軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第196話 神兵級部隊1

結局のところ、勝利条件の問題だった。

敵軍としては、この位置にぼくたちの砦があってはマズい。

ぼくたちはこの砦で敵に出血を強いたい。

なら、この砦に人員が配置されていようがいまいが、砦を守る以外の選択肢はないだろう。

無論、それはこの一戦において勝利を得る前提での話である。

当面の損得でいえば、多少の損害があっても神兵級六体を叩いてしまえば、充分な勝利といえるに違いない。

しかし、今後のことを見据えるなら、勝てるときは貪欲にどこまでも勝つべきだ。

以前ならばともかく、いまのぼくたちには充分な戦力がある。

もっともそれは、きちんと戦術が当たった場合の話であるからして……作戦は綿密に、そして実行にあたっては、大胆に。

しばしののち、ぼくはミア、潮音、百合子、それに啓子さんと共に、五人で砦の見張り塔の屋上に立ち、メキシュ・グラウたちの接近を待っていた。

深い密林の彼方、最初は豆粒ほどだったそれが、次第におおきくなってくる。

飛行する四体のモンスターは、遠くからでもかなりおおきく見えた。

メキシュ・グラウは高さ六メートル、全長十メートルのケンタウロス型モンスターだ。

腕は四本で、下の二本の腕で弓矢を構えている。

上の右手で剣を握り、上の左手では盾を持っている。

「ん。そろそろ」

「そうねー、がんばりましょーっ」

ミアと啓子さんがフライで舞い上がり、砦の手前まで進む。

メキシュ・グラウたちはいったん前進を止め、下の両腕で弓に矢をつがえて引き絞り……その矢が、紅蓮の炎に包まれる。

四本腕のケンタウロス型巨大モンスターが、ぼくたちめがけて炎の矢を放つ。

邪炎撃。

神話で、地獄の炎を巻き上げあらゆるものを焼きつくとうたわれる必殺の一撃が、四本まとめてぼくたちのいる砦に飛来する。

ぼくは、砦の本丸で作業していた光の民に向けて、身を伏せるよう大声で叫ぶ。

「テンペスト」

ミアがタイミングを見計らい、前方に大嵐を巻き起こした。

炎の矢は、いずれもその嵐に突入し、軌道をわずかに変更させる。

そんななかでも、あまり軌道が変わらなかったものはあって、啓子さんがものすごいスピードでその前面に立ちふさがり……。

「リフレクション」

ジャストタイミングではじき返してみせる。

こんなの啓子さん以外絶対に不可能、っていう刹那の見切りだ。

弾かれた炎の矢は、また大嵐に突入し、進路をおおきく狂わせる。

「いまだ、ふたりとも!」

「はい、ブライト・シールド!」

潮音、百合子コンビが、見張り塔の上部を覆い隠すほどおおきな輝ける炎の盾を生み出す。

その直後。

連続して、爆発が起こる。

砦の後方で森と丘が消し飛ぶ。

反射された矢は上空で爆発し、炎の雨を森に降らせる。

爆風は、ぼくたちのいる見張り塔をおおきく揺らした。

建物がきしむ。

ふたりの火魔法使いがつくり出した炎の盾が、襲い来る衝撃波と熱風からぼくたちを守る。

なかのひとが炎にあぶられても、頑丈な砦そのものは無傷。

この程度の攻撃では、ぼくたちの守りは揺らがない。

……揺らがない、と敵が判断してくれると……嬉しいなあ。

「また来るわよーっ」

啓子さんの声で、視線を前方に戻す。

メキシュ・グラウたちが、再度、弓弦を引き絞るところだった。

放たれた四本の炎の矢を、ミアのテンペストと啓子さんのリフレクションが迎撃、すべて砦からそらす。

火魔法使いの少女たちが、爆風からぼくたちを守る。

一キロ離れたところからの狙撃など、もはやぼくたちには通じない。

とはいえ、数百メートル離れたところに着弾した矢は、大爆発を起こし、周辺を荒野に変える。

砦の周辺の地形が変化していく。

これ……下手すると、ここに砦が存在する意義すら失ってしまうんじゃ?

この砦は地図上の要衝に位置しているからこそ、敵軍の急所たりえるのだ。

周囲が見渡す限りの荒野となってしまえば、もはやこの場所に戦略的価値がない。

魔王軍が、そこまで見越して大火力戦略兵器のメキシュ・グラウを繰り出したなら……。

あ、ちょっとこれ、ヤバいんじゃないだろうか。

メキシュ・グラウは三射目を放ち、それをまたミアと啓子さんだけで捌く。

砦の左右で着弾、大爆発により、また丘が消え、森が吹き飛び、地面が深くえぐれる。

どうする? 敵の作戦目的が、ただ『この砦を無力化する=この砦の存在価値を失わせる』だけだったら、メキシュ・グラウたちは容易に作戦目的を達成してしまう……。

と、思ったときだった。

メキシュ・グラウたちは弓を手にしたまま、空中を駆け出す。

砦に対して、さらに接近してくる。

これは……助かった、かな。

一方的な砲撃により、戦略レベルで勝負がつくところだった。

いや、そもそも敵がそんなものを勝利条件としていない、というだけかもしれないけど。

「来るわよー。もっと引きつけなさいねー」

啓子さんの呑気な声。

実際のところ、こっちの攻撃魔法はさほど射程が長くない。

有効射程、百メートルといったところだろう。

一キロ離れたところからの一撃でも通じてしまうメキシュ・グラウは、ほんとケタ違いの戦略兵器なのだ。

そいつが、戦略兵器としての強みを放棄して接近してくる。

その理由は、なにか。

「たぶん、狙われてるのは、わたしたち自身よー」

「ん。というか、たぶんわたしやカズっち」

だろうなあ。

各地で神兵級を立て続けに撃破し、昨日の夕方にはアガ・スーを倒した精鋭部隊がいることは、敵もすでに把握していることだろう。

そして、邪炎撃を何度も受け流す者がそう何人もいるはずもない。

そう、敵はぼくたち精鋭のあぶり出しを行ったのだ。

ぼくたちが出て来ざるを得ない状況を整えてみせた。

彼らの思惑通り、ぼくたちはいま、この場にやってきていて……。

「まんまとひっかかったか」

「うふふ、ひっかかってあげたのよー」

「なるほど、ものはいいようですね」

ぼくと啓子さんが呑気な会話を交わす間にも、メキシュ・グラウはぐんぐん距離を詰めてくる。

でもそれは、こっちにとって好都合なことで……。

敵が砦まで二百メートルのラインを割った、まさにそのときだった。

「インフェルノ」

巨大ケンタウロス型モンスターの足もとに広がる密林から、紅蓮の炎弾が発射される。

それひとつで人間など丸呑みできるほど巨大な炎。

地上に隠れていたルシアの放った、火魔法ランク9インフェルノ、その十倍弾だ。

十倍インフェルノは、メキシュ・グラウの一体に激突、大爆発を起こす。

巨大な爆炎が視界いっぱいに広がる。

これで一体は、確実に倒せたはず。

もちろん、それで終わりではない。

これはぼくたちの狙い澄ました奇襲で、いまの一瞬こそが最大の好機。

ゆえにここで、最大の戦果を上げる必要がある。

爆発に隠れるようにして、ちいさな影が四つ、飛びだす。

アリス、たまき、桜、そして結城先輩だ。

飛行魔法がかかった四人は、アリスとたまき、桜と結城先輩でペアを組んで、レジェンド・アラクネが搭乗しているメキシュ・グラウとの距離をあっという間に詰めた。

神兵級たちは、透明状態を看破する目を保持している。

いや、第六感のようなものでそういった欺瞞、隠蔽の魔法を感知できるのだろう。

だが、木々が密で枝葉が折り重なった天蓋は、天然の遮蔽物として機能し、この察知能力を働かせなかった。

無防備に近づいてきたメキシュ・グラウは、だからやすやすと四人の戦士たちの接近を許す。

アリスたちは懐に潜り込み……。

たまきの一閃が、メキシュ・グラウの首を刈り取る。

その上に乗っていた、下半身が蜘蛛、上半身が人間の姿をした黒い肌のモンスターが、ねばねばした糸を大量に、まるで網のように飛ばしてくるものの……。

そのとき、たまきの首にかかった安産祈願のお守りが、青白く光る。

カノンの歌がこもったお守りが弾け飛び、粘り気のある糸の束が、たまきの周囲に発生したバリアによって弾かれた。

ちからを失った粘糸は、だらりと地面に落ちていき……。

「アリス!」

「はい、いまです!」

そうしてできた隙に、槍を横抱きにしたアリスが飛びこむ。

気合とともに放たれたアリスの刺突が、レジェンドの胸に突き刺さる。

ふたりの一撃は、どちらも致命傷に見えた。

よし、これで二体撃破!

あとはもう片方のコンビだけど、と桜と結城先輩の方に視線を移せば……。

ふたりはメキシュ・グラウに接近しようとして、突如として出現した、メキシュ・グラウ全体を覆う桃色のバリアのようなものに弾かれ、空中でスピンしていた。

「え、なんだ、あれ」

思わず、茫然として呟く。

見れば、ふたりが襲った個体とは別のメキシュ・グラウの上に、ローブの人影がひとつ、急に姿を現していた。

そいつの腕がおおきく振るわれて、その直後……。

電撃が走り、桜の身体を打ちすえる。

結城先輩が、ぐったりとした彼女を慌てて抱えあげ、一時離脱。

ローブの人影は、こちらを見て……。

そいつが、にやりとしたように思えた。

直後、視界が変化する。

ぼくは白い部屋に。

レベルアップしたのは、ルシアとアリスだった。

一回だけ十倍インフェルノを放ったルシアは、肩で息をしていた。

この程度の戦いで、ルシアにこれ以上、無理をさせたくない。

予定通りなら、ルシアの出番はこれでおしまい、あとは休憩してもらうはずだった。

「まさか、計算外の戦力がいましたか」

「そうみたいだ。結構ヤバいところだったから、一度、間を置けて助かったな」

「ん。ちょっと予想外」

ぼくたちは、おおきく息を吐き出す。

「でも、考えていてしかるべきだったよ。なんでメキシュ・グラウが空を飛んでいたのか。飛行魔法をかけたやつが、遠くで待機している必要はない。魔術師系で、しかも風魔法を使えるなら……インヴィジかなにかで姿を消して、すぐそばにいてもおかしくはなかった」

「あの人影、援護系っぽい?」

ミアは小首をかしげる。

うーん、どうなんだろうなあ。

「アリス、たまき、きみたちはぼくらより近くで見ていただろう。どうだ」

「え、ええと……。わたしたち、目の前の敵を倒すのに夢中で……」

ああ、そりゃそうか。

余所見しているような場合じゃなかったよな。

「ルシアは?」

「爆風で、視界が塞がれていました。サクラとユーキがなにかに吹き飛ばされたのは、かろうじてわかりましたが……」

やっぱり、その程度か。

ともあれ、あと一体、モンスターが隠れていたのは確かだ。

ちらりと見たあの人影がバリアを張って、結城先輩と長月桜の邪魔をした。

倒した敵は、最初のルシアの爆発でメキシュ・グラウ一体。

続くアリスとたまきの連続攻撃で、メキシュ・グラウとレジェンド・アラクネが一体ずつ。

合計三体を撃破して、残りは三体のはず……だった。

最低でも、あと一体はモンスターがいる。

そいつは神兵級なのだろうか。

さすがにそこまでの強さじゃないのだろうか。

「ひとまず、いまわかったことだけで対策を講じよう」

ぼくは、皆を見渡す。