軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第157話 ロウンの地底神殿2

「これからわたくしたちが赴くロウンの地下神殿について、少しだけお話しておきましょう」

ルシアは前を歩きながら、語る。

「神像石から生み出される無限のマナを用いることで、ア・ウル・ナアヴは豊かな森を手に入れました。二十万もの民が集まるエルフの都アル・ナアヴは、世界でもっとも栄えた都市であったといいます」

森の民って、物語なんかだと、あんまり都市化してないイメージがある。

そもそも、あんまり人口が多くないとか。

やっぱり、森=狩猟採集生活=原始的、って印象が強い。

でも、ルシアの国は違ったわけだ。

豊かな森林資源と、伐採してもマナのちからですぐ植生が回復するって条件が合わさって最強に思えるってところなんだろうか。

生育の早い森林、しかも土壌が豊かって、ものすごいアドバンテージなんだろう。

ぼくたちの世界じゃちょっと考えられないことだけど、マナってなんでもありの資源があると、こういうチートじみた国家も生まれるんだなあ。

いろいろと感慨深いというか、ロード・オブ・ザ・リングで見たあのきらびやかな世界がとたんに色あせていくというか……。

ああもちろん、ルシアもこの世界のエルフも、この件ではなにひとつ悪くない。

「ロウンの地下神殿は、国の豊かさの中心、象徴として王家が管理していました。王家の女性を神殿に住まわせ、実質的な後宮として運営していたのです。当代の王は、百人以上の女性に二百人以上の子を産ませました。わたくしはそのなかで、もっとも優秀な『素子』でした」

「それって……」

「王家の実験体、という程度の意味です。わたくしを含めて百人前後の『素子』がいましたが、国が滅ぶまでに脱落しなかったのは、わたくしひとりでした」

なんか、百人の子供を聖闘士のもとに送り込んだ城戸なにがしを思い出す話だ。

数人でも、いやひとりでも大成すればそれでよし、ってことか。

それで国が救われるなら必要な犠牲……なのかなあ。

いや、ルシアの口ぶりからすると、脱落した『素子』も別に殺されたわけじゃないっぽいけど。

単純に、政略結婚の道具にされるだけなのかもしれない。

王族なら、それなりの利用価値もあるだろう。

「わたくしの能力をマレビトなしで解放する方法も研究されていましたが……。その前にモンスターの侵攻があったのです」

あとは、知っての通りだった。

国は滅び、ルシアはリーンのもとへ辿り着いた。

結局、彼女はマレビト、つまりぼくたちと出会った。

「王族以外の男子禁制であったロウンの地下神殿は、ゆえに国でもっともかたい警護を誇っておりました。正面からでは難攻不落、いかなる攻撃も跳ね除ける……はずでした」

とはいえ、国そのものが滅んでなお、この場所だけを守りきれるはずがない。

ルシアは、具体的にどういう風にここが陥落したかは知らない、といった。

この地に豊かな恵みをもたらしていた神像石が機能を停止したことは確かであるらしい。

機能を停止した、か……。

だから地上は、あんな荒野になったのかな。

「ガル・ヤースの嵐の寺院で見た杭は、機能していなかったよ。それどころか、モンスターに利用されていた」

「おそらく、それを恐れたのでしょう。傲慢なわが父も、最後の最後で、世界全体の行く末を案じたのだと思います」

ルシアの言葉は、なんとも辛辣であった。

まあ、彼女が自分の国について批判的なことをいうのは、いつものことみたいだけど。

「リーンは、この地の神像石が封印されていると考えています。王家には、いざというときのための封印の儀式が伝わっていましたから。これは五つの杭を継承する国家すべてが、同様の儀式を伝承していたはずです。万一、よからぬ輩の手に杭が渡ることになった場合、その前に必ず封印するようにと。それが、杭を管理する者たちの義務であったはずなのです」

「えーと、ガル・ヤースでは神像石、もろに利用されていたけど。嵐の寺院の連中は、その義務を履行しなかったということ?」

「はい。かの地の腐敗は、わが国以上であったということでしょう」

なるほどなー。

だからこそ、アンデッド無限湧きなんていう厄介な事態になったわけか。

結局、こちらも物量で押し切っちゃったけど。

あの場にもう一体、神兵級のネクロマンサーがいたらどうなっていただろう。

さすがに、対抗しきれなかったかなあ。

「じゃあ、今回は敵が無限のマナを使ってくるって懸念はしなくていいわけか」

「おそらくは。現在に至るまで、封印の解除は確認されておりません。かの神像石が起動すれば、必ずや地上に影響が見られるでしょうから」

なるほどね。

それは頼もしいことだ。

こっちはただでさえふたりしかいないのに、そのうえ相手がチートじみた能力を持っていたら、どうしようもない。

「で、ルシアはその封印を解除して、神像石の能力を使って敵を封じ込めると」

「作戦がうまくいけば」

「うまくいくと、思っていない?」

「もちろん、成功させるつもりですが……」

ルシアは立ち止まり、振り返った。

ぼくを見つめる紅の双眸が、困惑するように揺れる。

「ガル・ヤース方面の作戦は、すでに成功裏に終わりました。いざとなれば、かの地から応援を呼ぶことも可能です。いまならちから押しをすることで、正面からの突破が可能かもしれません」

「それは消耗がおおきすぎる、って話だったよね」

「ですが、失敗すれば……カズ、あなたが失われます」

ぼくは苦笑いした。

そんなの、いまさらの話だ。

「ルシア、その場合、きみも死ぬんだけど。どのみち、死んだら終わりだろう」

「わたくしが死んでも、亡国の王女がひとり、消えるだけです。ですが、カズ、あなたは……」

「あのね、ルシア。ぼくたちは、仲間だ。仲間の命は対等で、そしてぼくは、これ以上、誰ひとりとして仲間を死なせたくない」

ルシアは黙って、ぼくを見つめた。

彼女が呑みこんでいる言葉は、なんとなくわかる。

それは理想論で、夢物語だと、そういいたいのだろう。

でも、違うのだ。

これは決意なのだ。

「アリスやたまきやミアと同じくらい、ルシア、きみも大切だってこと。それだけは、覚えておいて」

「それは、恋愛感情ではなく……ですか」

「仲間として」

ルシアはまた、迷うようになにか言葉を飲み込んだあと……。

「はい」

とうなずいた。

いつも表情の少ない顔が、少しだけ緩んでいるように見えた。

回廊の終着点は、一見、ただの行き止まりだった。

でもまあ、当然、本当になにもないわけがない。

ルシアが壁面に手を触れると、行き止まりの壁全体が青く輝いた。

「この先は、敵の巣窟です。カズ、覚悟は……」

「いまさらだよ」

ぼくはルシアの手を握った。

ルシアは強く握り返してきた。

「参ります」

ふたりで、壁面に手をつく。

テレポート特有の酩酊感がある。

テレポート・アウトした先は、倉庫のような石造りの小部屋だった。

ひとつだけある扉は開け放たれていて、通路が見える。

その通路から、ろうそくのような頼りない明かりが差し込んできていた。

部屋には木箱だったであろう残骸が散乱している。

埃が積もっていた。

なるほど、ここから先は、埃が積もる空間なのか……。

で、通路から、鼻が曲がりそうな臭気、糞尿の臭いが漂ってくる。

うん……? 生き物が、いる?

アンデッドじゃなくて、動物系モンスターか?

鼻のいい動物系モンスターなら、すぐぼくたちの侵入を嗅ぎつけるかもしれない。

そうなると厄介だ。

ひとまず、ランク9の使い魔、パラディンを召喚しておく。

このパラディンはぼくたちの護衛だ。

現状、唯一の近接戦力。

たまきやアリスに比べると心細いけど、神兵級の敵でも来ない限りはだいじょうぶだろう。

「まずはインヴィジブル・スカウトで偵察する。リモート・ビューイングを使うから、見張りをお願い」

「承りました。よろしくお願いします、カズ」

ルシアが、通路の先のことを教えてくれた。

左手にいくと広間があり、ロウンの地底樹はその先になるという。

ぼくは、インヴィジブル・スカウトの視点になって、この使い魔を通路に送り出した。

透明な偵察兵は、足音を立てないよう、石造りの通路をゆっくりと歩く。

時折、打ち捨てられた木箱があちこちに転がっていて、妙に視界が悪い。

もっともこれは、ぼくたちに遮蔽を提供している、ということでもあるけれど。

ルシアのいっていた広間が見えた。

入り口のそばに、木箱が積み重なっている。

インヴィジブル・スカウトは木箱によじのぼり、上からこっそりと部屋のなかを覗き込む。

広間の壁面に、灯篭のようなものが取りつけられ、それがぼんやりとオレンジの光を放っていた。

たぶん、魔法的な照明器具なのだろう。

それがあちこちにあるおかげで、室内は思いのほか明るい。

で、腐臭の原因が判明した。

そこにあったのは、ある意味で見慣れた、凄惨な光景である。

広間のあちこちで、二十人以上の女が、モンスターと肌を重ね合わせていた。

ただまあ、いま眼前に広がっている光景は、オークのレイプほど無茶なものではなかったけれど……。

女たちは、皆、首輪をつけていた。

排泄物が垂れ流しだ。

加えて、モンスターはオークとはまったく違うタイプである。

皆、肌は濃い緑色で、幼稚園くらいの子供の背丈だ。

よくよく見れば、そいつらはどうやら、トカゲのような顔をした小人型のモンスターであった。

だいたい、ひとりの女に二、三人の小人が群がり、その身を蹂躙している。

女の数は二十人ちょっとくらいで、モンスター側は四十体以上いる。

この小人型モンスターって……コボルドって名づければいい、のかな。

って、あ、ぼくがそう思ってしまったから……。

いや、すでに高等部とかが遭遇しているなら、関係ないかな。

ぼくは小声で、ルシアに部屋の状況を説明した。

モンスターについても、詳しく描写する。

ただし、コボルドという単語は口にしない。

さて、これでルシアは相手をなんと呼ぶか……。

「それはおそらく、コボルドですね」

ルシアはやっぱり、そういった。

「手先が器用で、集団戦を得意といたします。単体での強さはさほどではありませんが、すばしっこく、ずるがしこいモンスターであるといわれております」

「小人なのに、性欲とかあるの?」

「目的はマナでしょう。部屋のどこかに、マナを貯める魔導具がありませんか」

あ、マナかー。

本来、ロウンの地底樹からマナを供給される予定だったから、その代替手段って感じなのかな。

ええと、魔導具、魔導具……あ、あのへんかな。

「何体かのコボルドが女を持ち上げて、左奥の隅の方に運んでる。ここからじゃ、なにがあるかはわからない」

「おそらく、そこに魔導具が設置されているのでしょう」

うん、あれ、でもじゃあなんでわざわざレイプする必要があるのか。

ぼくの疑問が顔に出ていたか、ルシアは「勘違いされているようですが、逆です」といった。

「コボルドは、身体の維持にあまりマナを必要としないモンスターです。体内で生成されるマナの方が維持に必要なマナより多いため、これを外部に供給することが可能です。そのためにもっとも効率的な方法が、一度、人間にマナを注ぐことだといわれています」

「つまり、一度あそこにいる女性たちにマナを入れて、そのマナを魔導具で吸引してるってことかな」

「おそらくは。よって、魔導具を破壊したいですね」

うん、そうなるだろうな。

敵の目的がなんにせよ、それを邪魔するのがぼくたちの使命だ。

「マナを貯めて、なにをするつもりなんだろう」

「たとえば、高級な魔導具をつくるには、大量のマナが必要です」

「どういう魔導具をここでつくっているか、わかるかな」

「可能性はいくつかありますが、たとえば王族がロウンの地底樹にほどこした封印を解くための魔導具という可能性がひとつ、あります」

そっか、封印さえ解いてしまえば、マナは使い放題。

だからいま、ああしてマナを収奪している?

というか、いまさらだけど、じゃあ学校を襲ったオークたちも同じようなことを考えていた可能性が……。

いや、ないな。

あのオークたちは、見るからに欲望だけで動いてたわ。

頭が悪そうだったし。