軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第161話 悪夢のスライム1

インヴィジブル・スカウトの先行偵察を受けて、敵の配置を把握しながら進撃する。

三つの部屋を通過し、二十体とちょっとのコボルドを始末した。

基本的には、ルシアの火魔法で一網打尽である。

レベル1とおぼしきコボルド相手にランク5のファイア・ボールは過剰火力かもしれないが、レベル23のルシアにとってこの程度のMP消費は、必要経費として割り切れる範囲だろう。

生き残りのコボルドがいるかもしれないので、爆発の直後にレジスト・ファイアをかけたパラディンを突撃させている。

いまのところファイア・ボールだけで瞬殺だから、パラディンが活躍したことはないけれど。

メイジ・コボルドがいるかもしれないと用心したのだが、どいつもこいつも赤い宝石一個しか落とさなかったので、たぶん全部、雑魚コボルドだったのだろう。

「コボルドはメイジの数が多いっていってなかったっけ」

「一般的には、そうです。ですがここに集められた個体は、そうではないのかもしれません」

「なんでだろう」

「女性にマナを注ぐためにコボルドが集められたということであれば、わざわざ有能なメイジを連れてくる必要はありません」

あ、そういやそんなことをいってたな。

モンスターたちだって、人材が余っているわけじゃないだろう。

ことに魔法が使えるやつらは、どこでだって有用だろうから。

「油断はできません」

「ああ、そりゃもちろん」

そもそも、ルシアの考察が当たっているかどうかもわからない。

今後も用心は続けていくつもりだ。

「この先に階段があります。上の階に行きます」

現在のぼくたちの場所は、この神殿の地下二階なんだそうだ。

といっても地底神殿、という名前の通り、この神殿自体がすべて地下に埋まっている。

地下一階と地下二階が、普段暮らしていたフロアとのこと。

ロウンの地底樹は地下三階、最下層に存在する。

いったん上にあがるのは、明らかに遠まわりだ。

それでも、隠し通路の鍵を手に入れた方が結果的に早道かつ安全であるとルシアは判断した。

ここをよく知るルシアの判断に異議はない。

問題は、この神殿のいまの主である、モンスターたちであって……。

先行するインヴィジブル・スカウトが戻ってきて、見たことのないスライム状のモンスターが階段をあがってすぐのフロアにいると告げてきた。

間違いない、ゾラウスだ。

魔法を使う、知性の高いスライム。

「うーん。念のため、レジストを張るべきかな」

使い魔も含めた全員に、ディフレクション・スペルからの四属性レジストを使っておく。

ちょっとMP消費は激しくなるが、それでも合計でMP28を消費する程度。

いまのぼくなら、十分と歩かず満タンとなる。

インヴィジブル・スカウトによれば、ゾラウスは三体。

気づかれた様子はなかったが、かなり感覚が鋭い相手だと感じたとのこと。

そのへんを敏感に察知してくれるインヴィジブル・スカウトは、ほんと優秀な偵察役だ。

「オラー姉さまによると、ゾラウスはマナを見ることができるようです」

「目で?」

「目に似た感覚器官が存在するようですが……それがどこに存在するのか、さっぱりわからないそうです」

そういえば、さっきそんなことをいってたかな。

正直、あまりに手際よく話すもんだから、具体的な会話内容を頭に詰め込めていない。

ルシアは、当然のように全部を聞き取ったんだろう。

さすがですルシアさん。

複雑な情報を全部頭に叩き込んで即座に分析するなんて、なかなかできることじゃないよ。

「カズ、作戦は」

「基本的には同じで。なるべく近づいて、ルシアがファイア・ボール。そのあとパラディンが斬り込む」

といってから、いや、と首を振る。

「ファイア・ボールじゃなくてインシネレートでよろしく。火力が過剰かもしれないけど、油断して取り逃すよりはいい」

「はい、同感です」

上の階まで残り二十段ほどのところから、合図とともにルシアが駆け出す。

すぐ後ろにパラディンが続く。

ぼくと残りの使い魔も、そのあとを追いかけた。

これだけの人数で走れば奇襲の効果は薄れるが、ゆっくり近づいて敵の感知能力にひっかかる方が面倒だという判断だ。

階段を一気に駆け上がったルシアが、フロアに飛び出す。

「インシネレート」

業火が巻き起こる。

ガラスをこするような不愉快な音が聞こえてきた。

ひょっとして、あれがゾラウスの声か?

断末魔の悲鳴かもしれない。

いや、そうであってくれると嬉しい。

パラディンがルシアの横を通り、突撃していく。

ぼくにもようやく、階上の景色が見えてくる。

ルシアとパラディンの足が速すぎて置いて行かれたのだ。

学校の教室ほどの広さがある、石造りの殺風景な部屋だった。

壁にかかった魔法のランタンが、橙色に室内を照らしている。

でもいまは、それ以上に明るいものがある。

ルシアの放った爆炎だ。

炎のなか、半透明のゾル状の物体が、苦悶するようにその身をよじっていた。

あれが……ゾラウスか。

おおきさは、ひとの背丈くらい。

横幅は一メートルくらいあるから、結構でかく見える。

不定形のそいつが、三体、全身炎に包まれ、身をくねらせている。

もっとも近い一体にパラディンが突撃し、斬撃を浴びせた。

一刀のもと、両断……。

されなかった。

パラディンの動きが止まる。

その手から、剣がこぼれおちる。

げっ、これって……。

つまりゾラウスの攻撃魔法って、精神系か!

しかも、最高ランクの使い魔がかかっちゃうほど強力なヤツかよ!

いや、完全とはいかなかったみたいだ。

パラディンは予備の小剣を抜き、ふたたび攻撃にかかる。

でもそのわずかの間に、ゾラウスは距離を取って……。

「フレイム・カッター」

ルシアの生み出した炎の刃が、スライム状生命体を真っ二つに引き裂いた。

うん、フレイム・カッターはランク8の切り札だけど、ここは使ってしまうのが正解か。

でもって、その間に残る二体のゾラウスが、その身をくねらせる。

なんかあちこち炭化しているように見えるけど、でもそんなこと関係ないとばかりに……。

やつらが、なにかをした感覚。

しまった、ぼくはなにをしている。

精神系の攻撃なら、防ぐ方法があったじゃないか。

いますぐ、あれをかけて……。

遅かった。

次の瞬間、なにかがぼくの心に入ってくる、おぞましい感覚がある。

ざらついた悪意。

頭のなかをぐちゃぐちゃにかきまわされる。

恐怖の天幕が、ぼくを襲う。

それによって……。

シバのいやらしい声が叩きつけられる。

屈辱的に床にはいつくばるぼく。

周囲で嘲笑する男女。

「あ……あ、あ、ああっ」

連鎖的にぼくのトラウマがこじ開けられていく。

全身に震えが走る。

ヤバい。

「が……あっ」

強い眩暈を覚えた。

自分が自分でなくなる感覚。

「カズ!」

ルシアが叫ぶ。

ぼくの異常に気づいたのだろう。

でもぼくは、それどころじゃなかった。

頭を抱えて、膝をつく。

苦悶の声を吐き出した、その直後。

「インシネレート」

ルシアが、パラディンを巻き込み、ゾラウスたちに攻撃魔法を放った。

ふたたび、部屋を業火が包む。

ガラスを引っ掻いたような音が響く。

今度こそ……これは、ゾラウスたちの断末魔の悲鳴だ。

ぼくはレベルアップする。

白い部屋へ。