作品タイトル不明
第153話 各国の精鋭戦士
もとの場所に戻ったぼくたちは、トークンを拾い集めることもあとまわしにして、精鋭部隊の援軍に向かった。
アリスとたまきが、シャ・ラウの背に乗って加速し、メイジ・スケルトンを強襲する。
鎧袖一触、次々と蹴散らしていく。
ベテラン・スケルトンやその上位種……おそらくナイト・スケルトンがメイジを守ろうと立ちふさがった。
だがそれらとて、シャ・ラウやアリスたちの敵ではない。
相手が魔法を行使するよりはやく懐に潜り込み、殺戮してまわる。
精鋭部隊と戦う面子からそれらを引き抜いたことで、スケルトン軍団は戦場全体のバランスを崩した。
はさみ討ちのかたちになったこともあり、アンデッドたちは、あちこちで人間たちに陣を食い破られていく。
そうなると、あとはもう掃討戦だ。
精鋭部隊もさしたる被害を出さず、次々とスケルトンたちを討ちとっていった。
アンデッドどもは最後の一体まで抵抗したが、その勇猛さにはなんの意味はなかった。
この戦いの間に、ぼくたちは何度か白い部屋にいった。
ぼくとアリス、続いてたまき、ミアと順番にレベルアップしたのだ。
とはいえ、いまさら特にすることもない。
最低限の確認だけで、白い部屋を出た。
その際に思いついたことをいくつかQ&Aしたり、ミアが勝手に増やした隣の部屋で魔法や連携の確認を行っておく。
和久:レベル36 付与魔法6/召喚魔法9 スキルポイント6
アリス:レベル32 槍術9/治療魔法5 スキルポイント4
たまき:レベル32 剣術9/肉体5 スキルポイント4
ミア:レベル32 地魔法5/風魔法9 スキルポイント4
戦闘終了後。
精鋭部隊のリーダーとおぼしき、ローブを羽織った白髪の中年男性が近づいてくる。
ぼくたちに、右手を差し出してきた。
「助力を感謝する。きみたちの習慣で、握手、という友好の合図だと聞いた。相違ないかね」
「ん。相違ない」
勝手にミアが進み出て、男性と握手をかわした。
相手は、一番年下の少女がリーダーとおぼしき行動をとったことにいささか驚いたようだが、すぐにそういうこともあるのだろうと納得顔になる。
まあ、なにせぼくたち、みんな若いし、そういえばリーンさんみたいな例もあるし……。
ってミア、なにやってるんだよ!
振り返ったミアが、目をぱちくりさせて「任せろ」という合図を送ってくる。
なにかいいたそうなたまきを、アリスが押さえた。
あー、そうか。
昨日の夕方、ぼくは世界樹の兵士たちとのコンタクトに失敗したから、そのあたりを心配して……。
うん、いや、過保護に守ってくれるのは嬉しいけど、同じ失敗はしないよ……。
とはいえ、ミアの交渉は堂に入ったものだった。
ふたまわり以上年上の男性を相手に、自分たちがどういう役割を受け持ってこの場に来たか、手短かに解説する。
のみならず、ラスカさんたちの協力がいかに重要だったかも説明して、彼女たちの株をあげることまでやってのけていた。
ちょうどそのタイミングで、森を抜けたラスカさんたちが登場する。
ミアは改めて、彼女たちに「ありがとう、あなたがたがいなければ、迅速に到達できなかった」と感謝の意を示した。
ラスカさんたちは、いささか拍子抜けの顔をしていた。
なんでミアが音頭を取ってるのかよくわからないのかもしれない。
そりゃまあ、なあ……。
ぼくだって、こんな風になるとは思わなかったよ!
いやはや、こういう如才のなさは、ほんと忍者の血だなあと思わせる。
忍者関係ないけど。
「残りの掃討戦、任せていい? わたしたち、ほかの援軍にまわるかもしれない。すぐ世界樹に戻りたい」
「無論だ。きみたちの戦力を真近で見せてもらって、確信したよ。きみたちほど頭抜けた存在を、残党処理などに使わせるわけにはいかないだろう」
あ、ミアのやつ、さらっと帰る算段までつけてきた。
いやほんと、すごい助かるけど……。
本来のリーダーのぼくって、いったい……。
*
世界樹に戻る。
リーンさんは、ぼくたちの報告を聞いて、よくやってくれたと相好を崩した。
最後、ミアが話をまとめたくだりでは、さすがに苦笑いだったが。
「気を落とさないことです。カズは彼女たちの指揮者であって、交渉係ではないのですから。ルシアから聞きました。あなたは智謀の者ですが、その資質はあくまで、数人を使役することに特化するものであると」
「まあ、それは……まったくその通りなんですけどね」
「ひとには、得意なこと、不得意なことがございます。長い時間をかけて短所を消し、長所を育てるということも可能ではありましょう。しかし、いまはそのときではありません」
この戦いにひとつでも負ければ大陸が滅ぶ。
ぼくたちみんなが死ぬ。
こんな究極まで追いつめられた状況で、ひとを育てるとか考えても仕方がない。
そうなると重要なのは、手持ちの駒をいかに効率よく使うか、ということ。
なかでもルシアを含めたぼくたち五人という駒は、控え目にみても、切り札にして決戦兵器。
その決戦兵器が、慣れぬことに手間取っているのは……損も損、無駄以外のなにものでもないだろう。
というかですね、ええ。
ぼくたちのチーム、最大の弱点ってもはやぼくのメンタルなんじゃ……。
なんてヘコんでもいられない。
「ルシアは、だいじょうぶですか」
「いまはぐっすりと眠っております。事情は聞きました。必要な無茶であったと考えます」
その通り、彼女は為すべきことを為した。
もっとも、その過程がちょっと強引だったんだけども。
無事なら、いまはそれでいいか。
「ほかの戦線は、どうなっていますか」
「この世界樹に攻めてきているモンスター軍は、未だ結界の突破方法を発見できていないようです。聖都アカシャとハルーランの尖塔を観測するものたちからは、モンスター軍を内部に誘引したのち、拠点そのものの爆発を確認したとの報告が」
聖都アカシャとハルーランの尖塔では、内部にたてこもる部隊が、なるべく多くのモンスターを巻き添えに自爆する手はずだった。
作戦が成功した、というのは朗報だ。
結果的にぼくたちはふたつの楔を失ったわけだし、多くの人命が散っていったわけだけども……。
「巻き添えになったモンスターには、四天王も?」
「おそらくは」
「それは……いろいろ助かるなあ」
両方とも、攻撃部隊の指揮はザガーラズィナーと同格の立場のモンスターが執っていたはず。
そいつらを倒すことができたなら、大金星といっていい。
残る四天王は、ザガーラズィナーと、そしてこの世界樹を攻撃している部隊にいるやつか……。
いや、どうなんだろう。
もしザガーラズィナーだったら、あの無茶に強烈な化け物だったら……そんな爆発だけで倒せるかなあ。
倒せた、と思いたいけど……。
「残るひとつ、ええと、ロウンの地底神殿は?」
「膠着状態のようです。未だ、地底神殿の入り口に辿りつけておりません」
「そんなに敵が強いんですか」
リーンさんは、「それもあるのですが」と苦笑いする。
「かの地は、かつて豊かな森で覆われていました。いまはその森もなく、かわりに深い霧に覆われ、しかもその霧には迷いの魔法がかけられているのです」
迷いの魔法か……。
そんななかに突入して、モンスターとも戦いながら地底神殿を目指すって、それ軍隊とかが一番ツラい状況なんじゃ。
いくら忍者夫婦でも、そりゃ苦戦は免れないだろう。
「ひとまず、お休みください。またみなさんのおちからが必要だとしても、いまはMPの回復をしてもらわなくては」
それもそうだ。
ここに戻る途中で多少は回復したとはいえ、あと一時間は休息が必要である。
アリスやたまきはともかく、ぼくとミアは特に、MPがないとなにもできないのだから。
リーンさんのもとを辞して、さてそれじゃ、育芸館組の待機する木のうろに向かおうかと思ったが……。
「カズさん、カズさん」
たまきが、ぼくのジャージの裾を引っ張った。
「約束、覚えてる?」
上目遣いに、そう訊ねてくる。
約束って……?
ああ、そうか!
「コテージでお風呂?」
「そう、それ!」
「わかった、じゃあ一度、地上に降りて、召喚コテージを建てよう」
勝手にそんなものをつくっていいのかどうか、というのはあるけれど……。
まあ、いいか。
もし怒られたら、あとでなんとか撤去すればいい。
コテージの撤去でシャ・ラウを召喚したら、怒られるかなあ。
いや、うちの幻狼王、わりとやさしいから、ホイホイとやってくれそうな気がしないでもない。
※
樹上の村から降り、少し離れたところまで移動して、大樹の陰に昨夜も使ったコテージを召喚する。
お風呂に水を召喚し、お湯を沸かす。
そのついでに、サモン・フィーストで軽くティータイム。
なんかぼくのMPばっかり使っているけど……。
いまのぼくなら、これだけやっても10分経たずに回復するから、いいか。
ティータイムにするなら、ルシアも呼べばよかったかな。
「それじゃ、お風呂に入ろう、カズさん!」
「浴槽、そこまで大きくないだろ」
「えー、狭いけどなんとかなるよ!」
狭さばかりはなんともならないと思うなあ。
ぼくは苦笑いして、諦めるよう諭した。
残念がりながらも、三人の少女は交互にお風呂へ。
うーん、MPをもっと多く使うけど、銭湯くらいの浴槽がある砦とか召喚するべきだったのかなあ。
いや、そんなものを世界樹にいきなり召喚するのって、なんかもう立派な侵略行為な気がする。
自重しよう、自重。
ぼくは二階の寝室に赴き、ふかふかのシーツの上に横になる。
両手を枕にして、天井の木目を眺めながら、考える。
さっきの、ミアが手早くまとめた交渉のことだ。
やっぱり、交渉事はぼくには向いていないのか……。
いや、単純にミアが上手いだけかもしれないけど。
志木さんも、そのへんがあまりに上手過ぎるしなあ。
餅は餅屋。
よくいわれることで、すぐそばに上手なひとがいるなら、そのひとに任せればいい。
今回も、ミアは率先して動いてくれた。
ただ、気になるのは、彼女は気が利き過ぎるということ。
アリスも、いっていた。
ミアの身体と心はひどく消耗しているのではないかと、そう心配していた。
実際のところ、彼女は半年前に小学校を卒業したばかりの少女だ。
ぼくたちのなかでも最年少で、身体もひときわちいさい。
ただでさえ体力の消耗も激しいだろうに、そのうえ、頭脳労働でも大活躍となると……。
ぼくたちは、ミアに頼りすぎてはいないだろうか。
もうちょっと彼女には休んでもらって……。
「そんな暇、ないよなあ」
ぼくは苦笑いして、目をつぶる。
ぼく自身もそうとうに疲れていたのか、すぐに睡魔が襲ってきた。
睡魔には勝てなかったよ……。