軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第171話 世界樹の守護者

育芸館組と高等部組の戦闘班、全部で六十名弱のメンバーが、揃って世界樹そばの木のうろにワープする。

まず気づいたのは、世界樹から出る音が変化していることだった。

以前は、鈴の音のような声で歌われる、君が代のようなしっとりした曲だった気がする。

それが、ぼくたちの心をかき乱すような、女の子がすすり泣くような声に変化していた。

うわあ、これ、結構心にクるものがあるなあ。

「こちらをお使いください」

ホールに待機していた女性が、葉っぱでできた輪っかを手渡してくれた。

彼女自身も、ネックレスのように首からかけている。

「世界樹の葉で編んだ魔除けの護符です」

真っ先に受け取った志木さんが、護符を首からかけた。

「これが、この結界の内部でわたしたちのちからを増幅してくれるブーストアイテム……」

ブーストアイテムいうな。

いやまあ、実際にそういうシロモノらしいんだけど。

世界樹の魔除け、というらしい。

ゲーム的にいうと、おおよそHPそこそこ増加、MP+50%、攻撃力微増、防御力微増、魔法耐性微増。

ほかの数値はともかく、MPが50%増し、というのはガチである。

これで一番、恩恵を受けるのは、頻繁にMP切れを起こすぼくだろう。

いまぼくはレベル43だから、世界樹の結界内部ではMPが215も増えていることになる。

パラディン二体分以上だ。

実際は、MP消費が2/3になっているとのこと。

なので、この魔除けを下げた状態でパラディン五体を召喚したのち魔除けを外したりすると、その瞬間にパラディンが一体消える、みたいな感じになるっぽい。

取り扱いに要注意だなあ。

そのあたりを差し引いても、非常に強力だ。

効果はあくまでこの世界樹周辺、結界内部オンリーである。

こんな壊れアイテムなのだから、それくらいの制限がかかって当然、というところではあるけれど。

で、問題はそれだけの恩恵を受けてなお、今回の敵があまりにも強すぎるということ。

弱気になってもいられないんだけど……。

「わたくしも、今回はここから指揮をとります」

ぼくたちについてきたリーンさんが、鷹を十体ばかり召喚した。

彼女の使い魔たちだ。

鷹が羽ばたき、結城先輩、志木さん、長月桜、といった主要メンバーのもとに舞い降りる。

ぼくたちのところに来た鷹は……あ、ミアが鷹を捕まえようとした。

使い魔が慌てて羽ばたいて、逃げた。

一度、宙をぐるりと舞ったあと、ルシアの伸ばした腕に着地する。

「むう。ルシア、ずるい」

「昨日の行いから考えて、当然の結果かと」

ルシアもいうようになったなあ。

リーンさんが、そんなルシアとミアのやりとりを、温かい目で眺めている。

「この使い魔を通して連絡をとります。敵部隊のうち足が速いものたちは、すでにこの近くまで来ているそうです。迎撃をお願いします」

皆が目くばせをかわしあう。

誰に押しつけようか迷っている感じ……かと思ったら……。

「ん。経験値稼ぎ……オイシイ?」

「待つでござるよ、ミア。おぬしたちは決戦兵器、じっとしているでござる。ここは拙者たちのレベルアップを……」

「待って。わたしたちが、倒します」

ミアと結城先輩と長月桜が、互いに牽制しあっていた。

おいこら、きみら。

いや、足が速いってことは狼系とかだから、ある程度、手のうちも読めてるけどさ……。

でも、安心していい相手じゃない。

ヘルハウンドが混じっているなら、最低でも火レジは必要だ。

そういえばライトニング・ウルフってのもいたなあ。

「啓子さん、うちの後衛部隊を数名連れて、先行していただけますか」

志木さんがいった。

なるほど、最年長の啓子さんを引率役として、彼女に部隊を仕切らせることで、くだらないつばぜり合いを回避するってことか。

少ししか一緒に戦っていないけど、啓子さんって頭の回転も速いしなあ。

あれで、致命的に方向音痴って弱点さえなければ、ほんとスーパーレディなんだけど。

もし彼女が道に迷わず、転移の最初から高等部にいれば……。

いまの状況も、だいぶ変わっていたに違いない。

少なくとも、シバの台頭は許さなかったんじゃないだろうか。

ま、そんなことを考えても意味はないか。

啓子さんと育芸館組の少女五人が、さっさと木のうろを出ていく。

結城先輩は、高等部をグループわけするのに忙しそうだった。

志木さんの方は、すでにパーティ編成を終えている。

長月桜を中心とする第二精鋭パーティを、後詰めとして送り出すとのことだ。

「桜ちゃんは、もうちょっと頑張れば槍術がランク9になれそうなのよ。優先的に経験値を稼がせてあげたいの」

とのことで、なるほど彼女がぼくたち以外で初のランク9に到達してくれれば、これはとても頼もしい。

ぼくとたまきがスキルひとつをランク9にしたのは昨日の夕方だったから、ほぼ一日遅れか。

ぼくが彼女たちに付与魔法をかけてやりたいところだけど、毎度のように、ぼくのMPは貴重すぎた。

基本的な付与魔法は、育芸館組でほかに付与魔法を習得したメンバーが担当してくれている。

ランクが全然違うから、ぼくがかけた方がずっと効果が強いんだけど、これはもう仕方がない。

ぼくの付与魔法は、呼び出したシャ・ラウと、アリス、たまき、ミア、ルシアにだけかける。

パーティ内にかける分には、ディフレクション・スペルもあるし、少しすれば満タンになるだろう。

初めて見た幻狼王に、高等部の男子たちが結構ビビっていた。

舌打ちも聞こえる。

ぼくを見て、小声でなにかしゃべっているひともいる。

その様子に、育芸館組の子たちが静かな怒りを溜め込んでいるようで……うわあ、マズいかな、これ。

ぼくはなるべく、彼らと絡まないようにしよう。

向こうとしても、あまりぼくと目を合わせたくないようだし……。

「カズ殿、カズ殿」

って、結城先輩がこっちにきた。

「拙者たちは、一度、出撃するでござる。そちらも軽くひと当てするなら、いまのうちでござろう」

「ああ、ええと、了解。……ってミア、どうした」

一度木のうろの外に出ていたミアが、てってってと駆け戻ってきた。

おまえなにやってんだ。

「ん。親衛隊のひとたち、作戦よりだいぶ、押されてる。一度、わたしらで押し返した方がいい」

「なんでわかる」

「風魔法で、ちょっと」

あー、ウィンド・サーチか。

ここなら自然たっぷりだから、環境としては最高だな。

で、さくっと偵察してしまったわけか。

「でかしたでござる、わが妹よ」

「ん。いえーい」

ミアは結城先輩と手を打ち合わせた。

きみら、やっぱり実は仲いいな……。

「だが兄、うざい」

「妹からの罵倒はご褒美でござるよ!」

「ほんと、うざい」

不気味に身をくねらせる忍者と、それをシッシッと手で払うミア。

こんな状況でじゃれあってやがる……。

この兄妹、ほんと平常運転だなあ。

高等部の面々が、馬鹿をやっているふたりを目の当たりにし、目が点となっていた。

やー、無理もないけど。

あ、ひとりの女性が肩を怒らせながら進み出て、結城先輩の耳を引っ張った。

「ちょっと、田上宮くん! シスコンもいい加減にして! さっさと指示を出しなさい!」

「わ、わかったでござるよ! 短気はいかんでござる」

かなり痛そうなのに、結城先輩はなぜか嬉しそう。

浮気だ浮気。

って、ミアがこっちに合図して、素早く出口に移動を始めた。

さっさといこうってことか。

ま、そうしましょう。

ぼくたち五人とシャ・ラウは巨大な木のうろに出る。

すでに日は完全に落ちていた。

足場のあちこちで、かがり火が焚かれている。

正面には、炎に照らされた、まるで絶壁のごとき超巨大樹がある。

この森の中心にして楔のひとつ、世界樹。

ぼくたちが守るべき、この大陸で最後の砦。

「ミア、どっちの方にいけばいいか、指示して」

「あいさいさ」

ミアはふたたびウィンド・サーチを使い、しばし、耳を澄ます。

いまのうちに、全員にディフレクション・スペルからのナイトサイトをかけておく。

暗視のおかげで、真夜中の森も夕方くらいの明るさになっている。

ルシアに聞いたところ、エルフの彼女はわりと夜目が利くらしい。

でもナイトサイトによる暗視の方がずっと性能は高いとのこと。

で……うつむいていたミアが、ほどなくして顔をあげる。

「あっち」

ぼくがディフレクション・スペルを使い、ミアがフライ。

夜空に舞い上がり、彼女が指差す方向に飛ぶ。

「アリスとたまきは、シャ・ラウの背に乗っておいて」

そう、指示を出しておく。

いざというときは、いつものシャ・ラウの超突撃でいこう。

二分ほど、飛行した。

かなり敵が近いといっても、まだ前線との距離はそれくらいあるみたいだ。

剣撃と悲鳴が、風に乗って響いてくる。

木々が密に茂っているため、暗視がついた目でも状況がよく見通せない。

いや、でもたいまつの明かりは見えた。

狼のような動物の吠え声。

リーンさんによると、親衛隊は動物兵の類を使っていないらしい。

つまりあれは、敵だ。

「シャ・ラウ、吶喊」

『承った』

幻狼王は、アリスとたまきを乗せたまま、雷となって突撃した。

闇夜に、紫電がきらめく。

あのチームなら、あそこになにがいてもなんとかしてくれるに違いない。

「ミア。抱きかかえているから、もう一度、ウィンド・サーチだ。正面以外に敵がいないかどうか」

「ん。了解」

ぼくは、ミアを抱えながら、シャ・ラウを追いかける。

って、結構バランスとりにくいな……。

ぼくは何度もよろけ、体勢を崩す。

「あのね、カズっち」

「はい、ミアさん」

「カズっちに抱っこしてもらえるのは嬉しいけど、やっぱ自分で飛ぶ」

ぼくはミアから手を離した。

ミアは目を閉じながらも、安定飛行。

「ごめん……」

「なんというドジっ子アピール……あ、左手から四体、アリスちんたちのとこに近づいてる。四足歩行。アリスちんたちが交戦しているのは……」

いや、それは見えた。

ぼくは正面を睨む。

ちょうど、たまきの一刀が、それを真っ二つにするところだった。

ヘルハウンドだ。

しかし、体表の色が違う。

暗視だから詳しくはわからないが、黒じゃなくて……緑色、か?。

あ、別のヘルハウンドがブレスを放った。

シャ・ラウが、アリスとたまきをかばい、まともにそれを食らう。

ジュッ、と肉が焼ける音。

酸っぱい匂い。

シャ・ラウの体表から煙が立ち上り、彼が低く呻く。

これは……酸のブレスか!

「アシッド・ハウンドです」

ルシアがいった。