭の上に移動する。

静粛に、とばかりにひとつ鳴く。

全員がそちらに振り向いた。

「方角はこちらで指示いたします」

鷹はリーンさんの声で、そういった。

なるほど、それは助かることだ。

ミアが全員にウィンド・ウォークをかける。

今回、フライではなくウィンド・ウォークなのは、効果時間の問題だ。

フライが九分なのに対してウィンド・ウォークは三時間も保つ。

もっとも移動速度は、普通に空中を歩かなきゃいけないウィンド・ウォークよりフライの方が圧倒的に速い。

それでいいのだ。

ウィンド・ウォークはあくまで保険なのだから。

「サモン・フライングシップ」

ぼくは召喚魔法ランク8、その魔法を行使する。

目の前に、全長十メートルのモーターボートに似た船が出現した。

ただしその船体は、地上二十センチくらいのところをふよふよ浮いている。

船体は木製に近いものであるらしい。

ボートの頭上に、申し訳程度の気球がついている。

白い部屋のQ&Aによると、この気球がボート全体を魔法的に構成していて、気球が破損するとボートそのものが消えてしまうとのこと。

なんでも、古代文明とかそのへんがつくりあげた「神の船」の再現だそうだ。

だから気球のエネルギーが切れると、このボートそのものが消滅する。

でもエネルギー切れまで、時速六十キロでおよそ三十時間ほど飛行できるらしい。

時速六十キロで飛べるモンスターってどれくらいいるのか聞いてみたところ、「あまり存在しない」というあいまいな返答がきた。

これはまあ、こっちの質問もあいまいだったから仕方がない。

以前、リーンさんやルシアに聞いたところ、時速六十キロというのがよくわからないといわれてしまった。

いまそんな話題を蒸し返したところ……。

「ああ、時速六十キロは野生の馬が全力で走った程度でござるよ」

結城先輩が、あっさりとそういった。

しまった、このひとに聞けばよかったんだ。

見れば、ミアが「このクソ兄っ」とでもいいたげな顔をしている。

「そういうことでしたら、グリフォンやワイヴァーン程度では追いついてこられませんね。幻想種であるドラゴンの大型なものであれば、というところでしょうか」

ルシアが首をかしげつつ、そういった。

鷹が、リーンさんの声で同意を示す。

へー、ま、そういうことなら安全、かなあ。

「ただ、昨日の戦いで見た限りでもレジェンド・アラクネは馬以上の速度で走れるようでした。メキシュ・グラウも可能でしょう。ご注意を」

「神兵級は……なんというか、規格外だからなあ」

さすがに、あいつら相手に逃げられるとは思ってない。

雑魚がわらわらきたとき、振り切れるだけの速度を出せるなら充分である。

いざというとき逃げ足が確保できているなら、やれることの幅が増えるというものだ。

もう一度、サモン・フライングシップを使う。

これで二台の足を確保できた。

一台でも十一人が乗り込むことはできるけど、ちょっと狭いし、なにより緊急時には予備機があった方がいい。

いざというときは、隣の船までウィンド・ウォークで走るわけだ。

ちなみにこの空飛ぶ船、いちおう白い部屋の隣の空間で試運転済みである。

操縦が上手かったのは、ミアとアリスだ。

ということで、このふたりをフライング・シップ二隻のメイン操縦士とする。

操縦技術がそこそこだったルシアとぼくが、そのバックアップだ。

たまき?

ええと……あのね、ぼくね。

もし万が一、もとの世界に戻ってたまきと暮らすことになっても、彼女には運転免許を取らせないから。

これはもう、絶対だから。

……そんな感じで、理解して欲しい。

いや……ほんと、ひとには向いてないことってものがある。

それは、仕方のないことだ。