軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第154話 決死の潜入作戦

コンコン、と壁をノックする音で目を醒ます。

格子のはまった窓を見れば、一羽の鷹が窓の桟に停まっていた。

ああ、リーンさんの使い魔か。

「わたくしのもとに戻っていただけますか。次の作戦について、お話をいたしたいと思います」

「あ、はい、わかりました」

すでに日は傾きかけている。

大陸の明日を賭けた戦いは、どうなっただろうか。

重い頭を振る。

さて、ミアがぼくの部屋に押し掛けてこなかったとなると、アリスたちはいま、なにをしているのだろう。

階段を下りて、一階へ赴く。

リビングの中央のソファでは、三人の少女が、身を寄せ合って眠っていた。

おいおい、風邪をひくぞー。

それにしても、ぐっすりだなあ。

そりゃ、そうか。

ミアだけじゃない、アリスとたまきは、ずっと前線で戦い続けてきたのだから。

後衛で戦いは使い魔に任せきりだったぼくとは、疲労の蓄積が段違いだろう。

ぼくはため息をつき、シーツを召喚して彼女たちにかけてやる。

書き置きを残して、小屋を出た。

使い魔の鷹が、ぼくのそばの地面に舞い降りる。

「ぼくひとりで構いませんか」

「ひとまず、説明だけですので」

鷹が翼をぱっとひろげる。

転移門がひらく。

ぼくの身体は、青白い光に包まれる。

リーンさんの住む木のうろには、すでにルシアが待っていた。

顔色は、もうだいぶよさそうだ。

たっぷりと寝て、疲れもとれたことだろう。

「ご迷惑をおかけしました」

「うん、それはもう、いいよ。ルシアのおかげで、結果的に勝負がはやくついた。おかげで、向こうの精鋭部隊を守ることができた」

「それは、幸運だったといえますね」

もし今日、勝ったとしても、それですべての決着がつくわけではない。

明日以降も、戦いは続く。

この世界の人間は、そのすべてに勝ち続けるほか、もはや生き残る術がない。

ルシアの身を挺した戦いは、結果的に明日以降への希望を増やしたといえるだろう。

精鋭部隊は、少なくともあのスケルトン軍団を相手に互角以上の戦いをした。

その戦力には、見るべきものがある。

リーンさんと向かい合って、座布団に腰を下ろす。

ルシアは、改めてぼくの隣に座りなおした。

ぼくは背筋をピンと伸ばす。

「さっそくですが、本題に入りたいと思います。ロウンの地底神殿の攻略が行き詰まっております。助力を要請します」

「話を聞かせてください」

高等部を中心とした部隊は、感覚を狂わせる霧の罠を、方位磁石と無線機を使って突破したのだという。

しかしそこで、地下空洞の入り口を固めるモンスターたちを発見した。

地下空洞とは、ロウンの地底神殿がある大空洞のことだ。

その入り口を守るアラクネの大軍、およそ千体。

神兵級の存在も、複数、確認されたという。

「レジェンド・アラクネが複数ですか……」

「はい。メイジもかなりの数が。アラクネたちは連携しての攻撃を得意としますので……」

うわあ、いくらなんでもそりゃ、無理ゲーってものだろう。

正直、レジェンドが束になってかかってきたら、いまのぼくたちが総力をあげても厳しい。

加えてアラクネ軍団が連携してくるとなると……。

さっき一緒に戦った精鋭軍団に高等部の面々、ロウンの地下神殿に派遣された部隊も合わせて全力で戦っても、そうとうな被害が出るだろう。

勝てない、とはいわない。

でもすさまじい損害を負うことは間違いない。

その損害には、もちろん高等部や育芸館組も含まれるわけで……。

正直、そんな戦いは勘弁して欲しいところだ。

「そこで、一計を案じたいと考えます。本隊がアラクネたちを陽動し、その間に秘密の侵入路から内部に潜入、ロウンの地底神殿の中心であるロウンの地底樹を奪還するのです」

リーンさんが、ルシアを見る。

「ルシア、あなたであれば、ロウンの地底樹の神力を引き出し、かの地を浄化、アラクネたちを屠ることが可能ですね。いまなら、四天王は誰もかの地におりませんし」

「はい、リーン。神兵級より上のモンスターを押さえきることは不可能ですが、神兵級までであれば、地底樹の神力をお借りすることで」

ふたりの会話に、ぼくは目を白黒させる。

え、ちょっと待って、それってつまり……。

ああ、そういえばロウンの地底神殿の地上って、以前は緑豊かな森だったんだっけか。

つまり、そう。

ロウンの地底神殿と、それがある場所っていうのは……。

「そういえば、カズ。あなたにはまだ説明しておりませんでしたか。お察しの通り、かの地にはかつて、ルシアの国がありました」

ルシアが王女として生きていた国。

森の豊かなエルフの国。

そんな先入観のせいで、ロウンの地底神殿という名称といまひとつ結びつかなかったけれど……。

そうか、そういうことか。

ルシアを見る。

相変わらず彼女の表情は変化が少なくて、その心中はいまひとつわかりかねた。

でも、ルシアはぼくを見つめ、ちいさくうなずく。

その瞳には、いま、強い決意が宿っているように見える。

「問題がひとつあります」

ルシアが口を開く。

「ロウンの地底神殿の内部では、いっさいの転移門がひらけません。これは外敵の侵入に対する防護措置であったのですが、いざ攻める段になると非常にやっかいです」

そういって、指輪をふたつ、取り出す。

「その上で、カズ、聞いてください。王族だけが使える秘密の侵入路は、この指輪をつけた生物でなければ通ることができません。そしてこの指輪は、ここにあるふたつしか現存していないのです」

「え、それって、つまり……」

「はい。もしこの作戦が実行に移される場合、ふたりだけ……つまり、わたくしともうひとりだけで突入することになります」

今回の作戦のカギとなるルシアは、絶対に外せない。

地底樹の神力を引き出せるのがルシアなのだから。

彼女を無事にロウンの地底樹とかいうところまで連れていくのが、もうひとりの役目となる。

内部には、きっと大量のモンスターがいるだろう。

それらをかいくぐり、あるいは片っ端から掃除して、敵の中心までたどり着く……。

ほぼ特攻任務だ。

「その侵入路以外、入り込む方法ってないんですか」

「わたくしは、存じません」

ルシアはきっぱりと宣言する。

「ルシアはこんな作戦、賛成なのか」

「わたくしとあなたのふたりであれば、可能だと判断しました」

ぼくはルシアの双眸を覗き込む。

ルビーの瞳が、みじろぎもせずぼくを見返してきた。

彼女の強固な意志が見て取れる。

「いえ、あなたでなければダメなのです。戦力が限られる以上、カズの召喚魔法による戦力増強がなければ……」

なるほど、と苦笑いした。

彼女はすでに、覚悟を決めている。

そしてルシアという少女は、ぼくのかけがえのない仲間のひとりだ。

「無論、これは極めて危険度の高い作戦です。カズ、あなたには拒否することも……」

「行くよ」

ぼくは、強い決意をこめてリーンさんにうなずいた。

「ううん、行かせてくれ。聞いていて、理解した。この作戦を成功させるには、ぼくが行くしかない。そうしないと、この大陸に明日は訪れないだろう。なら、かたちばかりの拒否権なんて、意味がないじゃないか?」

リーンさんは「そうですね」と苦笑いする。

「これがベストの作戦だって、リーンさん、あなたもそう思っているんでしょう」

「はい。現状、これ以上に成功率の高い作戦はないと断言できます」

「ちなみに、ぼくたちが学校の山から戻って来なかった場合、代役を立てることとか可能だったの?」

「一応、ルシアの縁戚の王族が、誰かひとりを伴って侵入するということになっておりました」

なおその王族というのは老齢の女性で、戦闘力は皆無であるという。

ああ、そりゃ本当に無意味な特攻でしかないわ……。

「その場合は、同時に正面突破作戦も実行することになっていたでしょう。いかなる犠牲を払ってでも、われわれには勝利が必要なのです」

「自分でいうのもなんですが、ルシアとぼくの組み合わせ以外じゃ、成功の望みなんてほとんどないでしょうからねえ……」

「正面決戦の場合、非常に厳しい展開が予想されておりました。無論、モンスターが地下神殿の入り口を固めるという方法を取るとは限りませんでしたが……」

つまり、敵の出方は、リーンさんたちが想定したシナリオのなかでも最悪というわけだ。

だからこそ、こちらも切り札を切っていく。

その切り札が、つまりぼくたちだ。

「それで、今回の作戦、アリスたちなんだけど……。できれば、休ませてやってくれないかな。正面で戦う部隊からも外して」

「お疲れですか」

「うん、かなり。……もちろん、ぼくたちが失敗したら、そのときは……」

なお、今回はぼくたちが秘密の侵入路に突入後、一時間経っても状況に変化がなかった場合、失敗したとみなすとのことだった。

ルシアは、なんの妨害もなければ二十分とかからないはずだという。

うーん、妨害なんて絶対にあるんだから、一時間って短いような……。

「かの地はここより西方ですが、それでも夕暮れまで、そう多くの時間は残されておりません。夜戦でアラクネを相手にするのは、極めて不利と考えます」

なるほど、それもそうだ。

あの蜘蛛人間を相手に決戦を挑むなら、是非とも明るいところで行いたい。

一応、ぼくたちだけなら暗視があるけど。

「それでは、カズ。お願いいたしますね」

ルシアがそういって、ぼくの手を握ってきた。

少しびっくりしたけど、ぼくもルシアの手をかたく握る。

暖かい手だった。

準備は、すでに整っていた。

いつもの転移門に乗れば、秘密の侵入路のすぐ近くまで一瞬でテレポートできるという。

いたれりつくせりだ。

それだけ時間の余裕がないともいえる。

呑気にコテージなんて召喚して寝っこけていたのが、申し訳なくなるなあ。

ぼくたちはリーンのもとを辞したあと、「気をつけてください」と心配するすみれからリュックサックを受け取り、転移門のある木のうろにやってくる。

「本当に、アリスたちにひと声かけていかなくてよろしいのですか」

「書き置きをしてきたから、だいじょうぶ。よく寝ていたし……少しでも長く休んでいて欲しいから」

ルシアは少し戸惑ったあと、「わかりました、カズがそういうのでしたら」といった。

「ですが、きっと彼女たちは、怒りますよ」

「謝るよ。必ず帰ってきて、謝罪する」

ぼくの言葉に、ルシアは「そうですね」とうなずいた。

「参りましょう」

「ああ」

ぼくたちは、意を決して、転移門に踏み込む。

そばに待機していたローブの兵士が、いつものように、朗々と歌いはじめた。

意識が途絶える。

ぼくたちの身体は、遠く離れた地へ。

ルシアの故郷たる、無残な爪痕が残る大地へ……。