軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第147話 ガル・ヤースの嵐の寺院3

学校の教室くらいの部屋にいたのは、四体のスケルトン。

ここは兵舎の遊戯室なのか、テーブルだと思った台の上は、ゲーム盤だった。

将棋や囲碁のようにマス目が区切られ、中央に突起物のようなものがある。

駒だとおぼしき親指サイズの金属製の人形が、ゲーム盤の上に散乱している。

ただの兵士が金属の駒を使えるとは、なんかファンタジー世界のわりに贅沢な感じがするけど……それも、この寺院の豊かさと腐敗を象徴とかしているのだろうか。

いや、わからないけど。

さて、問題はこのスケルトンの実力だ。

ウィザードリィだと最弱クラスのモンスターだけど、ラスカさんに聞いたところ、死霊術で生み出されるスケルトンには、いくつかランクがあるらしい。

その最弱のものは、オークと同じくらいの実力だとか。

最弱のものを、ニュービー・スケルトンと呼称する。

その上のランクは、古参の兵士に匹敵するというから、ベテラン・スケルトンだ。

さらにその上のランクも存在し、エリート・オークよりも強いというから、これはナイト・スケルトンと呼ぼう。

なお、さらにそれ以上の個体も存在するというが、さすがにその実力のほどはわからないとのことである。

一応、スケルタル・チャンピオンという名が文献に残っているらしい。

魔法を使う個体もいるというので、そいつはメイジ・スケルトンと呼ぶことにする。

さて、目の前の四体は、どのランクのスケルトンなのか。

武器は錆びた剣で、防具も錆びついているから、一見、たいしたことがなさそうに思えるが……。

サイレンスの魔法よる沈黙の結界が続くなか。

一度は転んだたまきとアリスだったが、すぐ跳ね起き、動く骸骨に突進した。

スケルトンの一体が盾を構えるも、たまきの放った遠当ての一撃は、防御の上からその身を砕く。

体勢が崩れたところに踏み込み、袈裟懸けの一閃。

たまきの前で、スケルトンの眼窩の奥の赤い光が消えた。

動く骸骨はもとの骨に戻り、ちからなくばらばらになって崩れる。

アリスもまた、ほぼ同時に、上段への刺突を放っている。

槍の穂先が長く伸び、スケルトンの頭部に突き刺さった。

頭蓋骨が粉々に破壊され、つかの間の硬直ののち、個々の骨片に戻って崩れ落ちていく。

動きを止めた骨は、床に転がったまま、残った。

トークンには変化しない。

やっぱり、こいつらを倒してもトークンは手に入らないのか。

現状、経験値が入っているかどうかも不明である。

そもそも、アリスとたまきが凄すぎて、こいつが強いかどうかすらわからない。

あー、ぼくの狼と戦わせれば、そのあたりも判明したかなあ。

アリスとたまきは、残る二体のスケルトンも、またたく間に仕留めてみせた。

ミアがグレーター・インヴィジビリティとサイレンスを解除する。

ぼくと顔を見合わせて、互いに苦笑い。

「虐殺だな」

「ん。でも、これでいい」

ミアは肩をすくめる。

「油断して被害を受けるよりは、ずっといい」

「ああ、そりゃそうだな。うん、ぼくはつい、舐めプしようとしてた」

「コンピュータ・ゲームなら威力偵察もありっぽいけど」

まったくもって、ミアの言葉が正しい。

これはやりなおしのきかない、命がけのゲームだ。

この身と仲間たちの身を賭けて戦っている以上、ヌルい手は打てない。

「いままでなら、落とす宝石である程度、強さの判別ができたんだけどなあ」

「お金を落とさないモンスターとか、なんてしょっぱいダンジョン」

ダンジョンいうな。

たしかにRPG的にいえば、これって完璧にダンジョンだけども。

ぼくたちは周囲にモンスターがいないことを確認したあと、ラスカさんたちを呼び、この先のルートを考える。

ラスカさんがいうには、死霊術師はこの寺院の中心部、ガル・ヤースの心臓と呼ばれる巨大な宝石の近くにいると考えられているらしい。

「ガル・ヤースの心臓……。それって、つまり例の楔、ですか」

「はい。大陸を固定させる五つの楔のひとつ、それがガル・ヤースの心臓です。ひと目見れば、わかるはずです。なにせ、オーガの身体よりおおきな球形の赤い宝石なのですから」

うへえ、ってことは全長三メートル近いルビーってこと?

ちなみにガル・ヤースの心臓のある礼拝堂は、ここからわりと近いらしい。

地下通路を通って、直接、礼拝堂に赴くルートが存在するとのことである。

いつでも兵を礼拝堂に送ることができるってことか。

防犯的には、最高なのかな。

兵士たちが常に忠誠を誓っている、って前提ならいいんだろうけど……。

まあ、亡びた国の仕組みなんてどうでもいい。

便利な通路があるなら、使わせてもらうだけだ。

なお、別に隠し通路ではないから、途中をモンスターが守っている可能性は高いとのこと。

ぼくたちは、灰色狼で随時、敵の存在を確認しながら前進した。

どうやらアンデッド特有の臭いがあるらしく、狼の嗅覚はそれを探知できるようなのだ。

ここの空気が淀んで、関係のない腐臭とかが消え去っているから可能なことなのかもしれないけど。

ぼくらの可愛いグレイウルフは、通路で待機するスケルトンを見事に探り当ててみせた。

試しに、ということで、アリスとたまきのつき添いのもと、孤立した通路上のスケルトンにラスカさんを突撃させる。

ラスカさんは、多少、苦戦しつつも、ウォーハンマーでモンスターの頭蓋骨をかち割った。

「ベテラン・スケルトンだと思います」

彼女の評価を信じることにした。

ここの雑魚って、最低でもスケルトンスキルがランク3程度はあるってことか……。

いや、スケルトンなんてスキルでいいのかどうかはともかく。

となると、最低でも経験値は……。

まあいいか、一体くらい。

こいつらが経験値を持っているかどうかも、まだわからないんだし。

次はアリスの番だ。

じつは治療魔法のランク3に、ホーリー・ボルトという魔法がある。

その名の通り、対アンデッド特攻、ただし通常のモンスターにはまったく効果がない攻撃魔法だ。

室内にいるこれも孤立したスケルトンに、このホーリー・ボルトを放ってもらう。

魔法でできた輝く槍を肩口に受け、スケルトンはおおきくよろめいた。

手にした剣を落としてしまう。

「もう一発だ、アリス」

「はい。ホーリー・ボルト」

二発目の輝く槍は、股関節に命中する。

思わず身をすくめてしまうような一撃によって、スケルトンの腰が砕けた。

床に倒れ、そのまま動かなくなる。

「二発でKOか。なかなかの威力、なのかな」

とはいえ、いまのアリスなら普通に殴りにいった方が強そうだ。

一応、長射程武器として使いどころがないことはないけれど。

治療魔法のランク7にはこれの上位版があるから、それを覚えていれば、殴るより強かったかも……。

とは口にしない。

アリスの選択は、前線でたまきの横に立ち、彼女を支えることだったのだから。

まあ、ちょっと浮かない顔をしてるってことは、彼女自身もそれをわかっているんだろうけどなあ。

とりあえず、彼女の髪をやさしく撫でておく。

アリスはぼくを見上げ、照れくさそうに笑った。

「カズっち、ダンジョンで甘い空気は厳禁」

「あ、はい、すんません」

ミアに怒られたので、真剣にいこう。

あとで白い部屋にいったとき、もっとアリスを甘やかせばいい。

まー、さっきメキシュ・グラウで全員がレベルアップしちゃったから、次のレベルアップは当分先かもしれないけど。

ひとまず、さくさくと進攻ルート上及びその周辺のスケルトンを潰していく。

ぼくは放っておこうといったのだけれど、ミアが放置に反対したのだ。

「あとで警報とか出て、トレインになったら危険」

「なんですか、トレインって」

「ネトゲ用語で、モンスターが雪崩をうって迫ってくる様子」

アリスの疑問に、ミアが答えてやっている。

MMO用語はともかく、ミアのいいぶんはもっともだった。

いまは強力な範囲火力攻撃を持つルシアがいないのだ、いっそう慎重にいくべきだろう。

そういうわけで、ぼくたちは片っ端からスケルトンを始末していくことになった。

スケルトンが三体いる部屋、四体いる部屋と潰したところで、たまきがレベルアップする。

お、よかった、こいつら、きちんと経験値を持っているんだな。

白い部屋にて。

ぼくたちはまず、経験値の計算をする。

「たまきがレベルアップして、たまきより経験値合計が50だけ少ないミアがレベルアップしてないってことは……」

「ベテラン・スケルトンさん、レベルは5ですね」

同じレベル5でも、エリート・オークよりは弱い気がする。

モンスターもスキル制だと仮定すると、なにか余計なところにポイントを振っているのかな。

アリスがいうには、やけにパワーがあるとのことだから、肉体スキルとかを持っているのかもしれない。

あー、それと透明になって音も消したぼくたちを感知していたか。

あれもスキルなんだろう……なあ。

その分、素の戦闘力が減っている?

床にあぐらをかいて座り、そんな仮定を議論する。

なおぼくの股の間には、アリスがちょこんと座っていた。

アリスのお尻……あったかいナリ……。

あ、そんなモジモジしないでください。

いけない子が起きてしまいます。

腰にまわした手に、少しちからを入れる。

アリスがぼくに振り向き「もうっ」と少し怒ったふりをする。

そんな仕草が、余計にかわいらしい。

思わずにへらとしてしまう。

いつの間にか、たまきとミアがぼくの左右にまわっていた。

ふたりが手を伸ばし、ぼくの頬を抓ってくる。

はい、すみません、いちゃつきすぎました。

深く反省の意を込めて、土下座する。

ミアが調子に乗ってぼくの頭を踏んできたので、足を掴んで転ばした。

そのまま四の字固めに入ろうとして……あ、こいつ喜んでやがる。

「なぜ技をキメかけてやめる、カズっち」

「きみの変態さんな部分が喜ぶのはともかく、なんか骨を折っちゃいそうで……」

「どうせアリスちんが治してくれるよ?」

まあ、うん、そうなんですけどね。

女の子を痛めつけて喜ぶ趣味は……あんまりないので。

ねえ? とアリスの方を向く。

「ええと……そうです……ね」

なぜかアリスが視線をそらした。

待ってください、誤解があります、深刻な認識の齟齬があります。

「ん。ギルティ」

寝っ転がったままのミアがジト目で告げる。

「ゆえにカズっちは、わたしとたまきちんももっと構うべき」

「まあ、作戦会議が終わったらな」

とりあえずいまは、会議が優先だ。

いろいろ情報が入ったからなあ。