軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第131話 グラウンドの下

アリス&ミアとは、一時的に別行動をとることになった。

ぼく、たまき、ルシアのチームは、廃屋に戻る。

そこが一番、安全そうだったからだ。

使い魔とリモート・ビューイングによるいつものコンボで、偵察を行う。

もっとも今回、リモート・ビューイングの対象とするのは、カラスではなくインビジブル・スカウトだ。

この魔法を使うとき、ぼくの視覚は完全に使い魔のものに置き換わり、無防備となってしまう。

安全な場所で腰を落ち着けることは必須条件だった。

幻狼王シャ・ラウは、一度、送還する。

廃屋の一階の床に腰をおろし、たまきとルシアが見守るなか、インヴィジブル・スカウトにリモート・ビューイングを使用した。

いろいろと指示をしたうえで送り出す。

インヴィジブル・スカウトが廃屋を飛び出す。

森のなかを駆け抜ける。

高等部はシンと静まり返っていた。

いや、聴覚は同期されていないが、身動きするものがないという意味でだ。

オーガの姿も、オークの姿もない。

撤収したんだろうか。

そうかもしれない。

ここに生き残りの生徒はいないと、とうの昔に悟ったに違いないだろうから。

ならば、無駄に兵士を置く必要はない。

いや、そうみせかけて、どこかに潜み、ぼくたちが迂闊に近づいてくるところを待ち構えているのかもしれない。

ミアとアリスはうまくやっているといいが……。

透明状態のインヴィジブル・スカウトは、まず本校舎から少し離れた特別教室棟に、割れた窓から侵入する。

ぼくの教えた地図の通りに廊下を歩く。

電算室を覗いた。

ここには、デスクトップのPCが何台も並んでいたはずだ。

それと、教師が使用するノートPCが一台。

そのノートPCを得られれば、と思ったのだが……。

ノートPCが置いてあったはずの教卓には、なにもなかった。

持ち去られたのだろう。

やっぱりか……。

結城先輩たちのグループが持っていったのか、その前に男子寮あたりのグループが持っていったのか。

はっきりとはわからないけれど、そりゃ電気さえ使えるならそれなりの利用価値があるわけだものなあ。

インヴィジブル・スカウトは、ほかにも有力そうな場所を覗いていく。

視聴覚室、総合学習室……。

うーん、このへんにもデスクトップはあるんだけどなあ。

無論、彼女にパソコンという概念がわかるはずもないから、ゆっくりと視界を動かすだけだ。

機材の山や戸棚などがあれば、そのなかも覗くよう指示を出している。

だがインヴィジブル・スカウトの視野のなかに、ぼくが欲しいものは見当たらなかった。

仕方がないか。

ため息をつく。

いや、まだだ、まだ別の場所がある。

インヴィジブル・スカウトは特別教室棟を出て、少し離れた第一男子寮に潜入する。

一昨日までは、ここをシバたちが占拠していた。

本命は、ここだ。

結論からいえば、あった。

寮の一室に、USBポートのあるノートPCが存在した。

というか、ぼくの部屋である。

いじめられていたぼくは、自分のPCを誰にもわからないだろう場所に隠していたのである。

インヴィジブルスカウトは、棚の裏にあるそれをそっととりだした。

これでいいのだろうか、と首をひねっている様子が、ちょっとかわいい。

そのまま持ち帰れとは指示していない。

たぶんバッテリーがあがっているだろうし、そうなると電源をとる必要があるからだ。

廃屋の地下の発電機を使うにしても、ケーブルはほかの場所に隠してあるから、これの回収は必須条件だ。

インヴィジブル・スカウトは、建物の外に出て周囲を見渡す。

頭上を見たときのことだった。

浮遊要塞から、なにかが降りてくることに気づく。

ゆっくりと、この葉のように舞いながら降りるそれは、だいぶ距離があったけれど……。

なんだかとても、でかい。

まさか、と思う。

いや、間違いない。

浮遊要塞の森で見た恐竜型モンスター、ドワグ・アグナムだ。

ぼくは生唾を飲み込む。

神兵級モンスターが降りてきたか……。

だいぶ遠いけれど、あれはぼくたちの存在に気づいて、追い立てるために投入するのか?

いや、単に食事後の適度な運動のため、とかかもしれないけど……。

ほら、犬の散歩みたいな。

勘弁して欲しいなあ。

と、とりあえず、いまはアレの存在を頭から追い出そう。

インヴィジブル・スカウトの注意がほかに向く。

十体以上からなるオーガが、森の縁を整然と行軍している様子が見えたのだ。

向こうはこちらに気づいていない。

無論、透明化しているから当然ではあるのだが、なにせメイジ・オーガの魔法はまだその全貌がわかっていない。

魔法使いなのだから、シー・インヴィジビリティを持っていてもおかしくない。

そしてこのオーガ部隊の指揮をとっているのは、メイジだった。

あらかじめ指示をしていた通り、インヴィジブル・スカウトは建物の陰に隠れてオーガ部隊をやりすごす。

あーもー、見ているこっちが緊張するよ……。

なんとか、見つからなかったようだ。

ほっとひと息。

「カズさん、結構たいへんっぽい?」

肩にたまきの手が乗る。

ドキドキしていた心臓の鼓動が、少し落ちついた。

彼女の呑気な声には癒される。

「とりあえず、ノートは見つかった。ミアが帰ってきたら、みんなで取りにいこう」

「そっか、よかった!」

たまきの笑い声。

いやほんと、彼女が笑っているだけで、ぼくは冷静になれる気がする。

インヴィジブル・スカウトが帰還する。

ほどなくして、ミアとアリスも戻ってきた。

敵とは一度も戦わなかったようだ。

幸いなことである。

山の奥の方はともかく、高等部に近い場所であまり行方不明の兵士を出したくない。

今後の活動に影響が出てしまう。

それでも、やむを得ない場合は始末するしかないけれど……。

レベルアップしていかなきゃいけない、というのもあって、このあたりの塩梅がなかなか厳しい。

うーん、敵ボスと要塞砲の存在さえなければ、暴れられるんだけどなあ。

で、アリスたちの報告は、というと……。

「たしかに、高等部のグラウンドには地下がありました。地下室といいますか……おおきなホールです」

「シェルターっぽい感じ。ただ、壁一面に文字が書いてある。わたしたちには、読めない文字」

ミアはデジカメをとりだし、画面を見せた。

こいつ、こんなもの持っていってたのかよ。

しかもきっちり充電してたとか、手際がいいなあ。

なんて余裕をかませたのは、そこまでだった。

デジカメの画面を見て、ぼくは声を失う。

そこに書かれている文字は、石柱のものと同じだったからだ。

「座標固定、空間捜査、範囲限定……」

ぼくは呟く。

いや、それに加えて、もうひとつ単語が追加されていた。

「相反回路設定?」

意味はよくわからない。

ただ、その四種類の単語が延々と壁面をループしていることだけは理解する。

それ以上のことは、実際、その場にいってみないとわからないだろう。

「どういうことなんだ、これは」

「さっぱり」

ミアは肩をすくめてみせる。

「てきとーなこといっていい?」

「あ、ああ、きみのゲーム脳でなにか思いつくことがあれば、頼む」

なぜかミアは、えっへんと胸を張った。

そうか、ゲーム脳って褒め言葉だったか……。

「ん。たとえば異世界転移の原因は日本政府。異世界転移装置を学校の地下に設置して、山ひとつまるごと送り込んだ」

「なんのために」

「さあ? だからほんと適当」

結局のところ、そんなことする動機が見つからないよなー。

もともと異世界の情報があったとして、送り込むなら軍隊だろう。

「あ、そだ。異世界転移の実験の影響とか」

「それ、絶対いま思いついたな」

「本来は自衛隊を戦国時代に送り込むつもりが、間違えてわたしたちの山が……」

「いろいろ無理があるな」

「まったく。自衛隊より読売ジャイアンツを送り込んだ方が強い」

なにいってるかわからないけど、たぶんアニメかゲームの話なんだろう。

「いままでわたしたちは、神さまっぽいなにかに召喚されてこっちに来たと思っていた。それ以外の可能性もちょびっと浮上。そこだけ着目しておく」

なるほど、ミアの話は、ふたつに集約される。

なんらかの地球上の組織、あるいは個人が、ぼくたちの山を転移させたのか。

それとも、こちら側の世界の誰かが、ぼくたちの山を呼んだのか。

どちらにしても、勝手なことをしてくれると怒りしか湧かないが……。

そもそもいまは理由すらわからず戦いの渦中に叩きこまれている。

なにをどうすれば正解かもわからず、戦闘を繰り返している。

本当に魔王軍を倒せばそれでいいのかすら、わからない。

手探り状態のいま、こういったブレインストーミング的な意見交換はとても貴重だった。

なにがきっかけに真実が明らかになるか、わかったものじゃないのだ。

「ところで、この地下室の壁、普通のコンクリだったのか」

「はい、そうです。ええと……わたし、そういうのに詳しくないですけど、そうだと思います」

アリスは自信なさげだが、そんなこといったらぼくたちの誰も、コンクリートのよしあしなんてわからない。

結城先輩なら、そういうこともわかるかなあ。

ええい、忍者は例外だ、例外。

「あと、ざっと見た限り、兄のメモにあった通りの物が運び込まれてた」

「そうか……。んー、どうしようか。ノートPCと地下室、どっちを優先するか」

「先にノートPCがいいと思う。兄のUSBメモリが気になる」

そうだな、こうなった以上、結城先輩がどこまで謎に迫っていたのか、知っておくべきだろう。

その結果、鬼が出るか、蛇が出るか。

なんにしても、真実から目をそむけるという選択肢は、ぼくたちには存在しないのだから。

真実がなんであれ、すべてを正面から受け止めなければならないだろう。