軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第125話 世界のおしまいの日

ぼくは無数の敵と戦っていた。

いくら使い魔を召喚しても、敵の数に圧倒される。

押し寄せてくるオークから、必死で身をかわす。

これは、夢だ。

ぼくはぼんやりと、現実逃避するように心の片隅でそう考える。

次の瞬間。

錆びた剣が、ぼくの左肩を切り裂く。

ぼくは悲鳴をあげ、よろめく。

「カズさん!」

そばで戦っていたアリスが悲鳴のように叫び、すぐ応援にかけつけてくれる。

だが彼女は、肩を押さえて苦痛に呻くぼくを見て、驚愕する。

「か、カズさん……っ」

ぼくが愛する少女は、喘ぐような声を出す。

いったい、どうしたんだ。

動きを止めちゃ、危ないじゃないか。

敵はまだいるんだぞ。

アリスの視線は、ぼくの左肩に釘づけだった。

肩の傷を見ていた。

なんだ、とぼくは自らの左肩を覗きこんで……。

その血が、真っ青に染まっていることに気づく。

そう、青だ。

ぼくの血は、青かった。

「なん、で」

ぼくは呆然と、呟く。

ぼくの後ろで、ルシアが「なるほど」と冷静にうなずく。

「ランク9になったからでしょう」

「それが、どうして」

「ランク9とはもはや、ひとの領域を超えた存在。この世界において、もはや比類なき存在。ゆえに……」

ルシアは、淡々と告げる。

その言葉を。

「カズさん。あなたは、モンスターになったのです」

背後に振りむく。

たまきが立っていた。

傷だらけの彼女もまた、青い血を流していた。

「参ったなあ」

たまきは困ったように笑う。

「カズさん、わたしの血も、青いよ」

そうか、とぼくはうなずく。

なんだか身体が、重い。

「たまき、きみも剣術がランク9になったからか」

「そうみたい。でも、仕方がないね」

「ええ、仕方のないことです」

ルシアは淡々とそういって、ナイフを取り出すと、己の腕を切り裂いた。

青い血が流れる。

「これで、お揃いですね」

「ルシア、きみは」

「じつはわたくし、ドッペルゲンガーだったんです」

だから、とルシアは無表情にぼくを見る。

「あまり、笑わないでしょう」

そうだったのか、とぼくはうなずく。

なら、仕方がないな。

いままでのあれもこれもが、なんだかすべて、納得できた気がした。

「じゃあ、ミア、きみも……」

「ん」

ミアもまた、己の腕を切り裂き、青い血が流れるさまを見せた。

「あまり表情が変わらないのは、わたしがモンスターだったせいでした」

「オタク知識は?」

「モンスターだって、アニメくらい見るよ?」

あ、そうなんだ。

ぼくは首をかしげる。

アリスの方に向き直る。

「アリス、きみは……」

「あ、あの、カズさん! わたし、すぐランク9になりますから! 青い血になりますから! だから、待っていてください!」

アリスは慌てた様子で槍を振りまわし、周囲のオークたちを薙ぎ払う。

必死になって戦っている。

そんな様子を見て、ぼくたちは笑う。

ああ、それにしても、身体が重い。

モンスターの身体というのは、こんなにも……。

身体が、重い。

なんだか暑苦しい。

意識が次第に覚醒してくる。

ああ……やっぱり夢、だよな。

なんだか、ひどい悪夢だった。

というか、なんでモンスターがアニメ見るんだよ。

てんで意味がわからないぞ、いい加減にしろ。

夢のなかのミアにツッコんでも仕方がないか。

それにしても、やはりまだ、身体が重い。

半分眠ったようなぼんやり感のままで、ぼくはまずいな、と思う。

体調がよろしくないのは、困ると。

今日は、ぼくたち全員の運命を決める日だ。

学校のみんなを、大陸を、この世界すべてを賭けた決戦が行われる。

その一方、ぼくたち五人は、学校の山に取り残されてしまった。

リーンさんたちの主力と合流する手段もない。

挙句、山は浮遊要塞と鬼将ザガーラズィナー率いるオーガの部隊に占拠されてしまった。

浮遊要塞の戦力とまともに戦っても、勝ち目は薄い。

そんな状況で、指揮を執るぼくが体調を崩したというのは……。

最悪じゃないか。

これじゃ、足手まといになってしまう。

皆に、申し訳がない。

おそるおそる、薄目を開ける。

すぐそばにミアの顔があった。

ぼくの上に乗っかって、ミアが寝ていた。

「お前が超重力の原因か!」

シーツに包まれたミアの身体を転がして、起き上がる。

ミアが、潰れたカエルのような声を出す。

左右を見れば、部屋にはぼくとミアのふたりきりだった。

鉄格子の窓から朝日が差しこんでいるから、すでに皆、起きているのだろう。

ミアは「んー」と眠たい声を出して、ぼくにまたのしかかってくる。

顔をぼくの胸に擦りつけてくる。

「おまえ、起きてるだろ」

「ばれたか」

小柄な少女は、顔をあげて、わずかに口の端を吊り上げた。

両手を伸ばしてぼくの首にしがみつく。

密着するも、体操着ごしの胸もとは、哀しいほどに平坦であった。

「おかしい……カズっちが欲情してくれない」

「朝っぱらから、なにいってやがる」

「昨日の夜は、アリスちんとお楽しみでしたね」

寝てたんじゃないのかい。

まあ、気づかれてるかなーとは思ってたけど。

「クラスの風紀委員として許せんことである」

「いつからきみが風紀委員になった」

「わりとマジで、一学期の始めから」

誰だこんなやつ風紀委員にしたやつ。

いやまあこういうのは押しつけ合いなんだろうけど。

んでもって、彼女に風紀委員を押しつけたひとたちは、もうみんな、死んでしまったのだろうけど。

「立候補しました」

「そのこころは」

「持ち物検査の情報とか、流れてくるから」

ははは、こやつめ。

趣味を守ることに関してはとことん如才ないやっちゃな。

「ん。マジな話、ここでわたしのこと、押し倒しちゃわない?」

「あのなあ」

「明日の朝日が拝めるかどうか、わからない、よ?」

ミアはぼくの後ろ首に手をまわしたまま、無表情に見上げてくる。

少女の身体が、震えていた。

ミア、おまえ……。

細い少女の腕に、少しだけちからがこもる。

彼女の怯えが、伝わってくる。

ああ、そりゃ、そうだ。

こんな切羽詰まった状況、ミアだって怖くないはずがない。

それくらいのこと、理解しているべきだった。

だからぼくは、ミアの頭をそっと撫でて、笑ってみせた。

なるべく自信ありげに。

不安もなにもかも、吹き飛ばしてしまえとばかりに。

「そうならないために、戦う。ぼくは、まだ死ぬつもりなんてない。きみを死なせるつもりもない」

「勝てると……本当に、思ってる?」

「思ってる。だからミア、きみも、勝てると思え。勝つ気でついてこい」

ミアは、じーっ、とぼくを見つめたすえ……。

「ん。わかった」

小柄な少女は、意を決したようにうなずく。

少し、ほっとした。

彼女が後ろ向きなままでは、いろいろと支障が出るし、なにより……。

「じゃ、約束。勝ったら、今夜。わたしとふたりきりの時間、つくる」

「あー」

「……嫌?」

ぼくは、天井を見上げた。

「これは、ご褒美。わたしががんばるための、元気が欲しい」

「わかったよ。約束する。……だから、後ろ向きな考えはやめろよ」

やわらかい髪をゆっくりと撫でる。

ミアは目を細めて「ん」とうなずいた。

ところで、とぼくはナイフを用意する。

おそるおそる、手の甲を薄皮一枚、切ってみた。

赤い血が出た。

「ああ、よかった」

ものすごく安堵するぼくを見て、ミアがきょとんと首をかしげる。

「契約の儀式の続き?」

「気にするな、たいしたことじゃない」

ミアはまだ、不審そうにぼくを見上げていたが……。

いやほんと、たいしたことじゃないんだ。

ちょっとひどい夢を見ただけで、ついでに超重力のせいでいろいろ寝起きが最悪だっただけで……。

ってやっぱミアが悪いんじゃないか!

「えー、なんでカズっちがわたしを睨む?」

ミアが少し慌てた様子になる。

こういう彼女は、ちょっと珍しい。

と、階段を駆け上がる足音。

ドアが勢いよく開き、たまきが元気に飛び込んでくる。

「カズさんおはよう! おなかすいたから、そろそろ宴会出して! って、あれ、ナイフなんて持って、どうしたの」

「あ、たまき。ちょっとお願いがあるんだが」

「なになに? ってカズさん、目が据わってるよ! なんでナイフもって近づいてくるの!」

たまきがじりじりと後ずさる。

ぼくは我に返り、「いや、ちょっと寝ぼけていて」と適当にごまかした。

なぜか、ミアの視線が冷たい。