作品タイトル不明
第132話 ノートPCを手に入れろ
ぼくたち五人は、インヴィジブル・スカウトに先導され、用心しながら高等部へ向かった。
用心といっても、オーガの部隊がいれば、そのつど全力かつ速攻で粉砕していく方針である。
少しでも敵戦力を削りたいし、やりすごしたあとに敵部隊がまわれ右した場合、挟み撃ちにあう危険があるからだ。
こちらは少数だ。
常にイニシアチブをとって戦う必要がある。
そのための用心は怠らない。
インヴィジブル・スカウトは前方に配置しているから、問題は後方だ。
もちろん、相応に警戒してはいるのだけれど……。
ぼくたちに偵察スキル持ちはいないからなあ。
インヴィジブル・スカウトが、高等部周辺を巡回している部隊をふたつ発見してきた。
お互いにそこそこ距離があるから、素早く倒せばもう片方に気づかれる恐れはないだろう。
よって、両方とも殲滅しておく。
合計でメイジ一体、オーガ十一体、オーク十三体、ジャイアント・ワスプ二体を倒した。
さきほどレベルアップしたばかりのアリス以外の全員が、1レベルずつ上昇する。
スキルポイントは温存だ。
ついでに、ぼくがミアベンダーから使い魔覚醒の特殊能力を取得する。
トークン2000個分を使って、残りは441個分。
だいぶ懐がさみしくなったが……この新たな能力に期待しよう。
「できれば、この使い魔覚醒、実験してみたいけど……」
「ん。この白い部屋にシャ・ラウを呼べないの、ネックすぎる」
ミアの言葉の通りだった。
うーん、なんで専従契約した使い魔は白い部屋に呼べないのかなあ。
なにか特殊な制約が存在するんだろうか。
和久:レベル32 付与魔法5/召喚魔法9 スキルポイント4
アリス:レベル27 槍術8/治療魔法5 スキルポイント3
たまき:レベル27 剣術9/肉体3 スキルポイント3
ミア:レベル27 地魔法4/風魔法8 スキルポイント8
ルシア:レベル21 火魔法8 スキルポイント6
※
森から出る前に、ディフレクション・スペル+グレーター・インヴィジビリティで全員を透明化する。
本校舎の周辺でオークとオーガの混成部隊がうろうろしていた。
まだだいぶ距離がある。
「走れ!」
合図で、透明になった一同が駆け出す。
サイレンスで音を消すべきなんだろうが、そうするとぼく以外、互いの位置がわからなくなる。
万一、乱戦状態に陥った場合、同士打ちの危険性すら存在する。
同士打ちだけは避けたかった。
肉体的なダメージより、精神的に辛くなると思うのだ。
そのためなら、ここで音を出す程度のリスクは許容する。
一気に第一男子寮まで辿り着いた。
幸いにして、オーガたちには気づかれなかったようだ。
ちょうど玄関に駆けこんだタイミングで、透明化状態がきれる。
「インヴィジブル・スカウトは入り口で見張りを頼む。みんなはついてきてくれ」
男子寮の廊下を歩く。
ここに立ち入るのは、数日ぶりだ。
あのころとは、なにもかもが変わってしまった。
ぼくの部屋に辿り着く。
ルームメイトは、きっと死んだのだろう。
彼はぼくのいじめに加担こそしていなかったけど、見て見ぬふりをしていた。
ざまあみろとまでは思わないが、特別な感慨もわかない。
正直、いまさらどうでもよかった。
隠してあったノートPCを回収する。
予想通り、バッテリーはカラだった。
電源コードと共に、バッグにしまう。
「カズっちの部屋だ! さあ、エロ本を探せ!」
「あいあいさー! ミアちゃん、まずどこを開けるべきかな、引き出しかな?」
「ま、待ってください、そんなことしちゃ……ああっ、たまきちゃんまで、もうっ!」
なんか騒いでいるやつらがいるが、無視だ。
ルシアは、よほど寮の一室というのが珍しいのか、きょとんとして大騒ぎするアリスたちを眺めている。
「むう、エロ本がない。そか、そのノートPCのなかに……」
「黙秘権を行使します」
「いまさら恥ずかしがることはないよ? それとも、特殊な趣味がおありで?」
ミアは無表情のまま、ごげっごげっごげっ、と不気味に笑った。
おまえ、器用な煽り方するなあ。
「馬鹿やってないで、さっさと撤収するぞ。こんなところでオーガたちに見つかったら、厄介だ」
「ん。ほかの部屋もあさらない? なにか、いいものあるかも」
「そうしたいのはやまやまだけど、たぶん、もう結城先輩たちが漁ったあとだろうからなあ」
「あ、そか」
そう、この第一男子寮は、あちこちの部屋が開け放たれ、乱雑に調査された形跡があった。
少しでも使えるものがあれば、と考えるのは、皆、同じだ。
いまさらぼくたちが調べても、得るものは少ないに違いない。
「いまはさっさと廃屋の地下まで戻って、発電機を動かして、USBメモリの中身を調べて……」
ぼくは、これから指折り数えて、これからやるべきことを整理する。
指を三つまで折った、まさにそのときだった。
建物全体が、激しく揺れる。
壁面がきしんだ音を立てる。
「地震……か?」
誰かが床に転がった。
慌てて振り返ると、ルシアがバタバタと暴れていた。
顔が真っ青だ。
あー、大陸だと地震にひどく耐性がないひともいるって聞くけど……。
そりゃ、大陸のど真ん中だとそういうもんか。
なんか過呼吸になってる。
気の毒なほど慌てている彼女は、普段の落ちつきぷりとはまったく別人のようで、なんだかちょっと面白い。
いや、笑っている場合じゃないんだけど。
「も、申し訳ありません。天地がひっくりかえったようで、か、神の怒りが……」
「そうじゃないよ。ただの地震だから。こんな程度、うちの国じゃ日常茶飯事で……」
って、待て。
地震? いまこの山も、大陸のどこかに転移しているのだ。
じゃあ、これは、なんだ。
背筋に冷たいものが走る。
ぼくは唾を飲み込む。
「カズっち、外」
ミアが窓から外に顔を出して、慌てた。
「来てる」
「なにが」
「恐竜」
ぼくは窓に駆け寄って、外の光景を見た。
四足歩行の巨大な爬虫類が、ものすごい勢いで迫ってくる。
さっきの、ドワグ・アグナムってやつだ。
まっすぐ一直線に、こっちを目指している。
まさか……気づかれたのか?
でも、なんで。
いや、いまは詮索などあとまわしでいい。
ここで迎撃するのは、あまりにも不利だ。
振り返れば、アリスとたまきがルシアの左右にまわり、両側から抱え起こしていた。
「ミア、インヴィジで森のなかまで撤収だ。ディフレクション・スペル」
「ん。グレーター・インヴィジビリティ」
全員の姿が消える。
ぼくたちは三々五々に窓から飛び出し、森へと走った。
寮の入り口にいたインヴィジブル・スカウトも、ぼくたちについてくる。
「まずい。追跡されてる」
後ろを振り返ったミアが呟く。
見れば、彼女のいう通り、ドワグ・アグナムはぴたりとぼくたちに照準を定めて距離を詰めてきた。
これは……まさか。
「ドワグ・アグナムは地魔法を使うっていってたな。震動探知みたいなやつ、あるんじゃないか」
「たぶん、それ。ランク5に、ヴァイヴレーション・センスがある、から」
ぼくは全員に合図し、一度、立ち止まらせた。
「ミア、いくぞ。ディフレクション・スペル」
「ん。フライ」
全員が宙に浮いた。
よし、これで……。
「あ、まだこっち見てる」
ミアがぼそっと呟く。
ちっ、無理か……。
となると、本格的にシー・インヴィジビリティのような魔法を使っているのか。
あるいはもともと透明化状態を見破る視力の持ち主かもしれない。
なにせ、モンスターなのだ。
常人とは違う能力を備えていてもおかしくはない。
幻狼王シャ・ラウも、そういった超感覚を持っているといっていた。
もっとも、シャ・ラウのそれは、これほど遠距離の対象も見極めるものではなかったはずだ。
こいつはそれだけ上位の存在なのか。
あるいはそういった能力に特化している可能性すらあるが……。
どのみち、ここで戦うことは愚策。
できれば森のなかに逃げ込みたい。
恐竜型のモンスターが、おおきく口をあける。
まずい、なにか、来る。
いや、相手が地属性を得意とするなら……。
「ミア、守りをかためろ! ディフレクション・スペル」
「レジスト・アース」
透明化したままのぼくたちを、ミアの展開した緑のオーラが包む。
次の瞬間、漆黒のブレスがドワグ・アグナムから放たれた。
「リフレクション」
ぼくはかろうじて、自分にきたそれを弾き返す。
たまきは白い剣の一閃でブレスを薙ぎ払い、アリスは高度の関係でブレスの範囲外だ。
だがミアとルシアは、その黒い渦に呑みこまれてしまう。
絹を裂くような悲鳴があがった。
血しぶきが舞う。
「気をつけて、カズさん! これ、金属の欠片!」
たまきが叫ぶ。
なるほど、とぼくはうなずく。
無数の金属片にマナをまとわせ、ブレスとして飛ばしているのか。
それはそれで、厄介だ。
ミアとルシアは、あちこち怪我をしていたが、意識を飛ばしてはいなかった。
額や手足から血を流して、ルシアは左手がへんな方向に曲がっているけど、許容範囲内だ。
いや、普通ならもうヤバいって話ではあるんだけど……。
あれ、アリスが治療魔法を使わないぞ。
どうした。
皆の怪我に気づいてない……のか?
あ、そうか。
まだぼくたちの透明化が解けてない。
シー・インヴィジビリティを持ってるぼくしか、周囲の状況がわからないのだ。
「アリス、ミアとルシアが怪我をしている。急いで」
「は、はい! エリア・ヒール」
アリスから放たれた治癒のオーラが、ぼくたちを包む。
暖かい光だった。
ミアとルシアはともに「んっ」と呻くような声をあげる。
アリスの魔法によって、傷が回復していっているのだ。
ほっとひと安心というところである。
いや、全然、ひと安心ではないのだが……。
「カズさん、来るわ!」
たまきが、すっとぼくの脇を飛んで、敵の前に立ちふさがる。
ドワグ・アグナムが地面を蹴って、突進してくる。
その巨体が、ふわりと宙に浮いた。
って、こいつ飛べるのかよ!
ちょうどそのタイミングで、ぼくたちの透明化が切れる。
たまきは不敵に笑い、「さあ、かかってきなさい」と叫んだ。
ええい、もう仕方がない。
なし崩し的だけど、やるしかないか。