作品タイトル不明
第129話 忍者の隠し部屋
しかし、そうなると。
早急にトークンを集める必要がある。
「先に、結城先輩のメモにあったあそこ、トークンの隠し場所ってところにいってみるか」
そう、メモを信じるなら、結城先輩はいざというときのために、モンスターから出る宝石を隠していたのである。
まさかこんな事態に陥ることまで想定していたわけじゃないだろうが、ひょっとしたら彼は、高等部の生き残りが自分の旗のもとに集うことなんて、はなから信じていなかったのではないだろうか。
そう考えると……やっぱあのひと、基本的に人間不信なんだろうなあ。
「兄は、ほとんどのひとを信用してないよ?」
以前、ミアは平然とそういっていた。
たぶん、そういうミア自身も、そうなのだろう。
ぼくは……ミアに信用、されているのかな。
これまでの彼女の態度を見れば、信用されていると考えていいと思うんだけど……。
ああ、ネガティブになる。
こういうとこ、ぼくのダメなところだな。
首を振って、白い部屋を出るため、PCのキーを叩く。
和久:レベル31 付与魔法5/召喚魔法9 スキルポイント2
※
もとの場所に戻ったあと、残りのオーガ一体をさくっと片づける。
宝石を回収する。
数えてみたら、現在、持っている宝石は、トークン換算で1636だった。
あと400弱で特殊能力、使い魔覚醒を購入できる、か……。
結城先輩のメモによれば、高等部の南東、アスファルトで舗装された大型トラックも通れる山道から、標識を目印として少し森に入ったところに、廃屋があるという。
その廃屋の地下は、忍者部の隠し部屋となっているのだと。
ほんとかよ。
いや、結城先輩のメモなんだから、本当なんだろうけど。
一度、山を下り、東側からおおまわりして、その廃屋に向かう。
途中で、何度か遭遇戦が行われた。
一体だけで彷徨っていたオークを倒すと、ルシアがレベルアップする。
スキルポイントは貯めたままで、すぐもとの場所に戻る。
ルシア:レベル20 火魔法8 スキルポイント4
その後、オーガ三体の部隊と二回、オーガ四体の部隊と一回、遭遇した。
途中でたまきとミアがレベルアップ。
白い部屋にて、たまきのスキルポイントの使い道を考える。
「さすがに、そろそろスキルポイントを使うか?」
現在、たまきのスキルポイントは6点。
肉体スキルをランク3まで上げてもいいし、ほかのスキルをゼロからランク3まで上げることもできる。
「たまき、きみが決めるんだ」
「え、わたし? カズさんが決めてよ。わたし、カズさんが行けっていえば、どんな怖いところにでも突撃してみせるわ」
あー、こいつめ。
じゃーおまえ死ねっていわれたら死ぬのかよー?
とか聞いたら、即座に「死ぬわ」っていいそうな顔して、無邪気に笑ってやがる。
仕方がないなあ。
ぼくは肩をすくめる。
「わかった、たまきの気持ちは受け止めるから、迂闊なことするんじゃないぞ。ぼくをかばって倒れるとか、そういうのも禁止だからな」
そういい含めつつ、腕組みして少し考える。
ちなみに昨日の時点で、Q&Aをして、各スキルの組み合わせによって出現する派生スキルについて調べてある。
剣術と運動を両方ともランク9とした場合、自在剣術。
剣術と治療魔法の場合、聖剣術。
偵察と剣術の場合、暗殺剣。
このあたりが実用的なところだろう。
ちなみに剣術と水魔法だと、順当に水剣術となる。
暗殺剣という響きはとても魅力的だけれど、絶対に却下だ。
なんでかっていえば、たまきが偵察要員とか、うっかりミスで大失敗をやらかす未来しか見えないからである。
人間には、相応の分というものがあるのだ。
それ以外だと……。
水魔法は現在、うちのパーティだと誰も取得していない唯一の魔法系統だ。
でも、いろいろ相談したすえ、当座はいらないんじゃないかという結論になっていた。
第一に、水中で戦うような予定がない。
もしそういった特殊な任務が行われることになった場合、ほかの人の手を借りる方がスマートだろう。
当然それは、光の民と合流できてからの話になってしまうけれど。
場合によっては、ルシアに水魔法を取ってもらう手もある。
ルシアのもうひとつのスキルについても悩むところだけれど……。
彼女の場合、まず火魔法を最速でランク9にしてもらわないといけないから、まだ先のことだ。
それはそれとして。
このままたまきの肉体スキルを伸ばした場合、たまきの派生スキルは重剣術になる。
運動スキルを伸ばした場合の自在剣術、治療魔法を伸ばした場合の聖剣術に絞られるわけだけど……。
アリスと合わせて治療魔法の使い手が二枚いる、というのはたしかに魅力的だ。
でもふたりとも前衛である必要はないし、万一の場合というのを考えてもあまりリスク分散になっていない。
残るは肉体スキルか、運動スキルか。
重剣術か、自在剣術か。
たまきの印象的には……。
「ん。たまきちんは脳筋」
ミアが、ぼそりといった。
さすがだぜ、ぼくが遠慮していわなかったことをあっさりいってのける。
ぜんぜん痺れも憧れもしない。
「たしかにわたし、難しいことよりガッと殴っていく方が得意かも?」
えへらと笑うたまき。
こいつやっぱ、大物だよ。
うん、決めた。
「改めて、たまき。きみは肉体スキルを伸ばしてくれ。重剣術を目指すんだ」
「うん、わかったわ! 任せて!」
かくしてたまきは肉体スキルにスキルポイントを振りこむ。
一気にランク3だ。
ミアは最速で風魔法をランク9にするため、スキルポイントを温存である。
たまき:レベル26 剣術9/肉体1→3 スキルポイント6→1
ミア:レベル26 地魔法4/風魔法8 スキルポイント6
※
もとの場所に戻り、残るオーガたちを掃討。
インヴィジブル・スカウトの案内のもと、さらに前進する。
少し山を降りたからか、オーガの姿がめっきり減った。
かわりに雑魚オークが一体、二体でいることが増える。
このへんをうろついてるオークって、脱走兵なんじゃないかなあ。
いやまあ、脱走兵だろうとなんだろうと、逃がすわけにはいかないんだけど。
まめに始末していく。
オークを七体ほど始末したところで、石柱の前に出た。
ぼくが二日目の夜に見たときと同じく、高さ二メートル半ほどの四角い石の柱だ。
目の高さに、蛇が何匹ものたくったような奇妙な赤い文様が描かれている。
この文様が文字であって、リード・ランゲージをかけると『座標固定、空間捜査、範囲限定』と読めることは、二日目の夜に確認した。
だが肝心の、なぜこんなものが存在するかということになると、なにひとつとしてわかっていないのが現状である。
「これが、昨日おっしゃっていた……」
ルシアは言葉を切り、石柱をじっと見つめた。
赤い文様に触れ、目を閉じて、口のなかでぶつぶつとなにごとか唱える。
ため息をつき、目をあけて、手を離す。
「なにか、わかったか?」
「ここに記されている術式が、極めて古いものであるということだけは」
「古い?」
どういうことだ、とぼくは首をかしげる。
それは、これをつくった存在のヒントになりうるのだろうか。
「マナの強い働きから考えて、古きもの、神々の時代の遺産……そういったものであるとわたしは考えます」
「神々の時代……ああ、そうか。古いってことは、この世界ではそういうことなんだな」
ぼくたちの常識でいえば、古いものというのはおおむね粗悪品で、弱くて、使いものにならないというイメージだ。
石炭の時代とか、中世とか、もっと遡ると石器時代とか。
無論、技術の失伝なんかもあって、すべてがすべて、そうというわけじゃないけれど。
でもこの世界においては、ずっとずっと昔、神々がいて、もっと強力な魔法があったのか。
ファンタジー世界の感覚って、厄介というか、不思議というか……。
そういう感覚に慣れなきゃいけないのも、たいへんだな。
「シャ・ラウは、なにかわかるか」
『このまわりにオークが集まっていたということだが……この石柱から発するマナに惹き寄せられたのだろう』
「明かりに集まる蛾みたいな感じ?」
幻狼王の言葉に、ミアが適切かつ台無しな例えを口にする。
でも、そんな感じっぽいなあ。
「オークって、マナを感じ取ったりできるのか」
『おそらくだが、無意識なのだろう。ある種のモンスターは、己の源たるマナのちからに対して、ときに反射的な対応をする』
マナを垂れ流すのはおいしそうな匂い、ってことかな。
シャ・ラウは『存在の格によっても異なるが、基本的に本能で動くモンスターほどそういった反応をする』と答えた。
オークは野獣同様ってことか?
むしろ獣より馬鹿っぽかったけど。
いちおう、頭のなかに入れておこう。
「ルシア。これを壊すとなにかあるとか、そういうのはわかるかな」
「なにひとつ、安全を保障できません」
「制御とか、もうちょい調べるとかは……」
ルシアは首を振った。
「リーンであれば、可能かもしれません」
なるほど、今日の戦いが終わったあとにでも、リーンさんに時間をとってもらうべきだろうか。
この世界にぼくたちが来た原因について調べることは、彼女たち光の民にとっても有意義なはずだし。
それにしても……調べれば調べるほど、謎が深まるなあ。
「ま、いまは調査に時間をかけているわけにもいかないか」
当座の目的を果たすべきだろう。
ぼくたちは適当なところで切り上げ、結城先輩の隠れ家たる廃屋を目指す。
※
それから二十分ほどかけ、さらにオーガ三体とオーク八体を倒した先で、ぼくたちはいまにも崩れそうな廃屋を発見する。
その地下、メモに示された通りの手順で罠を解除した先にあったのは、こじんまりした小部屋だった。
整理整頓が行き届き、湿気もほとんどない地下室だ。
ここだけのために暗視魔法を使うのもナンなので、懐中電灯で地下室を照らす。
ちいさな丸テーブルの上には、宝石が入った袋と共にメモ用紙が挟んであった。
メモには「もしこれを見るのがカズ殿であれば、ゴメンネ(はーとまーく)」とあった。
なんだこれ?
ぼくはメモから顔をあげ、周囲を見渡す。
そして、理解する。
「ああ……」
ため息をつき、首を振る。
思わず、苦笑いしてしまった。
ほんとにもう……このひとには、敵わないな。
「あの……カズさん、どうしたんですか」
アリスが不思議そうに訊ねてくる。
いやまあ、きょとんとするのも無理もない。
でもこれ、どう説明したものか……。
壁に背広がかかっている。
カツラもある。
そのほか、さまざまな変装道具がある。
「なんで、変装道具?」
ミアが小首をかしげる。
「カズっち、兄がこれでなにをしていたか、知っているの?」
「うん、まあ、だいたいは」
「わたしが兄を殴るべきこと?」
「どう……なんだろう。まあ、あとで話すよ。白い部屋ででも」
これ、いまここで話すには、ちょっと長すぎる。
ぼくは肩をすくめ、必要なものだけを小部屋からかき集めた。
無論、テーブルの上の宝石もだ。
全部でトークン500個分、ぴったりあった。
これはありがたく使わせてもらう。