軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第168話 アリスの叱責

ロウンの地底神殿、その最深部にて。

ぼくは地底樹の間で、ルシアが同化したロウンの地底樹を守る。

一時間が経過した。

その間に、数度、散発的な襲撃があった。

いずれも、ぼくとパラディン三体で撃退する。

倒した敵は、ゾラウス7体、コボルド29体。

ぼくはレベルがひとつ上がって、43になった。

ルシアはレベルがふたつ上がって、33になった。

ルシアは水魔法をランク6にした。

これで、さらに戦術の幅が広がる。

和久:レベル43 付与魔法8/召喚魔法9 スキルポイント5

ルシア:レベル33 火魔法9/水魔法5→6 スキルポイント6→0

白い部屋に行くたびに情報交換し、いまは地底樹と一体化しているルシアから掃討の進行状況を聞いた。

アリスたちは前線のアラクネたちを突破し、無事、地下神殿に突入したという。

後続部隊も続々と神殿に入場しているとのことだ。

「じつは、何度かモンスターを拘束し、アリスたちの前に差し出したのですが……ミアに怒られてしまいました」

「なんでだ? あいつ、いつも経験値、経験値ってうるさいのに」

「いまはカズと合流することの方が大事だと」

いつものミアの余裕がなくなっている気がする。

普段なら、もうちょっと冗談めかす気がするんだけど。

ぼくが勝手に行動したことで、まだ怒っているんだろうか。

うん、怒られるのは……仕方がないな、素直に謝ろう。

ほどなくして、アリスたちがぼくのいる地底樹の間にやってきた。

アリスとたまきは、ぼくの顔を見たとたん、泣きそうな顔になる。

「カズさん!」

「心配したわ!」

ふたり一緒に飛びかかられた。

抱きつかれ、ひどく泣かれる。

特にたまきは、「カズさんの匂いだよう」とぼくのシャツに顔をうずめて……おい、こら。

ぼくは困惑して、数歩後ろで待機するミアを見た。

ルシアの口調からしてずいぶんと怒っているんじゃないかと思ったけど、ミアはいつもの調子で眠そうな目をぼくに向けるだけだった。

「ん。爆発しろ」

「いろいろすまなかった。……ひょっとして、ふたりの暴走を止める役、やってもらってたか」

ミアは軽く肩をすくめた。

ああ、彼女には助けられてばかりだなあ。

「カズさん! もう二度と、置いて行かないでください!」

アリスが、涙目でぼくを見上げ、睨んでくる。

ぼくはとっさに、いいわけの言葉を口にしてしまう。

「疲れているみたい、だったからさ。それに、この任務はルシアとふたりじゃないとできなかった」

「それでも、声くらいかけてください! そうじゃないと、わたし、わたし……っ」

泣きじゃくるアリス。

ぼくは狼狽して、思わず彼女の頭を撫でた。

よしよし、と幼子をあやすように……。

余計、泣かれた。

あーもー、ダメだこりゃ。

「ときに、ルシアは?」

「ああ、ええと……この樹のなか」

ミアの言葉に、ロウンの地底樹を指差す。

いまやドームの天井近くまで幹を伸ばし、青々と生い茂る豊かな大樹となったロウンの地底樹。

ルシアはこのなかで、いまも無数の樹木を操り戦っているのだと説明する。

「わたしたちがここに来る途中、何度も地面から生えてきた樹に助けられました。ルシアさんが直接、操っていたんですね」

泣きやんだアリスが、感嘆の声をあげる。

「それでときどき、わざとモンスターを縛りあげて、わたしたちにトドメを刺させてくれたんですね」

「ミアに怒られたって聞いたけど」

「ん。この神殿のなかにどれだけの脅威が潜んでるか、わからなかった」

実際のところ、ぼくもその点については懸念していた。

ロウンの地底樹は、神殿内部に根を生やすことができない。

ゾラウスたちが連携して攻めてきた場合、ぼくひとりではルシアを守りきれなかったかもしれない。

幸いにして、ゾラウスたちは戦巧者ではなかった。

散発的な攻撃、戦力の逐次投入、とにかくただ、殴りかかってきただけである。

おかげでこの部屋を無事に守りきることができたのだ。

「あ、そういえばカズさん! わたしレベル33になったわ! アリスは34よ!」

アリスは治療魔法を、たまきは肉体を、ミアは地魔法を、それぞれランク6にしたという。

ほかのスキルを上げる意味も特に感じられないし、順当だろう。

「それにしても、ルシアちん、木と融合してしまうとは……。いったいどこからゲッター線を浴びたのか」

「融合とか進化とかいい出すといろいろ不穏だから、やめておけ」

「いえっさー。……ときに、話を戻すけど。やっぱ、わたしらが寝てる間に勝手に出ていったのはギルティ」

そこはさらっとスルーして欲しかった。

とはいえ、今回ばかりはぼくの方に落ち度がある。

「すまない。みんなには、心配かけた」

「反省してください」

アリスは、泣きそうな顔で頬をふくらませつつ、そういった。

でもすぐに、この少女、相好を崩す。

ぼくの顔を見るだけで、嬉しいらしい。

「あー、正直、アリスはもっと、ぼくを叱責していいと思うんだ」

「そ、そんなことをいわれても……」

「じゃあかわりに、わたしが叱ってあげるわ! カズさん、目をつぶって!」

たまきが手を振り上げる。

ぼくはおとなしく、頬を差し出した。

この一発くらい、甘んじて食らうべきだろう。

でも、張り手のかわりとして、唇にやわらかい感触。

まぶたを持ち上げると、目の前には赤面したたまきの顔がある。

「へへ。……ほら、アリスもおしおき、しよう」

「は、はいっ!」

あー、うん、これは仕方がないね。

おしおきだからね。

ぼくはアリスを抱きよせ、キスした。

そのあとミアが襲ってきたので、額に軽く唇を押しつけておく。

「ひどい、差別だ!」

「いや……なんか、オチをつけて欲しかったのかと」

「カズっちがいじめっ子の目になってる」

ミアがいじけ出したので、唇と唇を軽く触れ合わせておく。

たしかに彼女だけ仲間はずれは、よくない。

このあと、うん、報告しなきゃいけないこともあるし……。

しゃべっているうちに、ほかの兵士たちも地底樹の間にやってきた。

初老の司令官が、ミアに対して緊張した面持ちで報告をしている。

ミアは無駄にふんぞりかえり、「うむ、うむ」と偉そうに受け答えをしていた。

おまえほんと、そういうの得意だな……。

いや、実際、助かるけどさ。

「カズっち。神殿の制圧はほぼ完了したって。捕虜になってたひとたちも、無事、救出。で、そのひとたち、世界樹に連れ帰ればいい?」

「ああ、そうだな。……いや、その前に、一度こっちから会いに行こう。いいかな、ルシア」

大樹を振り仰ぐ。

枝葉が、まるで風を受けたかのようにサワサワと揺れた。

『はい、カズ。姉たちの治療をお願いします』

ルシアの声が聞こえてくる。

ぼくはうなずいた。

「この場の警備は、兵士さんたちと……たまき、一応きみが頼む」

「あいさいさー、だわ!」

「アリスとミアはついてきてくれ。ルシアのお姉さんたちを迎えにいきたい」

その言葉だけで、ミアはいろいろ了解したようだ。

小柄な少女は、歩き出したぼくに追いつき、横に並ぶ。

「お姉さんとかって、ルシアと同じってこと?」

「ああ。その可能性は高いと思う。さっきまでは、戦いに夢中で忘れてた」

「そっか。……レベルアップできるなら、戦力になるね」

そう、オラーさんたちは、ルシアと同じように『素子』として生まれ、訓練を受けてきたはず。

『素子』代表レースは途中で脱落したとはいえ、レベルアップ自体は可能なのではないか。

まずはそこを確認する必要がある。

そのうえで、可能ならば戦力になってもらう。

身体は弱っているだろうが、魔法でなんとかなる範囲……だといいなあ。

アリスの魔法でどこまで回復できるか次第だ。

「たぶん、治療ランク7のリヴァイヴならなんでも可能。でもアリスちんは、まだランク6」

そうかー、あと1だけ足りないなあ。

いまここで雑魚狩りに行くわけにもいかないし、仕方がないところか。

ちなみにリヴァイヴは、ランク4のキュア・ディフィジットの強化版のような魔法である。

キュア・ディフィジットの場合、欠損した部位がないと肉体を修復できなかった。

リヴァイヴは、欠損部位が存在しなくとも、魔法をかけるだけで健康な肉体に再生してしまう。

この魔法なら、筋肉の衰えとか以外はなんとかなるはず……。

ちなみにリヴァイヴをかけても、ハゲはなおらない。

繰り返す、ハゲはなおらない。

「ときに、カズっち。拙者、ひとつ聞きたいことが」

「なんだよ、拙者って」

「ルシアちんと寝た?」

ぼくはピタリと立ち止まった。

ミアがじーっと見上げてくる。

ようやく追いついてきたアリスが、きょとんとしていた。

「はい、ミアさん。おっしゃる通りです」

「正直でよろしい」

「詳しいことはあとで話すから」

ミアのやつは、これみよがしに鼻で笑いやがった。

ああもう、こんちくしょう。

オラーさんたちは、一室で手厚く看護されていた。

育芸館組の少女が、忙しくヒールとキュア・マインドをかけている。

あ、これならアリス、いらなかったかな。

「来たわね」

志木さんが、腕組みして待っていた。

さすがに疲れた表情をしている。

「ちゃんと、アリスちゃんたちに怒られた?」

「うん。反省の意を示したよ」

「よろしい。次からは、もうちょっとマシな対応をしなさい。……あなたに置いていかれたって聞いたときのこの子たちの顔、見せてあげたかったわ」

ああ……そうか。

ぼくはそんなに、ひどいことをしてしまったんだなあ。

いまさらのように、その実感がわく。

「まあいいわ。それはあとにしましょう。……ここの代表のオラーさんってかたが、自分も白い部屋に行けるかもしれない、っていいだしているの。カズくん、そのあたり聞いてる?」

うわー、その話、もう出てきていたか。

好都合ではあるけど、オラーさんってきっと、そのへんのちからを政治的利用とかもう考えてるだろうなあ。

いいのかな、彼女たちをレベルアップさせてしまって。

考えたのは、ほんのひと呼吸の間だけだった。

いや、構わないんだ。

というか、いまのぼくたちに、戦力のえり好みをする余裕なんてあるはずがないんだ。

「ざっと説明するよ」

ぼくは志木さんに、手短な解説を行った。

志木さんは、腕組みしたまま、時折、相槌を打ちつつぼくの話を聞く。