軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第139話 リーンの使い魔による偵察

志木さんに、すみれのレポートを読んだ旨を伝える。

彼女は腰に手を当て、満足そうにうなずいた。

「じゃあ、わたしの方から説明することは、特にないわ。あなたたちの方のこと、話してくれる?」

「たいしたことはないけど……」

ぼくは樹上の橋を渡りながら、昨夜から今日にかけての出来事を手短かに説明した。

四天王の一体、ザガーラズィナーと交戦したと聞いて、志木さんは驚く。

「よく生きていたわね」

失礼な。

いや、実際にヤバかったわけだけど。

「たまきは、ガチで死にかけた」

「結果的に、全員無事に帰ってきたんだから、たいしたものだわ」

ぼくもそう思う。

なにより、運がよかった。

あんな綱渡り、二度とごめんだ。

ほどなくして、リーンさんの家……というか木のうろに辿り着いた。

志木さんが、そこを守る兵士と話をする。

向こうも彼女が誰かわかっているのだろう、とても丁寧に対応していた。

兵士が、なかに呼びかける。

すぐに返答がきた。

「入ってよい、とのことです」

「ありがとう」

志木さんが、木のうろのなかに入る。

ぼくとアリスもそれに続いた。

昨日と同じ間取りの部屋のなかには、リーンさんとルシア、それにミアの三人がいた。

リーンさんとルシアが、中央で向かい合って座っている。

ふたりとも、座布団にあぐらをかいていた。

そしてミアは、リーンさんの尻尾を幸せそうにもふもふしていた。

おまえ、戻ってこないと思ったら……。

だから、モフるんじゃないよと、あれほど。

「しまった、カズっちだ! 用事を思い出した、さらば!」

「アリス。ヘイスト」

「はい、捕まえてきます」

脱兎のごとく逃げようとしたミアを、赤い光輝に包まれたアリスが追いつめる。

アリスはミアの首根っこをひっつかんで、悪さをした猫のように持ち上げた。

ぼくと志木さんのもとに連れてくる。

「悪気はなかったにゃあ」

「おまえなあ、外交問題になるから、そういうのはやめろと」

「リーンっちはいいっていったよ?」

ぼくはリーンさんに向き直り、謝罪の言葉と共に頭を下げた。

リーンさんは笑って「いいのです。悪意がないことさえわかっていれば」と答える。

「でも、尻尾を撫でられる姿を男性に見られるのは、少々恥ずかしいですね」

「つまり、もっとモフれと」

「ミア、あなたは時々、話が通じなくなりますね」

光の民のリーダーは、呆れている。

押すな押すな、という文化について説明するかどうか迷ったすえ、黙っていることにした。

志木さんが、ミアの額をぺしりと叩く。

「自重」

「はーい、ボス」

おい、おまえのボスはぼくだぞ。

あっさりと志木さんの軍門に下るとは、情けないやつめ。

……いや、怒ると志木さんの方が怖いもんな、わかります。

「座ってください、情報をまとめましょう」

リーンさんの呼びかけに従い、ぼくたちは車座になるリーンさんたちの一員となって、座布団の上に腰を下ろした。

中央に薄く水の張った桶がある。

桶の高さは、床から五十センチほど。

「まず一点目。みなさんのおかげでザガーラズィナーの居場所が判明したことにより、魔王の四幹部すべての所在が確認できました」

四幹部。

四天王とも呼ばれるやつら。

ぼくらが命からがら逃げ出したザガーラズィナーは、そのうちのひとりにすぎない。

あんなやつらが、あと三人もいる。

いや、三体……か?

おそろしい話だ。

もし、いま攻略中の場所に幹部がいるなら……。

どれほどの犠牲を払えば、あんなものを倒せるというのか。

「幸いにして、その所在はガル・ヤースの嵐の寺院とロウンの地底神殿ではありません」

「それは、朗報だね」

「残り三人の所在地は、聖都アカシャ、ハルーランの尖塔。そして最後のひとりは、この世界樹攻略部隊の指揮を執っております」

わりとヤバかった。

いや、前者ふたつは、守備隊が自爆させるから……うまく巻き込めれば、殺せるのか?

問題のひとつは、この世界樹にもザガーラズィナー級が迫っているってことだけど。

「現在のところ、彼らとしてもこの世界樹の結界を破ることができておりません。外延部は占拠されつつありますが、引きこもっている分には、充分に抵抗できておりますので」

なるほど、防衛戦では光の民に一日の長があるということか。

頼もしい。

その言葉を信用したいところだ。

さて、リーンさんがぼくらの中央に張られた水桶を見つめ……なにやら呪文を唱え始めた。

桶のなかの水が、揺らぐ。

皆がなかを覗きこんだ。

水面に、雨雲のもとモンスターと戦う兵士たちの光景が浮かびあがる。

上空からの、俯瞰的な映像と思わしきものだった。

つまり、これは……。

「わたくしの使い魔が見ている光景です」

ぼくの魔法でいうとリモート・ビューイングをこの水面に映写しているのか。

ちょっとした応用、みたいな感じなのかな。

ぼくにはそういった応用がいっさいできないわけだけど。

ぼくたちはスキルを取るだけで強くなれるけど、そのちからは応用がきかない。

この白い部屋システムの長所と短所だ。

魔法に関しては、この制限が特に濃く表われているように思える。

戦闘に関しては、ある程度、ごまかしがきく。

でもこうした戦闘以外での活用方法に関しては、リーンさんのようなきちんと修行した魔法使いに一日の長があるのだろう。

「これはガル・ヤースの嵐の寺院に向かった陽動部隊です」

兵士たちは、全身鎧を身にまとった人間だった。

敵はオークやホブゴブリン、それに見たこともない緑の肌のモンスターや、二足歩行のトカゲのようなモンスター。

互いにすごい数だった。

兵士もモンスターも、次々と傷つき、倒れていく。

だがそれでも、互いに一歩も退かない。

リーンさんの使い魔、おそらくはいつもの鷹なのだろう、この視点で動く飛行生物は、そんな凄惨な光景を見下ろしながら通過する。

使い魔が顔をあげたのか、映像が前方に向く。

彼方に、雷雲に包まれた建物があった。

あれが、嵐の寺院か。

堅牢な高い壁に包まれていて、寺院のなかはよく見えない。

だが、丘のすべてを占拠しているところを見れば、そうとうに巨大な建物であることは見てとれる。

ちょっとした村くらいの規模はあるんじゃないだろうか。

寺院の周囲の地面に、何度も何度も雷が降り注ぐ。

うわあ、あれじゃ近づけないんじゃないか。

いや、付与魔法でなんとかなる……のかな。

「嵐の寺院周辺の落雷を防ぐには、この護符を身につけることです」

リーンさんが、ネックレスを見せてくれた。

六つある。

先端の部分には、虹色に輝く親指サイズの水晶がついていた。

「六つってことは……ぼくたちと?」

「わたし、かしらね」

志木さんがネックレスをひとつ受け取り、首からかける。

ちらりと見えた白いうなじが、なまめかしい。

なんてことを考えていたら、隣に座るアリスが太股をつっついてきた。

「な、なんでしょうかアリスさん」

「ええと……いえ、なんでもないです」

ぷい、とそっぽを向くアリス。

この嫉妬はご褒美ですわ。

なんてことを考えていたら、ミアがこれみよがしの咳払いをした。

「ん。話を戻そう」

「く、空気を読みやがって」

「もうそろそろ、カズっちのMPも満タンになるし」

そういえば、そうだった。

水面に映し出された光景のなかで、使い魔は旋回しながらなにかを探していたようだが……ようやく、視界が安定する。

高度が下がる。

ジャージの少女たちの一団が見えた。

ああ、育芸館組を探していたのか。

ひとりの少女が顔をあげ、こちらを見る。

長月桜だ。

彼女が伸ばした槍の先端に、使い魔が着地する。

「百合子先輩。左手の戦場で、神兵級が現れたようです」

彼女の声が聞こえてきた。

おお、音まで通じるのか。

いや、周囲の雑音は聞こえないから、フィルター機能まであるのかな?

「これ、直接会話できるんですか」

リーンさんに問いかけてみる。

すると、水に映る桜が、少し嬉しそうに目を細めた。

いや、ちょっと驚いただけかな?

彼女の場合、普段からあまり表情に変化がないからなあ。

……ってことはやっぱり、ぼくの声を聞いて嬉しかったんだろうか。

ともあれ、リーンさんの答えを聞くまでもなかったということだ。

ほんと便利だなあ、これ。

「カズ先輩、ですか」

少しくぐもった桜の声が聞こえてくる。

なんだか本当に、電話みたいだ。

「ああ、そうだ。ぼくを含め全員、無事に戻ってきた。きみたちはどうだ」

「いまのところ、損耗はゼロ」

損耗とかいわないで欲しいなあ。

いや、それくらいの覚悟であの地に展開してるんだろうけど。

「それで、桜さん。神兵級って」

「まだ情報が交錯……」

と、桜が横を向いた。

誰かと話し出す。

「いま新しい情報がきた。西に展開していた部隊が、メキシュ・グラウ二体と交戦中」

うげえ、あれが二体同時って……。

それ、そもそもぼくたち以外で戦いになるのかな。

いや、連合軍だって精鋭を投入しているはずだ。

ひょっとしたら、ぼくたちに匹敵する戦力を保持しているのかもしれない。

神兵級をも打倒できるちからがあるのかもしれない。

「まずいですね。西は全滅ですか」

リーンさんがあっさりといった。

あ、そんな戦力ないんですね。

わかりやすい。

「ぼくたちの出番ってことですか」

「お願いいたします」

ぼくはアリス、ミア、ルシアとうなずきあったあと、立ち上がる。

志木さんが「わたしも行くわ」と自分も起立した。

「別に蛮勇に目覚めてメキシュ・グラウと戦うわけじゃないわ。育芸館組の指揮をとるだけ。わたしが後ろにいた方が、カズくん、あなたも動きやすいでしょう」

たいした自信だがなにもおかしくないな。

実際、彼女が後ろで指示してくれるってだけで、ぼくの心理的な負担はかなり軽くなる。

生死にかかわる判断を常に続けるっていうのは、これがなかなかストレスのようなのだ。

いやはや、こんなこと気づきたくなかったけどさ……。

現に、さっき少し仮眠をとらなきゃいけなかったくらい、ぼくは疲れていたわけだし。

レベルアップを重ねて、常人の何倍もタフになってるはずなんだけどなあ。

「それじゃ、まあ。いってみますか、嵐の寺院」

頭のなかでメキシュ・グラウ二体と戦う算段をつけながら、表面上は明るくうなずく。

うーん、でもなあ、あんな化け物を二体か……。

どうやって戦うかなあ。