軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第180話 狂乱の樹海1

ぼくは、ウィンド・エレメンタルの視界で、茫然として木々がうねる様子を観察する。

自然と、拳をかたく握っていた。

きつく唇を噛む。

アガ・スー。

こいつを侮っていたわけじゃない。

でも、現実のこんな光景を目の当たりにすると、ぼくの想像力がいかにちっぽけなものだったか痛感する。

さながら、森すべてが敵にまわっているかのようだった。

これまでのモンスターとは、存在のスケールが違う。

いや、モンスターという枠組みすら超えたなにかであるような錯覚すら覚える。

うねり、悶える木々。

まるで、どろりとした緑の川が渦を巻いているようだった。

ひどく奇妙で、不気味で、おそろしい。

こんな相手に……どう立ち向かえばいい?

と……無数の枝が、上空のウィンド・エレメンタルめがけて伸長する。

やばい、逃げろ!

とぼくが叫ぶまでもなく、ウィンド・エレメンタルは逃走を開始した。

ものの……。

わずか数秒後、その動きがぴたりと静止する。

振り向けば、ものすごいスピードで伸びてきた蔦が、エレメンタルの足をからめとっていた。

引きずられる。

エレメンタルの身体は、またたく間に蠢く樹海へと飲みこまれた。

ウィンド・エレメンタルは、蠢く樹海の下に引きずられ、地面に叩きつけられる。

かなりの衝撃で視界がバウンドする。

うう、ちょっと3D酔いしそう。

幸いなのか、不幸なのか、グレーター・ウィンド・エレメンタルはタフだった。

激しく地面に激突し、なおも蔓状植物に引きずられながらも、顔を左右に動かして、懸命に任務を果たそうとする。

おかげでぼくは、不気味に蠢く樹海のなかを存分に観察することができた。

左手、十メートルほど先にて、一体のオークが口をおおきく開け、必死の形相であがいていた。

豚人間の四肢を拘束した蔓状植物が、その手足をねじ切る。

青い鮮血が噴き出て、オークは悶絶した。

音は聞こえないけれど、きっと絶叫をあげてるのだろう。

オークの青い血が蠢く樹木に垂れ落ちて、まだら模様をつくる。

そこかしこで、似たような光景が展開されていた。

いまのところ、人間や亜人の姿はないことが救いだろうか。

ウィンド・エレメンタルはもがきながら、樹海の深部に運ばれていく。

しかしこれ、まるで植物が生き物を踊り食いしているかのようだ。

食虫植物型モンスター……なのか?

それにしたって、どんどん周囲に広がっているっていうのは……もうこれ、病原菌みたいな感じだ。

正直、世界樹近傍で戦うには最悪の相手である。

ひょっとしたら、世界樹にこいつがとりついた場合、世界樹すら操られて……。

ヤバいな、そんなの考えたくもない。

いや、現実逃避はダメだ。

それだけは絶対に阻止しなきゃいけない。

たとえ相手が、ザガーラズィナーと同格の敵であっても、である。

そのためには情報が必要だ。

少しでも、相手のことを知らなくては。

かわいそうだけど、このウィンド・エレメンタルには勝利の礎となってもらわなきゃいけない。

そのグレーター・ウィンド・エレメンタルだが、暴走する森の奥に連れていかれるに従い、巻きつく蔓の数もおおきくなっていく。

締めつけも強くなっているようだ。

ランク8の使い魔ですら、無数の蔓を相手に逆らうことができないでいる。

唐突に、樹海が開けた。

木の枝が延びて頭上を覆い、ドーム状の天蓋となった空間に出た。

その中心に、森の王者ともいうべき巨木が存在した。

巨木といっても、高さはさほどない。

せいぜい十メートル程度だろうか。

ただし、幹の太さもまた十メートルほどある。

木の枝の葉はすべてたち枯れ、閑散としている。

太い無数の根が、まるでタコの脚のように地面でうねっていた。

そして、地上から六、七メートルの地点に巨大な赤い目が、無数に存在した。

そう、無数だ。

たくさんの目が、大樹の周囲を取り囲んでいる。

そのたくさんの目が、一斉にグレーター・ウィンド・エレメンタルを睨んだ。

ぼくの背筋に、冷たいものが走る。

本能に従い、リモート・ビューイングを切ろうとして……。

わずかに、処理が遅れた。

その一瞬で、巨大トレントの無数の目が黄金に輝いた。

ガツン、とものすごい衝撃が来る。

頭のなかを無数の針で刺されたかのような、鋭い痛みが走り抜ける。

ぼくは悲鳴をあげて、シャ・ラウの背中で転げまわった。

慌てた誰かが左右から支え、抱きかかえてくれるが……ぼくはちからまかせに四肢を振るい、悲鳴をあげ続ける。

まわりを見るどころじゃなかった。

誰かを気遣うどころじゃなかった。

なんだこれ。

なんなんだよこれ。

あいつは、ぼくになにをした。

「カズさん、カズさん!」

「ねえ、どうしたの、カズさん!」

アリスとたまきの声が、遠くで聞こえる。

でも、答えることができない。

ぼくの口は、悲鳴を上げ続けることしかできない。

「く……そっ」

いまのは精神攻撃の類いだ。

精神攻撃を食らった原因は、リモート・ビューイングを使うため、アイソレーションをかけていなかったからである。

「アイソレーション」

とりあえず、いまさらのように保護をかける。

だがぼくの苦痛は終わらない。

やっぱり、一度受けたダメージを回復してくれるわけじゃないのか。

しかし、クリア・マインドがかかっていて、これか。

あいつめ、遠隔視ごしにこっちを攻撃するなんて、なんてやつだ……。

「カズさん、しっかりしてください! キュア・マインド」

アリスが心を癒す魔法をかけてくれる。

ぼくの脳を蝕む苦痛が、次第に消えていく。

ようやくひと息ついて、ぼくは脂汗をぬぐいながら身を起こす。

皆がぼくを心配そうに覗き込んでいた。

心配をかけさせたか。

いまさらのように気づいたけど……偵察に出したグレーター・ウィンド・エレメンタルとのリンクが切れていた。

どうやら、死んだようだ。

「とりあえず、なにが起こったか説明するよ……」

ちからなくうなだれ、ぼくは話し出す。

エレメンタルの偵察中に起こった出来事を語るうちに、増援がやってきた。

まず、結城先輩、啓子さんの忍者コンビ。

ふたりは朱里さんと現場指揮を交代し、決戦要員として働いてくれるらしい。

ほかにふたり、高等部の火魔法の使い手がついてきている。

どちらも男子生徒で、二年生と一年生だ。

ぼくの顔を見て、目をそらす。

火魔法は蜂によく効くということで、三日目から鍛える者が増えた。

今回、連れてきたふたりは、共にランク6であるということだ。

まあ……数合わせにはなるだろう。

育芸館組からは、合計で三人。

槍術がついにランク9になったというレベル24の長月桜のほか、高橋百合子と最上潮音の火魔法ランク8コンビが参戦する。

最上潮音は中等部二年生で、縁なしの眼鏡をかけた、元気な少女だ。

肩まである髪は、茶色に染めあげられている。

ちょっと背伸びなオシャレしてみました、って感じで微笑ましい。

現在レベル20で、スキルは火魔法8と槍術2。

高橋百合子は中等部三年生だが、いつも弱々しい笑みを張りつけている、おさげの子だ。

おっぱいがおおきい。

前にちょっと話したとき、自分の使う炎魔法すら怖い、といっていたほど気が弱い。

でも同時に、「潮音ちゃんがいつも、手を引っ張ってくれるから」ともいっていた。

年下に引っ張られる巨乳のお姉さん。

アリだと思います。

現在のレベルは最上潮音と同じく20で、スキルは火魔法8と水魔法1。

全員、リーンさんの誘導を受けてここまでたどり着いたという。

ぼくたちを入れて、決戦班は合計で十二人。

ふたつのパーティに分かれることになるだろう。

ぼくたちのパーティに長月桜を入れて、第一パーティ。

忍者夫妻プラス火魔法使い四名が第二パーティ、といったわけかたが妥当だろうか。

合流したひとたちに、改めて、なにが起きたか説明する。

説明の間にころころとパーティを組み換え、全員にぼくの付与魔法をかけておく。

特に、こうなってくるとアイソレーションは重要だ。

本当は、付与魔法ランク9のシェア・フィールドを使いたいところなんだけど。

これは簡単にいうと、テレパシー・リンクで情報を共有する魔法である。

かなり距離が離れてもテレパシーで会話できるから、大人数になるほど効果がおおきい。

でもなあ、アイソレーションを使うと、シェア・フィールドは使用できない。

どちらが重要かって、絶対に精神攻撃耐性の方が重要だもんなあ。

ものすごく強いと思える魔法でも、かみ合わせを考えるとイマイチ実用性がない、ってゲームならよくできた設定だ、と思える。

でもこれはゲームじゃないわけで、だからもうちょっとこのへんなんとかなりませんかね……。

なりませんね、はい。

精神系を全部シャットアウトしてくれるアイソレーションがなきゃ、間違いなくゾラウスにやられてたからなあ。

今日の午後は、この魔法に頼りきりだ。

で、さて。

ひととおり説明が終わり、新たにパーティを組み直す。

第一パーティは、ぼく、アリス、たまき、ミア、ルシア、桜。

第二パーティは忍者夫妻と潮音&百合子の火魔法コンビ、高等部の男子、残りふたり。

作戦については、情報共有後、結城先輩が提案したものに乗ることとなった。

「拙者、まともに正面から戦うのは愚の骨頂、と考えたでござるよ」

面頬の奥で、結城先輩は不敵に笑ってみせる。

たぶんパフォーマンスなんだろうけど、ふてぶてしい様子がよく似合っていると思う。

ミアはしぶい顔をしてるけど。

「といっても、奇抜な策はないでござる。我々がするべきことは、しかるべき場所にしかるべき火力を、あらん限り叩きこむことでござろう。それでダメなら、諦めて一時後退でござるよ。光の民を肉の壁として、次善の策を練るでござる」

うわあ、鬼畜だけど正しいわー。

MPが回復すればまた戦えるけど、ぼくたちが死んだらこの戦い、ほぼそこで終わりだもんな。

いまこの戦場には、使い捨てできる戦力と、そうでない戦力がある。

「さて、その作戦でござるが……。空に飛び、エレの偵察で判明したアガ・スー本体めがけて、MPが尽きるまで火属性攻撃魔法を連打、これだけでござる」

あ、ほんとに単純な作戦だった。

でもそれしかないかな。