軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 穴掘り職人

朝日が昇る。

まずは穴掘りの練習がてら、育芸館の裏手に墓穴を掘ることにした。

ぼくはこう見えても、穴掘りにはちょっと詳しい。

そして、ちょっとうるさい。

経験の蓄積の結果、容易かつ短時間で深い穴を掘るコツを会得していた。

穴掘りマイスターと呼んでほしい。

全員、動きやすい格好に着替えている。

育芸館の倉庫にあったジャージや体操服などを着用してもらった。

一部は旧いデザインのもので、本来なら破棄されるはずのものがどう間違ったのか倉庫の奥に仕舞われてしまったようである。

「日が昇ったら暑くなるだろうけど、できれば四肢を覆うデザインのものを着て欲しい。怪我の防止になるからね」

とジャージを推奨しておいたのだが、なぜかアリスだけは体操服だった。

それも、下はスパッツではなくブルマ。

ブルマなんてどこから見つけてきたんだ。

地下の倉庫からか?

アリスは恥ずかしがって、もじもじしながらぼくを上目遣いに見上げている。

「あの……こうすればカズさんが喜んでくれるって」

「誰がいったんだ」

「たまきちゃん、です」

見れば、たまきが脱兎のごとく逃げるところだった。

あいつめ、覚えてろ。

ほかの女子がこちらを見て、にやにやしている。こんちくしょう。

「えっと、喜んでいただけましたか」

「狼さんになりたくなるので、着替えていただけませんか」

耳もとでささやいた。

アリスは頬を朱に染めコクコクうなずく。

志木さんをはじめとする女性陣がはやし立ててくる。

ぼくはアリスがジャージを取りに戻ったのを見届けたあと、彼女たちに振り向き、「穴掘りで地獄を見せてやる」と睨みつけた。

「賀谷くんは、軍曹役に向いてないわね」

腰に手を当てた志木さんが、ため息とともにいった。

え、あれ、怖くなかった?

「控え目にいって、間抜けな感じ」

ぼくは落ち込んだ。

マイティ・アームを全員にかけて、腕力をあげる。

いまレベル5のぼくは、十一人にマイティ・アームをかけても、二十分ほど休めばMPが全回復する。

効果時間は一時間から一時間半だから、この程度なら余裕で永久ループが可能だ。

全員がシャベルを持つ。

これも育芸館の地下室にあったものだ。

最初にぼくが理想的な穴の掘り方を実践してみせ、彼女たちがそれを真似する。

ぼくはつきっきりで、より効率的な方法を指導する。

最初にできた穴は、ひどく不格好だった。

まあ、これは練習だ。お墓としてはこの程度でいいだろう。

そう、墓である。

昨日、この育芸館でオークに殺された五人のための墓穴である。

死体を入れて、埋める。

盛り土をして、目印に木の枝を立てる。

軽く手を合わせた。

ついでに糞尿を始末する穴も掘らなければならないかと思っていたが、倉庫から非常用の仮設トイレが発掘されたため、これをロビーに設置することでことなきを得た。

外に設置しないのは、危険だからだ。

いつオークが攻めてくるかわからない。

ここまでで、一時間半。

現在午前七時半。

ここからが本番だ。

少し森に入ったところで、本格的に深い落とし穴を掘らせる。

共同作業で、しかもある程度慣れたからか、思ったよりいいペースで掘れた。

その間の見張りは、パペット・ゴーレムを召喚してぼくが行う。

ついでにカラスも一体、召喚する。

このカラス、心なしか、昨日より面構えがいかめしい。

いや、こいつ間違いなく昨日とは違うぞ。

くちばしがいっそう尖り、眼光鋭く周囲を睥睨するさまは、王者の風格……というほどではないけれど、明らかに昨日のカラスより強そうである。

……なんでだ?

あ、そうか! ぼくは不意に気づく。

付与魔法がランクの上昇で強化されたように、召喚魔法もランクの上昇によって強化されるということか。

召喚される使い魔が、ランクを上げることでパワーアップするということだ。

まあ、おそらくそこまで劇的な強化ではないのだろうが……。

覚えておこう。今後、付与魔法と召喚魔法のどちらを上昇させるか、と考えたとき、ひとつ判断基準が増えた。

アリスには、少し偵察に出てもらうことにした。

お供として、ぼくの使い魔のカラスをつける。

アリスから連絡したいことができたら、カラスにメモをくわえさせ、メールのかわりにする。

伝書鳩ならぬ、伝書鴉だ。

中等部の本校舎以外にも、男女の寮棟、職員棟、体育館、グラウンド、テニスコートなどを森のなかから観察してもらう。

とはいえあまり近づく必要はない。

森のなかから、ざっと安全に観察してもらえれば、それでいい。

ひとつだけ、アリスに厳命しなければならないことがある。

「ひどい目にあっている人がいても、助けに飛び出したりしないように」

「で、でも」

「もしきみが死んだら、いまのぼくは生きる希望を失う。きみがいなくなったら、ぼくは後を追うかもしれないな」

なんだか情けないんだか卑怯なんだかわからない命令……というか懇願をする。

こうでもしなければ、アリスは正義感を出してしまうだろう、と考えたのだ。

彼女に自制を促すには、相応の枷が必要だ。

それがぼくでいいなら、喜んで彼女の枷となろう。

ぼくはアリスを失いたくない。

昨日、アリスは、自分が死んだらたまきのことをぼくに任せると、そういった。

自分が死んでもかわりがいるもの、ってことか。

それは甘えだ。

その甘えは、危険だ。

いまの彼女は、ぼくのためなら命を投げ出しかねない。

だからぼくは、少々大げさに「きみが死んだらぼくも死ぬ」と宣言したのである。

はたして、アリスは。

目をおおきく見開いて、ぼくを見つめた。

「ええと……ひょっとしたら、わたしが心変わりして、カズさんを手ひどく裏切るかもしれませんよ?」

ぼくは笑った。

なにを馬鹿なことをと、笑い飛ばした。

律儀で生真面目な彼女の性格を、ぼくはよく理解している。

それはありえない。

疑り深いぼくだって、それくらいは彼女のことを信じている。

「そのときは、きみに恨みごとを残して自殺しようかな。人質として、たまきくらいは道連れにするのもいいか」

「うえっ、かっ、カズさんっ」

「いや、ごめん。冗談だよ」

「そ、それくらいの覚悟で裏切れってこと、ですよね」

「いや裏切らないで」

彼女は厳しい表情でうなずいていた。

きっとだいじょうぶだろう。

……だいじょうぶだと思いたい。

早朝だからか、オークの姿はなかった。

まだ寝っこけているのだろうか。

だとすればいいことだ。

こちらの態勢が整うまで、もうしばらく寝ていて欲しい。

いまのうちに、と昨日、戦ったオークが残していった武器にリペア・メタルをかけ、錆を落としておく。

槍と斧、剣があるが、皆には基本的に、槍を使ってもらおうと思う。

長柄の武器で遠くから殴った方が間違いなく安全だし、多少は恐怖心が薄れるだろう。

ほどなくして、アリスにつけたカラスが飛んでくる。

くちばしにメモを加えていた。

アリスからの伝言だ。

メモには「オークを連れてきていいですか。一体」とあった。

OK、とメモに書きくわえ、カラスにくわえさせて、アリスのもとへ戻す。

「まもなくオークが来る。今回は穴を使わない。少し後ろに下がって、木陰に隠れて」

ぼくはパペット・ゴーレムをもう一体呼び出し、両方にキーン・ウェポン、フィジカル・アップ、マイティ・アームの三点セットをかけた。

木々の間を縫うように移動し、アリスがこちらへ走ってくる。

その後ろを、斧を持ったオークが二体、追ってくる。

って、話が違うじゃないか。

あ、アリスが敵に振り向いた。

鋭い刺突を見舞う。

オークの一体が、喉を貫かれて倒れる。

その姿が薄れ、消える。

オークが消滅したあとには、宝石が転がった。

もう一体がアリスに迫り、斧を振りおろす。

アリスはそれを、軽快なステップで回避、また背を向けて逃げ出す。

……なるほど、宣言通り、一体だけになったな。

なんつーか、パない。

「すみません、陰にもう一体いて……。どうしますか、カズさん!」

こちらに駆け寄りながら、アリスが訊ねてくる。

「あ、ああ。動けなくしたい」

「足、やります」

アリスはぼくの目の前でくるりと反転し、二体目のオークに対して槍を構えた。

オークは、相棒がやられているにも関わらず、構わず距離を詰めてくる。

アリスはスッと踏み込み、オークの膝小僧を狙って刺突を繰り出す。

その一撃が、狙い過たず、オークの膝を破壊した。

豚人間はもんどりうって倒れる。

アリスはすかさずもうひと突きし、もう片方の膝も破壊する。

さらに二度、突いた。

左右の肩の骨が折れる音がした。

「これで、いいですか」

「お、おう。……すごいな」

オークはじたばたしている。

ぼくは二体のパペット・ゴーレムに命じて、オークの腕を押さえさせた。

ぼくは後ろを向く。

背後の木々の陰に隠れたみんなが、ドン引きしていた。

「え、えげつないわね」

志木さんが、ひきつった笑顔でいう。

呑気なことだ、とぼくは内心で呟いた。

昨日、あれだけひどい目にあっておいて、まだ手段をどうこうと考えているのだろうか。

もう一度、ぶざまに倒れているオークを見る。

……うわ、えげつねぇ。誰だこれやったやつ。

アリスだ。

うん、ごまかすのはやめよう。

わりとぼくらは、なりふり構っていない。

だがそれも、今後のためだ。

ぼくらが生きるためだ。

「はい、じゃあ、最初にレベルアップしたいひとー」

手をあげたのは、ふたり。

たまきと、中等部一年生のミアだった。

わずかにミアがはやい。

うーん、中一からか。いや、まあ、いいか。

「ミア、やれ」

「ん」

ぼくは一行のなかでもひときわ小柄な少女に竹槍を手渡した。

言葉数が少なく表情の変化もあまりない少女だが、しかしやはり緊張しているのか、竹槍を持つ手が震えていた。

なお鉄槍でなく竹槍なのは、鉄槍では重くて彼女には扱えないと判断したからだ。

「喉を突くのがいちばんいいけど、とにかく何度も突けば死ぬから」

「んっ」

アリスがミアに治療魔法ランク2のフラワー・コートをかけた。

全身に桜色の霧の薄幕を張り、衝撃を吸収する魔法である。

この魔法、検証したところ、アリスが軽く槍で一撃するだけで剥がれてしまうことが判明している。

ゲーム的にいうと、追加HP5点くらいだろうか。

いや、HPの5点がどれくらいかなんてわからないし、適当いってるけど。

それでも、気休め程度にはなるだろう。

ぼくのいいつけに従い、ミアは何度もオークを突いた。

こなくそとばかりに、一心不乱に突きまくった。

一度だけ、暴れたオークの足に蹴られ、うっ、とよろめいたが、フラワー・コートのおかげかぴんぴんしていた。

二十回目くらいの刺突が、偶然、オークの目を貫いた。

ようやくオークの姿が消えた。

ミアの身体が、一瞬、硬直する。

「レベルアップした」

彼女はぼくに振り向き、そう告げた。

「申告通り、地魔法と風魔法」