軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第152話 全員レベルアップ

今回、レベルアップしたのは、全員だった。

しかもたまきとミアは、一気に二レベルも上昇している。

神兵級が一体に、たまきと互角に打ち合うモンスターが一体、それに迫るモンスターを二体、ほぼ同時にそれらを倒したのだから、当然といえば当然かもしれないが……。

「なんかさー、この部屋でお休みできる機会が減っちゃって、損した気分になるね!」

たまきがそんなお気楽なことをいうものだから、皆が笑った。

「たしかに、そうですね。これだけ一斉にレベルアップすると、次はだいぶ先かもしれませんし……」

「ん。その分、いまここでいっぱい、いちゃいちゃする」

「心配しなくても、次はぼくがそこそこ近いよ。ソロでなら、オーク十体以下じゃないかな。アリスも、そう遠くないはず」

ぼくが冷静にそう告げたところ、女性一同から白い目で見られた。

え、なにか間違えただろうか。

「あの、カズさん。ここで重要なのは、いちゃいちゃしよう、ってことなんですよ」

「あ、はい、女心がわからない朴念仁でホントにスンマセン」

冷静に指摘してくるアリスに頭を下げる。

ここで彼女たちに逆らっても、いいことはなにもない。

「かしこまりました、レディ。精一杯、いちゃいちゃさせていただきます。わたくしにできることでありましたら、なんでも……」

「ん。いま、なんでもっていったよね?」

「いやちょっと待て、いまのは」

ミアはぼくの制止を振り切り、ミアベンダーに走った。

え? と思う間もなく、彼女が回収していたトークンがベンダーに投入される。

次の瞬間。

白い部屋の様子が、ぱっと切り替わった。

壁の一辺が消え、その向こう側に新たなフロアが出現する。

鏡張りの床面。

その下、階段を十メートルほど下った先に、たっぷりと水が張られたプールがあった。

「おい、なんだこれ」

「レクリエーション施設セット。たったのトークン100個で、たいへんお得であった」

「前にベンダーを見たときは、こんなものなかったぞ」

「みんなでアンデッドについて調べていたとき、こっそりリクエストしました」

ミアは無表情にブイピースする。

はは、こやつめ。

「リクエストとかそんなことできたなら、先にぼくに伝えろよ! っていうか、なんでいきなり部屋の拡張とか!」

「Q&Aで、レクリエーション施設とかあると嬉しいな、とダメモトで。正直、OKって返答が来るとは思ってなかった。しかもこんな格安で」

うん、そりゃ、OKが出るとは思わないよなあ。

白い部屋の主、ますます謎が深まる。

ちなみに、スイッチを切り替えることで、プール以外にも数パターン、隣の部屋が入れ替わるとか。

「実際、これでますます、疑惑が深まったっぽい」

「疑惑って……ああ、トークンを集めてるんじゃないかって話か」

「迂遠すぎる気はするけど」

うん、そうだよなあ。

トークンを集めたいなら、もっとほかに方法がいくらでもありそうな気がする。

ぼくたちをこの世界に呼んだのがこの部屋の主かどうかはともかくとして……いや、この部屋のなりたちそのものが不明な以上、あらゆる可能性を排除しない方がいいのか。

「どっちにせよ、すでにトークン2000とか使ってるし、後戻りはできないなと」

「きみのいう通りだな。でも次からは、ぼくに話を通せよ」

「いえす、さー」

ぜんぜん反省してなさそうだ……。

お仕置きしても喜ぶし、わりと制御不能だ、こいつ。

空気は読むから、いいけどさ。

「仕方がない。トークン100個分のモトは取るか……」

「そうそう、モトを取ろう。ちなみに、草原セットとかもあるから、グリフォンの騎乗訓練とかするのもアリかと」

なるほどたしかに。

使い魔を試しに召喚してみるとき、この白い部屋の容積に問題があることがままあった。

これからは、場所を気にすることなく思う存分、テストができるか。

「さっきカズっちがやったみたいに、一軍をまるまる召喚するとかなら、軍団戦闘の練習とかもした方がいいっぽい?」

「そうだね。アドリブじゃ、突撃させる以外の用途には使えそうにないけど……そもそも軍団戦闘とか、ぼくたちがやる必要、あるかなあ」

「あのヴォルダ・アライが最後のひとりとは限らない」

あ、うん、ソウダネ……。

メキシュ・グラウだって何体もいた。

神兵級って、一体一体がクソ強いけど、あれでも量産型のモンスターなんだよなあ……。

その量産型モンスターが、たった一体であれだけの数と質のスケルトンを量産するなんて、無茶苦茶だ。

いや、さすがにあれは、ガル・ヤースの心臓の補助あってのことなんだろうけど。

「ねえねえカズさん、とりあえず泳いできていいかな!」

「いいけど……水着とか、ないだろ」

「別に裸でもいいんじゃない?」

それは、うーん、どうなんだろう。

たまきは気にしなくても、ぼくとしては少し慎みを持ってほしいかもしれないなあ。

「ええと……水着、ありますよ。ミアちゃんとたまきちゃんの分も。あ、カズさんの分もあります」

「え、アリス、どうして?」

「その、みんなで一緒にお風呂入るときとか、あるかもしれないと思って……リュックサックに詰めておけって、すみれちゃんが」

杉之宮(すぎのみや) すみれ、アリスとたまきの親友のぽっちゃりさんか。

グッジョブというべきだろう。

「え、でもカズさん、すっぽんぽんの方が嬉しくない?」

「それは違うのじゃ、たまきちんよ」

ミアが、ふぉふぉふぉ、と妙な笑い声をあげた。

なぜに老人口調。

「見えないからこそエロい。風にひらめくスカートにときめく心、それがチラリズムというもの」

「え、そうなの?」

たまきがぼくを見る。

そこでこっちに話題を振るの、やめてくださいませんかねえ。

「純粋にプールを楽しみたい、という解釈はダメでしょうか、たまきさん」

「あの、カズさん。やましいことがあると口調が変わるのって……」

「はい、アリスさん、すんません」

呆れた様子のアリスに頭を下げる。

ダメだ、とうていイニシアチブを取れそうにない。

一方、アリスから水着を受け取ったたまきは、その場で服を脱ぎ始めた。

あのさあ……一応、恥じらいを持とうよ……。

恥ずかしがるからいいんだよ……。

というぼくの視線に気づいた様子のミアが、うむとうなずき、腕組みする。

「でもカズっち、たまきちんの着替え、ガン見してるよね」

「そりゃまあ、ええ」

なおアリスが持参したものは、なぜか旧式のスクール水着だった。

聞けば、育芸館の地下から出土したものなのだという。

不用品を後生大事に仕舞っておいたのだろう、とすみれがいっていたらしい。

「これを不用品だなんて、とんでもない」

「あのなあ、ミア。そう思うのは一部の嗜好のひとだけだからな」

「カズっちは、その一部じゃない?」

ぼくは、たまきの様子をちらりと見た。

水着のお尻の隙間に手を入れて、「うーん、ちょっと下の方がキツいかなー」とかいっている。

「わりと、アリじゃないかと思います」

「正直でよろしい」

ミアは、無表情でぐっと親指を立てた。

しばし泳ぎを堪能したあと、サモン・フィーストで豪勢なバーベキュー・パーティを楽しんだ。

息抜きは大切だ。

プールサイドのデッキチェアで目をつぶると、あっという間に寝てしまった。

起きると、ぼくのそばに寄り添って、三人娘が眠っていた。

皆、ぴくりともしない。

激戦に次ぐ激戦で、心が疲弊しているのだろう。

ところでミアさん、ぼくのお腹に乗っかって眠るの、マジやめてくれませんかね。

今朝は、そのせいで悪夢を見たんですが……。

「ミアちゃん、うなされてたんですよ」

アリスの声がした。

横を向くと、目を醒ました彼女が、ぼくを見上げて微笑む。

ミアの髪をそっと撫でた。

「ミアちゃんにやさしくしてあげてください。彼女は、内にため込む子だと思います」

「そう……かな」

「わたしよりずっと、賢いですから。きっと、誰にも相談できないことが、いっぱいあると思います。カズさんには、相談、してますか」

どうだろうか、とぼくのお腹の上で寝ている少女を見下ろす。

こいつ、賢しいくせに、弱みを見せるのが苦手だからなあ。

じゃれついてくるくせに、甘えてくるくせに、本心は隠したがる。

ツンデレとかとはまったく別の意味で、素直になれない性格なのだろう。

なまじ能力があるゆえ、皆のフォローを一手に引き受けようとする。

自分が一番、年下なのに。

そんな彼女も、昨日、ふたりきりのとき、少しだけ胸襟をひらいてくれた気がする。

あのときの告白は、はたしてどれほど、本心だったのか。

彼女のことだから、全部、でたらめであったとしても驚かない。

「ミア、きみはさ。ふざけているときと、本気のときと、どっちが本当なのか、わからないんだよ」

ミアは心地よい寝息を立てたままだった。

願わくば、と思う。

いまだけは、彼女が安心して眠れるように、と。

しばらくして、全員が起きる。

ぼくたちは改めて今後の方針を確認したあと、たまきとミアのスキルを上昇させた。

たまきは肉体スキルを、ミアは地魔法スキルを、それぞれ5に上昇させる。

和久:レベル35 付与魔法6/召喚魔法9 スキルポイント4

アリス:レベル31 槍術9/治療魔法5 スキルポイント2

たまき:レベル31 剣術9/肉体4→5 スキルポイント7→2

ミア:レベル31 地魔法4→5/風魔法9 スキルポイント7→2

白い部屋を出る。

まだ残党の処理があるし、精鋭部隊とも顔合わせする必要があるだろう。

なにより、まだ一局面の勝利が確定しただけだ。

きっと、この先もまだ、今日の激戦は続く。

ぼくたちは、これからも歯を食いしばらなきゃいけないだろう。