作品タイトル不明
第182話 狂乱の樹海3
さて、今回のレベルアップで、アリスの治療魔法がランク7になる。
ランク7で注目の魔法は、リヴァイヴだ。
肉体を再生することが可能となる。
たとえばミアが手首を切り落とされても、わざわざ手首を回収せずともよくなる。
リヴァイヴを患部にかけることにより、新しい手首がにょきにょき生えてくるのだ。
「ん。あとで実験してみたい。わたしの手首を献上してもいい」
「わざわざ手首を切り落とすのかよ!」
「痛いのは一瞬、それ以上に興味深いから……」
みんなして、ミアをじーっと見つめる。
「そんなに見つめられたら……恥ずかしい」
「ミア、ほんとにもの好き」
桜が呆れたように呟く。
いやほんと、ミアのブレなさっぷりはすごいわ。
「ぼくは、きみのことを心から尊敬するよ」
「もーっと褒めるがよいぞ」
小柄な少女は、ぺったんこの胸を張る。
そこまで徹底してゲテモノかつ変態だと、たしかに褒めたい。
同時に、おつき合いに一線を引きたくなるけど。
「ぬう、カズっち、なぜさりげなく距離を取ろうとする」
「なんでだろうな?」
「いじわるだ」
いじけるフリをしたミアの頭を撫でて、機嫌を取っておく。
桜が、そんなぼくたちを見て、目を細めていた。
「すまないな、いちゃついてて」
桜は静かに首を振る。
「こんな状況で、呑気。余裕がある。頼もしい。陸上の大会、緊張しすぎたひとから脱落していった」
「そういうもの、かな。ミアがいるときは、いつもこんな感じだ」
「ムードメーカー、重要」
そうかもしれない。
ミアがぼくを見上げてドヤ顔になったので、軽くデコピンしておく。
「この痛みもカズっちの愛情表現……」
「無視するぞ。……ルシア。二度の魔力解放の影響、どうだ」
「まだやれます」
この白い部屋に来たばかりのころは蒼い顔をしていたルシアだが、馬鹿なことをやっているうちにだいぶ回復したようだ。
いや、馬鹿なことしてたのは主にぼくらで、ルシアは笑っていただけだけど。
彼女の笑顔も、だいぶ自然なものが多くなってきている。
「前より平気そうなのは、以前に連打したときから比べて、だいぶレベルが上がったからかな」
前、といっても今日のお昼なんだけどね!
そのときはレベル22、いまレベルアップしてレベル36か……。
一日でものすごいことになってるなあ。
それをいったら、昨日のお昼すぎ、ぼくたちと出会った直後の彼女はレベル10だったんだけども。
パワーレべリング気味だったとはいえ、そのレベルアップ速度はとてつもない。
「それに加えて、どうやら世界樹の加護もおおきいようです」
「ってことは、ルシアの疲労ってMPがごっそり減ったことによるものなのかな」
「タフネスの向上とかもあるっぽい?」
ミアが小首をかしげつつ、いった。
さすがゲーム脳、いいカンしているぜ。
このへんはしっかり分析しておかないと、後日、同じような感覚で魔力解放を使ったら大惨事、とかになりかねないからなあ。
「カズ、この部屋で実験しますか」
ぼくはちょっと考えたすえ「やめておこう」と首を振った。
「以前のQ&Aで、魔力解放の使いすぎは命にかかわる、みたいなこともあった気がする。万が一ってことを考えると、ね」
「ん。あと一発くらいならだいじょうぶっぽい? 土煙の向こうに、ちらっとアガ・スーっぽいのが見えた。そのまわりにぶちこめば、露払いは完了」
「え、ミア、そこまで見えたの? すごーい」
たまきが感心している。
いやそれはぼくもびっくりだ。
眼鏡がないと視力が弱い、っていってたくせに、結構やるなあ。
「兄とケイっちの視線の先を見てただけ」
あ、カンニングっすか。
たしかにあのふたりなら、まっ先に発見しそうである。
ミアはそれがわかっていたんだなあ。
「あと一発だけルシアがぶっぱなしたあと、前衛が突入かな。後衛はそれをサポートしつつ、前衛のあとを追う感じで。アリスとたまきは、いつものようにシャ・ラウに乗って先行。桜さんは……一緒に突っ込みたいだろうけど、ぼくたちの護衛を頼む」
「問題、ありません」
「んじゃ各自、近くの第二パーティにそのあたりを伝えて」
打ち合わせをし、アリスのスキルを上げて、ぼくたちは戦場に帰還する。
アリス:レベル37 槍術9/治療魔法6→7 スキルポイント8→1
ルシア:レベル36 火魔法9/水魔法6 スキルポイント6
※
もとの場所に戻って、すぐ。
ぼくは結城先輩に声をかける。
「了解でござるよ。こちらでも、同じことを話し合っていたでござる」
あ、そうか、彼らも誰かがレベルアップしていたか。
お互いに了解してるなら、話が早い。
「結城先輩と啓子さんも、シャ・ラウにしがみつきますか」
「可能なら、そうしたいわねー」
「じゃあ、それで」
会話の間も、火魔法を使える組が魔法を連打して、敵につけいる隙を与えない。
そしてルシアが、三発目の魔力解放をパワー・スペルつきで発動する。
地面で巨大な爆発が起こる。
土煙が視界を覆い尽くす。
それが、合図だった。
アリス、たまき、忍者夫妻をしがみつかせた幻狼王シャ・ラウが、一迅の光輝となって土煙のなかに飛び込む。
ここで、ぼくたちは白い部屋に。
レベルアップしたのは、ぼくだ。
最低限の打ち合わせののち、白い部屋を出る。
和久:レベル46 付与魔法9/召喚魔法9 スキルポイント2
「周囲に絨毯爆撃を!」
戦場に戻ったあと、ぼくはルシア以外の火魔法使いに指示を出す。
高等部組と育芸館組のあわせて四人は、ルシアの一撃で壊滅したあたりを避け、その外縁部に範囲攻撃を放った。
土煙の向こう側はよく見通せないけど、爆発の音だけは聞こえてくる。
と、ルシアが空中で体勢を崩す。
ヤバいくらい脂汗をかいてるな……。
世界樹の加護があるから、MP的にはまだ余裕があるはずだけど。
ぼくはルシアの肩を支えた。
ルシアはぼくにもたれかかり、荒い息をつく。
かたちのよい双丘が弾む。
「無理なら、そういってくれ」
「ありがとう、カズ。でも、まだあと少しなら……」
「ん。ごほん、ごほん」
棒読みでミアが咳をする。
ジト目でぼくを睨んでいた。
「あー、ミア、竜巻で土煙を晴らしてくれ」
「いいの? また触手うねうね来るよ?」
「そのぶん、アリスたちの負担が軽くなる。ぼくたちが囮になるんだ」
「わかった。テンペスト」
ミアはうなずき、いまだ立ち込める土煙をめがけて竜巻の魔法を放った。
暴風により、大気がかき乱される。
視界がクリアになって……それが、見えた。
爆心地の中心にそそり立つ大樹がある。
巨大なトレント、間違いなくアガ・スーだ。
アガ・スーは無数の枝を触手のように伸ばし、アリスたちと交戦していた。
高さ十メートル、幅十メートルの太い樹だ。
樹幹、高さ七メートルのあたりについた無数の目が、三百六十度を見張っている。
時折、いくつかの目が輝いた。
そのたびに、レーザーやら氷弾やらが放たれる。
地面から尖った岩が突き出る。
「ひょっとして、目のひとつひとつが魔法を使ってくるのか……」
「ボスの複数回攻撃は難易度向上の基本」
「ゲームの話に落とし込むなよ!」
困難はそれだけじゃなかった。
アガ・スーと連係して、周囲の蔓がアリスたちの邪魔をする。
それの対処は、主にシャ・ラウが担当していた。
自在に伸びる蔓を雷撃で焼き、鋭い爪や牙で引きちぎっている。
しかし蔓の方もしつこい。
シャ・ラウひとりでは、四人全員のカバーは難しそうだった。
結城先輩が幻狼王のカバーに入り、かろうじて拮抗状態をつくり出している。
「援軍を送った方がいいっぽい?」
「そうだな。火エレを呼び出す。ミア、送迎を頼む」
「了解でありんす」
ありんす、ってなんだよ。
ぼくはグレーター・ファイア・エレメンタルを二体、立て続けに召喚した。
定番の付与魔法を手早くかけていく。
蠢く蔓は、やはり多少、火魔法を苦手にしているようだ。
パラディンよりは、火エレの方が役に立つだろう。
全身炎に包まれた、剣を持つ裸のマッチョ、グレーター・ファイア・エレメンタル。
ミアはこの使い魔ふたりと手を繋ぎ、ディメンジョン・ステップで消える。
次の瞬間、彼女と二体の火エレは、シャ・ラウのそばに出現している。
シャ・ラウと結城先輩が、ちらりとぼくの方を見た。
顔の様子もよく見えない遠方だが、ふたりの感謝の気持ちは伝わる。
うん、これで正解だったか。
ミアは二体の火エレを置いて、すぐワープで戻ってきた。
ぼくを見上げる。
「伝言。もっと援軍くれ」
「二体じゃ足りないか……。よし、わかった」
ぼくはさらに二体のグレーター・ファイア・エレメンタルを呼び出し、付与魔法をかけていく。
世界樹のMP増加があっても、これ以上はちょっと無理だろう。
この二体も、ミアがディメンジョン・ステップで輸送する。
この間にも、何本の蔓が上空のぼくたちを襲っていた。
もっとも、さきほどまでに比べればその数は少ない。
蔓の大半は、アリスたちの方を攻撃しているからだ。
桜と火魔法使いたちが迎撃し、やすやすと蔓を倒していく。
ミアがちょうど二度目のエレ輸送を終え、戻ってきたところで、ぼくたちは白い部屋へ。
※
今回、レベルアップしたのは長月桜だ。
これでレベル25。
育芸館組ではダントツのトップだろう。
「どうだ、アリス、たまき。アガ・スーの戦闘力は」
「うう、隙が全然ないよー」
「いっぱい目があって、はさみ討ちでもなにをしても、必ず動きを見られていて……。結構、厳しいです……」
前衛のふたりは、いささかお疲れ気味だった。
といっても、ザガーラズィナーのときのような絶望的な状態ではないという。
精神攻撃を完全に遮断しているため、敵にも決定打になるような攻撃手段がないためだろう。
「膠着状態か」
「はい。啓子さんが何度か幹に斬りつけたんですが、白い剣でも弾かれちゃいました」
ちょっと待って、いまアリスがへんなこといったような?
あれ、啓子さんって剣術スキルないんだよね。
武器スキルランク9のアリスやたまきが懐に潜り込めないのに、どうして彼女が?
「なんかねー、ひょいひょいひょいって柳みたいに枝をかわして、ばしーんって一撃したんだよ。でも効果がないから、すぐに逃げて……それからは敵も警戒して、近づけないっぽい」
「すごいな……ああ、でも、そうか。運動スキルのおかげか」
納得はできないけど、理解はした。
それにしても、啓子さん……。
相変わらず、スキルシステムの枠外にいるひとだなあ。