軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第159話 ロウンの地底神殿4

一度、話し始めると、ルシアは堰を切ったように次から次へと言葉を紡いだ。

これまでの口数の少なさを埋め合わせるかのように、己のことを語り続けた。

「『素子』としての生き方に疑問を持ったことは、何度もあります。わたくしに与えられた侍女や従者は、わたくしが『素子』として脱落すると同時に解雇されるはずでした。不幸なのか、幸いなのか、わたくしは、わたくしに仕えてくださる方々の期待を裏切ることができなかったのです」

自分のために勤勉だったわけではない、とルシアは語る。

国のためでもない、と。

ただ、彼女の侍女たち、従者たちの期待通りの自分でありたかったのだと。

「父である王から初めて言葉をかけられたのは、十四歳のときでした。そのときすでに『素子』はわたくしを含めて七人に絞られていました。謁見の間で、期待しているぞ、と声をかけられ、頭を下げました。結局、最後の最後まで、わたくしの声を父が聞くことはありませんでした」

父親、つまり彼女の国の王は、国と共に滅んだという。

かろうじて生き延びた兵士の証言らしい。

淡々と、ルシアは己の半生を語った。

ぼくは、相槌を打ちながら彼女の話を聞いた。

きっと、それ以上はなにも求められていないはずだ。

「母は、わたくしが生まれたときに亡くなったそうです。同腹で、ふたつ年上の姉がいました。彼女は『素子』として早期に脱落し、他国の貴族のもとに降嫁いたしました。その国は、二年前にモンスターによって滅びたと聞きます。奇襲により、一夜にして」

ちなみに、ルシアがその話を聞いたのは、リーンのもとに身を寄せてからだという。

エルフの国は、本当に情報の流れが遅かったのだと。

この地は本来、深い森の奥であったそうだから、それも当然かもしれなかった。

「じつはひとつ、わたくしは嘘をついていました」

「嘘?」

「王族でわたくしひとりが難を逃れたのは、偶然とわたしの臆病の結果なのです」

かつてルシアが、ちらりと語っていたことがある。

彼女は、転移門によってひとり、逃されたのだと。

彼女の国は、彼女ひとりを逃がす分の転移門しか開けなかったと。

臆病……か。

どういうことだろう。

「正確に申し上げれば、あの浮遊要塞がわたくしの国に攻め入った当時、わたくしは森のはずれの町で、お忍びにて、異国の代表者と会合の場を持っておりました。その代表者というのが、リーンだったのです」

「じゃあ、転移門を使ったのは……」

「はい。わたくしの国に、転移門を使える術者はおりませんでした。リーンはわたくしに、いますぐロウンの地底神殿に戻るか、自分と共に来るか、自らの意思で選択するように、と……。当時、戦況がそこまで絶望的だとは判明しておりませんでした」

つまりルシアは、こういいたいのだろう。

自分は、ただ戦争が怖くて逃げたのだ、と。

「英断だったわけだね」

「カズ?」

「当時の情報を分析しても、ルシアにとってはどちらが正しいとも判断できなかった。そうだよね。でもルシアは、たとえ敵前逃亡の汚名を着ることになっても生き延びることを選んだ。結果、いまがある。きみは解放者として、ここに戻って来ることができた。……ひょっとしたら、きみのおかげで、この戦いに勝てるかもしれない。そうでなくとも、きみがいるからこそ、大幅に犠牲者が減るだろう」

ぼくは寝ころんだまま、ルシアを見上げてにやりとする。

「ルシアがいなければ、たぶんぼくたちは、昨日と今日を生き延びられなかった。そうだろう」

「それは……はい。ありがとうございます、カズ。わたくしを励ましてくださるのですね」

「きみは賢明な判断をした。ぼくはきみに、とても感謝している。ルシア、きみがどれだけの責任を背負っているかはわからない。ぼくは王族として生まれたことはないし、そもそも身分制度というものがよくわからないから」

でも、とぼくは首を振る。

「いま、きみのリーダーは、ぼくだ。この部屋を出たあとも、ぼくの命令に従え。ロウンの地底神殿はもともときみの本拠地だったかもしれないけど、いま、きみがいるべき場所はぼくの隣だ」

「カズ……」

ルシアはぼくを見下ろす。

唇が、何度か言葉を紡ぎかけ、そのたびにきゅっと閉じられた。

しばしの沈黙ののち、ルシアは口もとをほんの少しだけ、吊り上げる。

「あなたといい、志木といい、不器用なのですね」

「ほっといてくれ」

「ですが、そういう意地の張り方は……好ましく思います」

ぼくは苦笑いして、ルシアの手を取った。

そっと引っ張り、彼女もぼくの隣に寝そべらせる。

ふたり、草原エリアで空を見上げた。

「難しいことは考えないでさ。昼寝、しようよ」

「女性とふたりきりで、横になって、ただ眠るだけですか」

その口調にからかうような響きを感じ取る。

ぼくは鼻で笑ってみせた。

「アリスとたまきがいないからって、浮気してどうするんだよ……」

「きっとミアなら、いくじなし、といいます」

からかうような口調だった。

そんなところばかり、ミアから学ばないで欲しい。

「それにね。ぼくは、わりときみのことを、友人として気に入っているんだ」

「仲間、ではなくて、ですか」

「仕事上のつき合いだけじゃなく、プライベートでも、きみと共にいて心地いい。だったら、これって友人ってことじゃないかな」

ルシアは少し考えて「そうかもしれませんね」と答えた。

「では、共にお休みしますか」

ぼくは目をつぶった。

ほどなくして、ルシアの寝息が聞こえてくる。

少女のほのかな体臭が、ぼくの鼻孔をくすぐるのだけれど……。

彼女は、友人、友人だ。

ぼくは鉄の意思で己の欲望を抑え、眠りに落ちるときを待った。

さして忍耐を見せる必要はなかった。

緊張の連続だったからか、少し気を抜いたとたん、圧倒的な睡魔が押し寄せてくる。

起きると、目の前にルシアの顔があった。

半身を起した彼女が、ぼくを見下ろしているのだ。

ルビーの瞳が、ぼくをじっと覗き込んでいた。

「ええと、ルシア……寝顔を覗くなんて、えっち」

「はい」

「マジレスされると、すごく困る」

ルシアは、きょとんとして首をかしげた。

「えーと」

「わたくしも人並みに性欲はありますが……。無論、慎みを持つことが大切であるということは、ミアからもよく聞いています。恥ずかしがるのが重要なのですよね」

「いろいろ待って。話し合おう、ルシア」

ルシアは真剣な顔でぼくを見つめた。

その桜色の唇が、蠱惑的に、わななくように動く。

ぼくは魅入られたように彼女を見つめ、そして……。

少女のお腹が、ぐうと鳴った。

あ、はい。

「甘いもの、食べる?」

「はい!」

亡国の悲劇の王女は、拳をかたく握り、勢い込んでうなずく。

ケーキやデザートなどのセットを召喚し、思う存分、ルシアに食べさせてやる。

ぼくもいくつかついばんだけど、さすがにケーキ二個くらいで限界だ。

甘いものは嫌いじゃないけど、そんなにがっつくほどじゃないかなー。

食後、ルシアは無表情ながら満足げに口もとをぬぐい、改めてぼくを見る。

「元気が出ました」

「それはなによりで」

「こういった気晴らしというのは、思いのほか有用なのですね」

ああ、彼女は生真面目そうだからなあ。

なにせ、リーンさんに従って故国から逃げだしたことを恥じていたくらいだ。

ぼくからすれば、自分が生き延びるためにさっさと逃げ出すことなんて、当たり前としか思えないのだけれど。

いや、はたしてそうだろうか。

もしアリスやたまきやミアが、モンスターのそばに残されていたら……。

それでもぼくは、悩まないといえるだろうか。

最終的に己の身の安全を確保することを優先するとしても、ずっと後悔に苛まれて……。

やめよう。

こんな仮定は無意味だし、不健全ですらある。

「それじゃ、戻ろうか」

「はい」

ぼくたちはうなずきあい、もとの部屋へ……。

の前に、ぼくはルシアにひとつ、提案する。

「ルシアはもうすぐレベルが上がるけど、ここでレベルアップ抑制を使わないか」

ルシアの持つふたつの特殊能力のうち、地味な方。

レベルアップ抑制。

任意のタイミングに、白い部屋へ赴くことができるようになる特殊能力だ。

そのかわり、一度使用すると、以後二十四時間、使うことができなくなる。

昨日、ルシアはそれを使って、長年溜め込んだ経験値を一気に解放し、レベル10にあがった。

今日は、ここでレベルアップを温存してもらうことで、ぼくたちにとって必要なとき、白い部屋に赴けるようにできる。

「そうですね。いい考えだと思います」

「じゃあ、それで」

ルシアがうなずく。

スキルポイントが8になったので、付与魔法をランク7にする。

これで、いくつか能動的な戦闘手段が増えた。

和久:レベル37 付与魔法6→7/召喚魔法9 スキルポイント8→1

戦闘が再開される。

いや、それはもはや、蹂躙と呼ぶ方が正しいだろう。

パラディンが、キャンドル・デイズの効果でぼうっとしているコボルドを殺戮していく。

その虐殺から逃げ延びたコボルドを、三方の通路に配置したエレメンタルたちとルシアが的確に潰していく。

というか、ルシアはひとりでエレメンタル並の活躍をしていた。

あー、彼女、やっぱり武器スキルなしでもランク3程度の実力があるんだなあ。

このうえ武器スキルをとった場合、どうなるんだろうか。

彼女の武器であるボーン・ウィップがあまりにも特殊な武器すぎて、どのスキルを取るのが的確なのか、ちょっとわからないところだけど……。

一応アレ、棍術扱い……なのかなあ。

白い部屋で聞いてみてもいいかもしれない。

そろそろ、彼女の第二スキルも決めなきゃいけないし。

本当は、ミアともよく相談したいところだけど……。

自在に動く鞭を用いたルシアの戦いは、まるで踊っているかのようだった。

ルシアは苛烈に、容赦なくコボルドたちを始末していく。

そして……最後の二体を、ルシアとパラディンが同時に倒した。

ぼくたちは、四十体以上のコボルドを全滅させることに成功したのである。