軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第192話 虜囚の聖女

心をリフレッシュさせて、白い部屋を出る。

さあさあ、過酷な現実とご対面だ。

なおルシアは、順当に水魔法をランク7に上げた。

ルシア:レベル37 火魔法9/水魔法6→7 スキルポイント8→1

もとの場所、大広間で、戦いが再開される。

といっても、残る敵はジェネラル・オークが二体だけ。

ナーガたちを全滅させて手が空いたたまきにとっては、ひとりでもなんとかなる相手にすぎない。

一体、倒したところで白い部屋に。

アリスがレベルアップしたとのことだった。

「ミア、こっちに来る準備はできたか」

「お客さん、いま出るとこだよ」

「出前かよ」

ちょっと会話して、もとの場所に戻る。

アリス:レベル38 槍術9/治療魔法7 スキルポイント3

大広間に戻った一瞬ののち、たまきがもう一体のジェネラルを斬り捨てた。

これで戦闘終了だ。

なお、ボスのナーガは青い宝石を五個、それ以外のナーガは二個落とした。

ジェネラルは以前と同様、青い宝石四個である。

この一戦だけでトークン210個分の稼ぎ、なかなかといったところだろう。

ぼくたちは、ほかのモンスターの襲撃を警戒しながら、ミアの到着を待った。

上空からの爆撃音は依然として続いている。

時折、砦がぐらぐら揺れた。

高橋百合子と最上潮音、通称ユリシオコンビは、だいぶ気合を入れているようだ。

ちなみに、このコンビ名を決めたのはミアである。

これに関連して下品なことをいっていた気がするけれど、彼女たちの名誉と尊厳のため忘れることにした。

「では、わたくしはしばし隠れておりましょう」

ルシアから事情を説明された鷹が、彼女の頭上から舞い上がり、大広間の隅へ。

ぼろぼろになったカーテンの陰に、器用に潜り込む。

そうだった、聖女さまは、ぼくたちだけに話があるんだっけか。

はたして、しばしののち。

階段の方から、急に音が消える。

サイレント・フィールドだな。

予想通り、数秒後に沈黙の結界はぼくたちの前にやってくる。

すぐに透明化と沈黙が消え、裸の少女を背負ったミアが姿を現した。

「ほい、お届けもの一丁! まいどー」

「またきみは、この世界の住人にわからないネタを……」

ミアは白い素肌も痛々しい裸の少女を床に下ろす。

あー、そういえば今回、布とか渡してなかったからなあ。

リュックサックには、余計なもの入れてなかったし。

膝を折り、床にお尻をつけた少女は、たしかにミアと同じくらいの年ごろに見えた。

未発達の胸もとを隠すこともなく裸身をさらしている。

青黒い汚れた髪の毛はぼさぼさで、腰まで伸びていた。

薄緑色の双眸が、ぼくを静かに見上げた。

痩せて頬がこけ、ひどく痛々しい。

これでもアリスの治療魔法をもらったあとだっていうんだから、ミアたちが発見したときはどんなありさまだったのか。

というか、さっきミアがいろいろ聞きたくないようなことをいってたよな……。

ずっと囚われの身だったはずなのに、妙に手足がきれいなのって……。

つまり、さっきまでこの手足はなかった、ってことなのかな。

それをアリスが、魔法で再生したばっかりだから、綺麗っていう……。

オークたちからすさまじい虐待を受け続けていたのだろう少女は、なんだか奇妙なほど落ち着いて見えた。

ロウンの地底神殿で気丈に耐え忍びつつ反逆のときを窺っていたルシアの親族たちとも違う、なにか異質な感覚。

そう、彼女から感じるのは、貴族的なものじゃなくて……。

うん、なんだろう?

ええと、そうだな、もっとこう、宗教的な……。

「カズっち。せめて布くらいサモンしてあげて」

あ、しまった、つい彼女と見つめあってしまった。

これ客観的に見たら、いたいけな裸の女の子に羞恥プレイを仕掛けているとしか思えない。

事案発生だ。

そうじゃなくても、気が利かないったらない話である。

慌てて不作法を謝罪し、白い布を召喚し、彼女にかけてやった。

少女は床に座ったまま、ぼくから渡された布で身体を隠し、ちいさくうなずく。

「お気になさらずとも、構いません。虜囚の日々で、いろいろと慣れました。貴重な体験をいたしました」

なにいってんだこのひと。

志木さんみたいな皮肉をいうの、やめようよ。

うち、自虐的にレイプ自慢する女性はもう間にあってるんですよ!

「それで、ええと。ああ、ぼくの名前は、カズヒサ。家の名前はカヤ。カズって呼んで欲しい。……あなたは」

「名をポクル、家はハララです。聖女と呼ばれております。もっとも、わたしをそう認定した国は、とうに滅びました」

やっぱり、彼女が聖女なんだ……。

で、ぼくたちのメニー・タンズに相当する魔法を使える、と。

彼女は、ぼくになにを伝えたいのだろう。

「マレビトのカズ。わたしは、あなたと会うため、あなたに言葉を伝えるため、幾多の苦難と試練を乗り越え、ただこの日、このときの邂逅だけを信じ、生き延びてまいりました。どれほどの恥辱も、苦痛も、すべていま、この瞬間のためと思ってこそ」

少女の頬を、一筋の涙が伝う。

彼女から、およそ表情というものが消えていた。

ぞわり、と背筋を走り抜けるものがある。

「マレビトのカズ。伝えましょう、この言葉を。よく聞きなさい。そして、余人には漏らさぬよう細心の注意を払いなさい」

そういって、彼女は告げる。

とびきりの爆弾を、投げつける。

「魔王は、あなたがたと同じマレビトです。魔王の目的は、もとの世界に帰還することです」

それは、たしかにとっておきの核地雷だった。

こりゃ……うん、迂闊に広められない、特別に危険なヤツだ……。

聖女さまは、これまでの疲労ゆえか、ずっと張っていた気が緩んだせいか、ぼくにひとこと伝えたそのあと、すぐ気を失ってしまった。

ぼくたちは、顔を見合わせる。

いまの言葉の意味について考え、途方に暮れて……。

部屋の隅に隠れていた鷹が、ぱたぱた飛んできて、ルシアの頭の上にとまった。

「いまはまだ、戦場です。油断なさらぬよう」

あ、そうだった。

リーンさんのいう通りだ、まだこの砦の攻防は続いている。

とりあえず……爆撃は、そろそろ終わりでいいんじゃなかな。

広間の外に出て、廊下の窓から顔を出し、トランシーバーの電源を入れる。

すぐに応答がきて、攻撃魔法の投下がやんだ。

「現在は、桜ちゃんが中心になって、外に逃げ出すモンスターを殲滅しています。どうぞ」

指揮を執る子の声が、トランシーバーから流れてくる。

「そっちはきみたちに任せてだいじょうぶそうかな。どうぞ」

「はい、問題ありません。あの、内部に部隊を送り込んでもだいじょうぶですか。どうぞ」

「ボス集団は叩いたけど、まだ強いやつがいるかもしれない。気をつけて。どうぞ」

ジェネラル・オークは推定で武器スキルランク7相当の相手だ、これを一対一で倒せるとなると、やはり前衛にランク7以上がひとりは欲しい。

育芸館組も、そろそろ長月桜以外で武器スキルランク7組が出てきている。

その桜はすでにランク9なわけで、彼女なら単独行動でもイケるんじゃないかと思うけど……。

今回は砦の前後の出口を封鎖し、逃げ出すモンスターを殲滅する。

その都合上、どうしてもエースがいない部隊が出てくる。

もしジェネラルがまだ複数いて、それがひとつの出口に向かったらと考えると、あまり余裕があるともいえない。

とりあえず、とぼくは聖女さまの小柄な身体を抱えた。

うわー、本当に軽い。

こんな身体で、これまで、よくがんばったな……。

「彼女には、まだ詳しい話を聞く必要があるよね。……って、リーンさん、この話……」

「わたくしの胸のうちに納めておきましょう」

「助かります」

魔王が、ぼくたちと同じマレビトだった。

魔王はもとの世界に帰りたがっている。

それって、ぼくたちと魔王が繋がっていると勘違いされかねないような核地雷じみた情報である。

ぼくとリーンさんは、すぐそのことに気づいた。

ルシアは黙っているけど、聡明な彼女のことだ、すでに承知しているだろう。

ミアは当然のことである。

たまきはきょとんとしているので、あとで釘を刺そう。

アリスは……あとで伝えればいいか。

「アリスと合流して、砦を脱出する。この子を連れて、リーンさんのところに戻ろう」

そさくさと動き出す。

もうたいした敵は現れないはずだけど、油断大敵だ。

三十分後、ぼくたちは世界樹の中心近く、リーンさんの執務室に戻っていた。

砦ではまだ戦いが続いているようだけど、長月桜を始めとしたほかの子たちでも充分だろう。

神兵級が現れたとしても、いまの桜を中心として慎重に戦えば、なんとかなりそうだからなあ。

で、眠り続ける聖女さまは、リーンさんお抱えの医師に預ける。

傷とかは完璧に塞いでいるから、あとは精神的な問題とのこと。

精神にしても、魔法で治療できる部分はキュア・マインドでなんとかなったはず。

そうとうひどい拷問を受けていたみたいだけど、これまでの例からして、キュア・マインド一発でそのへんのトラウマも全部消えるはずである。

疲れや使っていなかった筋肉の衰えみたいなものは、どうしようもないとのこと。

そのあたりについてアリスに訊ねると「手足の筋肉の衰弱とかは……彼女の場合、だいじょうぶだと思います」という答えが返ってきた。

「えー、どういうことですかね。いい辛いこと?」

「あ、はい、あの……」

「四肢がちぎれていたから」

あ、ミアがあっさりいった。

そういえば、そうだったね。

ひどいことを、とかいまさら考えても仕方がない。

モンスターたちに人間の良心とか期待する方が無駄だ。

手足に衰えがないなら、今後に関してはその方が有利、そう思うことにしよう。

「ん。詳しいこと、興味ある?」

「ないよ!」

いまさらだけど、ほんとに不謹慎だなこいつは!