軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第189話 国境の砦2

ぼくたちは、世界の命運をかけた昨日の戦いに勝利して、破滅の予言を覆した。

本来、存在しなかったはずの今日という日。

とはいえ、状況が依然として厳しいことに変わりはない。

ぼくはすみれのもとを訪ねていたアリスたちと合流した。

「やっぱり休みは取れなかったよ……。このあと、出撃だ」

「わかったわ、ちゃっちゃとやっちゃおう!」

たまきが元気にいう。

アリスも、その横で「がんばりましょう」とうなずく。

そしてミアとルシアは……。

「ん。経験値を稼げる。いいこと」

「もっとレベルを上げたいですね」

いかん、もう手おくれなミアはともかく、ルシアまで効率厨になってしまった。

ぼくは悲しいよ……。

よよよ。

「カズ、なぜ泣き崩れる真似をするのです?」

「ルシア。これはわが国の伝統文芸。いやよ、いやよも好きのうち」

「つまり、ミア?」

「襲っちゃっておーけー」

ぜんぜんおーけーじゃない。

小首をかしげているルシアに「気にしないでくれ」となにごともなかったかのように笑いかける。

さて、頭を切り替えて……。

「モンスターたちに占領された辺境の砦では、光の民と逃げそこねた難民が捕虜となっている可能性がある。でもそのひとたちの命は、あまり気にしなくていい、といわれた」

「あの……そんなこといわれても」

アリスが遠慮がちに、ぼくを見る。

上目遣いの視線がなにを訴えているのか、わからなくもないんだけど……。

「アリスもこれまで、見てきただろ。モンスターに捕まった人間が、まともな扱いをされているとは思えない。死んだ方がマシ、って状態ならまだいい方で……」

「はい。あの、カズさんがいないときにわたしたち、志木さんと一緒に蜂の卵を植えつけられたひとたちを助けて……」

アリスは震える拳をぎゅっと握る。

「でも、今度はどうか、わからないです」

「そうだね。でも、ぼくとしては、それできみたちが必要以上の危険にさらされることは許容できない。ミアはどう思う?」

「はらぽてとか、カズっち結構萌えるよね?」

勝手にひとの性癖を断定しないでいただきたい。

ひとまず、ミアの頭をぽこんと叩いておく。

なかなかいい音がした。

頭を押さえ、涙目で見上げてくるミア。

「ひどい」

「絶対にきみの方がいろいろひどいよ!」

ああもう、話が進まない。

ひとまずそのあたりは置いといて、作戦を伝えていく。

「今回は、ほぼ中等部だけで砦ひとつを攻略することになった。何人か、サポートの現地民は入るけどね。というか、嵐の寺院で一緒になったラスカさんたちなんだけど」

「ああ、あのくさい女戦士」

「ミアお前、それ本人の前でいうなよ。絶対にいうなよ」

「押すなよ、絶対に押すなよ?」

今回に限っては、そうじゃない。

「いやほんとマジで頼むからな!」

「わかっておる。拙者、女戦士の心を折るのは、ベッドのなかでのみと決めておる」

もうほんとどっからツッコんでいいかわからない……。

「あんまりそういうことばっかりいってると、『これだから忍者の妹は』っていうからな」

「ひどい、あんまりだ」

「カズさん、それはさすがに、あんまりです」

なぜかアリスからも抗議された。

あれー? なんでー。

いや、そんなことはどうでもいいんだ。

「二チームに分かれる。砦内部に侵入するぼくたち五人にラスカさんたちを加えた突入隊と、上空から火魔法や風魔法で爆撃を行って敵の目を引きつけるチームだ。上空のチームは、敵が逃げ出したりしないよう監視することも任務のうち」

ぼくは説明を続ける。

内部から潜入したぼくたちは、さらにふた手に分かれる。

アリスとミアのふたりは、ラスカさんたちと共に透明になって捕虜を解放する。

ぼくとたまき、ルシアの三人は、砦を指揮するモンスターを倒すため、敵をなぎ倒して深部へ赴く。

ただし、どちらかでトラブルがあった場合、迅速に合流して、砦の指揮官を潰すことに専念する。

「事前の偵察によって、砦の戦力は、その大半がオークだと判明している。正直いって、いまのぼくたちなら楽勝のはずだ」

「でも油断したらくっころ」

「注意を促してくれているのはわかるけど、ほかのひとがわからないスラングはやめよう、ミア」

もちろん、ゾラウスのようにピンポイントにヤバいモンスターが紛れ込んでいる可能性はある。

未知の存在の危険性は、常に念頭に置いておくべきだ。

そのあたりを差し引いても、今回の敵程度なら、なんとかなる……と思う。

「砦の指揮官って、ジェネラル・オークとかかなー?」

「いや、メイジ系のようだ。ローブに身を包んでいたから、よくわからなかったとリーンさんはいっていた」

「あ、リーンさんの鷹で偵察したんですね」

たまきとアリスが、うんうんうなずく。

こうした偵察はぼくが何度もやっているから、だいたいどんな感じか、みんなが理解しているもんな。

「いちばん気をつけるべきは、砦のなかで迷わないことだ。地図を用意したから、よく頭のなかに叩き込んでくれ」

コピー用紙に丁寧に描かれた砦の内部図を見せる。

ちなみにこれ、すみれたちが昨夜、徹夜気味の作業で描いたものだとか。

「あ、さっきすみれちゃんのテーブルにあったやつね!」

「とてもお疲れだったみたいですから……この作戦のため、だったんですね」

そのすみれたちは、いま隣の木のうろで寝袋にくるまって寝ているとのことだ。

彼女たちには心から感謝したい。

日の出から三時間ほどのち。

ぼくたち五人とラスカさんたちサポート役の現地民三名、総勢八名は、リーンさんの鷹による転送ネットワークで砦の近くまでテレポートし、秘密の入口である枯れ井戸に入った。

井戸の底の隠し扉から続く地下道を早足で五分ほど歩き、砦の内部に無事、潜入する。

ほぼ同じタイミングで、砦がおおきく揺れた。

別ルートでテレポートしたという火魔法の使い手、潮音&百合子による高度からの爆撃だろう。

ほかの育芸館組も、ありったけの魔法を叩きこんでいるはずだ。

「これは……ものすごいですね、まるで天が落ちてきたかのようです」

激しい揺れに、ラスカさんたちがわりと怯えていた。

まあ、無理もない。

モンスターの悲鳴とうなり声が、あちこちから聞こえてくる。

周囲はどたばたと騒がしい。

幸い、ぼくたちが現れた隠し戸がある砦の隅近くは、モンスターたちにいっさい使用されていないようだった。

ぼくはここで使い魔を召喚する。

さすがに狭い通路でシャ・ラウは使えないので、パラディンの出番だ。

ランク9の使い魔、パラディンを二体、召喚する。

兜で顔を隠し、鋼鉄の全身鎧に身を包んだ男がふたり、姿を現す。

地味なようでいて、すさまじい威圧感のあるふたりだ。

白い部屋で的にしても黙って従ってくれるナイスガイでもある。

彼らとぼくたち全員に、定番の付与魔法をかけておく。

万一にもゾラウスがいる可能性を考慮し、アイソレーションも。

念のため、火レジも入れておこう。

それから、ぼくは自分にトゥルー・サイトをかける。

これは付与魔法のランク9で、マナや幻影、そのほかすべての魔法的な隠蔽を見破るというものだ。

嵐の寺院のボス、ヴォルダ・アライがやったみたいに、雑魚に化けてこそこそするようなヤツに対する用心である。

「ん。じゃあカズっち、いってくる」

「頼んだぞ、ミア、アリス。ラスカさんたちも、ご無事で」

「はい! ラスカさんたちのことは、任せてください!」

アリスに任されてしまって、大人であるラスカさんがいささか複雑な表情になる。

いや、実力的にはこの世界のひとたち、完全に足手まといだからさあ。

それでも今回は、捕虜のケアとかいろいろ考えたら、ぼくたちだけだといささか手が足りない。

ミアがサイレント・フィールドで音を消し、グレーター・インヴィジビリティで彼女自身とアリス、ラスカさんたち三人を透明化する。

トゥルー・サイトをかけたぼくにだけは見えるのだが、アリスは移動を開始する直前、一度こちらを振り返り、笑顔でうなずいてみせた。

五人が駆け出し、遠ざかっていく。

サイレント・フィールドの範囲から彼女たちが消え、ぼくたちの周囲に音が戻る。

ぼくのもとに残ったたまきとルシアが、ほっと息を吐き出す。

なにも聞こえないと、緊張するよね。

「それじゃ、カズさん、いこう!」

「あ、ああ」

ルシアの肩にとまる鷹を、ちらりと見た。

リーンさんの使い魔だ。

通信と、緊急時のテレポート役を果たす。

これは、三日目の午前中、グロブスターの強制テレポートに巻き込まれた経験からぼくが要請したものだ。

リーンさんの使い魔と一緒なら、いざというときでも転移門をひらいてもらい、帰還することができる。

まー、さすがにテレポート・トラップなんかないと思うけど……。

砦の本丸の三階に、大広間がある。

敵のボスがいるとしたら、おそらくはそこだろうとのこと。

この隠し戸の間からはそう遠くないうえ、正面ルートからは反対側となっている。

大広間からこの隠し戸まで、敵の侵攻ルートを避けて逃げ延びることができるように設定されているのだから、当然のことだ。

このルートは、敵も想定していないことだろう。

だからこそ迅速に突入し、敵の頭を落とすという作戦が提案されたのだ。

「この先になにかいるわ」

「なんでもいい、蹴散らせ」

通路を出たところにいたのは、オークが三体。

すべて、たまきが一瞬にして斬り殺した。

もはや、この程度では壁にもならない。

階段の前にエリートが二体、立っていた。

こちらを振り向き、威嚇するように唸って剣を掲げ……。

きる前に、たまきの剣が両方の首を刎ねている。

わかってはいたけど、蹂躙って言葉がぴったりな状況だなあ。

初日にあれだけ苦戦したやつらが、悲鳴すらあげさせてもらえないまま、ばたばたと倒れていく。

「いまさらだけど、ヘイスト、いるか」

「いちおうちょうだい!」

よし、とぼくはディフレクション・スペルからのヘイスト。

まったく役に立っていないパラディン二体も、これで光に包まれ、動きが機敏になった。

いや、彼らはあくまで、ぼくとルシアへの護衛だからね。

たまきが先頭になって、ぼくたちは階段を駆け上がる。

一気に、三階へ。

階段の頂上が控えの間で、そのすぐ先が大広間だ。