作品タイトル不明
第151話 召喚者たちの軍団戦
現在、戦場は三つにわかれていた。
広い部屋の入り口近くで、精鋭部隊とベテラン・スケルトン部隊が切り結んでいる。
ベテラン・スケルトンの後ろからメイジ・スケルトンが援護を飛ばし、これを精鋭部隊の後衛がしきりに邪魔する。
ぼくたちから数十メートル離れた壁際にて、たまき対黄金の鎧をまとったゴッドブレイカー、そしてアリスとシャ・ラウ対スケルタル・チャンピオン。
両陣営とも、激しく斬り結んでいる。
戦力的にはわずかにたまきたちの方が優勢なのだが、彼女たちの相手にする上級スケルトンたちには再生能力があるようで、一進一退となっている。
そしてガル・ヤースの心臓近くでは、ぼくの召喚した百組の騎兵が、いままさにヴォルダ・アライの呼び出した三十体以上のベテラン・スケルトンを相手に突撃を開始していた。
槍を構えての騎兵の突撃は、技量で勝るであろうベテラン・スケルトンたちを次々と粉砕していく。
蹂躙といってもいい、圧倒的な攻勢圧力であった。
数体のスケルトンが破砕されたところで、ぼくたちは白い部屋に赴く。
アリスのレベルアップだ。
※
たいした打ち合わせは必要なかった。
皆、やるべきことは理解している。
そして、このたったひとりのレベルアップが戦局をおおきく変化させることも。
「アリス、よくやった」
「はい、カズさん」
ぼくはアリスの頭を撫でて、これまでの彼女の献身と我慢をねぎらう。
「これでやっと、槍術をランク9にできます」
アリスは、少し涙ぐんでいた。
そんなに、武器スキルのランクでたまきに劣っていることが辛かったのか。
いや、彼女のことだ、きっとぼくの役に立てることが嬉しいのだろう。
「ん。でもこれで、アリスちんたちの方は勝ちが決まったようなもの」
ミアの言葉の通りだった。
アリスとシャ・ラウは、これまで二対三であるがゆえ、いささか苦戦を強いられてきていた。
アリスの槍術のランクを9に上昇させることは、この閉塞した状況を打開する一手となるだろう。
「あとは、こっちでも勝つだけ。あるいは……粘って、アリスちんたちが援護に来るのを待つ?」
「いや、時間をかけて、精鋭部隊の方からメイジが来ると厄介だ。このまま一気に押し切ろうと思う」
「わかった。わたしはメイジを牽制する」
互いにうなずきあう。
ここまできたら、あとはもう、皆が為すべきことを為すだけだ。
アリスがノートパソコンでスキルのランクを上げて……。
アリス:レベル30 槍術8→9/治療魔法5 スキルポイント9→0
もとの場所に戻る。
※
土煙がたちこめるなか、激戦が再開される。
ヴォルダ・アライの様子がわからないため、ミアが少し、高度をあげた。
「ん。ボスは少し後退して、骨をつくってる」
なるほど、盾を増やして時間を稼ごうというのか。
このごに及んで、そんなことでぼくたちに勝てると思っているのか。
なら……。
そのヌルい選択、後悔させてやるさ。
「サモン・パラディン」
ぼくはもう一回、召喚魔法を行使する。
ランク9の使い魔は、これまでのところ、固有契約したシャ・ラウの独壇場だった。
ザガーラズィナー戦では、使い魔覚醒での瞬間的な戦力上昇を優先していた。
だが、いまぼくのMPには、百点ほど余裕がある。
そして、このランク9にも、これまでと同様、使い魔の召喚魔法が存在する。
この魔法、サモン・パラディンだ。
ぼくの呼びかけに応じて、白銀の全身鎧に身を包んだ戦士が出現する。
フルフェイスをかぶっているから顔すらわからないが、たぶん人型の使い魔だ。
その名の通り、聖騎士にふさわしい神々しさでもって降臨したこの存在は、野太い声で雄々しく叫び、両手剣を頭上に掲げた。
とたん、純白の光が天井から降り注ぐ。
広範囲に展開されたその光を浴びて、騎兵と戦うスケルトンたちが身もだえした。
この攻撃は……そうか、アリスがさっき使ったホーリー・ボルト同様、アンデッド特攻か!
「知らなかったよ、こんな特殊能力」
「ん。さすがパラディン。悪をうち滅ぼす聖なる中二病戦士」
中二病とかいうな。
「ま、まあいい、結果オーライだ!」
ぼくは召喚したパラディンに、素早く定番の付与魔法をかけていく。
キーン・ウェポン、フィジカル・アップ、マイティ・アーム、そしてヘイスト。
「雑魚には構うな。ヴォルダ・アライを仕留めろ」
「仰せのままに、わが主!」
野太い声でそう答えたパラディンは、おおきな剣を構え、敵軍に駆け寄る。
そのタイミングで、ミアが突風を放つ。
軍勢がぶつかったことによる土煙が、強い風によって吹き飛ばされる。
パラディンは、騎兵たちがスケルトン軍団の隊列に開けた穴を一気に突っ切った。
その向こう側で新たな召喚を行なおうとしていたヴォルダ・アライに、雄たけびと共に斬りかかる。
ヴォルダ・アライは、その巨躯でもってパラディンに向き直り、大鎌でその一撃を受け切った。
返す刀で、大鎌を一閃。
パラディンはしかし、地面に足をめり込ませながら、これを受け切ってみせる。
互いに、何度も何度も剣と鎌をぶつけ合う。
ぼくなどには、その剣戟の半分も視認できないけれど……。
刃が交わるたびに火花が散って、ものすごいかん高い音が響く。
しかもそれは、彼らとぼくたちとの間で敵味方合わせて百体以上がぶつかっているなかでも聞こえてくるのだ。
一進一退の攻防に見えた。
ミアに援護させたかったが……。
「ちょっと、忙しい」
「ああ、メイジたちの対処に専念でいい」
いま彼女は、離れたところからこちらにちょっかいをかけてこようとするメイジ・スケルトン部隊の迎撃に忙しかった。
こいつら相手に気を抜くと、一気に形勢をひっくり返される恐れがある。
魔法使いが複数体というのは、それだけ恐ろしいことだ。
召喚騎兵軍団は、たとえヴォルダ・アライのもとにたどり着いても、なすすべもなく、ついで程度で切り伏せられていた。
やはり、雑魚じゃダメか。
頼みの綱は、パラディンだけということか。
たぶん、パラディンの技量は剣術ランク7程度のはずだ。
それと互角なヴォルダ・アライは、その本職が後衛であるはずなのに、これほどの技の冴えを見せている。
もっともそれは、本来の持ち味を殺して、後衛が前に出なければならない敵軍の窮状を意味していた。
つまり、このかたちまで持ち込んだ時点で、ぼくたちの作戦勝ちではある。
あとは、いかに被害を少なくして勝つか。
完全に囮として利用してしまったかたちの精鋭部隊を、どれだけ生き延びさせることができるか。
そのためには、なるべく早期の決着が望ましいのだ、が……。
周囲を見渡す。
壁際では、レベルアップしたばかりのアリスが、スケルタル・チャンピオンの一体を切り伏せたところだった。
ぼくとアリスの視線が交わる。
アリスがうなずく。
彼女がなにをしろといっているのか、たちまち理解した。
「シャ・ラウ、ヴォルダ・アライに突撃しろ!」
『心得た!』
シャ・ラウは、牽制していたスケルタル・チャンピオンを放り出し、ふたたび紫電をまとって、地面を蹴る。
残像を残すほどの猛突進によって、直線状のベテラン・スケルトンが吹き飛ばされていく。
それを追おうとしたスケルタル・チャンピオンは、アリスがカバーに入って押しとどめる。
アリスは一時的にひとりで二体のスケルタル・チャンピオンを相手にすることになるが……。
槍術がランク9になった彼女なら、刺突が不利という点を差し引いてもだいじょうぶだろう。
最悪、ほんの少し時間を稼いでくれれば、それでいい。
そう、ほんの少しでいいのだ。
それで、この戦いは終わる。
幻狼王が、パラディンと打ちあっていたヴォルダ・アライに飛びかかる。
ヴォルダ・アライは、瞬時に左手にも大鎌召喚し、シャ・ラウの牙をその刃で受けた。
だが勢いまでは殺せず、おおきく身をのけぞらせる。
そこに、パラディンが打ちかかる。
袈裟懸けの一撃。
黒いローブが引き裂かれ、青い血が舞う。
疑ってはいなかったけど、今度こそ、こいつが本物のヴォルダ・アライだ。
その証明の直後、パラディンは刃を返して、横殴りの一撃。
神兵級の死霊使いは、よろめいて後ずさりする。
お? と思ったが……。
ヴォルダ・アライは、わずかな隙を見つけ、地面に手をつく。
召喚の前動作だ。
ええい、悪あがきを!
パラディンの周囲の土がもこもこと持ち上がり、二体のスケルトンが同時に出現するが……。
それらは、ベテラン・スケルトンよりも明らかに弱々しく、鎧すらまとっていなかった。
パラディンが、白い光輝を放つと、またたく間に崩れ去る。
その間にも、シャ・ラウがヴォルダ・アライに飛びかかっている。
無理な体勢でアンデッドを召喚したからか、死霊使いはこの攻撃を避けられなかった。
幻狼王の鋭い爪が、左腕の肉をごっそりと持っていく。
青い血をまき散らしながら、ヴォルダ・アライが地面に転がる。
一方、ほかの戦いも決着がつこうとしていた。
たまきは、その膂力で圧倒する戦い方に切り替えた結果、息つく間もない連続攻撃でゴッドブレイカーを再生すらさせぬまま叩き伏せていく。
なんかもう、完全にパワーファイターに覚醒してるなあ。
そしてアリスも、二体のスケルタル・チャンピオンを相手に、肩のつけ根や膝部などの急所を狙った刺突でもって、的確に無力化していく。
その攻撃のスピードも、組み立ても、なにもかもがさきほどまでとはレベルが違う。
これがランク9なのか、それともランク9のちからとアリスの能力が噛みあったがゆえの結果なのか。
アリスの放った矢のような一撃が、スケルタル・チャンピオンの頭部を粉砕する。
続く刺突が、もう一体の臀部を破砕する。
ほぼ同時に、たまきがゴッドブレイカーを鎧ごと真っ二つに叩き切り……。
そして視線を戻せば、パラディンの鋭い一閃が、ヴォルダ・アライの胴体を薙ぎ払っている。
倒れたところにシャ・ラウが飛びかかり、そのおおきな歯でもって頭部を食いちぎった。
シャ・ラウの顎が、噛み合わされる。
死霊使いの頭部は、ぐしゃりと潰された。
レベルアップの音が脳裏に響く。