軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第141話 二体の神兵級1

志木さんたちと別れたあと、ぼくたちは、寺院を二時の方向に見ながら飛び続けた。

暗雲垂れ込める、見渡す限りの荒野だ。

いまは低空飛行しているから、行く手に立ちふさがる丘に視界が遮られ、先の景色が見えない。

その丘の向こう側の空が、一瞬、赤く染まる。

直後、左手奥で連続した爆発。

数秒後、強い風がぼくたちを襲う。

爆風だ。

わかっていたから、体勢を崩すことはなかった。

そのまま飛び続ける。

「メキシュ・グラウの位置がわかったな」

「ん。いまの、間違いなくあいつらのファイアビーム」

ファイアビームいうな。

それ、弓から放つ炎の矢のことだろ。

メキシュ・グラウが、この丘の先で暴れているのだ。

兵士たちは必死の抵抗を続けているのか。

それとも、すでに三々五々、逃げている状態で……それをあの化け物たちが掃討しているのか。

いずれにしても、囮に気を取られているいまがチャンスだ。

嘘でもそう思っておかないと、神経がやられる。

「兵隊さんたちを、助けないと……っ」

だから、ぼくはそう呟くアリスの肩に手を置き、首を振る。

「アリス。きみは、ぼくたちを守ることを第一に考えて欲しい」

「で、でもっ」

「きみがやさしい子なのは、みんなが知っている。でもね、優先順位をつけよう。まず、ぼくの命令が絶対だ。誰の命を救うのも、見捨てるのも、ぼくが決める。いいね」

そう、これは絶対の決めごとだ。

ひとの命の価値を決める権利も、責任も、すべて隊長のぼくのものである。

アリス、それに心配そうにこちらを振りかえるたまき。

きみたちには、責任の欠片たりとも渡してやらない。

だから、頼むから、見知らぬ味方に対して無駄な慈悲など見せてやらないでくれ。

そんな思いで、愛する少女を見つめる。

アリスが「でも」といいかけ、しかしすぐ押し黙った。

緊張した面持ちでうなずく。

ぼくは笑って、彼女から離れた。

ルシアが寄ってくる。

「わかりあっていますね、あなたがたは」

「お互いに熱愛中なので」

「その論ですと、優秀な指揮官と部下は皆、恋愛関係になりませんか」

ぼくは思わず、屈強な男同士が抱き合う姿を思い浮かべてしまった。

………。

ごめんなさい、ぼくが間違っていました。

「ぼくとアリスは、初日からずっと、戦ってきたから。殺したモンスターの数なら、相当なものだと思う」

「そうですね。あなたがたの時間は、一日、一日は、とても濃密だったのですから」

「ルシア、きみとももうこうして、丸一日近くを共に過ごしている」

「はい。共にいる時間が増えるほど、いっそう感じます。あなたがた四人の間に存在する、その……強い繋がりを」

そうだろうな、とぼくは思った。

それほどに、一日目と二日目はいろいろなことがありすぎた。

ルシアは、そんなぼくたちをどう思っているのだろう。

少し、考えてみなきゃいけないかもしれない。

ぼくは首を振る。

でも、それはあとでいい。

「見えた」

自分ひとりにグレーター・インヴィジビリティをかけ、少し高度を上げたミアが叫ぶ。

「前方、何キロかわからないけどその先の丘を越えて少し先。兵隊が逃げまどっていて、メキたんが走っていってそれを踏みつぶす感じ」

メキたんいうな。

状況は、おおむね予想通りか。

一軍が、たったの二体を相手に壊滅しているというのは、なんともひどいものだが……。

なにせメキシュ・グラウは、おそらく対軍用のモンスターだ。

少数で多数を蹂躙するために存在するようなモンスターだ。

それを相手に一般兵をぶつけるのは、愚策であった。

問題は、それでも一般兵をぶつけるしかなかった各国連合軍の層の薄さであろう。

ぼくたちがいなければ、このまま壊滅するに任せるしかなかった。

いや、それでもいい、と考えたのか。

連合軍の本命は、寺院内部への突入部隊だ。

メキシュ・グラウほど巨大なモンスターだと、寺院のなかに入ることができない。

加えて、楔の神殿をそのものを破壊するようなことは、その堅牢さによって不可能なのだと思う。

つまり、主戦場が寺院内部に移ってしまえば、メキシュ・グラウは遊兵となる。

ならばどれほど損害を受けても、生贄をあてがい、こいつらをここで押さえ込んでしまえばいい。

ぼくたちが来る前なら、そういう判断になるのだろう。

兵士たちには気の毒だが、今日の作戦に失敗すれば大陸そのものが終わる。

ぼくたち全員が死ぬ。

どのみち、最初から退路など存在しない戦いであった。

「ルシア」

ぼくは横を飛ぶ少女にいくつか指示を出す。

「危険そうだったら、作戦は中断だ。総力戦で潰す」

「はい」

丘を越えれば戦闘開始だ。

ここから先は、いっそうの迅速さが勝利の鍵となる。

前回の戦いから判断して、メキシュ・グラウの感知方式は、視覚と超視覚だろう。

煙のなかまで見通せる感じではなかったように思う。

グレーター・インヴィジビリティは試していないが、どうせ神兵級にそんなものが効くとは思っていない。

そう、至近距離ならば、インヴィジは効かない。

だが我らが頼もしき使い魔、幻狼王シャ・ラウによれば、超視覚には距離の制限があるらしい。

おそらくは三十メートルか、あるいは優秀なモンスターでその倍程度か。

火魔法は射程距離が長い。

超視覚の範囲外から一撃を与えられる。

だから、百メートルの地点までグレーター・インヴィジビリティで近づき、魔力解放を最大倍率で使ってもらう。

使う魔法は、対単体攻撃力を重視し、フレイム・カッターだ。

ランク8のこの魔法は、炎に包まれた刃を生み出す。

マナの刃は、あらゆるものを溶解し、断ち切るのだ。

……たぶん。

実際のところ、これ、ほかの魔法と違って術者が狙いをつけ、射出する必要がある。

いわば弩弓のようなシステムらしい。

幸いなことに、ルシアは弓も扱えるとのことだった。

白い部屋で弓を召喚し試させてみたところ、あの部屋の端から端までなら、爪楊枝にすらも命中させてみせた。

ああ、うん、そんなに広い部屋じゃないけどさ……。

ルシアがいうには、百メートル以内なら人間サイズの物体を相手にほぼ百発百中であるという。

ならば彼女にとって自信がある、その百メートルから放ってもらおう。

メキシュ・グラウくらいでかいモンスターが相手なら、なおさら当てやすいだろうし。

丘の頂付近で、一度ストップ。

まずはルシアにディフレクション・スペルをかける。

ルシアがレジスト・ファイアを拡大し、パーティ全体にかけた。

これはあくまで、保険だ。

改めてミアにディフレクション・スペルをかける。

ミアが、パーティ全体に拡大されたグレーター・インヴィジビリティを使った。

全員が透明になった、はずだ。

シー・インヴィジビリティをかけているぼく以外にとっては、互いが消えて見えているはず。

「参ります」

姿が消えた直後、ルシアが全力で飛び出す。

「追うぞ」

ぼくは、たまきとアリスの手を取った。

ミアが後ろから首に抱きついてくる。

四人、固まって飛び出す。

ルシアは丘を越え、さらに全力で飛ぶ。

彼方で大暴れする、二体のケンタウロス型モンスターの姿。

まだかなり距離があるのに、その巨体のせいでかなり近くに見える。

メキシュ・グラウ。

昨日はひどく苦戦した、神兵級モンスター。

それが、二体。

一体が、弓を構える。

ぼくたちから見て十時から八時の方向に逃げる百人程度の兵士たちめがけ、炎の矢を放つ。

左手で、おおきな爆発。

ワンタイミング置いて、爆風が襲ってくる。

ルシアは巧妙にバランスをとって、それをやり過ごす。

ぼくたちは少し、体勢を崩した。

ミアが「ん」とぼくの首を絞める手にちからを入れ、動く方角を指先で指し示す。

彼女のいう通り飛ぶと、なぜか楽に飛べた。

「こういうのは、経験」

「おまえにどんな飛行経験があるんだよ!」

「ゲームで!」

きっと、ぼくの背中でドヤ顔をしているんだろうなあ。

あーうざい、うざい。

でも、正直いって助かる。

ぼくたちの飛行速度は、およそ時速六十キロというところだろう。

すごいスピードとはいえないが、一般道の法定速度なんだから、速いといえば速い。

己の身ひとつで飛んでいるぼくからすると、むちゃくちゃな速度で周囲の景色が流れている。

さて、丘からメキシュ・グラウまでの距離がおよそ五キロとして。

時速六十キロで飛べば、かかる時間はたったの五分。

グレーター・インヴィジビリティの効果時間は現在八分だから、余裕で間に合う計算だ。

距離を詰めるうち、惨劇の様子が見えてくる。

あちこち、クレーターだらけだった。

兵士たちの死骸が散乱している。

生きている人々も、五体満足な者は少ない。

数少ない弓手たち、魔術師たちが弓や攻撃魔法を飛ばすものの、反撃の炎の矢や突進によって、またたく間に蹴散らされる。

阿鼻叫喚の地獄絵図が、そこに展開していた。

「まずいな、下手したら味方を巻きこむか……」

「ん。ルシアを止める?」

わずかに考え、「いや」と首を振る。

「彼らは必要な犠牲だ」

「ん。そだね」

ここでメキシュ・グラウの殲滅をためらえば、いっそうの被害を出す。

結果的に作戦の成否を危うくするかもしれない。

ぼくたちに、そんな悠長なことをしている暇はない。

はたして、ルシアもそれはよく理解しているのだろう。

ちょうど百メートルの距離で立ち止まり、ちからを貯める。

魔力解放の準備だ。

幸いにして、そのタイミングでメキシュ・グラウの一体が動きを止める。

よし、あいつにぶっぱなせば……。

と。

そのケンタウロス型巨大モンスターが、こちらを振り向いた。

げっ、気づかれた?

なんで……。

「もしかして、マナを探知する……とか?」

ミアが呟く。

おい、そういう可能性は先にいえよ!

っていま議論しても仕方がない。

「ルシア、逃げろ!」

飛行中のぼくは、全力で彼女との距離を詰めながら叫ぶ。

だがルシアは、メキシュ・グラウの方を向いたまま、微動だにしない。

彼女の周囲でマナの風が巻きあがる。

完全に魔法の発射態勢だ。

あんにゃろめ、相打ちになっても仕留める気だな。

忘れていた。

彼女は、故郷をモンスターに滅ぼされた、亡国の王女なのだ。

メキシュ・グラウがぼくたちに向かって弓を構え、炎の矢を放つ。

ルシアへの直撃コースだ。

ほぼ同時に、ルシアが膨大なマナを解放する。

「フレイム・カッター」

巨大な炎の刃が放たれる。

炎の刃と炎の矢が、真っ向から衝突し……。

耳を聾する爆発が起こる。