作品タイトル不明
第179話 世界樹防衛戦3
打ち合わせが終わったあと、もとの世界に戻る。
残る敵の掃討のため、アリスたちのもとへシャ・ラウを派遣した。
ほどなくして、朱里さんがレベルアップした。
「ん。わたしは逃げる」
「何度もミアちゃんを頼ったりしないわよ」
白い部屋につくなり隣の部屋を草原にし、ぴゅーっ、と逃げだすミア。
朱里さんは苦笑いして、それを見送る。
ミアに苦手意識を持たせるとか……このひと、たいしたタマだ。
で、アリスたちの報告を聞く。
ちょうど、最後の敵を倒したところだったそうだ。
フォレスト・ジャイアントは青い宝石を二個、アルビノ・ジャイアントは青い宝石を三個、落としたとのこと。
今回の戦いで得たトークンは、合計で190個分ということである。
フォレスト・ジャイアントは、やはりジャイアントとしては少し小柄で、身長三メートル弱くらいだったそうだ。
アルビノ・ジャイアントは白いジャイアントで、フォレスト・ジャイアントよりひとまわりおおきかったらしい。
なにか魔法を使ってきたようだが、なんだかよくわからなかったとのこと。
精神攻撃系か、あるいは透明な盾とかそのへんがうまく展開できなかったか……。
なんにせよ、さくっとたまきがぶったぎってしまったらしい。
また戦うことがあれば、少し観察してみたいところだ。
情報交換ののち、白い部屋を出る。
朱里:レベル19 射撃7/運動3 スキルポイント4
※
トークンを回収してアリスたちが戻ってきたところで、リーンさんの使い魔の鷹が、次のジャイアントたちの出現を告げる。
ここから少し左手らしい。
そちらに向かおうとしたところで、リーンさんの声が「待ってください」と告げた。
「敵軍の最後尾が加速しています。周囲のモンスターを取り込みながら、前進してきます」
え、なにそれ、ちょっと待って。
ごめんなさい、なにいってるのか、よくわからない。
「あまり聞きたくないけど、どういうことか説明してくれ」
「アガ・スーがモンスターを実力で排除しつつ、前線に出てこようとしているようです。多数のオーガやオークが、膨張する木々に飲み込まれています」
へ?
モンスターたちが、森に飲み込まれている?
どういうことなの、それ……。
「偵察で、アガ・スーの本体は見つけられたの?」
「異常繁茂する植物が、ひとつの塊となって膨張している光景を観察いたしました」
ちょっと……よくわからないんですけど。
アガ・スーはトレントの上位種みたいなモンスターなんだっけか。
「周囲の植物を操っている、ってこと?」
「そうであると思われるのですが、詳しい特性については不明です。膨張の先端部は、オークのようなモンスターを捕食するように取り込んでいます」
「なにがなんだかわからないけど、ヤバいのが来るってことだけはわかったよ……」
さて、どうする。
このままなら、いま中央で味方がせき止めているオークは膨張する植物が始末してくれそうだけど……。
その場合、味方のみんながそいつと接敵することになる。
たぶん、アガ・スーなんだろう。
そいつが周囲を見境なく取り込みながら、前進している。
その本質はまだ不明だけどそうとうヤバいものに違いない。
下手すると、高等部も育芸館組も、まとめて全滅する。
それは……ちょっと、いただけない。
「朱里さん、中央に行ってください。結城先輩の指揮を引き継いで、なるべく後退の指示を。それと、あのひとたちには……」
「わかったわ、田上宮くんと啓子さんには、あなたたちを援護するように伝える。そっちも、気をつけなさい」
朱里さんはあっさりとうなずき、パーティから抜けたあと、木の枝から枝へと飛び移って、あっという間に森のなかへ消えた。
なんかもう、彼女の方が忍者っぽいなあ。
運動を上げると、あんな風になるのか……。
いや、感心している場合じゃない。
ぼくたちは、ぼくたちがやるべきことをやろう。
「アガ・スーが前進して、敵軍が混乱しているなら、これはチャンスだ。ぼくたちが先行して、アガ・スーにとりつく」
「少々、無謀では」
ルシアがいった。
彼女の真紅の目を見る。
まっすぐに、ぼくを見つめ返してきていた。
「アガ・スーの情報が少なすぎる。まずひとあたりして、敵の手のうちを知る」
「あまりにも危険がおおきいのではないかと考えます」
「このままアガ・スーが育芸館組と接敵した方が、危険だ」
あの子たちが一瞬で全滅しても、おかしくはない。
ぼくの脳裏をよぎるのは、ぼくの前に出て真っぷたつに斬り伏せられた少女の姿だ。
あんな思いをするくらいなら……。
はたして、ぼくはどんな表情をしていたのか。
目の前までやってきたルシアに、軽く頬をはたかれた。
ひりひりする痛みで、正気に戻る。
「カズ。いまのあなたは、死者への想いに引きずられています」
「そうかもしれない。……いや、そうなんだろうな」
ぼくは唇を噛む。
アリスとたまきが、心配そうにぼくの顔を覗き込んでくる。
彼女たちは、ただぼくのことが心配なだけなのだろう。
ミアは、あいかわらず表情の読めないぼうっとした顔で、ぼくを見つめ返してくる。
こいつは……いま、なにを考えているんだろう。
ルシアは、いつになくまっすぐな視線でぼくを射すくめ、ぼくの肩に手を置く。
「カズの命令であれば、わたくしたちは死地に飛び込むことも厭いません」
「ああ、わかってる。……いまのぼくは、そんなにひどい顔をしているか」
「余裕のない表情だということは、わかります」
ぼくは「そうか」と自嘲するように笑った。
腹を据える。
「ミア、意見をくれ」
「ひとあてするのは、アリ。でも正直に全員でいくことなんてない。カズっちには、使い魔で威力偵察って必殺戦法がある。パラディンかエレ一体の犠牲で情報が得られるなら、安いもの」
ミアはよどみなく答えた。
どうやら彼女は、ぬかりなく作戦を考えていたようだ。
さすが忍者の妹だと褒めたいけれど、そういって褒めると殴られそうなので自重しておく。
「そう……だな。使い魔で威力偵察。加えてリモート・ビューイング。きみのいう通りだな」
「もっと褒めるがよいぞ。余はちやほやされることで伸びるタイプじゃ」
「ルシアも、すまない、迷惑をかけた」
ルシアは首を振った。
「これは、ほかのみなさんと経験を共有していないわたくしの役割です。ミアがいいだしにくいことであったのでしょう?」
「ん。まあ、ルシアがいなかったら、いったけど」
「ですがそれは、ミアも傷つくことであったと」
うん、そうなんだろうな。
ぼくは……本当に仲間に恵まれている。
ぱん、と手を叩いた。
「そうと決まったら、ぐずぐずしてはいられない。もう少し前進しよう。リーンさん、誘導を頼む」
「わかりました。まず二百歩、前進してください。途中、ジャイアントの小集団がいますが……」
「適当に潰します。アリス、たまき。シャ・ラウと先行を」
ふたりは、シャ・ラウに乗って森に消える。
ぼくは念のために、ということでウィンド・エレメンタルを二体、召喚した。
後衛の護衛用である。
世界樹の加護のおかげで、MPには余裕があった。
敵は大規模な軍勢であり、集団から離れている遊兵も存在すると考えられる以上、安全策を取っておくにこしたことはない。
予想通りというかなんというか、途中で戦場からはぐれたとおぼしきオークに襲われた。
といっても、ノーマルのオークがたったの三体。
下手したらルシアひとりでなんとかなったかもしれない相手だ。
無論、叩き潰しておく。
アリスたちが、シャ・ラウの背に乗って戻ってきた。
「フォレスト・ジャイアントが四体、いました。潰してきました」
「ご苦労さま」
『フォレスト・ジャイアントは、いささか慌てている様子であった』
慌てている……か。
「それって、つまり後ろから逃げてきたってこと?」
『そうかもしれぬ。いや、その可能性が高いであろう』
やっぱり、モンスター軍の後方でアガ・スーが暴れまわっているのか……。
ボスご乱心、ってところなのかなあ。
いろいろカオスな状況になっている。
アガ・スーになにがあったのかは、さっぱりわからない。
これがチャンスなのか、それともピンチなのかも判断がつかない。
「それでね、カズさん。すぐ先で、森の奥からうねうねばりばりーっ、って音が聞こえてきたの。だから慌てて戻ってきたわ」
「うねうねばりばりー?」
それはどういう音なんだろう。
まあ、すぐにわかることか。
「前進しつつ、使い魔の偵察を出そう。ぼくはリモート・ビューイングを使うから、シャ・ラウ、ぼくに背中を貸してくれ」
『存分に使うがいい。主の安全を確保するのが我の役目だ』
ぼくはグレーター・ウィンド・エレメンタルの一体にリモート・ビューイングを使い、先行させた。
エレメンタルの視界を共有し、シャ・ラウのもふもふの毛皮に身をうずめる。
周囲の森の景色が、高速で流れた。
リモート・ビューイングだと音が聞こえてこないから、たまきのいう「うねうねばりばりーっ」がよくわからないなあ。
一応、エレメンタルには、「うねうねばりばりーっ」が聞こえたら視界内で手を振れ、といってあるけど……。
あ、手を振った。
エレメンタルの視界が左右に動く。
密な木々の一部が、動いていた。
いや、蠢いていた。
蔦が触手のように這いまわり、逃げようとしたオークをからみ取る。
哀れにもがき苦しむオークが、そのまま密生した植物の渦に飲み込まれていく。
ああ……あれが「うねうねばりばりーっ」か……。
「あのさ、たまき」
「なあに、カズさん」
「うねうねばりばりーっ、だ」
「でしょー?」
というか、めちゃくちゃ気持ち悪いんですけど、あれ……。
エレメンタルがためらうように、少し後退する。
ホバリングしつつ、拡大する「うねうねばりばりーっ」から距離を取る。
つーか、もはや前方が一面、「うねうねばりばりーっ」って感じになっているんですけど。
もはや「うねうねばりばりーっ」の壁なんですけど。
これ、どうすればいいの……?
あ、ウィンド・エレメンタルが上空に舞い上がった。
上から観察するってことか。
樹上に出る。
眼下の光景を覗くと……。
まるで森全体が生き物であるかのように、ぐりんぐりんと蠢いていた。
木々がうねり、枝葉が旋回する。
ぞっとするほど気味が悪い。
しかもそれは、まるで伝染病のように視界中に広がっていく。
まるで、悪意が実態を持ったかのような、病的な様相だった。
正直、ぼくは四天王というものを甘く見ていたのかもしれない。
これは、もはや天災だ。