作品タイトル不明
第183話 狂乱の樹海4
アガ・スーとの戦いは、戦力拮抗、膠着状態のようだ。
午前中、ザガーラズィナーからは逃げの一手だったことを考えると、いくら十二人パーティでかつ世界樹の加護があるとはいえ、膠着状態に持ち込めるだけすごいといえるかもしれないけど……。
この戦いに勝たなきゃ、世界樹が終わる。
世界樹が終われば、大陸が終わる。
ぼくたち全員、オシマイだ。
拮抗のまま戦いが続いても、こっちのMPがきれたとたん、蠢く樹海の主たる蔓状植物、ランペイジ・ソーンによって押し込まれるだろう。
持久戦はこちらに不利と考えるべきである。
ここは、リスクをとっても勝ちにいかなきゃいけない。
「たまき。そもそも啓子さんの剣が弾かれたのって、外皮が分厚かったからか?」
「え、どういうこと」
「彼女の武器は、きみが持っているのと同じ、ジェネラル・オーガの持っていた魔剣だ。その威力は、ぼくたち全員がよく知っている。ザガーラズィナーだって、その剣を自分の身体で受けようとはしなかった。……そうだよね」
ザガーラズィナー戦では、あの化け物の肌に傷ひとつつけられなかった。
鬼王は、たまきの斬撃を避けるか打ち合うか、あるいはマナの盾で防ぐかで対処していた。
でもそれは、あいつがたまきの武器に傷つけられることを嫌がった、ということでもある。
そもそもザガーラズィナーは、初手、不意討ちでたまきを狙った。
あいつは、彼女が一番厄介だと認識していた。
彼女の武器がザガーラズィナーに通じないなら、そんな判断はしないだろう。
ぼくは、そういったことを説明する。
ちらりとミアを見ると、彼女は「カズっちの言葉、一理ある」とうなずいている。
「アガー・スーの身体が、ザガーラズィナーよりずっと堅い……とかですか」
アリスが小首をかしげる。
「その可能性もあります。検証するためには、さらに戦いを継続し、データを集める必要があるでしょう」
「でもいま、そんな悠長なことをしている時間はないだろう」
ルシアとぼくは、目くばせをかわす。
お互いに、そのあたりは認識を共通させていると理解しあう。
「ルシア、啓子さんの剣になにが起きたか、仮説はあるか」
「ザガーラズィナーのマナの盾は、赤く光っているがゆえ、わかりやすかったのです。これが仮に透明な盾であれば、どうでしょう」
「あっ、そっか! バリア張ってるかもしれないのね!」
たまきが、ぽん、と手を打つ。
うん、ぼくも一番疑っているのは、それだ。
確証はまったくないし、敵を過小評価しているようで、それをもとに作戦を構築するのは危うい気がするんだけど……。
「でも、アガ・スーは魔法を使うとき、目をぴかーって光らせているわ」
「それなんだけどな。あちこちの目がぱちぱち光ってるから、どの目がどんな魔法を使ったか、上空から観察してもよくわからないことが多くて」
ましてや地上では、さっぱりというところだろう。
氷弾とかなら自分を狙う目だけ見ていればいいだろうけど、地面から飛び出てくる岩とかはどの目がやったかわからないだろうしなあ。
「バリアが全周囲かピンポイントか、って部分も考慮しなきゃいけない。それぞれで作戦のオプションが変わる」
「うーん、難しいねえ……」
「すでに三人レベルアップしてるから、また白い部屋に来られるかどうか、わからない。いろいろな事態を想定して、それぞれ作戦を立ててみよう」
本当は、こういうときこそ白い部屋に結城先輩と啓子さんがいて欲しいところだ。
二パーティにわかれていると、戦闘中の意思疎通も難しい。
そんなことを愚痴ったところ……。
「MMOのレイド機能とか入れてくれないか、この部屋の主に聞いてみるとか?」
「あー、ダメモトでやってみるか」
ミアの提案のもと、PCに要望を入力してみた。
返答まで、珍しくワンタイミングの遅れがあった。
『困難である』
その文字を前に、ぼくたちは顔を見合わせた。
これまでとは、明らかに様子が違う。
「ミア、隣の部屋を要望したときは、どうだった」
「すぐに『検討する』って出た」
うーん、なんかこう、なかのひとが人間臭い反応してるなあ。
いまさらのように、白い部屋の主について興味が湧いてくるけど……。
それより、目の前の戦いについて考えるべきか。
基本的なパターンは三つ。
・アガ・スーはバリアを張っていない。
・アガ・スーはピンポイント・バリアを使用している。
・アガ・スーは全周囲バリアを張っている。
一番上のパターンは、もはや目や口といった急所を狙う以外、方法がない気がする。
二番目のパターンなら、前後左右から同時攻撃という少年漫画的なやりかたで打破できるかもしれない。
三番目が微妙に厄介だけど、これもやりようはあって……。
「ん。Q&Aの結果、全周囲型バリアは無差別型あるいは対象指定型ディスペルで解除可能、と出ました。はい拍手」
PCに質問を連打していたミアが振り返る。
まばらな拍手が起こる。
「ディスペルを使えるのは、カズさんとアリス先輩ですね」
桜がいった。
うん、その通り。
具体的には、付与魔法のランク6にディスペル・マジック、治療魔法のランク3にディスペル、ランク7にグレーター・ディスペルがある。
それぞれ微妙に効果が違って、治療魔法ランク3のディスペルは目標への接触が必要で、特定のひとつの魔法をキャンセルする。
グレーター・ディスペルは遠距離に対して発動可能で、距離はランクにつき5メートル。
ディスペル・マジックはそれらとは少し異なり、射程は10メートルで固定、かつ対象にかかっている魔法をすべて解除してしまう。
「んじゃ、カズさん。アリスがグレーター・ディスペルを打てば解決?」
「それが、そうでもない。グレーター・ディスペルは、対象にかかっているどの魔法を解除するか指定して撃たない場合、解除する魔法は対象にかかっているものからランダムに選ばれる。つまりアガ・スーにかかっている魔法が十個あった場合、運よく全周囲バリアを解除できる確率は十分の一だ」
「じゃあ、グレーター・ディスペルを連打すれば?」
「アガ・スーが自分に魔法をかけ続けて邪魔する可能性がある。いや、少なくともぼくならそうする。あれだけ目があって、目ごとに魔法の使用が可能なら、なおさらだ」
向こうがグレーター・ディスペルの仕様を正確に把握しているかどうか、ぼくたちにはわからない。
これまでの交戦経験からいって、ぼくたちの魔法とモンスターの魔法はかなり似ているから、アガ・スーほど高位のモンスターならそれくらい理解していてもおかしくないと思う。
だとすると、グレーター・ディスペルの連打は分の悪い賭けだ。
「ま、あくまでも相手が全周囲バリアを張っていた場合、の話なんだけどね。それ以外のパターンなら、ほかの方法で対処できる」
ぼくたちは綿密な打ち合わせを続けた。
一応、これなら、という作戦ができあがる。
計画に穴がないか、精査したあと、桜の運動スキルをランク2に上昇させ、白い部屋を出た。
桜がポイントを保留にしていたのは、このまま運動スキルを上昇させていっていいものか迷っていたから、とのことだが……。
「啓子先輩を見ていて、このまま運動でいけると」
あ、うん。
グレーター・ニンジャはあんまり参考にしない方がいいと思うんだけど……。
あーでも、陸上の得意なきみならできるかなあ。
桜:レベル25 槍術9/運動1→2 スキルポイント4→2
※
もとの世界に戻ったあと、打ち合わせに従い、ミアがディメンジョン・ステップで消える。
結城先輩のそばに出現し、なにごとか会話する。
高等部のリーダーたるニンジャは、ミアと話をする間もせわしなくアガ・スーの枝葉を打ち払っていた。
数秒で、会話は終了。
思ったよりずっとはやく終わった。
やっぱあの兄妹、意思の疎通がスムーズだ。
で、結城先輩は啓子さんに呼びかけ、連係した攻撃に出た。
アリスとたまきも動き出す。
四方向からの同時攻撃を、アガ・スーは無数の枝葉で捌き続けるが……。
「いくわよーっ」
啓子さんが、また強引かつ華麗な身のこなしで蠢く枝の内側に滑り込む。
気合一閃、見事な一撃を叩き込んだ。
ほぼ同時に、アリスが槍の柄を伸ばし、アガ・スーの幹に刺突を見舞う。
アガ・スーは、その両方を耐えきった。
槍と剣が弾かれる。
それとほぼタイミングを同じくして……。
「ホワイト・カノン」
ミアの放った白いビームが、アガ・スーの本体を直撃する。
白いビームが、幹に弾かれる。
その瞬間、まさに刹那の間だけ、幹全体が銀色に輝いた。
「あれだわっ!」
たまきが、叫ぶ。
そう、それは間違いなく、幹全体を包む銀の結界だ。
一瞬だけ浮かび上がったバリアの存在に、ぼくたちは覚悟を決める。
ミアと視線をかわし、互いにうなずきあう。
正直、一番このパターンが嫌だった。
リスクがおおきすぎるのだ。
特に、ぼくの身が危険に晒されるということで……アリスとたまきとミアとルシアと桜が強硬に反対した。
っていうかぼく以外の全員が、ものすごく嫌がった。
でもぼくは、強引にこの案を押し通した。
誰もこれ以上の提案ができなかったのだ。
まず、相手にかかった魔法を根こそぎ剥ぎとれるのは、ディスペル・マジックを持つぼくだけだ。
でもぼくがアガ・スーの至近距離まで近づくのは難しい。
たとえば、ミアがディメンジョン・ステップで飛んでいったとしても、一瞬の静止状態が生じ、魔法と木の枝の集中砲火を受けるだろう。
至近距離でアガ・スーの攻撃を避けることができるのは、啓子さんのような特別な人間だけだ。
そして、相討ちでぼくやミアがやられてしまっては、元も子もない。
だから……。
「シェイプ・チェンジ」
ぼくは付与魔法のランク9、最強の魔法のひとつを行使する。
黄金の輝きに包まれたぼくの身体の輪郭が、溶け崩れていった。