作品タイトル不明
第143話 二体の神兵級3
さて、ルシアの薄紅色の唇を見ていると、なんだかイケナイ気持ちになってくるので。
ぼくは、まだミアをくすぐっていたたまきを止める。
ぜえぜえと荒い息をつき、ぐったりするミア。
「ん……。こ、これはこれで……」
「おまえほんとすごいな」
「カズさん、さすがに疲れたよう」
えらい、えらいとたまきとアリスの頭を撫でてやる。
全員が落ちついたところで、改めて車座になって座る……。
前に、ルシアのおなかが音を立てた。
「打ち合わせの前に、軽く食べるか」
「はい!」
元気よくうなずかれる。
えー、まー、たいへん感情豊かで結構なことですね。
ルシアは、当然の権利だといわんばかりに、クールな口調に戻ってケーキを所望する。
健啖な食欲を発揮される姫様に負けじと、アリスたちもこれに参戦。
いいけどね、ここでいくら食べたって、もとの場所に戻ったら消えてるわけだし。
で、おなかがいっぱいになった彼女たちだけども。
今度は眠くなった様子で、あくびを始める。
仕方がない、かなあ。
「お昼寝して、それから会議で」
一応、サモン・クロースほかでシュラフと布を大量召喚し、ふかふかのその上で横になる。
なぜか、みんながぼくのまわりに集まってきていた。
ルシアもだ。
「友と、仲間と、家族と円になって寝るという行為に、多少の憧れを抱いていました」
聞けば、光の民の大家族は、木のうろの家でそうして寝るのだという。
室内が丸いから、なのかなあ。
ところ変われば文化も変わるものなのか。
そしてルシアは、これまで、家族の絆というものを持たなかったらしい。
まあ、兵器として彼女をつくり育てたのが両親なのであるから、当然だろう。
仲間も、友といえる者も、ほとんどいなかった。
祖国を滅ぼされ、逃げ込んだ先の世界樹で、リーンと出会って……彼女が唯一、親友と呼べる存在になった。
それでも、彼女は一族の長だ。
気軽に添い寝をする、というわけにもいかないとのことで……。
ルシアの提案に従い、光の民式に、互いの頭をつきあわせて放射状に横になる。
互いの呼吸音が、耳もとで聞こえてくる。
甘い匂いも、漂ってくる。
「少しドキドキして、落ち着きません」
反対側に寝っ転がるルシアが、少しいたずらっぽい口調で、そんなことをいってくれた。
はい、ぼくもドキドキします。
アリスとたまきとミアは、速攻で寝息を立てておりますが。
普段、こういうときは最後まで起きているミアがぐっすりなのは、さっきさんざん、騒いだからか。
騒がせたのは、ぼくだけど。
それとも、そうとうに疲れていたのか。
そういえば、さっきの休憩時、ミアとルシアはお昼寝してないんだよなあ。
無理にでも休ませるべきだったのかもしれない。
今後の課題としよう。
「カズ……と呼び捨てにして、いいですか」
「えーと、ああ、うん、構わないけど。ぼくもきみのこと、呼び捨てだし」
ルシアは「ありがとう」と感慨深げにいった。
「カズ。ふたつ、聞きたいことがあります」
「なんでもいってくれ」
「あなたは、どうして復讐にはやる気持ちを静めることができたのですか」
なるほど、彼女はぼくの過去を聞いて、そこが不思議だったのか。
なんのことはない、実際のところぼくの心は過去のトラウマで引き裂かれそうだった。
何度も迷って、何度も間違いそうになった。
それでも、最終的にぼくを導いてくれたのは……。
左右を見る。
アリス、たまき、ミア。
「仲間たち……彼女たちがいたから。言葉と態度と、それ以上の信頼を、彼女たちが見せてくれた。ぼくはなにも優れたところのない凡人だけど、彼女たちが支えてくれたから、能力以上のちからを出せた」
「そう、ですか」
ルシアはため息を吐きだす。
頭が、もそもそと動く。
横を向けば、ルシアの顔がすぐ目の前にあった。
横を向いたルシアは、蒼い瞳でぼくを見つめている。
視線が交わる。
「カズ。あなたは、凡人ではないと考えます。あるいは平時においては凡才であっても、非常時においてはこの上もなくタフなリーダーであると」
「そうなのかな。……うん、この三日、四日でずいぶん鍛えられたのは否定しないか」
ルシアは「はい」とうなずく。
「わたしも、カズのようにできるでしょうか」
ぼくは、ルシアの額に己の額を軽くぶつけた。
こつん、といい音がする。
「ぼくがいる。ううん、ぼくたちがいるから。いまのきみは、ひとりじゃない」
「はい」
「苦しくなったら、いつでも吐き出してくれていい」
「はい。そのときは、必ず」
「別に、いまでもいいんだけど」
ルシアは目線を切り、しばし上を向いて沈黙した。
ゆっくりと首を振る。
もう一度、ぼくの方を向く。
「ここでの戦いが終わったあとにでも」
ぼくは、うなずく。
ルシアが手をのばして、ぼくの顔を両手で押さえた。
身を乗り出してくる。
額に、そっと口づけされた。
たぶんこれは、恋人のキスじゃない。
親愛の情。
でも、なんだかすごく、ドキドキした。
困ったことに、胸が苦しかった。
※
どれくらい時間が経っただろうか。
ぼくは目を醒ます。
耳もとで鳴る、すきっ腹の音で。
「申し訳ありません」
見上げれば、足を少し崩したルシアが、膝をぼくのそばに置いて座っていた。
スカートの下が見えそうだったので、意識して視線をほかにずらし、立ち上がる。
少しよろめいた。
ルシアがぼくの肩を押さえて、支えてくれた。
密着した拍子に、彼女の体臭を嗅いだ。
「だいじょうぶですか」
「ああ、うん、ちょっと寝すぎた……かな」
寝る前に食べたばっかりだったはずなのに、お腹がすくほど寝ていたなんて……。
と時計を見れば、なんと十二時間近く経っていた。
うわあ、なんて贅沢な時間の使い方だ。
こんなの白い部屋じゃないとできやしない。
「この部屋じゃトイレを催すことがないから、時計を見てないと時間の経過に気づけないな……」
「出そうと思えば出るけどねー」
たまきが呑気にいう。
うん、そうなんだよな、出そうと思えば。
本当、不思議な空間である。
それはともかく。
今度は寝てしまわないよう、適度に食事をとったあと、会議に入る。
議題は、今後のこと。
そしてレベルアップのこと。
「ぼくはスキルポイント6になるから、付与魔法を6にする。たまきは肉体を4に、ミアとルシアはそれぞれ風魔法と火魔法を9に、だね」
すでに育成方針は定まっているが、一応、全員に確認をとった。
皆がうなずく。
まあ、これはいい。
「もとの場所に戻ったら、ルシア、きみはすみやかにアリスに治療されること。で、後方に下がる。いいね」
「はい。おそらくもう、わたしは戦えません。ついていっても、邪魔になるだけでしょう」
魔力解放の最大を二連発。
それはものすごい火力を発揮したが、代償もおおきかった。
ルシアという戦力は、しばらく使いものにならない。
しばらく、といってもさきほほどの介抱の具合からして、夕方までくらいだろうか。
無理をすればもうちょっと頑張れる……かな。
あまり無理はしてほしくないけど。
でも、ひとひとりの身体が壊れたとしても、それで勝利をつかめるというのなら……。
リーンさんは、いまやランク9、最強の火魔法の使い手となった彼女の投入をためらわないだろう。
彼女は為政者だ。
相手がたとえ親友だとしても、いや親友だからこそ、情を捨てて実を取ろうとするに違いない。
そんな人物だからこそ、きっと志木さんは、リーンさんに背中を預け、前に出た。
「次の戦いまでに、じっくりと身体を休めてくれ」
いまこの部屋では平然としているけれど、それは一日近い時間が経過しているからだ。
白い部屋からもとの場所に戻れば、ルシアはぼろぼろの状態に戻る。
この不思議な空間の辛いところだ。
「アリス、ルシアを任せる。丘の陰に彼女を隠して、すぐ戻ってくれ」
「は、はいっ」
「たまきとミアは、残る一体のメキシュ・グラウと交戦だ。ミア、たまきと共に距離を詰めろ。アリスが来るまで、粘ってくれ」
「ん。別に倒してしまっても……」
「いいよ」
台詞を横取りされ、ミアはぷうとむくれた。
「最近、カズっちがいじわるばっかり」
「きみはいい加減、自分の行いを省みろ!」
「わかっちゃいるけど、やめられない」
それいつの時代の言葉だよ……。
ミアの年齢詐称疑惑が止まらない。
「志木さんたちも心配だから、メキシュ・グラウを片づけたあとは、彼女の方に向かう。だからといって、あせらないこと。まずは確実に神兵級を潰す」
わかっていることでも、いちいち口に出して確認しておく。
意思の疎通に齟齬をきたすのが一番まずい。
この数日で、何度もミスをして、死にかけて、そのことを学んできた。
ぼくたちは細かい確認を重ねる。
今後の展開についても、いろいろと考察する。
ぼくとミアを中心にして、戦術を練る。
ここでメモして外でも使えるノートを買う手もあるけれど、戦闘中にメモを確認していては致命傷になる。
それよりは、ぼくとミアの記憶を信用した方がいい。
実際のところ、本当に頼りになるのは、ぼくじゃなくてミアの記憶力なわけだけど……。
「それじゃ、いくぞ」
全員に確認をとり、エンターキーを叩く。
白い部屋を出る。
和久:レベル33 付与魔法5→6/召喚魔法9 スキルポイント6→0
たまき:レベル28 剣術9/肉体3→4 スキルポイント5→1
ミア:レベル28 地魔法4/風魔法8→9 スキルポイント10→1
ルシア:レベル23 火魔法8→9 スキルポイント10→1