作品タイトル不明
第130話 日常の陰で行われていた忍者の戦い
廃屋を出て、インヴィジブル・スカウトを偵察に向かわせる。
すぐにオーク二体とアーチャー・オークの小部隊を発見してきた。
そちらに向かい、殲滅する。
アリスがレベルアップする。
白い部屋へ。
※
「さて、カズっち。知っていることを洗いざらい、しゃべってもらおうじゃないかい」
ミアが胸を張り、顎を思い切りそらして、ジト目で睨んでくる。
うん、尋問ごっこをやりたかったんだね。
わかります、でもさ……。
「ぼくが気づいたことって、つまりきみのお兄さんの犯罪的な行動なんだけど」
「ごめんなさい。生意気いいました」
秒速で土下座するミア。
見事な態度の変化だと感心するがなにもおかしくないな。
「是非、お御足で踏んでください」
「たまき、踏んじまえ」
「任せて、カズさん!」
たまきが、ふざけてミアのジャージの背中に靴痕をつける。
どうせこの部屋を出たら消えるのだから、遠慮する必要はないだろう。
「おらおらー、ミアちゃん、どう、気持ちいい?」
「ああー、踏まれるの気持ちいいんじゃー」
「それで、カズさん。なにがわかったんですか」
たまきとミアのふざけあいを苦笑いで眺めつつ、アリスが訊ねてくる。
ぼくは、なんでもないことのように軽い調子で、ほんとうにいつもの調子で、笑った。
「どこから説明したものかな。結論からいうとね。ぼくはどうやら、結城先輩にそそのかされて、ずっと彼の掌のうえだったみたいだ」
「ええと……カズさん、それはいつの話、ですか」
「この一か月くらいの話、かな。ひょっとしたら、シバを殺すって決意も、あのひとに誘導されたものだったのかもしれない」
床に這いつくばっていたミアが「え?」と顔をあげた。
アリスとたまきがきょとんとしている。
ルシアは、いちおうぼくの事情を聞いているとはいえ、その詳細まではよくわかっていないだろうからか、あまり関心がなさそうな顔をしている。
「いままで、たいしたことないと思っていたからはしょっていたんだけどさ。シバに対する復讐は、そのすべてをぼくひとりのちからでやったってわけじゃないんだ。たまにこの学校に来てくれていたセールスマンのひとに話を聞いてもらって……そのひとに、いくつか知識をもらった。ガソリンとかも、そのひとに、こっそりね。あのひとの協力がなければ、すべてを秘密のうちに、ってわけにはいかなかったと思う」
いままでの話の流れから、少なくともミアとアリスは話の展開を理解したようだ。
たまき?
いや彼女はぽかんとしているけど、いつものことである。
ルシアは仕方がない。
なにせ、サラリーマンがなにかもわからないだろうから。
「カズさん、じゃあ、そのサラリーマンのひとが……結城先輩だったんですか」
「あの地下室にさ、背広、あっただろ。それとカツラ。あれは結城先輩の変装道具なんだと思う。というか、さっき気づいたんだけど、昨日も一昨日も、ぼくあのひとの素顔を見てないんだよね」
ミアが起き上がり、「あ、そか」と手を叩いた。
「どーして昨日、会ったとき、メンポしてるのかと思ったら」
メンポいうな。
うん、でも、そうなんだ。
結城先輩は、ぼくと会っている間ずっと、覆面をしていた。
「最初に出会ったときは偶然だったかもしれない。そのあとは、多少、変装していたとしても、さすがに顔を見たらバレるかもしれないって考えたんだと思う。だからぼくの前では、けして素顔を晒さなかった」
「うわー、あの覆面にそんな理由あったのね。さすが忍者だわ」
たまきが感嘆する。
なにがさすがなのかわからないけど、うん、わかってしまえば単純なことだった。
ミアが肩を落とす。
「うう、カズっち、兄がたいへんにご迷惑を」
「それは違う、ミア。これっぽっちも迷惑じゃなかった。どのみちぼくは、シバを殺す覚悟を決める必要があった。そうじゃなきゃ、逆に殺されていた。それに結果として、その準備のおかげで、レベル1になることができた。そういったことが巡り巡って、いまがあるんだから」
そう、結城先輩は、たしかにぼくの思考を誘導した。
たまたま学校にきた部外者を装い、完全にまいっていたぼくの話を聞いてくれた。
ちょっとだけ助言と手助けをしてくれた。
いまになって考えれば。
結城先輩にとっては、シバが邪魔だったのだろう。
彼によって構築される狭量な派閥を壊滅させたかったのだろう。
そのためにぼくを利用した。
そんなことをすればぼくが破滅することを確信していながら、そそのかした。
ひどいことだ、とは思う。
たいした人でなし、外道のすることだ。
でもぼくは、どのみちあのとき、進退きわまっていた。
進むも地獄、退くも地獄なら……。
結城先輩のとった行動は、結果的にぼくにとっておおきな光となった。
なら、いいではないか。
ウィン・ウィンの関係だったのだ。
ただそれに、鈍感な僕が気づいていなかったというだけである。
「カズっちって大物?」
「現実的なだけだよ。そうじゃなきゃ、生き残ってこられなかった」
「ん、そだね。でも、兄のやったことは非道すぎだけど」
ミアは、ぐっと拳を握った。
「次にあったとき、ぼっこぼこにする」
「殺さない程度にな」
「だからさ、カズっち。さっさとこんなところ脱出しないと」
「それももちろんだ。具体的なことは、これから話し合おう」
ぼくたちは、忍者の隠れ家から持ち出した数々の品を白い部屋の床に並べる。
ライター、マッチ、保存食の類いはともかくとして、なんでこんなものがあるんだというものがいくつか。
そのうちのひとつ、粘土のようなものを見て、ルシア以外の全員がため息をつく。
これがなにかは、メモに書き記されていた。
扱い方も解説されていた。
素人でもカンタン! という書きだしで始まる結城先輩の丁寧な説明文は、たしかにとてもわかりやすかった。
「C-4……プラスチック爆弾……。うちの兄は、どこからこんなものを。というか、どういう意図でこんなもの……」
一番、うつろな目をしているのが、ミアだった。
うん、仕方ないよね。
身内がガチでテロリストまがいの装備を整えていたんだもんね。
ぼくも脱力してるもの。
いままで、結城先輩とミアが似ているとかいってたけど、あれ、訂正。
結城先輩は、なんていうか、どこかが決定的にオカシイ。
「このプラスチック爆弾、メモによると、一応、燃料としても使えるってあるけど」
「ん。燃料として使うために、わざわざ違法な手段でこんなもの手に入れない。第一、遠隔式信管もセットって時点で、起爆する気まんまん」
「ですよねー」
まだきょとんとしているルシアに、これがどんなものか説明する。
「遅延性の火魔法……つまりエクスプロージョン・ボックスですね」
「あ、うん。もうちょっと利便性は上がるけど、威力は……どっちが上なんだろうなあ」
「カズっち、なんでわたしの方を見ている?」
いや、ミアならこれの威力とか知らないかなと。
どうやら、さすがにそこまでの知識はないようだった。
「ただの中一にどんな軍事知識を期待している?」
「これだけ桃色知識満載な中一も珍しいだろう」
「思春期ゆえ」
それはいいわけになっているのだろうか。
いいけどさ。
「ひょっとして、これ、ぼくがためらっていたら手渡すために手に入れたとかなのかなあ」
「その可能性も充分にある」
シバを爆破する。
それはそれで魅力的だけど、うーん、あいつを始末するためにそこまで念を入れるか、結城先輩は。
なんかもう、入手経路については考えないようにするとして……。
「現状、あまり使い道は思い浮かばないけどな……。だいたいの場合、魔法の方が効率も利便性もいい」
「エクスプロージョン・ボックスより応用性がきく」
「そうだな。それくらいのものだと考えておこうか」
現代兵器も、いまのぼくたちにとっては、所詮その程度のものだ。
マシンガンがあったって、同じような反応だろう。
ぼくたち以外が使うなら、また話は別だろうが……。
敵もインフレしているからなあ。
オークや蜂だけならともかく、オーガが束になってかかってくると、AK47程度では厳しい気がする。
多少、弾を喰らっても前進してくるだろうし、それらを指揮するメイジの魔法がどうしようもない。
ま、いまここにない武器についても論じても仕方ないか。
地下室から持ち出したものについて、もう少し検討しよう。
「あとの問題は、このUSBメモリだよな……」
機密、というシールが貼られたUSBメモリ。
なにが問題かって、この中身をみる方法がないことである。
この部屋のノートPCには、そんな便利なスロットもない。
「育芸館が爆破されちゃったの、困りましたね」
アリスがため息をつく。
志木さんたちが世界樹に逃げるとき、数台はノートPCを持ち出しているはずだが……。
どこかで調達するしかないだろうか。
「ミア、きみはどうせ、ノートPCを持っていたんだろう」
「わたしのPCは育芸館に……」
ああ、そうか。
そりゃそうだよな、女子寮に残しておく意味はないし。
その育芸館は、要塞砲で破壊されてしまった。
きっと、PCも粉々だろう。
「高等部の男子寮か女子寮を調べる? あるいは、本校舎の校長室に兄が置いていっていれば……」
「本校舎、爆破されちゃいましたね……」
「う、そだった。じゃ、寮か。オーガたちの巣窟になっていないといいけど」
「望み薄だろ」
ですよねー、とミアがため息をつく。
「諦める?」
「それも手のひとつではある、が」
わざわざ結城先輩が用意したものだ。
ぼくたちにとって助けとなる情報が入っている可能性は、それなりにある。
「のーとぴーしー、というのが、この白い部屋にあるあれだというのはわかりましたが……あれでは、ダメなのですか」
「あのPCは調べてみたけど、USBスロットとかなかったから」
「ええと……合う鍵がない、ということですか」
まあ、そんな感じだ。
多少、苦戦しつつ、ルシアにイメージを伝える。
「でしたら、インヴィジブル・スカウトを使い偵察を行うのはいかがでしょう」
ひととおりぼくたちの説明をきいたあと、ルシアはそう提案してきた。
あ、うーん、それが妥当かな。
問題は、インヴィジブル・スカウトがノートPCというものの存在について認識できるかどうか、だけど……。
ぼくが視野を共有して、インヴィジブル・スカウトが全部の部屋を覗いて、一度帰還させたあと具体的な指示を出す感じかなあ。
ノートPCを手に入れたとしても、バッテリーがあがっていないかって問題も出てくる。
そっちは、地下室の予備電源を使えばいいかな。
おおまかな方針については、こんなところか。
あとは……。
「高等部の地下にあるっていう、広い空間のこと」
ミアがいう。
昨日ミアが受け取った結城先輩のメモにあった話だ。
メモには、高等部のグラウンド、昨日ぼくたちがオーガ部隊を迎撃したあたりの地下に、妙に広い空間があることが示唆されていた。
生徒には知らされていなかった地下室。
結城先輩はそこを調べるよう、指示を出している。
入口についても記されていた。
「時間がない。並行して調査するべき。わたしとアリスちんが透明になって、いってくる」
「無謀じゃないか」
「だから、慎重なアリスちんを選んだ」
ああ、そうかー、なるほどなー。
たまきがきょとんとしていた。
アリスは、苦笑いだ。
「え、でもわたしの方が戦いになったら強いよ? 治療魔法、そんなに必要?」
「たまき。ぼくはそんなきみのことが大好きだぞ」
「わっ、なになに、カズさんいきなり!」
たまきは照れた。
いたたまれなくなって、そんな可愛い彼女の頭を撫でる。
アホの子の少女は、嬉しそうに目を細めた。
「ちょろかわいい」
ミアが余計なことを呟いた。
アリスのスキルポイントは貯めることにして、もとの場所に戻る。
アリス:レベル27 槍術8/治療魔法5 スキルポイント3