軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第191話 国境の砦4

白い部屋にて。

ぼくとルシア、たまきは安堵の息をつく。

「あ、あぶなかったぁ。カズさんにもらった魔法が全部きれちゃうなんて。次にボスのナーガがなにかしてきてたら、わたし危なかったよう」

「それがわかっていたから、あえて強引にいったんだな。よくやった、たまき」

褒められて、えへらと笑う我らが核弾頭。

そんなぼくたちを見て、アリスとミアがきょとんとしている。

所詮は狭い砦のなか、ぼくたち五人のパーティは、まだ解散していないから、あの場にいなかったふたりもここに集まっているのだ。

「アリス、ミア。そっちの方は、どうだった」

「捕虜となっていた方々の身柄は確保しました。ひととおり回復もかけましたが……ちょっと、すぐ移動するのは難しそうです」

「そっちに来る敵がいたら潰すだけで充分だ。こっちはボスを倒したから、残りは掃討して、そのあと桜さんたちを出迎える……どうした」

浮かない顔のアリスに問いかける。

アリスはぼくを見上げ、口をきゅっと引き結んだ。

「その……っ」

「ん。捕虜のひとたち、だいぶひどい感じだったから、アリスちんショックを受けてるっぽい」

「あ……そうか。たいへんだったな」

なにせモンスターたちに長く拘束されていた者たちだ。

ぼくたちの学校は、たったの三日で、オークに囚われた生存者がほぼ全滅状態だった。

そのあたりを考慮し、治療魔法が高いアリスを捕虜救出側に向かわせたのである。

「ちょっとリョナすぎて、わたしでもキツイ」

「そんな感想まで求めてないよ!」

「具体的には、アリスちんががんばって皮膚再生とか手足をもいちど生やさなきゃいけなくて……結構MP使ったっぽい」

あー、リヴァイヴを投入せざるを得なかったのか。

ランク7魔法を連打は、MP的にもったいない……といえるのかなあ。

いまのアリスのレベルは37だから、MPは370、つまりだいたい二分でリヴァイヴ一発分のMPが回復するわけか。

「ちなみに、生存者は何人くらいだったんだ」

「全部で七人いたんですが……キュア・マインドを使って正気に戻ってくれたのは、三人だけでした」

「ちなみにお腹がふくらんだりはしてない」

なるほど、ふたりの様子から考えて、どんな感じの扱いだったかは想像できなくもない……かな。

蜂の苗床とかになっていたわけじゃないのは朗報……なのか、それとも、そういうことされたひとはもうとっくにくたばっていただけか。

この砦が落とされたのはおよそ二十日前、とのことである。

この砦にオークが多かったことを考えれば、生き残ったひとたちはよくがんばったといえるだろう。

「それで、あの。捕虜だったひとのひとりが、わたしたちのリーダーに伝えたいことがある、って」

「うん? なにか情報かな」

「なんか、他国の生き残りっぽいよ? しかも聖女がどうのっていってた。ちなみにわたしくらいのロリ」

自分のことをロリとかいうな。

いや……ミアはロリだと思うけど。

そんなことはどうでもいいんだ。

「そのかたは聖女、とおっしゃったのですか」

ルシアが食いついた。

「であれば、おそらくはログニア教国の者……子供ということであれば、失踪されたという第二聖女でしょう。まさか、生きておられたとは」

「どんなひとなんだ」

「ログニアの聖女は、皆、特殊な魔法の使い手です。なかでも第二聖女の魔法は特異で……いえ、しかしカズたちから見れば、たいしたことはないかもしれませんね」

うん、ぼくたちにとってはたいしたことがない魔法?

でもこの世界にとっては特殊で特異な魔法?

……心当たりが多すぎてわからん!

「この白い部屋のスキル・システムで申し上げれば、メニー・タンズです」

へー、メニー・タンズか。

どんな言語でも会話できるってことね、なるほどねー。

たしかに便利かもしれない。

……いや、待てよ。

国を挙げて、これを使って組織的にアレコレするとしたら……。

「ねえ、ひょっとしてそのログニア教国ってさ、モンスターを捕獲して尋問とかしてたんじゃない?」

「そういった噂がございました。その直後、第二聖女は失踪したと」

ルシアはうなずく。

うわー、そのログニアの第二聖女って子、ひょっとしてめちゃくちゃ重要な情報を握ってるんじゃ……。

「なにがあったか、推測はできる?」

「これまでは、まったく不明でした。彼女の失踪によってログニアにおける魔王軍の情報収集計画は頓挫したと聞きましたし……かの国もいまやなく、渓谷に位置する脱出困難な地形ゆえ、関係者もそのほとんどが国と運命を共にしたといいます」

うわー、うわー、うわー。

なにそれ、めっちゃきなくさいんですけど。

そんな重要情報を持つその子が、ぼくにいいたいことがあるって……。

「ミア、きみの意見を聞きたい」

「たぶん、めちゃくちゃヤバいこと」

「だよなあ」

ぼくは肩を落とした。

いやはや、これ、とんだ爆弾が降ってきそうである。

今回は楽勝の殲滅任務だと思ったら、これだよ……。

「かといって、断る手はない」

「わかってる。情報はちからだ。ミア、ラスカさんたちの護衛はアリスに任せて、その聖女だけでもこっちに連れてこられるか。道中の安全は確保してあるし、インヴィジして走ればなんの問題もないはずだけど」

「わたしに、ひとひとり抱えてこいと? ……カズっちの付与魔法がかかってるから、普通にできるけど」

ミアが三階まで来るころには、こっちの掃除も終わってるだろうしね。

ひょっとしたら、ほかの捕虜がいる前では話せないことかもしれないし。

ならば、安全地帯に戻ってからじゃいっそう、話し辛いことかもしれないし。

そうなると、混乱していて他国の目がないいまが最大のチャンス、ということになる。

あー、いちおう、リーンさんの使い魔の鷹がいるわけだけど……。

「ルシア、この話ってリーンさんが聞いてもいいことだと思う?」

「ぜひともリーンに聞いてもらうべきだと判断します。ただし、鷹には隠れてもらった方がいいでしょう」

なるほどね、その聖女を騙すかたちになるけど……その方がスムーズにいきそうか。

「ですが、いまはともかく今後もずっと、あなたがたとリーンの利害が一致するとは限りません。あくまで……」

「それは違う、ルシア」

ぼくは首を振る。

「ルシアを含めたぼくたち全員の利益と、リーンさんの利害だ」

「はい。……そうでしたね、カズ」

ルシアはあまり表情を変えずにうなずく。

でも、その頬が少し緩んでいるように見えた。

ほんのわずか、赤面しているようにも。

しばし、ぼくたちは見つめ合い……。

「今後の家族計画について、会議?」

「ミア、きみは雰囲気をだいなしにする天才だな」

「そんなに褒めなくても」

わざとらしく、照れた風を装うミア。

激しく殴りたい、この笑顔。

「ちなみにいまのは嫉妬とかじゃなくて、ボケをかましたくて仕方なかっただけ」

「どうしてきみは、残念アピールにそんな熱心なんだ……」

さて、今日初めての白い部屋だ。

というわけで、ぱーっと遊ぶことにした。

白い部屋の外の状況は殺伐としているけれど、いやだからこそ、鬱屈した気分を発散させておかなければやってられない。

隣の部屋をプールに切り替えて、水着に着替え、泳ぐ。

ルシアはぼくたちと会うまで泳ぎというものを知らなかったようだけれど、少し教えただけで、たちまちクロールをマスターした。

たちまち、誰よりもいいタイムを出すことができるようになる。

やっぱり彼女、運動神経がものすごくいい。

ずっと戦士として育てられてきたからなのか、筋肉を使うコツみたいなのを身につけているように思う。

ちなみに、水泳の二番手はミアだ。

あのニンジャの妹だけあって、引きこもりオタクのくせに、こいつもやたらと運動神経が発達している。

そういえば、空を飛ぶ技術は一番なんだよな、こいつ。

「ん。カズっちがわたしに見惚れている?」

「きみのフォームが見事だと思うのは、うん、まったくその通りでほんと素晴らしいと思うよ」

「わたしの体型がデコボコ少なくて泳ぎに最適といいたいのだろうか」

ミアは平坦な胸に手を当てる。

なぜこいつは、悪意に捉えるかな。

……いや、ほめられて恥ずかしいのか?

五十メートルのプールを折り返して、百メートル泳ぎ切ったあとだけに、少し息を荒げて顔を赤くしている小柄な少女が、水のなかからじっとぼくを見上げてくる。

あ、ちょいちょい、と手まねきしている。

これ、ぜったいイタズラ仕掛けてくるよな……。

まあ、いいか。

ぼくはわざと無防備を装い、プールサイドのミアに近づく。

ミアはぼくの手をとって、引っ張り、プールのなかに引きずり下ろす。

ええい、そうくるのはわかっておったわ!

黙ってやられるぼくだと思うなよ!

頭から水面に突っ込んだそのタイミングで、ぼくはミアの首に腕をからませる。

もみあうように、ふたりで水中に没する。

水のなかで、もがくミアを見つめ……。

ぼくは彼女の唇に、軽くキスをした。

ミアが、びっくりしたように硬直する。

「いまのは、卑怯……っ」

水面にあがったあと、ミアは妙におとなしかった。

なぜかうつむいたままの彼女に、たまきが心配そうに話しかけている。

「うまくケアしましたね」

ルシアがすれ違いざま、小声でいった。

うわ、見てたのか!

白い部屋ではおなかが空かないけれど、料理を食べようと思えば食べられる。

隣の部屋をプールから草原に切り替え、サモン・フィーストで豪華な料理を出して、謎の青空を見ながらのんびりとご飯を食べた。

ルシアだけはケーキやらパイやらクッキーやら、お菓子をむさぼり食らった。

「ずっと、ずっとこの部屋にいられればいいのに」

アリスが、ぽつりと呟いた。

「カズさんと、わたしたちみんなと、この部屋でずっと過ごせれば……」

「この部屋で何十年も過ごしたあと、もとの場所に戻ったら、高校生と中学生に戻るわけか。それはそれで、ロマンがあるけど……なんか倦怠期になってそうだな。それに……なんかそれは、逃げな気がする」

「やっぱり……そうですよね」

魅力的な提案だと思う。

でもそれって、きっと白い部屋を出たあとの苦痛が増すだけだとも思う。

この部屋での出来事は、しょせん、夢みたいなものなんだから。

「できれば、ぼくはみんなと一緒に生きた分だけ、一緒に老いていきたいな」

ぼくがそういうと、アリスははにかんだ笑みを見せ、「はい」とうなずいた。