軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第186話 4日目の終わり

ぼくたちは四天王の一体、アガ・スーを倒したが、それは別の四天王アルガーラフの裏切りによる弱体化があってのものだった。

アルガーラフの目的は、不明。

だがどうやら、彼は魔王に使役される契約から解き放たれ、反旗を翻しているようだ。

ミアがアルガーラフから引き出した言葉は、おおきなヒントになる。

彼は、いまぼくたちを殺すべきではないと判断した。

敵の敵として、利用できると。

魔王は、楔を抜いて大陸を沈めようとしている。

アルガーラフは、魔王にそれをさせたくないようだ。

そして、彼は……ぼくたちに、四本目の楔を守れ、といった。

昼に別動隊が吹き飛ばしたはずの聖都アカシャやハルーランの尖塔にあった楔ではない。

ロウンの地底神殿、ガル・ヤースの嵐の寺院、そしてこの地の世界樹。

それとは別に、もう一本、これまでぼくたちが知らなかった楔が存在するのだと。

そして、それは……。

マレビトの山を捜せ、と彼はいった。

ぼくたちマレビトの山、といえば、もちろん、あの学校の山のことだ。

「もしかして、ザガーラズィナーがぼくたちの山を襲ったのって、いやそれ以前にオークたちが学校を襲ったのって……そこにある楔を手に入れるためだった?」

「そうかもしれないでござるな。とはいえ、推論を立てるにしても材料が少なすぎるでござる」

忍者が腕組みして、唸る。

「とはいえ、その話はあとにするでござるよ。皆のもとへ戻るでござる」

疲れ果てた身体で拠点に戻り、リーンさんと志木さん、結城先輩、ルシアと軽く会議を行なった。

議題の中心は、黒翼の狂狼アルガーラフの行動と彼の発言だ。

彼との接触はごく短時間だったが、その口から洩れた言葉はぼくたちを驚愕させるに充分だった。

「アルガーラフの件については、緘口令を敷きます」

リーンさんの言葉に、皆がうなずいた。

いま、この情報はあまりにも危険だ。

まかり間違って、モンスターと共存できるなどという思想が支持を広げる恐れすらある。

和平派、と呼ばれるものたちの正体はドッペルゲンガーだった。

彼らの行動には、なんの希望もなかった。

ただの破壊工作にすぎなかった。

だがアルガーラフの存在は、それらとはまったく次元が異なる。

人類の敵として破壊をまき散らす災厄、四天王の一体が魔王に反旗を翻したのだ。

これであらぬ希望を持つなという方がおかしい。

でもそれは、きっと……危険な思想だ。

実際に対峙したぼくたちだから、理解できる。

アルガーラフは、けしてぼくたちの味方ではない。

中立ですらない。

ただ、敵の敵が生まれた、いやその存在が露になったというだけの話だ。

今回は、お互いに利用できるから、利用した、それだけのこと。

たしかに、敵の敵は利用できることもある。

ぼくは異世界二日目の夜、ギリギリまでそのことで迷った。

シバを殺すべきか、それとも適当なところで見逃し、モンスターの数を削るための防壁として利用するべきかと。

結果的に、それでもぼくはシバを殺した。

彼の思想は、育芸館にとって危険になりうると判断したからだ。

今回も、そのパターンになる可能性は充分にあるというか……十中八九、そうなるんじゃないだろうか。

だから大衆や考えなしの者たちにそこを勘違いされるのは……とても、困る。

敵を、アルガーラフを侮るような、軽く見るような考えが出てこられては、致命的なところで足を引っ張られかねない。

リーンさんの言葉は、全面的に正しい。

「六本目の楔……学校の山の件が、目下の問題でござるな」

「それって、つまり。わたしたちがこの世界に召喚されたのって、ただの巻き添えってことなのかしらね。召喚者がこっちの世界に持ってきたかったのは、ただあの山だけで、わたしたちはそれにくっついてきた虫ってこと?」

「待って、志木さん。でもそれじゃ、ぼくたちに与えられたこのスキルとか、用意周到な白い部屋とか、そのへんの意味がわからなくなる」

ぼくたちの話を聞いていたルシアが首を振って、「この話は、また後日とした方がよろしいでしょう」といった。

「皆、疲れきっています。いまは身体を休めることが肝要かと」

懐から取り出した腕時計をちらりと見れば、すでに時刻は夜十時をまわっていた。

たしかに……ぼくもいい加減、身体を休めたい。

アリスたちは、もう床に就いてるかなあ。

「そうですね。わたくしも、残務は代理の者に任せるとしましょう。怪我をした兵士の治療については……志木、田上宮、引き続きあなたがたの部下を借りてよろしいですね」

「ええ、こっちとしても、なるべく自分たちを高く売りつけたいもの」

「MP回復の時間もあるゆえ、交代で休ませてやって欲しいでござるよ」

治療魔法の使い手は、いまや引っ張りだこだった。

身内の治療だけでなく、いまも各国連合軍の重傷者たちを癒してまわっている。

モンスター軍が次にどう出てくるかわからない以上、戦力の回復は急務であった。

「モンスター軍も、遠征軍の三分の二以上を失いました。ガル・ヤースとロウンへすぐに新たな軍が派遣される恐れはないと、われわれは判断しています」

リーンさんはそういうが、しかし世界樹を囲むモンスターの軍勢は、未だその主力の大部分を残している。

そもそも遠征軍の失われた三分の二というのは、二か所の楔を自爆させることで得た戦果だ。

ぼくたち以外の人類軍は、まともにモンスター軍の精鋭、ことに神兵級と戦う術がない。

こんな状況で、これから先、どこまで戦えるのか。

いやそもそも、モンスターたちのボスである魔王とやらは、いったいなにを考えて軍を動かしているのか。

そして魔王から離反したアルガーラフの狙いとは……。

ああ、もう。

考えなきゃいけないことばかりで、頭痛すら覚える。

「ひとまず、みなさん。今日はゆっくりお休みください。……それと、カズ。以後、住居を増やす場合、ひとこと断ってからお願いいたします」

あ、はい。

昼に召喚魔法でコテージを出したこと、釘を刺されてしまった。

ルシアがくすりとする。

いまの彼女は、出会ったころと違い、だいぶ自然な笑顔を見せている。

そんなルシアを見て、リーンさんが少し嬉しそうにしていた。

「カズ。これからも、ルシアを頼みます」

「えーと、はい。男として責任は、ええ」

「もう少し、しっかりと断言していただけると、ルシアの友人として安心できるのですが」

「自信なさげで申し訳ないです……」

志木さんが、くすくす笑う。

結城先輩は面頬で表情がわからないけど、肩を震わせているから、きっと笑いをこらえているんだろう。

ああもう、ぼくは情けないなあ。

会議のあと、中等部の拠点にいって、集めてあった武器防具をハード・ウェポンとハード・アーマーで強化した。

MPが枯渇するまで、それを続ける。

付与魔法がランク9になったいま、これで多少は皆の生存能力が向上すれば嬉しいのだけれど……。

なお、今日の戦いで中等部の死者はゼロだった。

でもそれは、ただ運がよかっただけにすぎない。

隣で戦っていた高等部では、最後の戦いでさらにひとり、死者を出したという。

「合計で、高等部の死者は四人か」

「もともとの数がわたしたちより多いし、ほとんどの人員が戦闘に参加しているとはいえ……彼らの士気も心配ね」

「どうだろう。二日目まででさんざん、知り合いの死ぬ様子を見てきたんじゃないか」

志木さんは少し考えたあと、首を振って「そうね」といった。

ぼくを見つめてくる。

「な、なんだよ」

「ううん、カズくんは強くなったな、って」

「……なんのつもりだよ」

志木さんは、にやりとする。

「お御輿さんのリーダーは、いい気にさせておくに限るわ」

「本音が出過ぎだろ!」

ルシアがくすくす笑った。

ああもう、ぼくはどうせ、道化ですよ!

その後、暗い森のなかを、ルシアとふたりで、昼に召喚したコテージに戻る。

その途中で、少しいちゃいちゃした。

誰も見ていないのをいいことに、互いの手をからめ、時折キスしながらゆっくりと歩く。

「女としての喜び。自分にこんな日が来るとは思いませんでした」

「戦って、死んでいくと思っていた?」

「はい。それに、まさか姉たちを助けることができるとは」

ルシアは立ち止まり、ぼくの顔を覗きこむ。

頼りない双月の明かりのもと、微笑む。

「カズ。あなたのおかげです」

「ぼくはただ、がむしゃらだっただけだ。任務だった。今日を生き延びて、明日の朝日を見たかった。大切なひとたちを守りたかった」

「それでも、感謝の言葉をいわせてください。わが国の民を代表して。いいえ、わたし個人として」

ルシアは、なにごとか呪文のような言葉を紡いだ。

「それは……?」

「もう捨てた名です。……かつてわたくしの名であったものです」

それは、どこまでもぼくについてくる、といった彼女の決意なのだろう。

だからぼくは、ただ「そうか」といった。

もう一度、唇を重ねる。

コテージの居間のソファで、アリスとたまきとミアが眠っていた。

どうやらぼくたちを待つつもりが、待ちくたびれて寝てしまったようだ。

申し訳ないことをした。

風邪を引くといけないので、白い布を召喚して、肩にかけておく。

お風呂にも入りたかったが、本当に眠かったので、さっさと上の階にあがった。

ルシアはお風呂に入るとのことだ。

「風呂というのは、いいものですね」

どうやら彼女の国には、お風呂の文化がなかったようである。

まー、あのあたり、乾燥してたからなあ。

ベッドに転んで目を閉じると、またたく間に眠気が襲ってきた。

考えなきゃいけないことはいっぱいあるはずなのだけれど……。

どうやら、意識が飛ぶ方が早そうだ。

こうして、終末を予言された四日目が終わりを告げる。

ぼくたちは予言を覆した。

世界は、明日も続く。

そして……。

未知の五日目が来る。

すべての常識が覆る、驚天動地の世界が、始まろうとしていた。