作品タイトル不明
第174話 高機動防衛戦
もとの戦場に戻ったぼくたちは、残り二体のアシッド・ウルフを素早く片づけた。
ルシアが、使い魔の鷹経由でリーンさんに状況を報告する。
「そちらの現状は把握いたしました。兵士たちは放置し、次のポイントに向かってください。みなさんの北北西にて交戦中の部隊がございます」
鷹がリーンさんの声でいった。
彼女はきっと、あれから森のあちこちに使い魔を放ったのだろう。
そうして、状況を逐一、各部隊に伝えてくれる。
この世界の軍隊、深い森のなかという状況においては、彼女のオペレーションはとてつもない戦略的価値がある気がした。
これ……光の民が本気を出したときの戦術なのか?
いや、ひょっとして……。
「リーンっち、戦場に指示を出す専門家?」
「いいえ、ミア。わたくしも、初めての体験です。現在は志木が隣について、アドバイスしてくれています。昨夜の会議でこの作戦を提案したのは、結城です」
「あ、やっぱり」
なるほど、やけに現代的な戦術だと思った。
こういうこと考えるのは、やっぱり結城先輩だよなあ。
ぜんぜん忍者っぽくないけど。
ぼくたちはフライで一度木々の上に出て、夜の森を飛ぶ。
これが一番、スピードを出せる。
ミアが時折、ウィンド・サーチで周辺の状況を調査し、見落としがないか確認する。
「あそこ、もうすぐ戦闘開始。兵隊さんがモンスターを待ち構えてる」
三分ほどの飛行ののち、そのミアが右手の方を指差した。
ありゃ、少し行きすぎてたか。
と……木々の傘の下で、爆発が起こった。
爆風で枝葉が樹上に舞い上がる。
なんだ、あれは。
火魔法の類いには見えなかったけど……。
連続して、あたり一帯に爆発が起こる。
時折、悲鳴が混じる。
ああもう、観察してる場合じゃなかった。
「シャ・ラウ、先行してくれ。アリス、たまき。シャ・ラウに続いて」
『承った』
大狼が雷光となって樹下に飛び込んでいく。
アリスとたまきも、シャ・ラウのあとを追いかけた。
ルシアもそれに追従する。
って、ルシアもかよ!
ああ、まあいいか、彼女は多少の護身術もあるし。
「ミア、こっちはゆっくりいくぞ。巻き込まれて怪我しても勿体ない」
「あいあいさー」
戦闘音が聞こえてくる。
ぼくたちは、太い木の枝の上に着地し、地面で行われている戦闘を観察する。
敵はどうやら、狼型のモンスターのようだった。
樹木の間、密に茂った下生えのもと、十五名ほどの兵士が乱戦状態で狼と戦っている。
兵士たちの手にある松明の明かりに照らされて、狼の毛皮が銀に照らし出されていた。
アリスやたまき、シャ・ラウ、ルシアも、それぞれ分担して狼を相手どっている。
ってルシア、あなたなんで、狼相手に接近戦を挑んでるんですかね……。
と、狼の一体が兵士の前で動きを止め、毛皮を逆立てる。
「ちくしょう、させるかっ」
目の前の兵士が槍を突き出すも……。
それが毛皮を貫く直前、その狼の周囲で爆発が起こる。
そこかしこで、兵士が悲鳴をあげる。
苦悶と断末魔の声。
うわっ、なんだあれっ。
「ハウリング・ウルフです」
いつの間にかぼくのそばに来ていた使い魔の鷹が、リーンさんの声でそういった。
うわっ、びっくりしたあ。
鷹はぼくの隣、ミアから離れた木の枝にとまっている。
「見ての通り、銀の毛皮を振動させることで自身の周囲に衝撃波を発生させます。純粋な火魔法でもなく、地魔法でもなく、風魔法でもありません。ただの強い衝撃です」
「それって、レジストがきかないってことですか」
「はい。そのぶん威力は属性魔法に比べ低めです。鍛えた兵士であれば、直撃しても死ぬことはありません」
彼女の言葉の通り、ハウリング・ウルフの衝撃波を食らった兵士は、かろうじてまだ立っていた。
といっても槍は真ん中で折れ、革鎧はぼろぼろ、足もともふらついている。
そこに、別のハウリング・ウルフが飛びかかり、兵士の喉を食いちぎる。
うわあ、えげつない。
ハウリング・ウルフの数は、少なくとも兵士より多いようだ。
いや、少しどころか、倍くらいはいるだろう。
およそ三十体のハウリング・ウルフ。
こんな特殊能力を持つやつが数押ししてくるなんて、ヤバすぎる。
つーかここ、ぼくたちが応援に来なきゃ、一瞬で突破されてたんじゃないか。
ぼくの仲間たちは、さすがだった。
アリスは兵士をフォローしながら、ハウリング・ウルフの衝撃波を飛びすさって回避し、刺突を入れる。
一撃で、赤い目を貫く。
ほぼ同時に、たまきもハウリング・ウルフの首を切り落として……。
二体のハウリング・ウルフが、それぞれ青い宝石ふたつずつに変化する。
ここで、ぼくがレベルアップした。
※
白い部屋、明るい場所で改めて確認したところ、アリスとたまきは顔を赤く腫らしていた。
ハウリング・ウルフの衝撃波を食らったようだ。
アリスが急いで皆を治療する。
「だいじょうぶか、ふたりとも」
「うう、ヒリヒリするよう」
「ちょっと痛いですけど、命に別状はありません」
たまきは少し涙目で、アリスは気丈だ。
アリスの頬を撫でてやると、顔をしかめた。
あ、ごめん、痛かったか……。
彼女たちがこの程度で済んでいるのは、レベルが高いおかげだろう。
兵士たちは、至近距離で衝撃波をくらったらタダじゃすまないみたいだった。
レベルアップさまさま、である。
「ルシアは、なんで接近戦をしていたんだ」
「乱戦になり、敵の動きが素早かったため、誘導系魔法をコントロールする暇も、狙って魔法を当てることも困難だったのです。仕方なく、ボーン・ウィップで相手を拘束したのち、フレイム・カッターでトドメを刺そうと。しかし拘束もなかなか難しいですね。なんとか一体、捕まえかけているところです」
あ、捕まえられそうなんだ。
じゃあ、この部屋から出てすぐ、殺せるわけか。
でもなあ、敵の数が多いからなあ。
「敵味方関係なくルシアの魔法で爆殺して、『間違えちゃった、てへ、はーとまーく』っていえば許してもらえないかな」
「ミアちゃん、いくらなんでもヒドすぎます……」
自分の怪我も治療し終えたアリスが、苦笑いしていた。
たまきが「わたし中心なら、一発くらい耐えてみせるけどねー」と笑う。
「でもダメかな。わたしのまわりにも、結構、兵隊さんいるから。ルシアの魔法、たぶん兵隊さんたちじゃ耐えられないわ」
「ん。そこは気合と根性で……。ダメだったら、ダメだったときのこと」
殺す気まんまんじゃねえか。
「一応いっとくけど、ミア、リーンさんの使い魔の鷹が見てるんだぞ」
「わかってる。いってみただけ」
「露悪的なのは、やめとけ」
ミアは口ではこんなことをいってばかりだけれど、よほど追いつめられない限り、実際にそういうことはやらないだろう。
昨日、彼女がいっていた英雄願望じみた想いもまた、きっと本音のひとつなのだ。
ぼくたちの誰かが追い詰められたら、容赦なくやりそうだけど。
「上から見ていたけど、ハウリング・ウルフは衝撃波を放つ寸前、動きを止めるな。ルシア、一度下がって、そのタイミングを狙って攻撃しないか」
「なるほど、ハウリング・ウルフにクセが……。わたくしと戦っていた相手は、一度も衝撃波を使ってこなかったので」
それは、ルシアを衝撃波を使わなくても倒せる相手だと思ったからだろうか。
それとも、ただの偶然か。
どちらとも判断し辛いなあ。
単純にハウリング・ウルフの数が多いせいで、よくよく考えると数の割には衝撃波の数、多くなかった気もするし……。
なにせ、狭いところで敵味方入り乱れてだから……。
あ、そうか!
「ひょっとして、ハウリングウルフも仲間を巻き込まないようにしてるんじゃない?」
ぼくがそういったところ、ルシアは少し考えるそぶりを見せたあと「そうかもしれません」と答えた。
「わたくしのそばで、ひとりの兵士がハウリング・ウルフと交戦していました。かなり距離が近かったので……」
「ハウリング・ウルフとしても、乱戦は好ましくなかった? そういや、あの衝撃波はレジストで耐えられないんだもんな。ハウリング・ウルフ自身にも耐性がないとか」
「そうだとしても、数のちからで組み伏せられると踏んだのでしょう」
ま、そりゃそうか。
兵士たちの動きを観察した限りじゃ、一対一ではハウリング・ウルフの相手は厳しそうに見えた。
そのうえ、数でも倍なんじゃ、結果は火を見るより明らかだろう。
ぼくたちが来なければ、そうだった。
ぼくたちにとって一体、一体のハウリング・ウルフは、どうってことない相手だ。
ミアの暴言じゃないけど、なんとか遠くから一網打尽にできればなあ。
「味方と一緒に戦うのって、結構メンドイのねー」
「仕方ないですよ、たまきちゃん。わたしたちだけじゃ、すべては守りきれません」
「そうなんだよねー。兵隊さんたちが時間を稼いでくれれば、わたしとアリスと狼さんで、なんとかなりそうなんだけど」
まあ、そうだろうな。
敵の動きがあまりに素早いから、一体目を倒すのにちょっと時間がかかっちゃったみたいだけど、ハウリング・ウルフ単体の強さは、たいしたことがなさそうだ。
少し慣れれば、彼女たちがなんとかしてくれるに違いない。
「とりあえず、ルシアはいま相手にしてるやつを倒したら後退、敵が動きを止めたところを狙撃に専念で」
「わかりました。カズとミアは木の上でしたね」
「あの戦場で、よく見てたな……」
彼女、後ろに目でもついてるのかな。
案外、そういう訓練を受けてきたのかもしれない。
視野が広いというのは、頼りになることだ。
「カズっち、あとの指示は?」
「臨機応変で」
あ、ミアがジト目だ。
だってしょうがないだろ!
「下手に策を弄しても、味方の兵士が混乱しそうじゃないか」
「ん。たしかに」
「ミアも、ライトニング・アロー程度でちまちま削っていってくれ。範囲攻撃は使わない方向で」
あまりにも親衛隊がばたばた倒れるようなら、もう親衛隊のひとたちは見捨てて、ってことになるかもしれないけど……。
いまのところ、がんばってるしなあ。
「彼らの時間稼ぎに期待しよう」
「そうね、わたしとアリスもがんばるわ!」
たまきが、元気にそういった。
ぼくたちは、白い部屋を出る。
和久:レベル44 付与魔法8/召喚魔法9 スキルポイント7
※
もとの場所に戻った直後。
ルシアが、ボーン・ウィップで一体の狼を捕まえ、すぐそいつにフレイム・カッターを放つ。
ハウリング・ウルフの首が刎ね飛ばされる。
ルシアはそのまま、すぐに後退。
宙を舞って、ぼくたちのいる木の枝に着地する。
すぐに衝撃波態勢に入った個体を見つけ、そこにフレイム・カッター。
また一体の首を一撃で切り取ってみせる。
「やっぱり、孤立した個体が衝撃波を使うみたいだな」
「ん。うまく孤立させたら、狙いやすい?」
あ、ルシアとミアで狙撃するなら、そういう方法もあるか……。
「でも、その作戦を兵隊さんたちに伝える方法がないなあ」
「ございます」
口を挟んだのは、使い魔の鷹だった。
つまり、リーンさんだ。
「我々が戦場で用いる合図があります」