軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第133話 巨獣襲来

ドワグ・アグナムと交戦状態に入る。

こういった偶発的な戦闘は、あまり好ましくない。

とはいえ、こいつがどんな探知手段でぼくたちを探し当てたか、推測はできるが定かではない。

いまここでさっさとこいつを始末しなければ、最悪、どこまでも追跡されかねなかった。

「さっさと潰すぞ」

あまり時間をかけていては、敵に囲まれかねない。

しかもオーガたちには、切り札の要塞砲がある。

目の前のドワグ・アグナムとて、一体ではない。

ザガーラズィナーがこちらに興味を持って襲ってくるかもしれない、という懸念すら存在した。

神兵級すら従える、魔王の片腕。

消耗した状態で、そんなやつと戦うのは……ちょっと考えたくない事態だ。

とりあえず、この戦い。

敵に見られているということを前提に、行動する。

ディフレクション・スペルで全体化したヘイストをかけたあと……。

「たまき、アリス、一気にいけ。ミア、全力だ。ルシアのちからはセーブ」

ルシアだけが持つ特殊能力、魔力解放。

これだけは、ギリギリまで隠す。

こちらの切り札だし、なによりとんでもない爆発は、目立ちすぎる。

そのうえで速攻をかけるには、ミアのからめ手が不可欠だった。

初手で彼女に期待するのは……。

「ストーム・バインド」

全長十メートルを超える恐竜型モンスターの全身に、重くぬめる空気の渦が巻きつく。

風魔法のランク8、ストーム・バインドは、普通に使う場合、最強クラスの拘束魔法だ。

いくら神兵級といえども、こいつにかかれば……。

いや、敵を甘く見ていたようだった。

ドワグ・アグナムが耳を弄する咆哮をあげる。

空気が、ビリビリと震える。

くそ、解呪の咆哮か……。

と思ったが、ドワグ・アグナムの周囲を取り巻く空気の渦には変化がない。

かわりに、一拍置いて地面が爆発する。

盛大に土砂が巻きあがった。

上空から突っ込んでいくところだったアリスとたまきの姿が、土煙に包み込まれる。

ふたりの悲鳴は、咆哮と土砂の轟音でかき消えた。

しまった、いまのは迎撃の地魔法だったか。

いや、こんな魔法、ぼくたちが知っている地魔法にはないけど……。

モンスター専用の魔法なんだろうか。

なんにしろ、手のうちが読めない。

というか、こんな巨体していて魔法型かよこいつ!

「煙で向こう側が見えません。これでは攻撃が……っ」

ルシアが呻く。

そう、派手に土煙があがったせいで、視界が遮られてしまっていた。

いま下手に攻撃魔法を使えば、アリスやたまきが被害にあう可能性もある。

初手は完全にしてやられた。

でも、これくらいで……。

「ミア、煙を吹き飛ばせ。アリスたちに当たっても構わない」

「ん。テンペスト」

暴風が吹き荒れる。

土煙が一掃された。

その向こう側にいたアリスとたまきも、わずかに態勢を崩しているが……許容範囲だ。

「いまだ、ふたりとも突っ込め!」

「はい、カズさん!」

「わかったわ!」

ふたりの少女は、テンペストによって巻きあがった風を背中に受けて加速し、裂帛の気合いのもと、ドワグ・アグナムに打ちかかる。

アリスの刺突が、胸部の分厚い外骨格にヒビを入れる。

たまきの一閃が、その首をわずかに切り裂く。

青い血が、しぶきとなって舞う。

巨大モンスターは、おおきく身を震わせる。

その身体が、わずかに縮んだように見えた。

次の瞬間。

ドワグ・アグナムの全身が爆発する。

いや、違う。

外骨格の隙間から、無数の触手のようなものが飛びだしたのだ。

げぇ、気持ち悪い!

「わっ、きゃあっ」

「くっ、来るなあっ!」

触手は、不意をつかれたアリスとたまきの腕に、脚に巻きつく。

骨の折れる音が、遠くこちらまで聞こえてくる。

ふたりが苦悶の声をあげた。

まずい、あの触手、細いくせにめちゃくちゃパワーがある。

このままじゃ、骨折どころじゃない。

ふたりの四肢が引きちぎられる。

「ミア、ルシア、触手を!」

「はい。フレイム・アロー」

「ん。ライトニング・アロー」

ふたりの放った、それぞれ8本の炎と雷の矢は、そのいくつかが外れるものの……。

残る何本かが、アリスとたまきを拘束する触手を撃ち貫いた。

前衛のふたりは、拘束から脱出し、よろめきながら後退する。

「エリア・ヒール」

アリスが範囲回復魔法を使う。

だが、さすがに折れた骨を繋ぐには、いささかながら時間がかかるだろう。

そうはさせじと、拘束されたままのドワグ・アグナムは、さらに何十本もの触手を伸ばしてくる。

「サモン・ファミリア:幻狼王シャ・ラウ」

ぼくは一度送還していた銀の大狼を呼び出した。

急いで定番の付与魔法をかけたあと、ドワグ・アグナムの触手の迎撃にまわす。

「頼む、アリスとたまきを」

「任されたぞ、主よ」

シャ・ラウは雄々しく地面に降り立つと、その全身から無数の雷撃を放った。

数百の雷が、数十の触手を迎撃する。

彼我の空間で、派手に火花が散った。

だが、さすがに敵は神兵級。

無数の触手を相手にしては、シャ・ラウの魔法攻撃もいささか劣勢だ。

何本かの触手が、幻狼王の雷による迎撃網から抜け出て……。

「その程度ならっ」

まだ足を引きずっているたまきが、飛ぶ。

シャ・ラウの一歩前に出て、肉体ランク3の膂力に任せ、片手で白い剣を振るう。

剣から伸びた白刃のビームが、迫る触手群を焼き払った。

だがその一撃のあと、たまきは、空中でがっくりと膝をつく。

「あいたたた……っ」

「た、たまきちゃん、無理はしないでください!」

「やー、ここは無理をするところだわ。アリスは下がってなさい」

男前なことをいうたまき。

いや、その闘志はわかるけど、いまは堪えて欲しい。

「敵は仮にも神兵級だ。中途半端は周囲も危険にさらすぞ!」

「で、でも……うう、わかったわ、カズさん」

たまきは、うぐー、と呻きながら、シャ・ラウの後ろに隠れる。

きみってほんと、天然で萌えキャラアピールするよなあ。

いや、いいんだけど。

アリスが連続してエリア・ヒールを放っている。

ここでMPを惜しんではいられないということだ。

完全に正しい。

「シャ・ラウ。もう少し時間を稼げるか」

「やってみよう」

「頼む。……ヘイスト」

加速魔法がかかった幻狼王は、その巨体に似合わぬ敏捷さで、赤い輝きを曳いて飛びだした。

残像を残し、触手たちを翻弄するステップで距離を詰めると、至近距離から連続して雷撃を放つ。

無数の触手が、次々と焼け墜ちていく。

だが触手は、恐竜型モンスターの全身から次々と生えてくる。

きりがない。

「エレクトリック・スタン」

「フレイム・ジャベリン」

ミアが麻痺の雷で瞬間的に敵の動きを止める。

ルシアが炎の槍を撃ち込み、その頭部に命中させ、ひるませる。

少しずつダメージを与えていっているような気はするのだけれど……。

ドワグ・アグナムは、その巨体相応のタフさを発揮し、いっそう触手の数を増やして対抗してきた。

うお、こいつもしかして、対多数の相手が得意なタイプか?

だとしたら……。

「アリス、下がれ! ぼくたちの護衛にまわって!」

「で、でも」

「オーガがこっちに気づいた。もうすぐやってくる」

実際、オーガの一部隊がこちらに接近してきている。

本当は使い魔を新たに呼び出し、迎撃させようと思っていたのだが……。

ドワグ・アグナムが対多数を得意とするなら、向こうの得意な土俵に上がることもない。

その恐竜型モンスターは、おおきく身を震わせ、ついに拘束から脱出する。

といっても、これはストーム・バインドが時間とともに拘束力の減衰を起こすせいでもあった。

予定通りだ、これは問題ない。

なぜなら……。

「ん。もいっちょ、ストーム・バインド」

動き出した大型モンスターを、ミアが再度、拘束する。

相変わらず容赦がない。

「ハメ殺しは狩りの基本」

「まったくだな」

もっともこいつの場合、油断すると触手をこっちまで伸ばしてきかねないので、油断は禁物なのだが。

いまのところ、シャ・ラウとたまきが二段構えの防衛態勢で触手群の相手をしていてくれている。

この陣形が機能してくれているうちは、問題ないだろう。

アリスは一度こちらに駆け戻ったあと、ぼくのヘイストを受け、オーガの群れに単騎、切り込んでいった。

縦横無尽に暴れまわる。

アリスがオーガを二体、切り伏せたところで、ルシアがレベルアップした。

白い部屋にて。

ぼくたちは改めて、今後の方針を確認する。

まずは、ドワグ・アグナムをすみやかに退治すること。

その間、オーガの群れはアリスが抑えること。

問題は、かなりタフそうなこの恐竜型モンスターをどう倒すかである。

「いい考えがあるわ! わたしが突っ込んでいって、ずばしゃーっ! ってやっつけちゃうの!」

「たまき、こっちに来て」

「え、なになに、カズさん」

撫でてもらえるのかとノコノコ寄ってきたたまきのこめかみを、両の拳でグリグリする。

わきゃあ、と可愛らしい悲鳴をあげるたまき。

「愛の鞭ですね……」

アリスまでが、呆れた様子だった。

やむなしである。

痛くなければ覚えませぬ。

「考えなしの突撃はダメ、絶対。きみを心配していっているんだからね」

「はぁい……」

「だいたい、さっき触手に捕まって骨を折られたばっかりだろう」

「あ、あれは油断したから! 次はだいじょうぶだわ!」

どうだか。

アホの子以外のぼくたち全員が、ジト目になる。

ああ、まったくこのチームは、呼吸がぴったりでなによりなことだ。