軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第181話 狂乱の樹海2

三分後、ぼくたち十二人と護衛のシャ・ラウは、木々の傘の上に舞い上がり、アガ・スーの蠢く樹海を眼下に見下ろしていた。

残る一体のウィンド・エレメンタルは、すでに送還している。

まだ向こうは、こちらに気づいていない様子だ。

「今回の作戦、指揮官はカズ殿でござる。判断と指示は任せるでござるよ」

「え、でも……結城先輩の方が、そういうのは得意なんじゃ」

「拙者と啓子は、最前線で戦うでござる。後衛が指揮官を兼任する方がよいでござろう。それに、拙者はカズ殿の危機管理能力を高く評価しているでござるよ」

あー、結城先輩は、この言葉をあえて高等部のふたりに聞かせているのかなー。

ぼくの命令に従うように、と。

そこまで気遣いしてくれるなら、いいか。

「ぼくたちの戦いは、いつも紙一重ですけど……わかりました。お引き受けします。でも前線でヤバいと思ったら、そちらの判断でアリスたちに指示を」

「無論でござるよ」

よし、それじゃ作戦実行だ。

「ルシア。初手から十倍インフェルノだ。悪いけど、出し惜しみしている場合じゃない。……でも、辛くなったらすぐいってくれ」

「わかりました、カズ。……心配なさらずとも、無理はいたしません。無理をするのは、まだ先です」

まずぼくが、ルシアに付与魔法ランク8のパワー・スペルをかける。

ごくわずかな間、攻撃魔法の能力を向上させる魔法だ。

付与魔法をランク8にしてからこれまで使ってこなかったのは、おおむねルシアの火魔法がオーバースペックすぎたからなのだが……。

今回は、ルシアが全力を出してなお討伐が困難な敵だ。

容赦なく、最大火力をさらにマシマシにさせてもらう。

合図のもと、火魔法の使い手たちが一斉に魔法を放つ。

ランク6の高等部組は、ファイア・ストームを。

ランク8の潮音&百合子は、インシネレートを。

ランク9のルシアはMPを十倍消費したインフェルノを。

そのすべてが、蠢く木々の中心に叩きつけられる。

ちなみに、ルシアひとりでほかの全員を合わせたより巨大な火球であった。

すさまじい爆発が起こる。

耳を弄する轟音と共に、爆風がぼくたちを襲う。

飛行にあまり慣れていなかった高等部の男子たちが、その身をくるくる回転させた。

やっぱり飛行は慣れてないはずの忍者組は、なぜか平然とバランスを取ってるけど……。

とんでもない量の土埃が舞い上がり、視界を覆い尽くす。

ミアが小声で「やったか」と呟いた。

おい、やめろ。

はたして、彼女のフラグのせい……というわけもないだろうけど。

もうもうと立ち込める土煙の向こうに、なにかが見えた。

「来るわよー」

啓子さんの警告とほぼ同時に、土煙を突き破って、無数の蔓状植物がぼくたちにその触手を伸ばしてくる。

グレーター・ウィンド・エレメンタルは、こいつに足をつかまれて樹海に引きずりこまれた。

だから……この蔓は、すべて叩き落とさなきゃいけない。

「ルシア殿以外の後衛は、適当に蔓を焼き払うでござる!」

叫びつつ、結城先輩たち前衛が前に出た。

先頭の啓子さんとたまきが、白い剣を振るう。

剣先から放たれた衝撃波が、襲い来る蔓を次々と切断していった。

アリスが魔槍を伸長させて、ふたりが打ち払えなかった蔓を潰していく。

でも彼女たちだけじゃ、限界があった。

なにせ伸びてくる蔓はもはや数百本レベルだ。

「ファイア・ストーム」

「インシネレート」

ルシア以外の四人の火魔法使いが、絨毯爆撃を開始した。

蔓を切断しきれないなら、焼き払えばいいじゃない。

どのみち、ルシア以外の攻撃は、あの広大な樹海に対して焼け石に水レベルだ。

とっさにそう判断した結城先輩は、正しい。

「テンペスト」

さらにミアが、竜巻で蔓を翻弄する。

業火と激しい風により、無数の蔓状植物もぼくたちに近づいて来られない、が……。

烈風吹きすさぶ音を割って、しゅぽん、しゅぽん、と炭酸の瓶の栓を抜いたような音が立て続けに響いた。

「ミサイル、来るわよー」

え、ミサイル?

啓子さんの言葉の意味は、すぐにわかった。

業火と竜巻を突き破り、人間の身体くらいおおきな涙滴型のドングリが飛んできたからだ。

ドングリは、お尻から白い粉のようなものを打ち出して、それによって上昇しているようだ。

魔法的ななにかっぽいけど……。

わあい、こりゃたしかにミサイルだわ。

飛んできた巨大ドングリ・ミサイルは三発。

迎撃に当たるのは、アリスと啓子さん、それに桜だった。

って、え、桜? 彼女が?

よくよく見れば、長月桜の持つ槍は、柄の部分が二重螺旋になった、ちょっと見たことのないものだった。

アリスは槍の柄を伸長させて、ドングリの実を貫く。

ドングリは衝撃で爆発を起こした。

爆風がぼくたちを襲う。

シャ・ラウが、ぼくとミアをかばってくれた。

残りのひとたちは、なんとか空中でバランスを崩さないよう、必死で堪えている。

桜が口のなかで、なにごとかコマンド・ワードを唱える。

すると二重螺旋の槍の柄が赤く輝き始める。

赤い光が穂先に集まり、一筋のビームが撃ち出された。

ビームは見事にドングリを貫き、爆発させた。

そして残る一発の前に啓子さんが立ちふさがり……。

「リフレクション」

ジャストタイミングではじき返してみせる。

もちろん、ドングリ・ミサイルのスピードは、ぼくなんかじゃとうてい跳ね返せないほど速かった。

こんなの見切れるの、たぶん結城先輩と啓子さんだけだ。

跳ね返されたミサイルは、樹海に落下し、爆発。

木々が吹き飛び、おおきな煙があがる。

うわあ、あんなの直撃してたら、さすがにぼくたちでもヤバかったんじゃ……。

で、彼らが時間を稼ぐ間に、脂汗を流しつつもルシアが溜めを完了していた。

よし、いまだ。

ぼくは射線上の人々に、退避するよう伝える。

「いくぞ、ルシア。パワー・スペル」

「インフェルノ」

二発目の、MPを十倍消費した最強火魔法が放たれる。

巨大な火弾が眼下の森に着弾し、すさまじい爆発が起こった。

ちょうどドングリミサイルが着弾した付近だったせいで、残りの蠢く木々がまとめて吹き飛び、地面を深くえぐって土砂をまき散らす。

「レベルアップ……ですね」

ルシアが告げた。

ありゃ、モンスターを巻き添えにしたか?

それとも、あのへんの蠢く木々はアガ・スーとは別のモンスターだったのか?

レベルアップしたのは、アリスとルシアだった。

白い部屋にて、二度も十倍消費増幅し、荒い息をつくルシアが口をひらく。

「おそらく、あの蔓状植物がアガ・スーの眷族となった植物モンスター、ランペイジ・ソーンなのでしょう」

ランペイジ・ソーンという名前は、たしかリーンさんとの会議でも聞いたな。

あの蔓、一本ずつがモンスターだったのだろうか。

だとしたら、そうとうな数を倒したはずだけど……それでようやく、ふたりだけレベルアップか。

いまぼくたちのパーティは、長月桜を入れて六人だ。

それを加味しても、ランページ・ソーンの個々のレベルはかなり低めに違いない。

「その割には、蔓のちからが強かった。なにせ、ぼくのマイティ・アームが入ったランク8使い魔のウインド・エレメンタルが蔓を引きちぎれなかったほどだ。見ていた感じだと、ランク4相当……あるいは肉体に2か3入っていそうなくらいだった」

「はい。そもそも、モンスターを捕食していたのですよね。そうとうな実力差がなければ、多数のモンスターを捕まえるのは……」

たしかに、ただのオークならともかく、ジャイアントなども捕食されていたのだから……。

あの蔓には、なにか秘密がある?

「ん。うちらがカズっちの魔法でバフってるように、向こうもなんかバフってるんじゃ?」

みんなが一斉に、ミアを見る。

ミアは相変わらず表情の変わらない様子で、ぼうっとぼくを見返す。

「具体的には?」

「アガ・スーのスキルに、たとえば植物強化みたいなのがあるのかも。植物強化1なら、植物モンスターのランクが1上がる、みたいな」

「それ、すごくヤバそうだよう」

たまきが呻いた。

アリスと桜も顔をしかめている。

ぼくだって、嘆きたいよ、そんな能力……。

「でも、わたしたちはいま、世界樹の加護を受けて能力がアップしてる。だったら敵も似たようなことができてもおかしくない」

「えー、そんなあ」

「いや、たまき。ミアのいう通りではある」

基本的に、自分たちができることは相手もできると考えるべきだ。

しかし、よもやと思ったけど、仲間を強化する能力持ちの四天王か……。

ザガーラズィナーとは正反対の方向で、めちゃくちゃ厄介な相手だ。

低レベルの敵をまとめて強化できるモンスター。

これがもし例えば、雑魚オークをすべてエリート・オーク程度まで底上げできるとしたら……。

こんなのもう、ヤバいってレベルじゃない。

アガ・スーにもしこの能力があるとした場合、その効果範囲が問題だ。

ランペイジ・ソーンがどこまで広がっているかはわからないし、どこからどこまでが一個体として認識されているのかは不明だけれど、あれだけ焼き払って手に入った経験値はせいぜい1000前後、と考えると……。

「ランペイジ・ソーンは一体あたりレベル1。で、それが大幅に引き上げられてる、って感じかなあ」

「経験値のしょっぱさ的に、そうっぽい」

ミアが深いため息をつく。

彼女のこういう様子は珍しいな。

「この狩り場、おいしくない。クソゲー。運営に断固たる抗議」

「気持ちはわかるが、あいにくとこのゲーム、最初からクソゲーなんだよ」

しかもリセット不可能で、賭けのチップはリアルの人生だ。

あげく、放り込まれた世界はモンスターに徹底的に追い詰められてて、最悪の場合、今日でこの大陸すべてがご臨終。

難易度ルナティックすぎですわ。

「ま、難易度についていまさらいっても仕方がない。アガ・スーのスキルのひとつはそういった性能底上げ系であることが濃厚、とわかっただけでよしとしようか」

ぼくは長月桜を見る。

そういえば、彼女と一緒に白い部屋に来るのは初めてだっけ?

「その手に持っている、きみの槍は?」

「戦利品。地底樹を守っていたアラクネのものと聞いた。わたしが使うべきだと、志木さんが」

へー、アラクネ……ってことは、レジェンドかなあ。

いまアリスが使っている伸びる槍も、レジェンド・アラクネから奪ったものだし。

ルシアがまとめて潰したなかに、そういう個体がいたんだろうか。

「ビームが出るって便利そうだけど」

「威力は高いけど、燃費が悪い。一発でMP30。連発は無理」

そんなにMPを消費するんじゃ、治療魔法を使うアリスには不向きってことか。

志木さんらしい、合理的な判断だ。

飛び道具のない桜にとっては、なにかと便利な武器だろう。

「どれくらい威力があるの」

「まだ限界性能は不明。できれば、ここでテストしたい」

うん、もっともな意見だ。

ぼくたちは、隣の部屋を草原にして、そこに移動した。

気の毒ではあるけど、ひとまずパラディンを召喚して、標的になってもらう。

桜の発射した槍のビームは、30メートルの距離からパラディンの身体を吹き飛ばした。

パラディンはよろめきながら立ち上がるものの、全身を覆う金属鎧の一部、脇腹の部分におおきな穴が空いている。

「え、ちょっと待って、これ強すぎない?」

「パラディンが避けなかったから。実際は、うまく当てるのが難しい」

それは……そうか。

それから何度か使い魔を用いての非人道的実験を行った結果、このビームが火魔法ではなく風魔法に分類されることが判明した。

威力は、風魔法ランク9のホワイトカノンとほぼ同等。

つ、強い……。

MP効率的には3倍以上、悪いわけだけども。