軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第195話 国境の砦防衛戦

ぼくがリーンさんに人体実験(意味深)されているうちに、情勢が変化していたようだ。

リーンさんがふと小首をかしげ、呪文の詠唱を中断する。

使い魔でいろいろ監視していたっていうから、それ関係か?

「みなさんが最初に奪還した砦に、モンスターが迫っているとのことです」

「思ったよりずっと早かったわね」

呪文を食らいまくるぼくを見てにやにやしていた志木さんが、緊張した面持ちになる。

っていうか志木さん、さっきまで腕組みして、ほんと嬉しそうに実験されるぼくを眺めていたんだよなあ。

このサディストめ……!

いや、そんなことよりいまは、リーンさんの情報を確認しないと。

リーンさんは、ちょっと厳しい表情をしていた。

ひょっとして……結構、迫ってくる敵の数が多いのか?

ぼくたちの奇襲から、まだ数時間も経っていない。

まとまった数を砦の奪還に向かわせるのは、いくらなんでも難しいだろう。

光の民が迅速な戦力の集中投入を可能としているのは、リーンさんの使い魔テレポート・ネットワークがあってのことである。

となると……。

もしかして、もしかして、神兵級が複数、攻めてきちゃったりする?

そうであっても、いまのぼくたちなら二、三体までならなんとかなりそうだけど……。

「高速の混成部隊で、メキシュ・グラウが四体、確認されております。メキシュ・グラウのうち二体の背中に、レジェンド・アラクネの姿があります。メキシュ・グラウは飛行しているとのことです」

そんな程度じゃなかった。

メキシュ・グラウが四体、レジェンド・アラクネが二体。

神兵級が合計で六体か。

それだけじゃない。

彼女の報告には、もうひとつ重要なことが含まれている。

「メキシュ・グラウが空を飛んでいる、ってどういうことですか」

メキシュ・グラウは四本腕のケンタウロス型モンスターだ。

身の丈六メートル、全長十メートルにもなる巨躯で、炎の弓矢とか雷の剣とか、盛り沢山なヤツである。

でも、ぼくたちが戦ったやつらは、一度も空を飛んだりしなかった。

「翼があるようには見えませんが、空中に道があるかのように駆けています。そういう能力、なのかもしれません」

「ウィンド・ウォーク、かな」

風魔法ランク5のウィンド・ウォークは、空中をまるで地面であるかのように踏みしめることができる魔法だ。

持続時間は、ランクあたり二十分。

いまのミアなら効果時間が三時間である。

出撃前に、魔術師型モンスターの誰かにこれをかけてもらったのだろうか。

ありうることだ。

メキシュ・グラウの移動スピードで三時間も走れば、かなりの距離を移動できることだろう。

「ところで、一昨日あたりまであのあたりに神兵級は確認されてなかったんじゃ……」

「グロブスターで呼んだのかもしれないわ」

志木さんがいった。

ああ、そういう可能性はあるのかー。

「で、本来は攻勢作戦に使うはずだった神兵級を、慌てて砦の奪還に差し向けてきた?」

「あくまで可能性のひとつだけどね」

なるほど、でも筋は通る。

敵も、それだけ必死なのだろう。

「さて、んじゃ迎撃するとして……六体同時は、ぼくたちだけじゃ手に余るな」

「桜ちゃんたち第二チームも投入するわ。結城先輩と啓子さんにも助力を仰ぎましょう」

向こうが神兵級だけで空を駆けて攻めてきたのは、最速で最大戦力を投入することで、こっちが態勢を立て直す暇なく砦を再度、奪うためだろう。

あるいは邪魔な砦ごと破壊するためか。

ぼくは戦略とかがよくわからないけれど、あの砦が敵の包囲の要であることくらいはわかる。

魔王軍は、そんな場所に楔を打ち込まれた。

このままじゃヤバいと思っている。

そう、いまやつらは、ひどく焦っているに違いない。

数日前までは無敵だった魔王軍が、慌てふためいている。

ここで神兵級だけが護衛もなしの六体で攻めてくるというのは、いくらなんでも強引すぎるように思うのだ。

なりふり構わず、本気になって勝ちにきていると。

これまで防戦一方、蹂躙される一方だったこの世界のひとたちにとっては、敵を本気にさせただけでも快挙かもしれない。

でも、それだけじゃダメなんだ。

ぼくたちは一度の勝利におごらず、ひたすらに勝ち続けて、魔王軍の脅威を排除するしかない。

「また二パーティか。でも、あまり数を増やして欲しくないかな」

「ええ、十人ってところ。あなたたちを第一パーティにして、第二パーティは桜ちゃん、潮音ちゃん、百合子ちゃん、忍者ふたり。こんな感じでどう?」

潮音&百合子コンビは、火魔法のランクが8になっている。

槍術9の長月桜と共に、ぼくたちを除く育芸館組のエースチームを形成していた。

昨日のアガ・スーとの戦いでも、その火魔法によって多数の雑魚を焼き殺し、露払いしてくれたのが彼女たちだ。

「では、志木のいう人員を集めます。カズは少し残ってください。カノンの歌で、もうひとつ守り札をつくってもらいましょう。カノン、できますか」

「はい。まだMPはあるみたいです」

あ、歌音の音楽スキルって、MPを消費するのか……。

当然か、これってもはや、一種の魔法だもんな。

音楽関連って白い部屋のQ&Aでもさっぱり要領を得ないから、わからないことだらけなんだよなあ。

「カズさん、どんなお守りを作ればいいんですか」

「そうだな……」

神兵級の攻撃は、どれも激しくヤバいものばかりだ。

でも、そのなかで一番、危険そうなものといったら……。

「乱戦になったとき、レジェンド・アラクネの鋼糸が無数に飛んでくるのは……こっちの人数が多いほど、厄介かな」

「糸攻撃ですか……わかりました、では」

志木さんが出ていったあと、安産祈願のお守りを十個、テーブルに置いて、歌音が歌い出す。

教科書にも載っている、さくらさくらだった。

なぜここで、その歌が出てくるのか……?

そんな疑問が浮かんでくるのはともかく、素人のぼく的には、とても上手な歌に思えた。

音楽スキルの効果だから、きっと歌の上手い、下手に関係はないんだろうけど……。

歌音のさくらさくらは、ゆっくりと波打って、ぼくの心に沁みわたる。

気づくと、ぼくは涙を流していた。

あれ……なんで、こんな。

横を見ると、リーンさんがちいさくうなずいた。

「カノンの歌は、ひとの心を動かします。それがスキルのせいなのか、それとも彼女特有のなにかなのかまでは、わたくしにはわかりかねますが……」

光の民の指導者たる少女は、しみじみと、呟く。

「よい、歌ですね」

「はい」

ぼくは心から同意した。

検証のときにわかったのだが、お守りを複数持っていてもあまり意味はないようだ。

どうしてなのか、まだ詳しいことは不明なのだけど、リーンさんによれば「波の干渉が起き、動作不良を起こす」といった感じの現象が発生しているとのこと。

ゲームでいうと、お守りスロットはひとつ、ってことなのかなあ。

で、お守りは持っているだけで効果を発揮するけど、そのたびに劣化していく。

最終的には壊れてしまうとのこと。

回数制限の使い捨てアイテム、ますますゲーム的である。

いやまあ、それをいったら白い部屋のシステムはすべて、どこかのゲームから持ってきたとしか思えないようなものばかりなんだけど。

いったい、どういうことなんだか。

「がんばってください、カズさん!」

歌音は、そういって送り出してくれた。

彼女の目には、ぼくに対する限りない信頼と尊敬の念がある。

志木さん、ほんとどうやって育芸館の子たちを洗脳したんだか……。

待ち合わせ場所となった世界樹近くの転移門の間には、すでに全員が集結していた。

待たせたことを詫び、出撃する十人全員、安産祈願のお守りを首から下げてもらう。

ルシアは「このお守りの本来の加護は、どのようなものなのでしょう」と興味深そうだった。

ぼくが言葉を濁したところ、ミアが口もとに手を当て、下品に笑った。

「なるほど、ミアがこういう笑いをするようなものですか」

「ルシア、ミアのことをよく理解するようになったな……」

「ん。ちとワンパターンかのう、いけんのう」

いけんのう、っておまえさんどこの人間だよ。

「でも、このワンパターンにこそわたしの生きる道がある」

「そんな生存ルートは燃え尽きてしまえ」

呑気なことをいいあいながら、例によって使い魔の鷹のワープで砦の前につく。

砦では、二百人ほどの兵士が忙しく働いていた。

耳とか尻尾とか身体のどこかが動物っぽさを出しているから、皆が光の民のようだ。

ここはもともと光の民の防衛拠点だったって話だから、それを光の民が守るのは当然、か。

土の精霊を使役する魔術師が、砦の壊れた部分を修復しようと、土壁を盛り上げている。

その横で、一般兵士たちが瓦礫を片づけていた。

どのみち、メキシュ・グラウ相手にこんな石の壁なんてなんの意味もない。

相手は、丘のひとつくらい、まとめて吹き飛ばすような存在だ。

神兵、というクラス分けは伊達ではない。

というか、ぶっちゃけ彼ら、戦いの邪魔になりそうだなあ。

どうせ戦力にはならないし、吹けば飛ぶような兵士を守って戦うのは面倒だ。

「リーン、彼らを退避させてもらえますか?」

ルシアも同じことを思ったのか、頭の上に載せた鷹にそんなことを訊ねていた。

「彼らを囮として扱っても、いっこうに構いません」

「囮って……ああ、そうか。なにも気づかないフリで作業していれば、向こうも少しは油断するってことか……。で、奇襲、と」

ぼくは少しだけ、頭のなかでその案をもてあそぶ。

メキシュ・グラウもレジェンド・アラクネも、隠れている敵を感知する能力があることは確認済みだ。

そしてメキシュ・グラウのその能力が、およそ半径百メートルに及ぶことも判明している。

砦に敵がいれば、メキシュ・グラウたちはまず遠距離から、それを排除しようとするだろう。

炎の矢、邪炎撃の有効射程は一キロ以上ある。

挨拶がわりの一撃でも、砦は致命的な被害を被るに違いない。

でもそこで、ぼくたちの出番だ。

近くの森に隠れ、敵が邪炎撃を放つ直前、ルシアの火魔法10倍化で先制の一撃を加える。

うまくすれば、乗り手のレジェンドを含め、二体を同時に屠ることができるだろう。

その間に、近接戦闘要員が突撃して……。

いや、敵が邪炎撃をいつ放つかなんてわからないよなあ。

もし彼らを退避させた場合、どうか。

敵は、この砦がもぬけのカラであることをすぐ見抜くだろう。

警戒し、場合によっては引き返すかもしれない。

いや、その場合でも砦を破壊くらいはするか?

メキシュ・グラウの邪炎撃があれば、この程度の城塞、破壊することはたやすいように思える。

敵としては、どのみち自分たちを逆包囲することになりかねない拠点を潰してしまえるわけで……。

ふと顔をあげれば、皆がぼくを見ていた。

うあー、ぼくの選択待ちか。

なら、と呼吸を整え、ひとつ咳払いする。

「彼らは砦の内部か、すぐ内部に避難できるところで作業してもらおう。ぼくたちは砦を守りつつ、メキシュ・グラウを引きつけて迎撃しよう」

ぼくは自信を持って、そう宣言した。